You have two choices kill or die
Prolog
…それは、とある男の話
その男は万能と呼ばれていた。
多くの才に恵まれ、運に恵まれ、財に恵まれ、あらゆる面において他者を凌駕していた。
性格も善良で、見返りを求めず他者のために動いた。
干ばつに田畑が見舞われれば雨を降らし、病で人が倒れればたちまちそれを癒す。そんな神の所業とも思える奇跡を片手ひとつで起こせるような、そんな男だった。
だが、出過ぎた杭は打たれるという。
初めは男を本心から讃えた人々の気持ちも、段々と恐怖と嫉妬にすり替わっていった。
媚びるへつらう態度を取りながらも、悪意の滲んだ目でこちらを見る人々を男は初めは悲しく思っていたが、いつしか何も感じなくなった。
人々のために力を使うことを止め、部屋に閉じこもってなにやらしているらしい男を人々は一層恐れ、疎んだ。
やがて男は誰にも告げることはなく、ひっそりと姿を消した。
男は思ったのだ。
ーー自分と対等に接してくれる者など現世にはいない。
ーーーだったらそれを創り出せばいい。
幾ら万能と呼ばれた男でもそれは難しかった。
例えば、神の力でも借りねば叶わぬような、そんなものだった。
…そう、それは結果の見えた夢物語。叶うはずのない願いに手を伸ばした男の、報われない結末。
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愚かな男だ
唯一の禁忌に手を伸ばすとはな
望みを叶えたいなら、対価を払うのが筋というものだろう
ーーお前に、その覚悟はあるか
男は静かに頷いた
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第1章 1話
木漏れ日の少女
鳥が鳴いている。
少女は薄目を開けて差し込む日の光に目を細めた。
寝返りを打つと木製の寝台がぎしりと音を立てて軋む。
今は何時だろうか。口うるさい《彼女》が起こしに来ていないのだからそれ程遅い時間では無いはずだけど。
ーー二度寝してしまおうか
そう思って布団代わりにしていたローブを被り直そうとした時、がらりと音を立てて部屋の戸が空いた。
「エレノア、もう起きる時間よ。」
よく通る声。陶器のように滑らかな白い肌に碧色の瞳。淡い水色の髪は腰の辺りで緩く渦を巻いている。
まるで慈愛の女神とも呼べる様な整った顔立ちをしているが、二度寝でもしようものなら容赦なく叩き起される事を少女…エレノアはよく知っていた。慈愛の欠けらも無い。
「うーー、あとちょっと寝かせて。」
「朝ご飯抜きでいいなら好きにしなさい」
それは困る。食事は数少ない楽しみの一つだというのに。
「分かった、起きるから!!」
エレノアは寝台から飛び起きた。そのまま足元に転がっていた靴を履いて大きく伸びをする。
「外の木桶に水を入れて置いたから先に顔を洗ってきてね。」
「分かった。ありがとう」




