Chapter6
第六章
はやとはパリティ・シティの秘密、そして隠された文書のありかが分かったことを知ってからずっとそのことばかり考えていた。とりわけ気にかかるのが軟禁されているクラン博士のことだった。共同研究者を裏切ってまで富と名誉が欲しかったなんて。パリィ博士とはパリティ・シティを共に構築までしたというのにいったい何が彼を変えさせたのだろう。それとも元々そういう人だったのだろうか。そして今日、はやとはそのクラン博士の弟子と楠森の地下へ降りようとしているのだ。話したことはなかったものの今までのところ船戸くんは悪い人には思えなかったしむしろ孤独を愛する冷静で怜悧な青年だと思っていた。友梨のことをぴたりと言い当てたりしたこともある。にもかかわらずどういうわけか今日の探検にはあまり乗り気になれなかった。反対にさやかはうきうきしているようだった。午後二時前(パリティ時間で正午前)、クロノス像で合流するなり「ばっちり探検の準備をしてきたわ」といい、懐中電灯、万能ナイフ、いつしか見たことのある「三〇〇度まで上げられる熱電子放出器」、どう役に立つのか疑問だが分厚い物理の参考書、なぜだかまだ湯気を立ててるたい焼きをリュックから順番に取り出した。一つ取り出すごとにさやかの目が熱っぽくきらめいたがそれは探検のためなのか単純に船戸くんに会えるからなのかは分からなかった。前者だけだと思いたかった。「はやとくんは何にも持って来てないの?」「見ての通り手ぶらさ」実際財布や携帯すら持って来てなかった。パリティ・シティでは全く役に立たないし。「あら、私の熱意とは対照的ね」さやかが口をとがらせて言った。「だからこそバランスが取れていいのさ。熱意に熱意を重ねれば極端になって失敗するだけだろ」はやとはさらりと言い返した。見えないトンネルをくぐって東屋に到着すると庭でトミーと友梨がバドミントンをしていた。「お邪魔します。昨日はありがとう」はやとが声をかけた。「やあ、はやとくんに夏芽さやか先輩。今日は探検だっけ?」「うん、楠森の地下にね」「楠森は人の寄り付かないところだから気を付けろよ。危険はないと思うけど森は森だし」トミーが言った。さやかはリュックをごそごそやってたい焼きの包みを取り出した。「はいこれ、前に過去の食べ物持ってくるって言ってたわね。珍しいか分からないけどたい焼きよ。温かいうちにみんなで食べてね」さやかはそういってトミーに包みを手渡した。「わあ、ありがとう。魚はこっちではとっても高いんだ。養殖したものしかないし」「ほんと?でもそれは本物の魚じゃなくてお菓子だよ」さやかが言い、トミーは包みを開けて驚いていた。「今度は本物の魚持ってくるね」はやとが言った。「ねえ、探検って二人で行くの?」トミーが答えないうちに友梨がなんだか不満げに口を出した。「首席に誘われたんだよ。二人じゃないよ」はやとが言ったが友梨は明らかに不機嫌そうにラケットを放って地面に座り込んでしまった。「じゃあ気をつけてね。鯛をありがとう。今度本当の魚をくれるなら鮭がいいな。好きなんだけど長い間食べてないんだ」トミーが言った。きっと余程好きなのだろう。さやかはぜひそうすると言い、二人はお屋敷をあとにした。二人がぴったり正午に五号区の駅に着くともう船戸くんは既に来ていて待っていた。前見た時のようなカッターシャツではなく、引き締まったジーパンに頑丈そうな生地のシャツを着て帽子までかぶっている。それにさやかと同じような小ぶりのリュックを背負っていた。はやとは船戸くんまで森でもどこでも踏み込んでいけそうな格好をしていて少し気後れした。そして一瞬船戸くんがはやとの頭から足先まで視線を走らせるのを感じた。「やあ、きみが夏芽さんの友達の常盤くんだね」「はい、前に学校で会いましたね」はやとは言ってから以前校舎で通り過ぎただけを果たして「会った」と言えるのかなと思った。「ええ、北校舎の入り口でね。それに上級生に混じってものすごくサッカーが上手かった」完全に覚えているようだ。彼はおだやかな様子で言ったがその目は鋭く光っていた。三人は駅に入り、船戸くんが当然のように三人分のチケットを買った。はやとはこれはまたさやかがそのうちたい焼きかなんかをおごるんではないかと思った。「楠森は三号区のはずれにあるんだ。パリティ・シティで一番大きい緑地だ。もちろん散歩用じゃなくて炭素循環の一環としての森だから鬱蒼としてるけど。面白いところだよ」船戸くんが「三号区」と書かれたワームホールに入りながら言い、はやとも飛び込んだ。「つまり光合成のためね」さやかもワームホールを通過して来て言った。「そうだよ。ここではあらゆるものを循環させないといけないからね」「循環はいつまでも出来るんですか?」はやとが質問した。さやかがすぐさま「永遠には無理ってトミーの父さんが言ってたでしょ」と言った。「その通りだ。もちろん余剰次元空間であったってクラウジウスの不等式は成り立つしエントロピーも増大する。全部エネルギーを回収することは出来ない」「それで、その、寿命はどのくらいなんです?」はやとは首席が当たり前のようにぽんぽんと専門用語を使ってくるのに気後れしないように努めた。船戸くんは少しためらった。「それは・・・基本的にパリティ・シティの人たちは知らないんだ」船戸くんは静かに言った。はやとはでもあなたは知っているんでしょうと心の中で言った。さやかも同じことを思ったようでそれを実際に口に出して言った。「えっと、うん。僕はたまたまクランから聞いている。だけどそれを知るのは数人の学者とここを統治する一握りのトップだけなんだ」さやかは教えて欲しそうな目をした。船戸くんはなおしばらくもためらっていた。彼がすぐに返答しないなんておそらく相当な問題に違いない。きっと秘密にしておいて得られる利益と打ち明けて得られるさやかの信頼とを天秤にかけているのだろう。結局後者に傾いたらしく、重々しく口を開いた。「きみたちは絶対に秘密をもらさないと約束出来るかい?例え本庄家の誰にもだめだよ」「大丈夫。もう私たちすでに自分の正体がばれないようにっていう秘密を持ってるし、二つに増えたって平気ですよ」さやかが言った。船戸くんが一瞬明らかに疑わしげな様子をしてさやかを見た。幸いさやかはよそ見していたがはやとは間違いなく船戸くんが「でも僕に正体が知られてしまったじゃないか」と思っていると感じた。「分かった。いいだろう。どのみちきみたちはここの人ではないんだし。ここでは万一人に聞かれてもいけないから楠森に着いたら話すよ」船戸くんが言った。さやかはそんな重大な、それも普通の人は知らない秘密を知ってる船戸くんがそれを教えてくれるというのでどぎまぎしているようだった。歩きながら背の高い船戸くんをちらりと見上げたりするのではやとはなんだかうっとおしくなって自分が真ん中を歩くことにした。三号区の住宅地(センター街の街並みは違ったが住宅地に入ると五号区と同じような風景が広がっていた)を奥へ歩いて行くと楠森が少しずつ見え出した。こんもり茂った森だ。はやとはもうすぐわかるだろう船戸くんの「答え」を予想していた。トミーの父さんは「永遠には無理だ相当のあいだ問題になることはない」と言っていた。おそらく数百年は大丈夫とでもいうかのように。しかし船戸くんの言い方からパリティ・シティの寿命はもしかして案外早いのではないかと思えてきた。きっとトミーの父さんも知らないのだろう。「ちょっと休憩しようか」三〇分も歩いた頃、船戸くんが言い、ベンチに腰掛けて球体のロボット(さやかはそれを「うちにも置きたいロボット」と命名していた)からコーヒーを取り出した。さらにリュックからクロワッサンのたくさん入った袋を取り出すと二人に自由に食べるように言った。はやとはひそかにお昼を食べずに森に入ってしまうのではないかと恐れていただけにほっとした。するとさやかもリュックを探ってなにか取り出した。
「あの、船戸くん?私、クッキーを焼いてきたの。もしよかったら」そう言ってぎこちない手つきで小さな包みを差し出した。
「ありがとう。クロワッサンだけじゃ飽きてしまうしちょうどいいね」船戸くんはそう言ってひし形のクッキーを一つ取り出し、はやとに包みを回した。
「うん、美味しいね。探検の前の体力補給に最適だ」船戸くんはごく丁寧な口調でいい、はやとは顔色を窺ったが冷然たる顔つきだった。はやとは自分が居づらい雰囲気になりそうな気配がなくてほっとした。船戸くんがさやかに特別な思いを抱いている気配はさらさらなかった。
回ってきた包みにはいろんな形のクッキーが入っていたが二つ三つハート形のがあったのではやとはさやかに見えないようにわざわざそれを選んで全部食べてしまった。
三人でクッキーとクロワッサンとを片付け、コーヒーも二杯飲むと船戸くんは行こうかといって立ちあがった。
五分ほどで楠森の境界に着いた。散歩に行く場所でないのは明らかだ。この森を作った人は可能な限り多くの木を詰め込むことだけを考えたに違いない。太い幹の木々が街路樹のような優雅な小さい葉ではなく、堂々とした大きな分厚い葉をつけて森を埋め尽くし、森は今も拡大しているかのようにいくつかの大きな木の枝を道路の真ん中あたりまで伸ばしている。下草も腰あたりまで繁っているのではやとは半ズボンで来たのを後悔した。
「この中に入って行くの?」さやかがさすがに不安そうに聞いた。奥の方はほとんど真っ暗だ。
「なるべく避けたいね。きちんと管理された森だし危険な動物なんていないけどやっぱり歩きにくいしね。もうちょっと縁に沿って歩こう」
そこで三人は黙々と森の縁に沿って道路を歩いた。時折近くの住民が通り過ぎるほかあたりは静まり返っていた。
「そろそろ楠森だ。ロボットがいるうちに水を入れておこう」そう言って船戸くんは三号区を巡回している「うちにも置きたいロボット」から大きな水筒に水を入れた。
なお一五分ほど歩くと、不意に森が途切れ、一本の石畳の道が森の中に続いていた。その両側にはこんもりと森が茂っている。
「この道を行こう」船戸くんが言った。探検にしてはよく道を知っているなと思った。
「ここには来たことがあるのですか?」はやとが尋ねる。
「うん、ここら辺はね。この先も知っているけど今日探検するところはさらにちょっと奥の方だ」船戸くんはポケットから薄っぺらな携帯らしきものを取り出すと歩きながら何か調べている。
「GPSがあるから道には迷わない。地下でも機能するからパリティ・シティのどこにいるかは一目瞭然だよ」
「それなら安心ね」さやかが陽気に言った。さやかは見た目は怖そうな森でも最新機器があったら全く問題ないと思ったのか再び快活に話すようになった。しかしはやとは薄暗い道を進むほど口数が少なくなった。これはただの探検ではない、船戸くんは何か明確な目的を持っているのだ。はやとはうすうす思っていたことを今はっきり確信した。
今や三人はすっかり荒れ果てた道を歩いていた。道を曲がってからというもの誰ひとり出会わないし空にもサメ型のヘリ一つ飛んでいない。石畳を破ってあちこちに背の高い草が生えたり、縁石の一部が壊れていたりと長年放置された道のようだった。はやとはパリティ・シティの寿命が話されるのを待ったが船戸くんはなかなか話そうとしなかった。
「この道は使われていないようね」さやかが朗らかに言った。
「そうなんだ。もうすぐ行き止まりになる。この道は本来ならばパリティ・シティを抜けるはずのものだが今や用のない道でしかない」船戸くんが言った。三人はしばらく黙りこみ、別に急ぐ必要もなかったのに追い立てられているように足を急がせた。
「もう聞き耳を立てる人もいないだろう。さっき言ってたパリティ・シティの寿命だけど・・・」船戸くんが突然言った。はやとはどきどきしてきた。そして宣告が下された。
「せいぜいあと一〇年だよ」船戸くんの声がしんとした森に響いた。はやとはやっぱり短かったんだと思った。それにしても五〇年くらいはあるものかと思っていたが一〇年とは・・・。さやかは隣で息をのみ、その場に立ちすくんだ。
「一〇年であらゆるシステムを動かしているエネルギー系統が停止する。装置自体の寿命はもっと長いけど適宜補充している燃料が尽きてしまうんだ。エネルギー系統が停止するとまず人工照明が消える。街の気温がどんどん下がり、数か月で楠森も他の木も全部枯れてしまう。例え寒さに耐えられたとしても炭素循環が立ちいかなくなり、一年以内に食料が尽きるだろう。さらに一〇年後には酸素もなくなる。微生物を含むあらゆる好気呼吸の生物が滅ぶ」船戸くんの声は淡々としていた。
「でも・・・秘密文書が見つかったからにはもう大丈夫なんでしょう」さやかが言った。
「学者たちが認証装置を解除できさえすればね。僕はそんなに簡単な事とは思わない。あの生体認証は本人の髪の毛からDNAを解析すれば済むような話ではないと思う。生身の人間が必要だろう」はやとは船戸くんの仕入れた知識は並大抵ではないなと改めて思った。エネルギー研究所の所長のトミーの父さんですら知らないことに違いない。さすがはこの街を構築したクラン博士の弟子だ。「それにもし文書を手に入れたとしてもそれが不完全な可能性もありますね。本当に街を解放できない可能性も」はやとが言った。
「いや、それはないだろう。あれは完璧なはずだ」船戸くんは疑念の余地はないというようだった。はやとはわけを聞こうとしたがさやかが先に口をはさんだ。
「クランはものすごい学者なんでしょう。だったらこんな時に軟禁するのは間違ってると思うわ。脱税か横領か知らないけどそんなことは置いといて今こそ一流の学者に鍵を開ける研究をしてもらうべきだと思うわ」すると船戸くんが急に立ち止まり、はやととさやかは数歩進んでしまってから慌てて振り返った。船戸くんは少し呆れたような、それでいて何かためらっているような表情をした。
「きみたちは、きみたちはこれまで何とも思わなかったのか?パリティ・シティを構築した世界的な科学者が簡単に金や名誉に目がくらむのか?未来に戻る研究を必死にやらないといけないときに共同研究者をワームホールかなんかに閉じ込めるなどという愚かしいことをするのか?パリィ博士がいなくなった後に当局はなぜ貴重なもう一人を軟禁してしまうのか?新聞の話はあまりに出来過ぎているということを変だと思わないのか」船戸くんがいつもの冷静さを捨ててしまったような口調で言ったのでさやかは驚いて目を見張った。船戸くんはすぐに明らかに言い過ぎたと思ったらしい。また穏やかな声に戻って言った。
「いや、すまない。クラン博士のことを思うとつい取り乱してしまって。きみたちには関係のない話なのに」船戸くんは自制しているがクランがいなくなって相当打撃を受けたのかもしれなかった。
「いいえ、私たちにも関係があるわ」さやかははげますようにそう言ったが船戸くんは「とにかく当局は日照時間を減らして節約するべきだよ」と厳しく言っただけで後は黙って歩き続けるばかりだった。少しずつ空が低くなってくるような気がした。だんだん正面の空に人工照明が蜂の巣のような模様を描いて散らばっているのが見えるようになった。木立を抜けると数百メートル先にどこまでも高くそびえて壁が見えた。上の方に行くに連れて青空になっている。下の方にはほとんど人工照明はなく、水に映った淡い虹のようなもやもやした壁だった。パリティ・シティの端っこだ、はやとは分かった。低い草地になり、道は壁にぶつかって終わっている。はやととさやかは駆け出した。はやが一番にもやのような壁にたどり着き、それを触ってみたがそれは今まで触れたことのないほど固い感触で、ひやりとしていて髪の毛一本すら通りそうになかった。これは壁ではなく文字通り世界の果てなんだと今更ながら考えた。さやかも追いついてきて驚いている。
「この街が時間軸を戻ってしまう前はここを人やヘリが頻繁に通っていたものだ。ちょうどワームホールをくぐるようにいとも簡単に普通の次元に行けたわけだよ」後ろから大股に歩いてきた船戸くんはそう言って道路わきの錆びついて傾きかけた標識を指さした。方向が示され、一方に「パリティ・シティ 三号区」もう一方に「月の台 北町」とある。
「僕たちの街だ」はやとは呆然としてつぶやいた。パリティ・シティで「月の台」の文字を見かけるのはあまりに不似合で不気味なほどだった。
「そうか、将来まで名前が変わらなかったんだな」船戸くんが言った。
「私、なんだかもう帰りたくなったわ・・・」さやかが小さな声で言った。すると船戸くんが慌てて止めた。
「ここまで来たんだから今更帰らないでくれ。さっきあんなこと言ったけど実は僕たち今日例の文書、完璧に街を解放できる文書を求めてやってきたんだ。DNA学者たちには任せていられない。しかもとっておきの『鍵』を持ってね」船戸くんはいたずらっぽく微笑んだ。さやかの顔がぱっと輝いた。
「そうなの?あの文書を見つけに行くの?すごいじゃない。どうして先に言ってくれなかったの?きっと私たちを試していたのね」さやかが信じられないというように言った。はやとは船戸くんが試しているのだとは思わなかった。それどころかさやかが帰るなどと言い出さなかったらいつまでもこの「目的」を言わなかったのではないかと疑った。
船戸くんはにっこりして水筒から水を飲んだ。
「じゃあ行きましょうよ」さやかも水筒を受け取って水を飲むとさっき帰りたいなどと言ったのを挽回するかのように元気よく言った。
三人は少し道を戻った。船戸くんが携帯で地図を確認しながら「ここくらいで入るのが最短距離だ」と言っていよいよ鬱蒼とした森に踏み込んだ。
楠森は思った通り歩きにくかった。地面はひどくぬかるんでいるし、たびたび下草に足を取られた。船戸くんは先頭に立って携帯をバンドで腕に固定すると小さなのこぎりのようなものを取り出して時々ゆく手を阻む蔓草や枝を切り払っていた。のこぎりは草に触れるとシュッと空気が漏れるような音を出して歯が回転し、あっという間に草を切り落としていた。
「すごい。私もやってみたいわ」さやかがせがんだ。
「できればこれを使うのは最小限にしたいんだ。楠森を勝手に触ることは禁止されている。よかったらGPSをチェックして方向がずれないように見張ってくれないか」船戸くんが微笑みながらさやかを見て言った。さやかは喜んで承諾し、船戸くんのほっそりした腕についている携帯を取り外すとそれを見つめることに徹した。はやとはと言うと特に仕事もなさそうだったので仕方なしに荷物持ちでもと言ってさやかのリュックと船戸くんの大きな水筒を受け取った。さやかは「ありがとう、とっても助かるわ」と言ったがはやとはものの五分で後悔した。参考書やらレールガンもどきの詰まったリュックに加え、まだあまり減ってない水筒を持って歩くのは普通の道ならともかく森の中ではなかなかの労働だった。
さやかは画面上に点滅する青い点を見ながら時々「少し右」とか「ちょっと左にずれたわ」とか言いながら赤い点の目標までの最短距離を示した。
「あら、雨の予報が出たわ」右、左の指令がしばらく続いた後さやかが声を上げた。
「見せてくれ・・・あと五分で雨か。じゃあ、この辺の大きな木の下で休憩するか。一五分で止むはずだ」
はやとは重い荷物を降ろして地面に浮き出た木の根っこに腰かけた。みんなは日の暮れる直前くらいに薄暗い森で水筒の水を回し飲みした。酸素が大量供給されてるからか空気だけは心地よかった。
「楠森だけは他の所と違って毎日何回か雨が降るんだ」船戸くんが言った。
「あと五秒よ。五・四・三・二・一」さやかが携帯を見ながらカウントダウンした。ぴったり〇のところでばらばらと大粒の雨が降って来て楠森の地面をいっそうぬかるませた。空は曇ることもなく変わらない明るさで地面を照らし、はやとの目の前にできてくる水たまりが薄暗い森できらきらと輝いた。
一五分後、雨はぴたりと止み、再びトレッキングを開始した。
「もう少しで到着よ」しばらくしてさやかが言った。はやとの足は泥んこで腕も草の汁や雨水で同じくらい濡れていた。
「あと数メートルで点が一致する場所よ」数分後、さやかが画面を見つめて言った。
「よし、ここだな」船戸くんが今までと特に変わりもしないところで立ち止まると地面に屈みこんだ。
格子状の蓋があった。船戸くんはリュックから小さなジャッキを取り出して蓋を開けた。人が一人入れるほどの暗い穴が下に続いている。船戸くんは懐中電灯を取り出して下に降りて行った。はやともさやかのリュックから懐中電灯を取り出し、穴の内側に付けられた梯子を降りて行った。上からさやかが続いた。
「深いから気を付けて。あと蓋を戻しておいて」下から船戸くんが叫んだ。
一〇メートルほども降りて漸く地面に着いた。どこかに換気ファンでもあるのか地上から風がびゅうびゅう吹き込んできた。か細い懐中電灯の光が二筋、通路を照らしたが突然ぱっと明るくなった。船戸くんが壁の小さな引き戸を開けて中のスイッチを押していた。
「よかった。真っ暗な中を歩くのかと思った」はやとが言った。
「この通路は廃棄物リサイクルセンターにつながってて今降りてきた穴は装置に必要な酸素吸入用だ」
通路はどこまでも伸びているように思った。天井に一定間隔ごとに蛍光灯がつけられていて地面を照らしだしている。風は相変わらず強く、濡れた手足をたちまち乾かしてしまった。
「なんか音がしない?」さやかが耳をそばだてた。かすかにモーターのまわる音とそれに交じってばりばりという音がした。
「あれはリサイクルセンターで不要物を砕いている音だ。もうすぐ着くだろう」
通路は下り坂になっている。ばりばりという音が次第に大きくなってきた。何度か角を直角に曲がり、時折コンクリートの壁に番号が振ってある鉄の扉が現れたがどこにも入ることはなく、ひたすら道なりに進んでいった。気温が少し下がったように思った。
「ここの扉を入るよ」だしぬけに船戸くんが「A32」と書かれた扉で立ち止まった。鍵穴があったが取っ手を回すと音もなく開いた。
自動で照明がついた。これまで通りの通路が続いているものと思ったがそうではなく、幅の広い廊下になっていた。壁はコンクリートがむき出しだったが床はきちんとタイルが貼ってあった。やっと風がおさまった。
「もうリサイクルセンターに入ったよ」船戸くんが言った。廊下の両側に扉があり、「第一管制室」とか「地下会議室」とか書いてあった。
「文書はリサイクルセンターにあるんですか?」はやとが聞いた。
「いや、リサイクルセンターとは直接にはつながっていない。クランとパリィ博士しか知らない小部屋があるんだ」
「新聞の話が疑わしいとしてもなぜクランは文書のありかを言わなかったのでしょう?」はやとはずっと気になっていたことを聞いた。
「それについての博士の考えは聞いたこともない。あるいは新聞の話が本当かもしれないし」船戸くんは皮肉っぽく言った。はやとは再び黙り、船戸くんは「粉砕機 上」と書かれた扉を開いた。物が砕ける音が数倍になって響いてきた。中は細い鉄の橋になっていてかパイプ状の手すりが両側についている。数メートル下でらせん状の歯がぐるぐる回って廃棄物を砕いていた。両側の壁の穴からばさばさと古ぼけた電気機器やら家具やらが出てきて順番に砕かれていった。
橋を渡りきった先はがらんとした部屋になっており、端に下の階に下りる螺旋階段があった。
下の階に巨大な球形のタンクがあるのが見え、階段はその周囲を回りながら下に降りている。
「これは砕いたものを浮遊選別するのに使う水が入ったタンクだよ。僕たちの用のある部屋はもう一つ下」船戸くんが言ってさらにタンクの横にある小さな階段を下りた。
最後の階だった。細長くて狭苦しい。壁際にバケツやモップが置いてあった。一番奥にも何台かの掃除ロボットがあるだけだった。
「終点だよ」船戸くんがいたずらっぽく言った。
「私には、ただの掃除用具置き場に見えるけど」さやかが首をかしげた。
「奥まで来てごらん。壁に何かあるのが分からない?」そこでさやかとはやとは物置の奥まで行き、壁を見つめたがやっぱり灰色の壁があるだけだった。
「何もないみたいだけど」はやとが疑わしそうに言った。すると船戸くんが壁のある個所を指でつついた。よく見てみると針先ほどの小さな穴がある。船戸くんはリュックをおろし、注射器のような筒状のものを取り出した。
「これを穴にさして覗いてみて」さやかがすぐさま受け取り、注意深く針を差し込むと下方向に傾いた姿勢で固定された。さやかは望遠鏡のようなレンズを覗き込んだ。
「すごい・・・」さやかがたちまち驚きの声を上げた。はやとも替わってもらって覗き込んだ。
見下ろすような形で小部屋が見えた。狭い部屋に何人もの学者が床に座って装置をいじったりパソコンをたたいたり本を読んだりしている。床には配線板やコードや本や煙草の吸殻が散乱していた。端っこには折り畳み式の机があり、少し大きめの装置や分厚い本が何冊もおいてあった。
「壁に金庫が見えるのがわかるかい」船戸くんが言った。見てみると金属の丸い小さな扉が壁にあった。隣に削り取られたような空洞があり、中から何本ものコードが伸びていて机の上の装置につながっていた。反対側の壁からは狭い通路が伸びていた。
「あの中に文書があるんですね」はやとが言った。
「そう。それで、僕たちはここからあの部屋に押し入ろうと思う」船戸くんが当時のように言った。はやとはさすがに冗談だろうと思ったが船戸くんの顔は真剣そのものだった。
「どうして、今いる学者が来たところから入らないでこんなところから・・というかそもそもどうやって?」はやとは信じられない気持で聞いた。
「当然の疑問だね。いや、他にもいろいろ聞きたいことがあるだろう。文書を手に入れ次第全部話すからそれまで待ってくれないか」はやとはこれは探検どころか相当な危険を冒すのではないかと思ったので先に知らないで実行したくはなかったがさやかが先に承諾してしまった。
「ちなみにあっち側の道を使わないのはもちろん捕まった教授の弟子に使わせるはずがないからだ。他の質問は待ってくれ」はやとは頷いた。
「では、出来るだけ短時間で手に入れるようにするから必要な時は助けてくれるかい?」
「もちろんです。私に出来ることなら何でも」さやかは張り切っている。船戸くんは壁を調査し始めた。
「もう少し聞いた方がいいんじゃない?戦略とかを」はやとはまだ決行する気になれず、さやかに囁いた。
「時間がないなら仕方ないわ。はやとくん、パリティ・シティの解放がかかってるのよ。ちょっと待ってもいいじゃない」さやかが反対した。
「じゃあ準備はいいかい?」船戸くんが打ち切るように言うと携帯を操作し始めた。地下の温度が一気に上がったかのように全身が熱くなってきた。はやとが携帯を横から見ると船戸くんがEnterと表示されたボタンを押すところだった。
壁の向こう側からくぐもったサイレンの音が響いてきた。船戸くんが覗き穴から様子を伺っている。それから二人に譲ってくれたのでかわりばんこに覗いた。学者たちがあたふたと部屋を出て行くところだった。
「地殻応力異常の警報を鳴らしたんだ。トンネルが崩壊するって言ってる」壁に耳を当てると確かにサイレンの音に混じって「トンネルが崩壊します。避難して下さい」と繰り返すスピーカーの声が聞こえた。
船戸くんが最後に全部の学者が避難したことを確認した。
「じゃ、本当に崩壊させるよ。ちょっと音がするから驚かないで」船戸くんの声が緊張した。頭がフル回転しているに違いない。再び携帯を操作すると壁の向こう側で大きな爆発音がした。急いで覗き穴を確認すると部屋に通じる通路が崩壊して部屋の中に少し土砂が流れていた。船戸くんは覗き穴に差した望遠鏡を引き抜いて片付けた。
「今度はこの壁だ。廊下に下がってて」船戸くんが指示し、二人は急いで掃除用具置き場を出た。船戸くんがリュックから何やら取り出し、位置を吟味して備え付けた。そして二人の元に来た。五秒後、爆発音がして地面が揺れた。船戸くんが確認に行き、また戻ってきた。もう一度爆発があり、また確認しに行った。
「ちょうどいい穴が空いたぞ。突入だ」分厚い壁の下に人が一人入り込めるほどの穴があいていた。船戸くんがまず入り、その後にはやととさやかが這って行った。ひどく硝煙のにおいがした。 床には学者が投げ捨てて行った本やひっくり返ったパソコンが散らばっていた。その時どこからか水が流れてきて床のごちゃごちゃした計算式の書かれた紙を濡らした。
「しまった、最初の爆発の衝撃で上のタンクに穴が空いたんだ。いや、このペースだとすぐには水没しないだろう。急ごう」船戸くんが息を切らせて言った。三人は金庫に駆け寄った。近くで見ると、金庫に何本もの細い傷があり、周りの壁は少し削られて金庫の側面がむき出しになっていた。机の上の装置も元は金庫の隣の穴に埋め込まれていたものを無理やり外したのだと分かった。
「あいつら認証装置を解体しかけたな、なんて無駄なことをするんだ」船戸くんが悪態をついた。すでに机の上の装置を調べている。
「ロックはすぐ解除できるの?」さやかが床全体が濡れてしまったのを見ながら言った。
「装置が起動したらすぐだけど何ということか、配電盤が分解されてる。すぐ組み立てにかかるからきみたちは水漏れをどうかしてくれ」船戸くんが叫び、ものすごい勢いで机の上の電子盤やコードを集め始めた。はやととさやかは崩壊して封鎖された通路にダッシュし、天井を見上げた。天井に拳くらいの穴が空いており、そこから水が勢い良く噴出していた。
「上のタンクの底が破れたんだ。何か防ぐものはないか」はやとは叫び、辺りを見渡したが役に立ちそうなものはなかった。
「とにかく何か詰めてみようよ」さやかが言って手頃な岩石や本やらを拾った。さやかがはやとの肩に乗り、天井の穴に手当たり次第詰め込もうとした。
「水の勢いが強すぎてとても押し込めないわ。あれだけの大きさのタンクでしかも球形だから当然だけどものすごい水圧よ」さやかが上ずった声で言う。
「物理の話はいいから何とかならないのか」はやとが叫んだ。もう水はくるぶしを越していて紙や鉛筆がぷかぷか漂い始めていた。 「ちょっと二人とも来てくれ」その時、奥で船戸くんが叫んだ。
「ごめんなさい、穴は塞げなかったわ」さやかがすまなそうに言った。
「水のことはいいから、ちょっとそこら辺の本を探してくれ。抵抗器が二つ足りなくて合うのを探すために回路方程式を解かないといけないんだけどディメンションセンターのネット計算機サービスがメンテナンス中みたいなんだ」船戸くんの声に焦りが見えた。今や鉛筆で回路図やら計算式やらを書いていた。
「どういう本?」さやかが聞く。はやとはすでに開いても全く分かりそうにない本を何冊か机に上げていた。
「なんでもいい。巻末にラプラス変換の表がありさえすれば。あと片っ端から抵抗器を集めてくれ。こういう形の部品だよ」船戸くんが計算を続けながら机の上の一センチにも満たない部品を指した。
「ラプラス変換の表なら私の参考書にあるわ」さやかは少し明るく言うと急いで浮かんでいるリュックからぐしょ濡れの参考書を取り出した。その間にはやとは水面から抵抗器をいくつか救い上げていた。
「ありがとう。すぐ計算するよ」船戸くんは関数電卓を取り出して猛烈に計算を始めた。二人はさらに二〇ほどの抵抗器を見つけた。
「よし、赤と紫だ。うまく合うといいが」そこで二人は赤と紫の帯の入った抵抗器を探し出し、船戸くんは配電盤に取り付けた。認証装置のボタンが点灯した。三人は歓声を上げた。
「あとは自前のDNA解析補助プログラムを取り付けるだけだ」船戸くんはリュックから黒い重そうな箱を取り出すと装置に配線した。いつの間にか水は膝まで来ていた。装置の中でモーターの回る音がし始めた。
「上手く行ったの?金庫は開く?」さやかが待ちきれないように言った。
「まだ認証をしていないじゃないか。さあ、夏芽さやか、あなたの出番だ」一瞬沈黙が訪れ、水の漏れる音と装置の動く音だけになった。
「私の出番って・・・」
「指をなめてここを触るんだ」船戸くんが認証装置の指マークのついたところを指した。さやかは急いで言われる通りにした。船戸くんは金庫まで水をかき分けて行った。扉に触れるとそれはぱっと開いた。中からケースに入った文書を取り出し、リュックに入れた。
船戸くんが満足げに微笑んだちょうどその時、鈍い衝撃音がして水位がみるみる間に増してきた。はやととさやかは声を上げるより早く壁の穴に向かった。といっても胸までせまって来た水の中では早足で進むのがやっとだった。壁の穴までたどり着くとさやかがまず水に潜り、はやとが続いてもとの部屋に移った。後ろから船戸くんが泳いできた。
水面に顔を出そうとしたがもう水は天井まで到達していた。はやとは必死に出口に向かって泳いだ。前で泳いでいたさやかがもがき出した。水を飲んだようだ。はやとはその手を引っ張り水やら壁やらを必死に蹴っているうちに不意に螺旋階段の上に到達し荒く呼吸をしていた。さやかもむせこみながらもはやとにつかまってなんとか立っていた。水に埋まった階段から船戸くんの頭が現れ、大きく息を吸い込んだ。
「やれやれ、もう少しで未来に骨を埋めるとこだった」はやとが言った。
「文書は・・・大丈夫なの?」さやかが喘ぎ喘ぎ言った。
「バッチリさ」船戸くんもリュックをぽんぽんと叩いて言った。
三人は疲れきった全身に鞭打って水が全部階下に漏れてしまったタンクを通り過ぎ、上の階に上がり、粉砕機上の橋を渡った。船戸くんが廊下に続く扉を開けようとした時、向こうで人声がした。足音が近づいてくる。
「しまった、もうタンクの破損が知られてしまったか」船戸くんはそう言って立ち止まり、驚いたことに開きかけた扉を閉めて内側から鍵をかけた。
「いったいどうするつもりだ?見つかってはいけないのか?」一刻も早く地上に出たかったはやとが問い詰めた。
「どうしたって誰かに見つからずに地上まで出られない。見つかっても構いやしないが文書が見つかっては困る」船戸くんが冷徹な声音で言った。さやかが隣で口も聞けないほど驚いている。扉ががたがた鳴り、「鍵がかかってるぞ」という声が聞こえ、続いて「鍵なら管制室だ」というのが聞こえた。どたどたと足音が遠さがっていった。
「いったいどういうことなんだ。文書を公開しないとパリティ・シティは解放されないんだぞ」はやとが言った。
「鍵が来るまで少し時間があるだろう。約束通り説明するよ」船戸くんはそう言って橋の真ん中まで歩いて行った。
「さて、僕は最初からこの文書を学者たちより早く見つけるつもりで来たのだ。これはクランが計画していたことだが軟禁されてしまったので僕が代わることになった」さやかが息を飲んだ。船戸くんはさらに続けた。
「あの文書は確かにパリティ・シティを解放するが非常にまずいやり方でそれを行う。そして今、この街の当局がそれを望んでいるのだよ。博士はそれに反対して軟禁された。もっともらしい話を流布された上でね。文書が公表されなければ研究はほとんどゼロからのスタートになるからしばらくは安心だ」船戸くんが扉の向こうの様子をうかがうために言葉を切った。廃棄物を砕く音がするばかりだった。それも来た時より小さく、時たま壁からゴミが吐き出されて来るばかりだった。
「それで、いったいどうしようというの?」さやかが尋ねた。
「僕は今すぐ文書をこの粉砕機に捨てようと思う」船戸くんが穏やかに言ったがその目は決意に溢れていた。
「やめて、街には人々が住んでいるのよ。家族と別れてしまった人だっているのに。一〇年で街は滅ぶんでしょう」さやかが叫んだ。
「それでも文書が開くくらいならそちらを選ぶ」船戸くんの声がこだました。そしてリュックからゆっくりと文書を取り出した。
「お願いやめて。街を救う最後の綱を切らないで」さやかが言った。
「いや、だめだ。もうすぐ人が来る。どうしても彼らに奪われてはなるまい」さやかは不意にはやとの肩にかかっていたリュックを引っ張ってレールガンもどきを取り出した。船戸くんはそれを見てぎくりとした。
「悪いけど火傷させてでも奪うしかないわね」さやかはそう言って熱電子放出器をちょうど粉砕されようとしている古ぼけた椅子に向けて発射した。小さな火が薄暗い部屋で光り、椅子が黒く焦げた。
「ちょっと待ってくれ。きみには分かっていないんだ」船戸くんが言った。さやかは文書を置いてちょうだいと言って熱電子放出器を船戸くんに向けた。 彼は軽くうなづいて床にかがんだ、と次の瞬間稲妻より早くポケットから何かが取り出されると真っ赤な光線が部屋に走った。それはまっすぐさやかの手の機械にあたり、じゅうっという音とともにぽっかりと穴が空いていた。
「こっちはMAX一五〇〇度だからね」落ち着いた声が聞こえた。さやかは呆然と立ち尽くしている。 船戸くんは文書をケースから出して投げた。束ねられた文書は放物線を描き、手すりを越えるとまっすぐ粉砕機に向かって落下していった。紙の引きちぎられる音がして文書はゆっくりと粉砕機に吸い込まれ、見えなくなった。