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1 オモテとウラを持つ男

この作品はフィクションです。




『お兄ちゃん返してよー!!』

『イヤだね。欲しかったら取り返してみろよ。』

『ぅわーん!!お母さん!!お兄ちゃんが…お兄ちゃんがぁああ!!』

『お…おい、返すからなくなよ。な?な?』

『うん――!!じゃ、返して?』

『……知恵つけやがって。』


閉じた瞼の下で、遠い昔の記憶が鮮明に蘇る。

小学生の頃の自分が、2歳年下の妹のお菓子を取り上げていて。

妹はそれを取り返そうと必死になっている。

この頃は本当に楽しかった。

本当に…。

けれど、それはあの日崩れた。



『お兄……ちゃ…―――。』

『遙!!遙―――!!』




「遙ッ!!」


 時計の針が午前7時を差した頃、男は飛び起きるように目を覚ました。

酷く息は乱れ、妙な汗が体から吹き出ていて、男はそれに不快感を抱きながらベットを降り、

そして、リモコンでテレビの電源を入れた。

 男の名前は笹川 翔。年齢は今年で25歳になる。職業は、刑事といういたって普通の成年だ。

しかし、彼には誰も知らないもう一つの裏の顔があった。それは―――


『昨日午後8時頃、○○県○○市○区のゴミ捨て場で、ごみ袋に入ったバラバラの男性の遺体が発見されました。いずれも身元は不明で、現在捜査中との事です。』


 ニュースから聞こえてくるアナウンサーの声。

騒然とした殺人現場の映像が、画面に映し出されている。

最近、このような事件が続いていて、画面の中のアナウンサーは、周辺の住人にインタビューしている。


「ハッ、犯人なんか見つかるわけねーだろ。」


それを見て、翔は大笑いしていた。

腹を抱えソファーに座り、テーブルの上の菓子を口に放った。

『いったい犯人は誰なのでしょうか。』


2個目の菓子を口に放った時、アナウンサーが言った。


犯人は誰って?


「俺だよ。」


翔はニヤリと笑い上唇を舐めた。

 そう、先刻ニュースで報じられた事件の犯人は翔だった。

いや、それだけではない。

その前もその前の前の事件、いや、最近起こる殺人事件は翔の仕業だった。

翔は世間でいう、"殺人鬼"なのだ。

しかも、本人は悪びれた様子はなく、寧ろ彼は殺人という名の"ゲーム"を楽しんでいるように人を殺め、ニュースになるたびに彼は嘲笑うのだ。

 これが彼の本性。表向きは刑事という正義の味方で、裏(本性)は殺人鬼という極悪非道な人間なのだ。


「しかし、ヤツら(警察)もバカだよな。俺が犯人とも知らずにノコノコと情報公開するとは。まぁ、そのおかげで動きやすいけどなッ。」


再び翔は笑い出す。

彼は、これまで警察の立場を利用して上手く事を進めていた。必死に犯人を捜すフリをして聞き込みをしながら、次の殺害目標(ターゲット)を詮索。

そして、抜け穴…つまり殺しやすい時間などを事情聴取と偽って調べあげ、実行に移すという完璧なシナリオを組んだ上で、彼は人を殺めるのだ。


「あー、そろそろ時間か。」


そう言ってテレビの電源を切り、ソファーから立ち上がると、浴室に向かった。

ベタつく体を洗い流す為だ。


♪〜♪〜


そんな時、タイミング悪く携帯がなり始めた。


「なんだよ、こんな時に。」


翔はチッと舌打ちすると、携帯を耳にあてる。


「もしもし、笹川です。」

「おー、笹川。」

「あ、安西さん。どうしたんですか?」

「いや、例の事件の事でな。」

「例の事件?あぁ、昨日のバラバラ死体の…。」

「あぁ、それで…まぁとにかく早く来い。後は署で話す。」


安西はそう言うと、電話を切った。


――あの事件がどうしたっていうんだ。犯人でも見つかったのか?んなわけないか。


翔はそう思いながら、浴室でシャワーを浴び、身支度を整える。

堅苦しい紺色のスーツにネクタイ、ワックスで整えた髪。

後は、『表』という名の仮面を付ければ、正に見た目は刑事その物だ。


「さて…。」


冷蔵庫から取り出した栄養ドリンク剤を朝食代わりにゴクゴクと飲み干す。

そして、ごみ箱に空になった瓶を捨てると、車のキーを片手に家を出た。

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