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話が逸れる。

話が逸れてた。

 城門での歓迎を受けたマルグリットは、城に入る前に何故馬車での到着が成されなかったのかを説明した。

 王都から2週間(この世界でも1週は7日である)程の馬車の旅の最後、この領地に入ってから“何者か”の襲撃に遭い馬車は損壊。護衛も数名が帰らぬ人となったと告げる。勿論、相手が同じ鎧を着ていたという部分は私達までを含めて緘口令が敷かれたが。

 その話を聞いた騎士・兵士らは皆一様に動揺を見せた。少なくとも見える範囲でそれをほくそ笑む人間はいなさそうだ。私はこっそりそんなことを考えていた。

 マルグリットの方も、まずは犠牲者の死を悼み、不退転の決意でこの地に平和と繁栄をもたらすと力強く宣言し、彼らに協力を求めると、一同大声で「ははっ!」とかしこまる。

 そして護衛騎士達にも労いの言葉を述べると、皆を伴って城の中へと入る。私達もその最後尾について来るように指示をされてそれに従った。



 城に入ったところですぐにマルグリットは私達を小さな部屋へと案内した。

 部屋にいるのは私と相方フィアーナ、そしてマルグリットと一緒に馬車に乗っていた女性騎士の2名ずつだ。恐らく彼女が最も近しい側近なのだろう。

 私たちはそれぞれ対面するように机を挟み着席する。

「約束通り護衛の報酬と、賊撃退の褒賞を渡す。」

 マルグリットはそう言うと、側近の女性騎士から袋を受け取り、まずは銀貨を20枚机に置いた。

 銀貨20枚、即ち2000ゴルト。だいたい2人が質素な食事と簡素な宿で約1か月生活が出来るくらいの金額だ。

「これが護衛報酬。こちらが褒賞金だが、緘口令の口止め料も入っていることは忘れるな。」

 マルグリットはそう言うとさら20枚の銀貨を机に置く。これで約2か月分、当座の生活はこれでなんとか賄えそうだ。相方バカが調子に乗ってあれこれ食いすぎない限りは。

「有り難く頂戴するわね。」

 私は机の上の40枚の銀貨を財布に収めた。それをマルグリットは一瞬だけ驚いた様子で、側近騎士は露骨に「え?」と表情で見届ける。恐らく銀貨40枚であるなら2人で20枚ずつを収めると思ったのだろう。

「こいつに持たせとくと、あっという間にお金が消えていくからね。」

「ぬーん……」

 私の説明に対し、フィアーナは机に突っ伏しながら奇声を上げるのみだ。実際に欲望に忠実な竜人に金を持たせておくと、後先考えずに飲み食いし、1か月持つはずの生活費も半分くらいの期間しか持たなくなる。それでもまあ、昔の様に吹っ掛けられた挙句、『殺してでもうばいとる!』とか言わなくなっただけでも十分な進歩ではあるのだが。

「まあ、そちらの事情をとやかく言うつもりはないが……」

 マルグリットはそう言うと小さくため息をついた後、私の目を見てくる。

「さて、あとは身元の保証だが……。すまないが私は今、これ以上の時間が取れない。詳しくはこのアメリアから話を聞き、自分たちに丁度いいと思う物を選んでくれ。」

「選ぶ?」

「私から説明します。」

 私の疑問符にアメリアと呼ばれた側近が答える。マルグリットとアメリアは互いに頷きあった後、マルグリットは部屋を退出した。

 トラブル込みでついさっき新領に着任したのだ。忙しくない訳がない。私は改めてアメリアの名前や肩書から質問を始めた。


「私はアメリア・シュレッター。マルグリット殿下の近侍を務めています。」

「殿下ってのは?やっぱりお姫様なわけ?」

「……マルグリット様はベルンシュタット王国第3王女、第5位の王位継承権を有しておられます。」

「第5位ね。上の4人はどんな感じ?」

「……今必要な情報ですか?」

「王位継承権者が暗殺されかけたってなら、その近くの継承権持ちを疑うのが基本でしょうに。」

「…………」

 私の言葉にアメリアが絶句する。

「いや、まあ、私らも護衛ってわけじゃないからいいけどね。で。身元の保証ってどうなるのかしら?」

 口を閉ざしたアメリアに私の方から話を切り替える。

「実力は……まあ、申し分ないのでしょう。頭もそれなりに回る様だ。現時点で用意できるのは、ベルンの国民として軍に登録し兵士になる。将来的にはこれが一番安定するのでしょうが……種族的に苦労はしそうですね。」

「あー……うん。軍とか規律の強い所は色々無理かなー。」

「次いで、上級騎士の私兵となる。こちらは“傭兵”という言葉が一番近いのでしょう。完全実力制なので、仕事をこなせばこなす程査定が上がります。」

「兵士よりはマシかな?“上級騎士”ってのは?」

「騎士に叙勲された後に規定の軍功を積み、騎士爵として家名を持ち、一代限りの世襲を認められた騎士です。この国では貴族の非嫡子がまず目指すものですが、それなりに大変です。」

「へぇ……」

 私の気のない返事に少し呆れつつもアメリアは続ける。

「最後に冒険者ギルドに登録し冒険者になる。一攫千金を狙う平民には人気があります。一番気楽でしょうが、一番不安定でもあります。特にこの辺境では……地道に稼ぐしかないでしょうね。」

 冒険者。私が一番気になっていたワードだ。


「ギルドってのは町ごとにあるの?」

「基本的にそれなりの規模の町なら各町ごとに支部がありますが、統括しているのは王都にあるギルド本部となりますね。その為、資格――いわゆるランクはベルンシュタット全体で共通です。ただし登録には身元保証人と登録料、それに審査もあって誰でもなれるというものではありません。こちらも……亜人には少しハードルが高くなるかもしれません。」

「ぬーん……」

 説明を聞き、私もフィアーナと同じような声を上げて机に突っ伏す。その様子が滑稽だったが、アメリアは小さな苦笑を漏らした。

 私としては、元々自称・冒険者と名乗っているし、冒険者として活動するのが良いと思っていたのだが、この国の冒険者は微妙にハードルが高いらしい。

「ちなみにおすすめルートは?」

「ルート?……ああ、なるほど。それでしたら、“我々”のおすすめは、殿下或いは私の私兵としてある程度の実績を積み、殿下の後ろ盾を得て冒険者登録することですね。審査の方は実力と人格、……まあ、実力の方は今すぐでも問題ないでしょうが、亜人の中でも竜人は特に警戒されがちでして……」

「ああ、その辺は“こっち”も同じなのね。」

「こっちとは?」

「来る時歩きながら説明した通りよ。元々南大陸にいたんだけど、争に巻き込まれて流れて来たんだと。」

「因みにベルンにはどのように?」

「“あっち”の港町で暴れてたところを“こっち”の海賊に拾われたのよ。人族?北大陸?の言葉はそこで覚えた。」

 海賊というワードが出たところでアメリアが猛烈に渋い顔をする。

「因みに海賊と言うのは?」

「ん?」

「何かしら集団の名前がありませんでしたか?」

「あー。自称なんとか商会。フィン国公認の“私掠船団”だとか言ってたけど、ぶっちゃけ上前という名の税を納める海賊よね?」

「リーダーは竜人でしたか?」

「ええ。ああ、やっぱり有名なの?」

「……はぁ。」

 話が合ったと思いきや、アメリアは大きなため息をつく。

「その話、殿下には言わない方がよろしいかと。」

「お?」

 アメリアの表情が一段と険しくなる。そして部屋には他に誰もいないのにも拘わらず声を潜めた。


「殿下の右腕はその私掠船団との戦いで失われたのです。」

「……へぇ。殿下自ら外洋に出てたの?てか水軍も扱えるんだ……」

「……いいえ。詳しくは言えませんが……輸送任務を受けて準備を進めているところで襲撃されたと。」

「うーん……そんな話あったっけ?」

 私はフィアーナに聞いてみた。

「覚えてない。そもそもいつの話なの?私らが拾われる前の話だったり?」

 フィアーナがいかにも興味なさそうに答える。

「あー、2年以上前だと知らないわね。私らが拾われたのってこの2年かそこらだし。」

「……丁度1年半くらい前の話ですよ?」

「ありゃ?他所の王族相手に喧嘩売ったなんて話、ついぞ聞かなかったけどなぁ。まあ、あそこも規模がでかいから別行動してた可能性が高いか。」

「極秘任務の様でしたし、遭遇戦だった可能性が高いと思います。もしかしたら、私掠船団も王族が輸送船に乗っていたなんて思いもしなかったのかもしれません。」

「……ま、話は分かったわ。こっちから海賊には触れない様に気を付けるわ。」

「そうしてください。しかし……何故ベルンに?」

「海賊っていうか、もはや海軍って感じで規律が鬱陶しくなってね。その上、長時間、狭い――まあ、船としては大型だったけど――船の上で過ごすのも飽きるし。ベルンに来たのはそのかしらの勧めね。冒険者をやるならコローナの方が良いって話だったけど、生憎コローナって今、よりによって竜人を頭目とする亜人勢力と戦争中だって言うから……」

「なるほど。確かに今コローナは東西南北、対人族から亜人・蛮族勢力に至るまで色んな戦争を抱えていますからね。」

「東西南北?そりゃあまた……」

「楽しそうね!」

 アメリアの説明に私が呆れたところで、フィアーナがガタッと音を立てながら起き上がった。

「……なんとか商会――恐らくはレインフォール商会だったと思いますが、彼女らのシマであるフィンとも戦争中ですよ。レインフォール――テンペスト私掠船団は実質、フィンの外注海軍みたいなものですから、敵になる可能性を懸念したんじゃないですか?」

「あー……そんな感じだったかも。」

 私は思わず声を上げ……話がだいぶ逸れていたことに気付いた。

「まあ、海賊のことは良いわ。で、亜人の私らはどうすれば?」

「まずは上級騎士の私兵としてこの地の安定に寄与し、殿下や騎士・兵士たち認められる程度の功績を上げることです。」

「具体的には何するの?」

「森に潜む妖魔や魔獣の退治、街道の警備、物資の調達とかでしょうか。」

「妖魔や魔獣?」

「ゴブリンやオークといった知能が低く暴力的な――要するに理性のない亜人を妖魔と称しています。魔獣は……この辺りだと魔素に当てられたり突然変異したりとかで巨大化した熊や猪、中にはコカトリスやグリフォンなどの高ランク・高レベルの魔物が出る場合もあるようです。」

 どれも聞き覚えのある名前ばかりだ。

獅子鷲グリフォンかー……巨岩ロック鳥とかドラゴンとかっていないの?」

「ロック鳥?」

「あれ?こっちにはいないの?グリフォンを5倍~10倍くらい大きくしたような鳥。」

「そんなのがほいほい現れたら……とても町なんて維持できませんよ……」

「ぬーん。」

 私は再度、机に突っ伏した。


ヒャッハーなんてなかった。

次こそはきっと……と、云う事で初日もう1話追加します。


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