10話 救世主って呼ばれたい! その四
その日の夜、明日の予定についてレヴィと話をしていた。
「バングから書状も貰ったし、予定通り明日からは孤児院を一通り訪問しよう」
「そんなことして人身売買してる連中にバレない?」
「大丈夫だ。がさ入れするんじゃなくて、ここの孤児院の管理人として挨拶に行くからな」
「でもそれだと中の様子はわかんないでしょ」
「大体見れればいい。子供の恰好や建物の外観。怪しいと思ったところを記録していくだけでいい」
「面倒くさいわね」
「ノイルの祈りが届いたんなら最後まで頑張れ」
「ノイルを助けたんだしいいんじゃない?」
ノイルと話してる時とのギャップが酷いな。
違うか、俺やバングと話してる時が酷いのか。
俺には本性見せてるし、バングは昔の事を知ってるんだもんな。
「ずっと聞きたかったんだけど、この世界の人がバカになったのはなんでなんだ? 神がいなくてっていうなら俺達の世界もバカになってないと変だろ?」
「それはね、こっちの世界に魔法があるからよ。その魔法で生活に不自由がないから」
「それがどう退化と繋がるんだ?」
「例えば、魔法を使えばどんな野菜も世話をせずに最高の状態で収穫ができる。そうなったら、農家の人は何をする? 魔法があればインフラの整備もいらないのに整備士は必要。魔法を使えば劣化しない家が作れるとしたら職人は必要?」
「いらないだろうけど、それでも個人が魔法を使うために努力をするだろ?」
「そんな便利な魔法を自動化できる技術がすでにできていたら? そんな状況で誰が試行錯誤をしようとする?」
「なるほど。そこまでできてるなら何もしなくても暮らしていけるな」
便利すぎるから退化が進み、不便がないから技術は発展しない。
それならただ生きていくだけってことか。
「その自堕落な生活を人類で一万年やったらこうなるわよ」
「それでも研究とかしてる奴もいると思うけどな」
「それに関しては私のせいね。こんなところで軽く話せることじゃないから言わないけど、途中で形骸化してくれるかなって思って高度過ぎる技術の継承を止めたの。たけど、みんな私が思っていた以上に律儀だったのよ」
「ってことは、今こうなったのはお前のせいでもあるってことか」
いつもの様に軽口を言ってみたが、レヴィの反応は薄く一言そうね。と自嘲気味に笑った。
何があったのか詳しく聞いてはいないが、こんな顔をするほどの何かがあったのだけは理解できた。
†
翌日、俺達は孤児院巡りを始めた。
朝から日が暮れるまでこの国にある百二十二か所の内四十三か所の孤児院を巡った。
「流石に疲れた。この国孤児院多すぎじゃないのか? 百も必要ないだろ」
酷い所だと孤児院が四か所も並んでいるという意味のわからない場所もあった。
「それだけ孤児も多いんでしょ」
「孤児が生まれる環境じゃないだろ。衣食住は足りてるし、家族を失いそうな危険もなさそうだぞ?」
「この世界の中心部分はそうでもないけど、ここはそうでもないのよ。ここと妖精が多く住むセントリースは世界の端と近いからね」
「世界の端が近いと危険って、滝から落ちて奈落まで落ちていくのか?」
「そんな所ね。この平らな星の反対側ってどうなってると思う?」
「何もないんじゃないのか?」
「何もないわけないでしょ。重力はあるんだから反対側もこっちと同じよ」
天動説の話の時によく見る滝みたいなのを想像していたから、それには素直に驚いた。
平らな世界って言われても地球と同じ様に歩けるんだし、当然と言えば当然か。
「落ちないなら、何が危険なんだ?」
「反対側には魔王がいる。もちろん魔王の手下もね」
「ガルヴァディスっとセントリースはそれを阻止する防波堤ってことか。それならこの数も納得はできるか」
つまり俺が目指すべき場所はその反対側の世界ってことか。
「こうやって実際に動いてみると、私も結構やらかしてるわね。技術を伝えさせなかったり、反対側もほったらかしだしね……」
昨日からどうもこいつは気にしすぎだ。
実際に世界を見てこいつにも思う所はあるってことか。
「そっちの土地に名前はあるのか?」
「名前なんてないわよ。強いて言えば古戦場かしらね。一万年前はそこで戦争してたわけだし」
「なら、名前を付けようぜ。魔王を倒して楽しく入れる場所にする。そんな意味の言葉がいいな。いっそレヴィにしようか。魔王が巣食う場所じゃなくてさ、女神が住む国だ」
「センスない」
「じゃあ、なんかいい名前があるのか?」
「レヴィルメシア。なんてどうかしら?」
「なんか意味があるのか?」
「偉大で美しき女神」
「傲慢すぎるだろ」
「もう決定よ。神の言葉は絶対だからね。あんたもレヴィルメシアを取り戻すために頑張りなさい」
「そんなとこ取り戻したくねぇな……」
よかった。少しは元気出てきたらしい。
昨日からいまいち元気がなさそうだったからな。
それでもまだ大分空元気みたいだけど、いつまでもあんな顔されてるとこっちも張り合いがないもんな。
「折角元気づけようとしてくれたみたいだし、次はどこ行くの?」
気づいてんのかよ。
それなら気づいてないフリをするのが礼儀だろ。
「怪しい所に行く。ラスパーと同じくらいの奴もいたからな。少し暴れたら嫌なこと吹っ飛ぶぞ」
「それはいいわね。もうちょっとでバングに相手してもらう所だったわ」
「やめてやれよ、可哀想だろ」
バングの負担を軽減するために怪しい孤児院に向かう。
そこには鎧を身に着けた兵士が院長と何かを話していた。
「確認の必要ないとは思うけど、あれって契約の現場かしら?」
「それなら、二人ともお縄に着いてもらおうか。魔法の練習もしたいしな。ファスト、フィスト」
足にエンジンがついている程に加速し、腕にはどこから鉄が巻き付き大きな鉄の拳が作り、ズドンと鉄の拳が兵士の前に叩き込む。
何があったのかわからない兵士はその場にへたり込んだ。
「兵士さん、少しお話聞かせてもらえますか? できればさっき話してた院長さんも一緒にね」
レヴィが占拠した孤児院にそのまま上がり込み、広いダイニングに連行した。