Chapter4
第四章
次の週はあわただしく過ぎた。授業中や部活の時にふとこのすぐ横に余剰次元があって人々が暮らしてるんだと思って不思議な感覚になることがあった。とはいえ、週末までそれ以上パリティ・シティのことに思いを巡らす時間はなかった。授業はどんどん進んだし、宿題も連日どっさりと出された。ことに「じいさん」は年末までかかるかと思われるほど膨大な宿題を出した。家に帰ったら帰ったで宏美の勉強を見ないといけなかったりとさらなる課題が待ち構えていた。
それに対してさやかは比較的のんびりしていた。部活はやっていなかったし(一年生の時に物理部に行ってみたがレベルが低すぎて入る気がしなかったと言っていた)、英語の宿題を期限内に提出することは半ばあきらめているようだった。はやとは週末になったら少し休憩したいなと思ってパリティ・シティにさやかを誘ってみた。あそこに行くほどの気分転換はない。さやかも特に何の用もないようですぐに賛成した。
そんなわけで六月の最初の土曜日、クロノス像の前でさやかと合流し、遊んでいる小学生がみていない時を見計らってさやかがパリティ・シティに飛び込み、はやとも差し出された手を握ってジャンプした。
懐かしい東屋に着き、庭を横切ろうとしたとき、後ろから声がした。
「やあ、きみたち、友梨の友達だね」はやとより少し背の小さい男の子がお屋敷からこっちに歩いてきた。にこやかに微笑んでいて明るい色のシャツがよく似合っていた。
「こんにちは、お邪魔してます。先週友梨ちゃんにここを通る許可を得たんだけど」さやかが用心しいしい言った。
「許可だって?そんなこと言ったんだ。お姉ちゃんはいつもそんなだから気にしないで。庭なんかいくらでも通ってもいいのに。きみたちは変わったワームホールで来たんだよね。先週家はきみたちの話でもちきりで一度会ってみたいと思ってたんだ」友梨と違って親しみやすい話し方だった。
「うん、僕は常盤はやとでこっちは友達の夏芽さやかだよ。今中学三年生、いや一五歳だよ」はやとが紹介した。
「僕は本庄友樹っていうんだけどみんなにはトミーって呼ばれてるよ。今レベル五の真ん中くらいで一二歳だよ。友梨がレベル一〇の子が来たって言ってたけど本当なの?」トミーが感嘆したような声で言ったが同時に少し疑わしそうな様子だった。
「えっと、実はね。僕たち別の街から来たんだ。それでね、その、レベルとかっていう話はよくわからないんだ」はやとがしどろもどろに説明した。
「やっぱりね、友梨の話はいっつも思い込みがはげしいんだ。ワームホールとか言ってたけど東屋のどこにもそんなものなかったし。でもきみたちはさっきワームホールみたいなところから出て来たね。きみたちは過去から来たんじゃない?」トミーが分かってるというように言った。
「あら、よく分かったじゃない。どうやって気付いたの?」さやかが驚いて聞き返した。
「友梨の話からそうかもって思ったんだ。友梨ったらぜんぜん気付いてなかったんだけどね。完全にきみがレベル一〇で家からここまでワームホールを作ったと思ってたんだ。僕が過去からだろうって言うと驚いてたよ」トミーはそういってくすくす笑った。はやとはレベル五のトミーはレベル七の友梨よりずっと賢いのではないかと思わずにはいられなかった。
「あ、そうそう、レベルっていうのはね学校のシステムの話で一定量の課題とテストに受かると次にレベルに行けるって仕組みだよ。だから同じレベルでも二年くらいの年齢差はあるみたい。みんなレベルで言うから誰が何歳か知らないけど。友梨はこの前レベル七に行ったんだけど一四歳で行ける人はそういないって自慢するんだ。実際はまあまあいるし、たまに本当にすごいのはもっと上まで行ってるけどね」
しばらく東屋に座って話していると二人ともすっかりトミーと仲良くなった。初めの方こそ友梨の弟と言う事もあって用心したがトミーは率直で垢抜けていて少しも気取ったところがなかった。トミーは学校についていろいろなことを教えてくれた。学校は毎日開いていて好きな時だけ行けばいいこと、パソコンでも同じ授業やテストが受けられること、でも学校に行ったら友達に会えるからトミーは平日は毎日行ってるということ、レベル別になっているのは教育を効率化する必要があるためで、それは科学が進み、教えるべき知識も格段に増えたからということなどを教えてくれた。
逆に二人が月の台の中学校の話をするとひどく驚いていた。何よりも毎日決まった時間に行かないといけないと聞いて飛び上がらんばかりに驚いた。
「それって、全然自由がないじゃない。ゆっくり寝たい時はどうするの?」トミーが口をあんぐり開けて尋ねた。
「それでも行かないといけないのよ。まあ、もう慣れたけど」さやかがぜんぜん平気よというように言った。
「でもきみは一時間目はいつも寝てるじゃないか。学校行ってないのとおんなじじゃない」はやとが指摘した。
「でもどっかで勉強したらいいじゃない。まだあんたよりずっと物理も数学もできるわ」さやかが反論した。
「未来的なやり方だな」はやとはにやっとして言った。トミーは逆に感心したらしく、パリティ・シティでもやっていけそうとか言った。
「ところできみたちはもうパリティ・シティをあちこち見て回ったの?」トミーが聞いた。
「先週五号区の中心街に行ったわ。電気屋さんとかすっごい面白かったし。あと科学館も行ったよ。私、物理が好きだから」さやかが言った。
「そっか、パリティ・シティはそんなに見るとこもないんだけどもしよかったら学校に行ってみない?誰でも入れるし好きなレベルの授業を見学できるよ。今日は土曜日だからあんまり来てる人もいないかもだけど」はやともさやかも大賛成だった。よほど珍しいところに連れて行ってもらえるとでもいうようにそろって歓声を上げたのでトミーはそんなたいしたところじゃないんだけどと言ってくすくす笑った。
三人は五号区を中心に向かって歩いた。先週来た道に差し掛かり、電気屋の前を通り、前に昼ご飯を食べた広場を抜け、駅の近くで右に曲がった。角の雑貨屋でトミーは立ち止まり、新聞を買った。
「僕が読むんじゃないけど、父さんが読むから買って来いっていうんだ。毎日読んでないのに週末になると暇らしくてね」さやかが読みたそうにしたのでトミーは新聞を渡した。
「へえ、未来の新聞だ。パリティ新聞って書いてあるけど。地方紙みたいなのかしら」
「パリティ新聞しかないんだけどね・・・たいした記事もないさ」トミーの声が少し曇ったのではやとはひっかかったがその時さやかが声を上げた。
「今日はニュースがあるみたいよ」そして大見出しを見せた。三人は道の傍にちょっと立ち止まって顔をくっつけて読んだ。
D・Cのセンター長解任
本日七日午前九時頃、ディメンションセンターのセンター長であるクラン博士の研究費横領が発覚し、解任された。これまで五年間にわたって合計三〇億円を私費流用していたことが判明。クラン博士は現在自宅に軟禁されている。センター長の後任は未定。
「なるほどね、今日は新聞を買った甲斐があったよ。父さんはディメンションセンターで働いてるから一大ニュースだって騒ぐはずだ」トミーがあまり関心なさそうに言った。
少し歩くと学校らしき建物が現れた。二階建ての赤煉瓦の建物が芝生のグラウンドを囲んでいくつか連なっている。グラウンドでは生徒が集まってサッカーをしていた。トミーは門を少し開いて入り、後からはやととさやかが続いた。
校庭の周りの遊歩道を建物に向かって歩いていくとあちこちのベンチや道端で観戦している生徒や寝そべったり本を読んだりしている生徒がいた。土曜日だからか敷地の広さからすると生徒数は少なかった。
「私ってここじゃどのくらいのレベルかしら。数学は微分あたりで物理は電磁気くらいなんだけど」さやかが聞いた。三人は遊歩道から入り組んだ建物を囲む回廊に入っていた。
「それならレベル六だね。僕、数学が苦手だから今度教えてほしいな。夏芽先輩」トミーが言ったのではやとは「夏芽先輩は教えるのが上手いからちょうどいいよ」と言った。さやかはちょっと赤くなってそんなでもないとかなんとかもごもご言っていた。
「じゃあレベル六の授業を見学してみようか。まだまだ上がれそうにないけどちょっと予習するのもいいかも」そういってトミーは回廊から校舎内に入った。入口に「北校舎」と書かれたくすんだプレートがあり、その下にベンチがあってそこだけが陽だまりになっていた。カッターシャツを着た一人の高校生くらいの人が分厚い本を膝に置いて座っていて、三人がやってくるのを賢そうな、少し物憂い表情でじっと見ていた。トミーは軽く会釈して通り過ぎ、階段を上った。
「彼はこの学校の首席なんだ。まだ一六歳らしいんだけどもう最高レベルの一二まで行ってるんだ。レベル一二になったらディメンションセンターで見習いになれるんだよ」
「へえ、首席なんだ。賢そうな顔をしていると思った」はやとが言った。
教室に着いた。ちょうど休み時間らしい。教室の扉の横に電光掲示板があって「レベル六数学(解析学基礎)第六講 九:〇〇~」と表示されていた。
「ちょうどあと一〇分で始まる」トミーが言った。
「パリティ・シティに住んでないのに勝手に入っていいのかしら?そもそも過去から来た人ってよくいるの?」とさやか。
「過去から来た人は聞いたことないけど見学はいつでも大丈夫だよ。テキストが教卓の中にあるから適当にとったらいい。ただ他の人に過去から来たってばれるなよ。広まったら間違いなくディメンションセンターで研究対象にされていろいろ面倒だと思うから。今のところうちの家族しか知らないし友梨にも広めるなって言ってある」トミーが声を落として、さも重大そうに忠告した。
「じゃあ、私たちレベル五って設定にするわ。それから五号区に住んでいて・・・」さやかが思案した。
三人は教室に入り、テキストを借り、並んで席に着いた。机にコンピュータが据え付けられていてその横にランプがあった。トミーの方を見るとパソコンをつけ、画面の「見学」をタッチしたのではやととさやかも同じようにした。ランプが鮮やかな緑色に点灯した。ほかの生徒たちのランプは青色になっていた。
先生がやって来て講義が始まった。はやとの世界では高校くらいのレベルの授業かなと思った。はやとはさっぱりわからなかったしレベル五のトミーも「予習する」とか言ったくせに開始五分で黒板を見るのをやめてしまい、グラウンドで続いているサッカーを眺めていた。ところが反対側のさやかの方を見てみるとなんと熱心に授業を聞いており、うなずいたりしている。はやとがみているのに気づくと「トミーにルーズリーフをもらってくれない?」とささやいた。はやとがトミーをつっつき、ルーズリーフをもらってさやかに渡すと熱心にノートを取り始めた。なるほど確かにトミーの言うとおりパリティ・シティでもやっていけそうだ。
はやとも二〇分ほどたつとあきあきしていまい、コンピューターやランプを眺めたり、グラウンドのサッカーを眺めたりし始めた。急にサッカーがしたくなってきた。その時ポーンと音がしてはやとの斜め前の席のランプが点滅し、その席の人が質問に答えた。はやとは自分たちのランプの色が違うのはきっと先生が間違って見学者を当てないようにするためだと思った。コンピューターを見るとなにやら複雑そうな計算問題が出ている。
「不正解、だれかわかる人は?」教卓で先生の声がした。何人かの生徒がちらほら手を挙げた。はやとは隣でさやかが手をあげたくてうずうずしているのが可笑しかった。誰かが正解を出し、さやかは残念そうな顔をした。はやとはさやかが発言しなかったのでほっとした。見学者が正解したりしたらきっととてつもなく注目を浴びるに違いない。
それからもランプが点滅するたびにさやかがついに抑えきれずに発言をするのではないかと思ってはらはらしたが結局最後まで目立つようなことはしなかった。
一時間の授業の後、三人はテキストを返して教室を出た。
「とても面白かったわ。さすが未来の教育メソッドは違う。これだけのレベルを中学生くらいに教えられるのも分かるわ。私、他にも授業を受けてみたい」教室を出るなりさやかが小声で言った。はやとはくすくす笑い、トミーはまた感心したようだった。
「すごいなあ、本当にここでやっていけるよ、夏芽先輩」その時数人の生徒がどたどたと廊下を走って来てトミーに声を掛けた。
「なんだ、トミーじゃないか。珍しいな。土曜日はいかないって言ってたのに」トミーの知り合いの一人が言った。
「うん、気が変わったんだ」
「じゃあ、次の英語行こうか」
「今日は気が進まないな。帰ってからネットで受けとくよ」とトミー。
「なんだい、わざわざ来たのに。今日は人数が少ないんだし来いよ。トミーが来れば少しは先生に当てられる確率が減る」そこではやとは自分たちのために断わってもらうのも悪いと思い、こっちは自分たちでやっていけるからという合図をした。
「じゃあ行こうかな。お昼になったら帰るからあとで一階の広場で会おう」トミーははやとたちに向けて言った。トミーの友達はこっちをみて誰なんだろうという顔をしたがそのままトミーと連れ立って行った。
「これからどうする?」はやとが聞いた。
「私はまたレベル六の授業を見つけてもぐってくるわ」うれしそうだ。
「じゃあ僕は適当にぶらぶらしてるよ。一二時に下の広場で待ち合わせようか」
「いいわ、そうしましょう。過去から来たってことがばれないようにね」
「さやかこそ質問したりして目立つなよ」はやとはそっちのほうが心配だと言わんばかりに答えた。
さやかは「レベル六物理一〇:一五」と書かれた教室を見つけて入って行った。さてどうしたものかな。はやとはとりあえず一階に下りてみた。観葉植物がいくつかおかれた明るい広間の大きな電光掲示板に授業の一覧が出ていた。はやとは下の方に「レベルフリー 体育第一グラウンド 一〇:三〇」とあるのを見つけた。これだ、これならいける。体育ももぐれるのかはわからなかったがサッカーという文字だけで他のことは忘れてしまった。そこで回廊を抜け、来るときに見たグラウンドに向かった。出口のところでさっきの首席の人が幾人かの生徒に交じって歩いていた。やはり皆高校生くらいの人で首席以外は運動着を着ていた。きっと今からサッカーをするんだろうと思ってはやとはちょっと緊張した。
「今日もサッカーには出ないのかい?体育の単位は大丈夫か」運動着の一人が首席に向かって行った。
「今日はそんな気分じゃないな。今朝の新聞を見ただろう、困ったことになった」首席が決然とした口調で言った。ほかの生徒たちがそうだったなとか気の毒にとか言っているのが聞こえた。
グラウンドにはすでに体育に出席する人たちが集まっていた。はやとのように体操着を着ていない生徒もちらほらいた。先生もやってきたが出欠をとり、勝手に始めてくださいと言っただけだった。するとリーダー格の人が生徒たちを二つのチームに分けだした。はやとはどぎまぎしながら順番を待ったがごく自然に一つのチームに入れられた。みんながみんな知り合いなわけじゃないんだなと思った。まわりがみんな自分たちより年上だったので緊張したがゲームが始まるとそんなこともすっかり忘れてのめりこんでしまった。みんななかなか強く、部活の時と同じくらいの真剣さがあった。あまり目立たないようにしようと思ってたのになんだかんだのうちにはやとは本気になって、気が付いたら強烈なミドルシュートを決めていた。わっと歓声が上がり、みんなこの見かけたことのない生徒はだれだろうと首をかしげた。
「きみ、初めて見るけどレベルは?歳は?」一人がついに声をかけてきた。声がちょっと中本くんに似てるなと思った。
「レベル五で、今一五歳です」
「そうか、道理で見かけないと思った。同じクラスの人が行ってるサッカーでは物足りないというわけで上級生のところに入ってきたのか」少しからかうような調子だったが悪くは思っていない様だった。
後半に入って次第に試合は荒々しくなり、反則も盛んにとられた(先生が審判をやっていた)。はやとはパス回しだけではとてもゴールまでたどりつかないと思い、要所要所で個人技に持ち込み、大胆なシュートもいくつか放ち、そのたびにチームから歓声が上がった。観客も増え、女子生徒たちが固まって歓声をあげている。相手に一点返されたところでグラウンドを眺めてみると五つくらいのグループがにぎやかに観戦していた。その横を見るとさっきの首席がやはり本を膝に乗せたまま一人ベンチの端に座ってこちらをぼんやり眺め、まるで物音一つしない部屋にでもいるかのように周囲の喧騒を完全に無視していた。
味方が一点入れたが一〇分後にはまた入れかえされ、チームに焦りの色が見え始めた。体育の先生が後一〇分と叫んだ。相手チームが追い抜こうと調子を上げてきた。はやとは相手のロングパスをきわどいところで走りこんで奪うとドリブルでゴール前まで切り込んだ。わっと歓声が上がり、二人のトラップをかわし、キーパーの左側にボールを思いきり蹴りこんだ。
シュートが決まり、チームメイトが喜びで騒ぎ、はやとは肩やら背中やらをあちこちたたかれた。笛が鳴り、試合が終わった。はやとは皆に名前を聞かれ、どのくらいサッカーをしていたか聞かれ、来週もぜひ入ってくれと念を押された。ちょっと目立ちすぎたかなと思い、突っ込んだことを聞かれないかとどきどきしたがそういったこともなく、授業が終わった。普通の靴で試合をしたので少し足首が痛かった。「首席」のベンチを見るといつの間にかいなくなっていてかわりに何人かの女子生徒が盛んにおしゃべりをしていた。その中に友梨の姿があり、どきっとした。何か友達に話しこんでいる。少し聞き耳を立ててみると自分の名前が出てきたのではやとはもしや「過去から来た」とかいうことを友梨が友達に話しているのではないかと思った。はやとはまだ喜んでいるチームメートにちょっと失礼と言って抜け出し、友梨たちのベンチに近寄った。友梨が気づいて手を振った。はやとはちょっと来てほしいという身振りをした。友梨の友達が「友梨ちゃんに話があるみたい」と黄色い声を上げた。友梨はどぎまぎしたように立ちあがあるとこっちにやってきた。はやとは友梨の友達やチーム名が聞こえないところまで早足で行き、友梨が少し駆け足になってついてきた。
「さっき、僕の名前が聞こえたんだけどもしや過去から来たとか言ってたんじゃないだろうね。僕たちのことは他の人には秘密にしておくってことにしてるんだ。研究対象にされると困るから・・・」他の人に聞こえないところまで来ると早口に言った。友梨に失望したような表情になった。
「まさか、もう話してしまったのか?トミーが言うなって言ったはずだよ」はやとは問い詰めるように言った。
「大丈夫よ。何も言ってないわ。ただ、あのサッカーのすっごく上手い子、近所の知り合いだって言ってただけよ」友梨が「すっごく上手い」というところをありったけの気持を込めて言った。自分のプレイがどうだったかとでも尋ねられたかのように。はやとは過去から来たことがまだ広まってないと知ってとりあえずはほっとしたがもう少し念を押した方がいいと思った。
「これからも絶対に話さないって約束してくれる?」
「絶対言わないわ。これは私たちの秘密ね」友梨がささやいた。どうにか信用できそうだ。
「うん。ありがとう。ごめんね、おしゃべりを邪魔しちゃって」はやとはそう言って去ろうとした。
「この後帰るの?」友梨が引き止めるように声を掛けたのではやとは足を止めた。
「うん、トミーが待ってると思うしとりあえずきみのお屋敷に行くよ」
「ちょうどよかった。私も午後は授業がないの。じゃあこの前の約束通りお茶にするね」友梨はうれしそうに決めてしまった。
「でも僕たち過去から来たんだしワームホールは作れないよ」はやとは慌てて言った。
「うん、知ってるわ。でも代わりに過去の話をいろいろ聞きたいの」はやとは頭の中でちょっと言い訳を探してみたが機嫌を損ねられて秘密をしゃべられても困ると思ったので結局承諾した。さやかに目立たないようにって言ったのに自分の方がついサッカーで目立ってしまったことを今になってやり過ぎたと思ったのでこれ以上リスクを冒す気には到底なれなかったのだ。
はやとはサッカーで汗だくになっていて着替えたかったがもちろん着替えなんか持ち合わせていなかったのでグラウンドの端の洗面所で顔だけ洗って北校舎の方に向かった。鐘がなったので時計を見るとちょうど一二時半だった。授業が終わったのか学生が何人か出てきた。校舎の一階の授業一覧が出ている電子掲示板の前でしばらく待っていると階段からさやかが降りてきた。なんと「首席」がいっしょだった。何やら楽しそうに話している。階段の下でさやかが「じゃあ私はこれで失礼します。またいろいろ教えてくださいね」と言っているのが聞こえた。「首席」も愛想良く挨拶して出口から出て行った。さやかはちょっとあたりを見渡してはやとを見つけるとにっこりしてやって来た。「お待たせ。私、二つも授業に出てきたわ。一つ目のレベル六物理はちょうど私が勉強してるとこでとっても面白かったわ。それからどうせなら一番上も見てみようと言うことで三時間目はレベル一二の数学に行ったわ。もちろん全然分からなかったけど文字通り最高レベルだったの。第一クラスに五人しかいないし先生もディメンションセンターで相当の研究をやってる人らしかったわ。それからもちろん首席がいたんだけどこれまたすごいの。だいたいの質問に一番に答えるし、その話し方がまた論理的で決して無駄なことは言わないの。それから・・・」「おいおい、少し息継ぎしたらどうだ。こんなところで窒息されても困るよ」はやとはよくそれだけ一気にしゃべれるなと感心した。「あら、気にしないで。それで授業終わってから首席としゃべってみたんだけどほんとにすごかったわ。彼はパリティ・シティに一人で住んでるんだよ。なんでも両親と意見が合わなくてこっちに来たらしいけど。それでなんとディメンションセンターのセンター長の研究室に見習いに入ってるのよ。そのセンター長は余剰次元を構築するのに貢献した人だって。私もディメンションセンターに興味あるって言うと早いうちから最高レベルを見学するのはいいことだって言ったわ。頭脳明晰で私がちょっと話すとその数倍の情報を読み取るのよ。ほんとにすごかったわ」さやかはたいそう感心したというように言った。はやとは見習いと聞いてなるほどセンター長が解任されて困るわけだと思った。「さやかちゃん、それってとっても危険なんじゃないかな。その、ちょっと話しただけで数倍分かるってもしかしたら僕たちの秘密を悟ってしまったらどうするの?」はやとは心配そうに言った。「あら、ちゃんと気をつけたから大丈夫。それにもしばれても彼なら平気だよ。とっても信用できるし第一無口じゃない。私とちょっと話してただけでクラスメートが『今日はやけにしゃべってるな』って言ってたわ」「へえ、あまり目立ってないといいけどね」とはやと。「それよりはやと、あんたの方が目立ってんじゃないの。二時間目の後の休み時間にグラウンド見たらちょうどあんたがシュート決めるとこだったわ。それにさっきも校庭の隅で誰か女の子と話してるのが廊下から見えたわ」「あ、あれは友梨だから大丈夫。僕たちの秘密をもらさないようにって念を押しただけだよ」はやとがそう言った時、階段からトミーが降りてきた。「やあ、二人ともどうだった?お腹空いたし帰ろうか」「僕はサッカーをして、夏芽先輩はレベル一二の授業にもぐってたよ」はやとがさらりと言った。トミーが目を丸くした。「レベル一二?そんな授業に出たのか?さすがは先輩、勇敢だなあ」トミーが驚いて言った。はやとはまたさやかが息継ぎなしで話を始めるのではないかと思ったが今度はちょっと微笑んだだけだった。三人がお屋敷に戻るとトミーの母さんと友梨が庭のテーブルで昼食を食べているところだった。水玉模様の大きなパラソルが広げられ、四角いテーブルの周りにクッションの敷き詰められた椅子が三つあった。トミーの母さんが立ち上がって出迎えた。「お帰りなさい。過去から来た人たちね。よかったらサンドイッチを食べて行って。私はこれからシティセンターに行くから」はやととさやかは丁寧にお礼を言って、ではいただきますと言った。トミーの母はちょっと学校はどうかとか尋ねたがあまり深入りすることもなく、自分のティーカップを持って屋敷に入って行った。友梨も席を空けた。それからはやとに向かって「汗だくね。よかったらシャワー使ってもいいわよ」と言った。「ありがとう、でも帰ってからで大丈夫」「そう?食べ終わったらお茶を入れるから私の部屋にいらっしゃいな。二階の南側よ、こっから見えるあの窓のとこ」友梨はお屋敷の二階を指した。「あ、うん」はやとが言うと友梨はにっこりしてここはちょっと暑いわといいながらお屋敷に入って行った。「はやとくん、友梨をお茶に誘ったんだ」トミーはサンドイッチを手に取りながらくすくす笑っている。「そうじゃなくて誘われたんだけどね。最初に来た時なんだけど」「へえ、そりゃ珍しいな。前にも何人か押しかけて来たことはあったんだけど。誘われたなんてね、いやはや」そういってまたくすくす笑った。さやかが隣でちょっとあきれたような顔をした。はやとはなんか嫌な予感がしたがベーコンサンドイッチをほおばるのに忙しかったので何とも言わなかった。一時間以上もグラウンドを駆け回ったのではやとは残っていたサンドイッチを全部平らげてしまった。紅茶を飲みながらうちにもこんな綺麗な庭があったらいいなと思った。ここまで広くなくてもいいからさやかの家の庭くらいのゆったり寝転がれるほどのスペースは欲しかった。食事が終わるとトミーがさやかにガレージが空いてるからバドミントンをしないかと言った。さやかは喜んで承諾し、はやとはそういえば前にサッカーよりバドミントンがいいとか言ってたことを思い出した。「じゃあ僕もあんまりうまくないけどやろうかな」「はやとはお茶でしょう」さやかがちょっとつっけんどんに言った。「もう少し後でいいかなと思ったんだけど。それにお茶の時はさやかも来てくれないと。きっと友梨ちゃん相当しゃべるから僕一人では持たないな」はやとは呼ばれてもいないさやかが来てくれるとは思わなかったが少しでもその気になってくれる可能性があったらと思って聞いたのだ。友梨と二人っきりでお茶なんて全く乗り気がしなかった。さやかはぷっと吹き出した。「さっさと行きなさいよ。友梨ちゃんが待ってるわ。第一はやとが行くって言ったんだし」そういってさやかはトミーに行きましょうと言って東屋と反対側のガレージに向かってすたすたと去って行った。トミーがまた後でとはやとに言ってあわてて後ろからさやかを追った。はやとは一人がらんとした庭に取り残された。さっき指し示された二階の友梨の部屋を見て、そして意を決して玄関扉を開き、吹き抜けになったホールを抜け、幅の広い階段を登って行った。二階の廊下の床にはふかふかした絨毯がしいてある。大きな壺がいくつか壁に沿って並んでいた。天井にはシャンデリア風の照明に日光が当たってきらきらしていた。廊下の奥の方でドアが開く音がして友梨が出てきた。「お茶を淹れてくるわ。先に入ってて・・・」友梨が微笑みながら言った。はやとはもうここまで来てしまった以上できるだけさっさとお茶を飲んで手短に話を済まし、ガレージのバドミントンに加わろうと思った。友梨の部屋に入るとかすかに香水の匂いがした。廊下よりも一段とふかふかした絨毯がしいてあり、足がほとんどうまってしまうほどだ。隅の大きなベッドはきちんと整えられている。反対側の机には本が開かれている。部屋の真ん中にベッドサイドにでも置くべき小さなテーブルがあり、それにそぐわない大きなソファがあったのではやとはとりあえず座って待つことにした。座った途端、体が深く沈み込み、容易に立ち上がれそうになかった。一〇分もしたであろうか、漸く友梨がお盆を持ってそろそろと部屋に入ってきた。淡い青色のハーブティーを置き、シフォンケーキの皿を置き、友梨がソファに座った。さらに少しソファが沈み込んだ。さっそく友梨がはやとのサッカーをほめだした。「ありがとう。あの、下でみんながバドミントンをやってるんだけど・・・」はやとはそう言いながらお茶を大きく一口飲んだ。確かに言ってた通りお茶を淹れるのが上手いのかなかなか美味しかったがゆっくり味わう気にはなれなかった。「バドミントンねえ、そんなに楽しいのかしら。ところで先週ははやとくんが過去から来たって話でもちきりだったのよ。もちろん家の中でだけだけど。あのね、私、過去に行って見たいなって思ってるの」はやとは手を伸ばしてティーカップを取り、もう一口飲んだ。シフォンケーキも片付けてしまおうと思ったがテーブルが小さいので否応無く友梨の方に寄らなくてはならなかった。友梨もさらにテーブルにより、二人のひざがくっつくほどになった。「僕の住んでるところの話って特に面白くないよ。パリティ・シティの人にとってはむしろ退屈なとこだと思う。こっちに比べたらいろいろ不便だし」「でも私、パリティ・シティじゃないところに行って見たいの。ここの暮らしにはもう飽き飽きしちゃったわ。学校も、お屋敷も」友梨の声にはどこか物憂い調子が感じられた。「でもトミーはけっこう楽しそうだけど・・・」「弟は気ままに過ごしてるだけだからね・・・。はやとくん、パリティ・シティはどうやって探り当てたの?あんなところによく気づいたわね」友梨は話題を変えてきた。「ここを見つけたのはさやかだよ。余剰次元についていろいろ知っててふとした拍子にやって来れたのさ。で、僕は誘われて来ただけだよ」そう言ってはやとはシフォンケーキを大きく切り取り、サンドイッチでお腹一杯だったが無理やり押し込んだ。友梨もケーキをちょっと切って食べた。「さやかはどうしてわざわざはやとくんを誘ったのかしら。気が強いししっかりしてるし一人で来ても良さそうなものに」友梨が少し冷淡な口調で尋ねた。「さあ、他に余剰次元に興味を持つような人もいなかったからじゃない?僕はこれまでもたまにそういった話してたから。まあ前からの友達だしね」友梨は何とも言わなかった。はやとは空いた間を埋めようともせず、食べ終えてしまったら勝ちだとでも言うかのようにせっせとシフォンケーキを切り崩した。ふんわりした見た目とは裏腹に昼食後にはなかなか重かった。「私、前から思ってたんだけど・・・」不意に友梨が口を開いた。はやとは構わずハーブティーを飲んだ。「さやかって、あの子・・・あんたのことが好きなんじゃないの?」はやとはお茶を思いっきり気管に入れてしまい、むせ返った。友梨がぽんぽんと背中をたたいた。「僕たちはただの友達だよ。確かにいっしょに来はしたけれどそれは二人とも物理が好きだっただけだし。だいたいきみとさやかほとんど話さないのによくそんなこと言えるな」「あら、だからこそ彼女とげとげしくするのよ。でもとにかくさやかと付き合ってるわけじゃないのね」「だからただの友達だって言っただろ。きみのお茶は美味しかったけどそろそろバドミントンに入るよ」はやとは急いで残りのお茶を飲んでしまった。「もうちょっと待ってね。はやとくん、私の言いたいことがわかるでしょう?」友梨はそういってちょっと上目遣いをした。はやとはさやかと対照的でやけに話が飛び飛びで一貫しないなと思った。「ぜんぜんわかんないけど。僕が鈍いのかな」そうは言ったものの何か予感がして食べようとしていた最後のケーキのかけらを置いた。「きっとそうね。あのね、はやとくん?東屋で会った時からなんだけど・・・はやとくんが好きなの」友梨はそう言ったきり顔を伏せてしまった。はやとはサッカーで走り回った後のようにどっと汗が吹き出すのを感じたが幸い一瞬先に事を予想していたおかげでわずかに心に余裕を保つことができた。すぐにトミーの「前にもお茶してたことあった」と言っていたのを思い出した。虚栄心の強い友梨のことだしきっとはやとを試しているのだ。なんとか上手に立たないといけない。「トミーが言ってたんだけどよくこんな風に誰かさんをお茶に誘ってるの?」はやとは冷静沈着にはぐらかした。「そんなことないわ。何人か押しかけてきたことはあったけどお茶一杯で追い返したわ。だって好きじゃなかったもの。大丈夫、はやとくんが初めてよ」友梨は安心させるように言った。はやとの言葉を嫉妬ととったらしい。また気まずい間が空いた。
「えっと、なんて言ったらいいか、その・・・」はやとはしどろもどろにつぶやき、何か上手い返答はないか思いを巡らした。こういった状況を想定したことがなかったので頭が真っ白になった。すると友梨が攻勢に転じた。「すぐに返事してくれなくてもいいわ。私の気持が分かってくれたらいいの。はやとくんほどしっかりしてて頼れる人もないわ。ほんとよ、ちょっと話しただけですぐ分かったの。私、あなたの誠実で信頼できるところが大好きよ」友梨が先手を打ったことではやとは冷静になった。あまりありがたくもない言葉を聞き流しながらはやとはその裏にある何倍もの情報を読み取っていた。そうか、友梨は試しているわけでもないし本当に自分が好きなわけでもない。頼りたがっているんだ。しっかりしているようでどこか頼りないところが前からあった。どこか自身なげで自分に対する評価を自分でできず、すべて他人や学校でのレベルなど外的なものに依存していた。「ごめんね、僕はきみを好きになれないよ」はやとはきっぱりと言った。あんまりきっぱりと言ったので友梨がわっと泣き出して焦った。はやとはむしろ友梨が怒りだして出て行ってくれと言われる方がはるかに良かった。
「ほんとにごめん、あの、友梨ちゃんさやかもかわいいって言ってたし他にいくらでも頼りになる人はいるはずだよ。こぞって押しかけてくるほどね・・・」はやとはとりあえずショックを和らげようと試みた。
「そんなのいくらいても意味ないわ。みんなめいめい自分のためばかりに生きていて本当に思ってくれる人は誰もいないんだわ」友梨が悲劇っぽく行った。
「自分のためばかりってあなたもそうでしょう」はやとは思わず突っ込んでしまったが友梨がむっとした様子を示したので慌てて次の言葉を探した。
「そうかあ、でも一度もそうじゃない人に会ったことないの?ほら、レベル一二の首席みたいにとっても賢い人で」他に知ってる人もいなかったしボールをパスするような感覚で首席を持ち出した。すると友梨がびっくりしたように顔をあげた。
「船戸くんね、一度話したことがあるの。ひどかったのよ、今でもよく覚えてる。私がお茶に誘ったら彼は『あんたみたいな気の抜けた炭酸水に気を入れなおす役目なんて僕は御免だ』といってそれきり無視するのよ」はやとは内心さすが首席だけあって言うことが的を得ているなと思った。
「なるほど、よく分かったよ。きみを人形でも扱うかのように好いてくれる人はいっぱいいるけどそういう人では物足りない、そしてきみのことを本当に分かる人はきみを物足りなく思う。だってきみはそういう人を見つけると頼りたがるんだもの。僕がこんなことを言うのもなんだけどきみ自身を正当に評価して本当の価値を与えてくれるのは僕でも誰か他の人でもないし、レベルとか誰かのくれる称号でもなくてきみ自身だと思うな」はやとはそう言って漸く最後のひとかけらのケーキを食べた。友梨は黙ってテーブルを見つめていたが不意に口を開いた。
「わかったわ、あなたも首席と同じようなことを言うのね。彼よりは優しいけれど。ねえ、もしパリティ・シティが滅びるようなことがあったら・・・その、前にも事故があったし、今でも重大な欠陥を抱えているんだけど、その時には私を助けてくれる?過去へ連れて行ってくれる?」友梨が涙目で訴えた。全くわかっていない・・・。
「分かっちゃいないなあ、そう簡単に世界は滅びないと思うけどもしきみが本当にそう思うならそんな助けられるのを待ってるお姫様のような感じじゃなくて何としても僕に承諾させるような手を打つべきだよ。ちなみにこっちに来れる能力があるのは僕じゃなくてさやかだから彼女に頼むべきだね」友梨はショックを受けたようだった。はやとは今の言葉で少し目が覚めるかと思ったがそうはいかなかった。
「あの子と一緒にでないといけないんなら行かないわ」怒ったように言う。目が覚めたのではなくいつも通りの友梨に戻っただけだった。はやとはそろそろ潮時だと思ってお茶をありがとうと言って柔らかすぎるソファの抵抗に打ち勝って立ちあがった。
「じゃあまたね」はやとが言った。
「うん・・・はやとくん、私のことを思ってくれる?好きでなくてもいいから」
「もちろん、いつも思ってるよ。少なくとも誰かさんのように気の抜けた炭酸扱いはしないよ」はやとは正直に言った。友梨は微笑んで立ちあがろうとしたがつやつやした絨毯に足を滑らせてまたソファに深く沈みこんでしまった。はやとは特に考えもせず手をさしだし、友梨を立ちあがらせた。そうしてしまってから間違いだったと悟った。友梨が涙でちょっと濡れた頬を紅潮させた。
「はやと・・・くん?」それから両手首をつかまれ、胸に飛び込んできた。友梨の前髪が鼻のあたりにあたり、部屋と同じいいにおいがした。はやとは危ういところで身をほどき、ほとんど逃げるような格好で部屋を出て廊下をすごい勢いで歩き、階段を駆け下り、庭に出て漸くほっとした。
ガレージに行くとさやかとトミーがラケットを置いて休憩してるところだった。はやとは努めて何事もなかったかのようにトミーを誘い、午前中のサッカー以上に必死にバドミントンの羽根を追いまくった。トミーがもうちょっとゆるく打ってくれよというのも構わずびゅんびゅん打った。没頭すればさっきの出来事から解放されるとでもいうかのように。