12話 救世主って呼ばれたい! その六
「やっぱり国宝はオーラルが持ち去ったか」
バングの元に戻りさっきの結果を報告した。
元から怪しい部分はあったらしく、あっさりとその事実を受け入れていた。
「やっぱりバングに直接裁いてもらった方がいいんじゃないの? そうしたら、人身売買の連中も捕まえられるでしょ?」
「それだけでも十分解決はすると思うけどな」
「じゃあいいじゃない。それでこの国の救世主にはなれるわよ」
「国宝の奪還は無理だろ? 俺が見た限り、あいつはこっちにしては頭がいい方だし、最低限覚悟を持って動いてる。そこの二人みたいに殺すぞって脅しも無理だと思ってる」
話を聞かれるのは困るので気絶させた二人を指さす。
隠すだけじゃなく偽装をしていたり、人身売買の組織を作ったり一人でこれをやっているならあいつは頭がいいみたいだ。
それなら、自分が死なないための保険を持っている。って考えた方がいい。
「脅しが無理だから、その国宝への手がかりを手に入れたいってこと?」
「その通り。後は、もしもオーラルの後ろに誰かいるのかの確認もしたい」
「オーラルの後ろに何かいるってこと? 漫画の読みすぎじゃない?」
「読みすぎって程漫画は読んでねぇよ。せいぜい話題になった作品だけだよ」
「えー、結構ラインナップ充実してたよ? スマホにも結構入れてたじゃん?」
「なんで人のスマホ勝手に見てんだよ! ってかいつそんな時間があったんだよ?」
会ったその日は殺すのに失敗してたし、それ以降も中を見る時間はなかったはずだ。
「大雅に接触する前から数日観察してたから。夜とか暇だったんだよね。大丈夫よベッドでもぞもぞしたら部屋から出てたから」
「んなことしてねぇよ!」
「恥ずかしがらなくてもいいのよ。年頃の男子としてはとても普通の事だからね。私は女神として、恋人のいない男子が自らを慰めることを否定しないわ」
「恋人がいないとかお前にだけは言われたくないからな!?」
「えー、それセクハラ発言じゃないですか?」
「なんだその女子高生みたいな反応、最初にしてきたのはそっちだろうが!」
「女子校生なんてアダルティなもの見すぎじゃない?」
「女子高生って言っただろ。勝手に曲解するなよ」
「二人とも、そろそろ本題に戻らないか?」
こっちの世界では通じない会話にバングからツッコミが入り、話をようやく戻すことができた。
「とりあえず、あるにしろないにしろ確認はした方がいいだろ? オーラルが誰かの手引きを受けてたなら、こいつら同様怯えて話さないって可能性もある」
「それはタイガの想像でしかないのだろう? 裏を考えすぎると際限がないぞ?」
「そうね。石橋を叩きすぎて壊しちゃったら元も子もないわ。何かそう思うだけの材料があるの?」
「一番は国外へのルートだな。孤児を売るにしろ国宝を売るにしろ、国外へ顔が広くないと難しいだろ? それなら後ろに後ろ盾、最低でも協力者はいると思ってる」
「大雅がそこまで言うなら、そうだって仮定して動きましょう」
†
それからある程度の準備を済ませ、俺達は集会に紛れ込むことにした。。
スラム街にある教会は、こんな場所にあるとは思えないほど整備が行き届いていて、周囲にある朽ちかけの民家とのギャップが激しい。
「ここで一番質のいい孤児をボスに献上してます。余程の事がない限りはそのままボスが全員を連れて行きます」
「胸糞悪い話だな。とりあえず予定通りにしっかりやれよ? そうすれば少なくともバングに八つ裂きにされないぞ」
バングに保護させていた売人を連れ出し、普段通りに集会で対応させる。
そこで受け渡される孤児たちを追い、敵の拠点を探る手筈だ。
「わかってますよ。でも、この子は大丈夫なんですか? 二人が失敗したらどっかの好事家に好き勝手されちゃいますけど」
「はい。レヴィ様とタイガ様が守ってくれると約束してもらいましたから」
敵のアジトに連れ去られる役にはノイルがなった。
危険は十分に伝えたが、自分が行くと立候補してくれた。
「俺達が見守ってる。何か起こる前に必ず、助け出してやるから」
頭を撫でてから身長が低いことがコンプレックスなのを思い出し、手を退けたがノイルに手を掴まれた。
「もっと撫でてください」
「わかった。よろしく頼むな」
「えへへ、はい!」
ふにゃりと笑うノイルの頭を少し撫で、二人が教会の中に入っていき、俺達は教会の中が見える場所に移動する。
「やっぱりおモテになりますな」
「なんだその口調。モテてはいないだろ」
「うわっ、本当に要るんだそんなこと言う奴」
「さっきのノイルの反応を言ってるなら、あれは尊敬で恋慕じゃないだろ」
獣に襲われて孤児院から助け出した女神の使者。
そんな人がカッコよく見えるのは当然のことだが、それは恋心とは違う。
近所のお兄さんがカッコよく見えるのと大差はない。
「うわぁ……、カッコつけたよ。素直に恋愛経験がないから嫌われるの怖いって言えばいいじゃん」
「喧嘩売ってるんなら買うぞ? ボコボコにしてやるよ」
「売ってないけど? そう聞こえるなら図星って奴じゃない?」
さっきの言い方でそんなわけないだろ! と思ったが、その前に裏口からオーラルがやって来たので、喧嘩はそこで終わった。
オーラルは自分の姿を隠す様子も無く、裏口に来てからマントとマスクをいそいそと準備を始めた。
「ああいうの見てるの申し訳ない気分になってくるよね」
「間取り的に、ここは着替えるスペースないしな」
裏口を入るとすぐに礼拝堂があって、集会場も礼拝堂だ。
他にも部屋はあるが、全て集会場を経由しないといけないとダメなので、先に入って部屋で着替えるか、今の様に外で着替えてから中に入るしかない。
一通り装備してから自分で身なりを確認し始めた。
戦隊ものの悪役も手下の前にはこうやってるのかもしれないと思うと、少しだけ切なくなる。
「何で地下とか作らないんだろうな」
「たぶん深く考えてないんでしょ」
準備が終わったらしいオーラルは裏口から中に入って行った。
天窓から中の様子を見ると、小学校の様な光景が広がっていた。
「静粛に。これから定例集会を始める。ラスパーが捕まったこと以外に何か変わったことはあるか? 静粛に!」
先生の言うことを聞かない連中って傍から見るとこんな何だな。
「何かあるなら挙手して発言しろ。俺は忙しいんだぞ」
それから何度か呼びかけがあったが、がやがやとしたままオーラルは話を続け、ほとんどの人が静かにしないまま、孤児の受け渡しになった。
「ちゃんと全員連れてきたな。この分の代金は後で送るから各自確認しておけよ」
夏休み明けのホームルームってこんな感じだったな。
夏休みの思い出とかをクラスメイト話し合ったり、宿題を順番に提出したりしたよな。
「俺は予定通りあいつを追うから、レヴィは教会の中を頼んだ」
「わかってるわよ。全員捕縛するから」
オーラルは変装を解かないまま夜の町に出て行った。
夜だし人気は少ないが、いくら顔バレが怖いと言ってもそのマントとマスクは怪しいだろ。
いや、でも子供達に恐怖を与えるって意味だと合ってるのか?
そのまま子供達を連れて行ったのは、城のすぐ近くにある何の特徴もない一軒家。
家の中を覗くと、すでに室内には誰もいない。
ここが受け渡しってわけはないよな。
「ファイア」
空っぽの室内には不自然極まりない本棚が一つだけあり、指に火を灯すとゆらゆらと火が揺れる。
この奥から風が流れてる。ここに秘密の通路があるのか。
すぐに追いかけて見つかるのは避けたいし、一度レヴィと合流するか。