2 思わくと欺き
「安西先輩。」
署についてすぐ、自分の所属する部署"刑事課"へ向かった。刑事課に着くと、翔は迷わずパソコンで必死に何かを調べる安西 薫を見つけ、声をかけた。
彼は茶色い髪に顎髭が生やしていて、いつも白いスーツを着ている。
だから、すぐに気づく。
「あぁ、笹川。」
すると、安西は声に気づき手を止め振り向く。
「昨日の事件がどうかしたんですか?何か分かった事でも?」「いや、とにかくこれを見てくれ」
と言って紙を渡される。
内容は、どうやら昨日の事件の被害者の資料のようだ。
「これは…。」
「長谷部祐司20歳。180センチ、体重75キロ。職業は無職で、毎日、喧嘩と酒に明け暮れていたようだ。そして…」
「ちょっと待ってください。」
安西が話を続けようとすると、翔がそれを止めた。
「なんだ?」
当然、安西は不思議そうに尋ねる。
「ニュースでは、身元は不明だと…」
確かに、今朝のニュースでは『被害者の身元は不明のようです。』と言っていたはずだ。
しかし、それがどうだ。
長谷部祐司という名前も、歳も、何もかも分かっているではないか。
翔は内心、おもしろくないと苛立っていた。
「あれは嘘だ。犯人を惑わすためのな。」
「それはどう意味ですか?」
「まぁ、油断させる為の罠ってことだな。」
「罠?」
「そうだ。」
そう言って、安西は煙草を取り出して加えた。
そして、ライターで火を着けると、そこから灰色の煙が立ち上る。
それからまた、安西は話を続けた。
「と言っても、長谷部祐司は周囲から恨みを買うことばかりしてきた男だ。犯人を探し出すのは容易ではない。」
とそこまで言うと、彼は口から煙を吐き出した。
「じゃあ、なぜそんな事するんですか?別に公開しても捜査に支障はないのでは?」
その煙を不快に思いながらも、翔は尋ねる。
「いや、それはダメだ。」
すると、安西は険しい顔つきで言った。
「なぜです?」
「ここ最近、殺人が連続して起きているだろう?」
「えぇ。殺害のされ方は違いますが、すべて許されがたい残酷な殺され方でした。いずれも犯人は捕まっていませんが……それがどうかしましたか?」
これまで3ヶ月に渡って起きた殺人は30件以上。
それは勿論、全て翔の仕業。だが、彼は顔色変えずにサラリと言った。
「これは俺の推測なんだがな。それらの事件とこの事件の犯人は、同一人物ではないかと思ってるんだ。」
「え?」
安西は素早くパソコンを操作し、いくつかの写真を見せた。
顔が焼けただれ皮膚が変色しているものや、胴体だけのもの。
酷い写真にいたっては、体が引き裂かれ、内蔵を掻き出しそこへ顔が詰め込まれている。
「殺し方は違うが、この計画性といい、どこか類似しているように見える。」
「確かに、遊んでいるようにみえますね。まるでゲームをしてるかみたいだ。」
翔は画面を見て口元を抑えた。
「大丈夫か?」
写真を見て気分が悪くなったと思ったのか、安西は翔を心配そうに見た。
しかし、実際は違った。
自分が殺した相手の姿を見て、必死に笑いが込み上げてくるのを堪えているのだ。
「えぇ、すみません…。」
「そうか?ならいいが、さっきお前が言った通り、犯人が遊んでいるように俺は見えるんだ。だからこそ、俺は許せない!!」
安西は机をダンッと強く叩く。
部屋にいた人間の目が、一気にそこへ向いた。
「安西先輩?」
「あぁ…すまない。話を戻すが、もし仮に犯人の気持ちになって考えてみろ。お前なら殺した相手の情報がテレビに流れたら…どんな気持ちになる?」
「犯人の気持ち…。」
翔は目を閉じた。
そして、頭の中で考える。
犯人の気持ちとして、安西が納得出来、彼を上手く欺く言葉を。
それを考える事は、彼にとっては赤児の手をひねるように簡単な事だった。
「どうだ?言ってみろ。」
「はい。」
そう言って翔は目を開け、話を続ける。
「まず、酷く感情が高ぶり興奮状態になりますね。自分が殺した相手が、成果が全国に公表されている…と。しかも、長谷部祐司のような人間ならなおさら。悪党を倒した正義の味方…いや、神を気取りだすでしょうね。」
「フム…確かにお前の言うとおりだ。そうなりかねないな。」
納得したように頷く。
「まぁ…俺の推測ですから、実際には犯人の気持ちは分かりません。だけど…」
「どうした?」
翔が途中まで言って口ごもると、安西が続きを言うように促す。
「だけど…俺、たとえ犯人がどんな気持ちだったとしても、そいつを許す事は出来ません!!」
「あぁ、俺もだ。こんな奴をずっと野放しにして置くわけにはいかない。だからこそ、俺等がいる。一刻も早く犯人を捕まえるぞ、笹川。」
「はい!」
安西の言葉に、翔は力強く応えた。
すると、安西は良いパートナーと手が組めて良かったと微笑んだ。
それを見て、翔も表の顔で微笑む。
上手くいったと、裏の顔でほくそ笑みながら。




