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一枝に想いを込めて

作者: ゑーる

 俺はいつものように近所にある両親の墓に来ていた。お墓の周りを綺麗にして水を入れ替えておいて両親にこの1週間にあったあれこれを報告する。


 俺の両親は俺が高校生だった頃に交通事故で亡くなった、当時の俺にはショックな出来事で暫く塞ぎ込んでいたが割と早く立ち直って前を向いて生きることが出来ている。


 両親が死んでからは隣の県に住んでいる祖父母の家でお世話になっている。

 それからは1週間に1度お墓の手入れをしたりすることが習慣になっている。


 まあそんなことはどうでもいいのだがやれることは全て終えて家に帰ろうとした時に、視界の端で離れた場所のお墓の上に誰かが座っているように見えた。

 気になって振り返るがこの墓地には俺以外の人影は誰も見当たらなかった。



 翌日大学で講義を受けている最中もあの人影が気になってしまい集中することが出来なかった。


 「おい希空、お前大分講義で集中出来てなかったみたいだけど大丈夫か?」


 俺の名前は「榎戸 希空」である。そして話しかけているこいつは大学で出来た友人で別のところから引っ越してきたという「廣川 海斗」た。


 「いや実はな……」と昨日から人影が気になっていることを伝えると海斗は笑い飛ばした。


 「そんなもんなんかが人の形に見えただけだろ、大体そんなに気になるなら今日また見に行けばいいじゃないか」


 確かに見に行けば解決出来る問題である。俺はこの後墓地に確認しに行くことにした。




 「着いたけど…いるかな?」


 無事に墓地についた俺は少しばかりの不安を抱えながらも意を決して奥へと進む。

 そしていつも来ている両親の墓の前に着くと少し奥のお墓の上に少女が1人だけで座っているのが見えた。

 いくら小さい子供だとしてもお墓の上に乗るのはその人に失礼だと注意しようとして近づく。


 「おーいそこの君あんまり人のお墓の上に乗るのはその人に失礼じゃないかな?」


 「それって私に言ってるの?」


 「えっ、ああそうだ君だよ」


 話しかけて注意したは良いものの少女から流暢な喋り方で返されるとは思ってもいなかったので少し驚いてしまった。


 「大丈夫よここのお墓は私のだから」


 「君の?」


 「『花柳 琉楓』、私の名前よ。そんな呼び方じゃ不便でしょう?」


 「なるほど琉楓と言うのか、それで琉楓ちゃんはどうしてこんな所にいるのかなもしかして迷子になったの?」


 「迷子じゃないとも言えるし迷子とも言えるわね」


 あまり琉楓の言っていることが理解できない、どういうことだろうか。


 「そうね迷子では無いけれど少し困っているのよそれを手伝ってくれない?」


 「困っているのなら俺は俺に出来る限りは手伝うよ」


 困り事があると聞いて直ぐに引き受けてしまったが、後から考えるとこんな少女の言っていることとはいえ俺が何故これを引き受けたのかは分からない。


 「このお墓の花瓶を見れば分かる通り花が枯れちゃったのよ」


 言われた通り墓の前の花瓶を見ると枯れてしまった1本の枝が挿してあった。

 とはいえそこまで昔からあるとかでは無く最近枯れたものらしい。


 「ちょっと前まではある人がこれを挿し変えてくれていたのだけど最近来なくなってね」


 枯れてしまったよ、と困ったような顔で教えてくれた。

 その後は枯れてしまったその花の名前を聞いたがもう覚えていないのと言われてしまったので次来る時に図鑑を持ってくると言って別れた。



 翌日帰宅したあと家で祖父から植物図鑑を借りて墓場へと向かった。祖父からは急に植物の図鑑を借りてどうしたんだと聞かれたが曖昧に誤魔化しておいた。


 そして墓場に来ると昨日と同じようにお墓の上に座って足をブラブラさせている。


 「お墓の上に乗るんじゃない」


 「だからこのお墓は私のだからいいの、というかここから動けないのよ」


 どうやら地縛霊的な感じらしいがにわかには信じ難い。


 「まあいいや約束通り図鑑を借りてきたからこの中からどれか探してくれ、最低でも幾つかに絞ってくれれば多少は探せる筈だ」


 そう言って図鑑を彼女に渡す時に彼女の手に触れてしまった。その手からは生者の暖かみはなくひんやりとした冷たさがあった。

 今まであまり彼女が幽霊と言われても信じれなかったからそれにはなかなかの衝撃を受けた。


 「うーん…これのような……いやこれかな?…むむむー」


 どうやら彼女も幽霊になったからなのかあまり記憶が定かでは無いらしくいくつかを見比べては唸っている。


 それから暫くして漸く決まったようで話しかけてきた。


 「微妙に確信が持てないけど多分これ!」


 と言って見せてきた植物はーー


 「ふむ…ライラックかこの辺でも探せば自生している場所はありそうだ」


 「それと今思い出したけど当時の私は彼とよく花畑…とは違うけど恐らくそのライラックに囲まれた広場のような場所で遊んでいたわ」


 「それならライラックが多く生えている場所を重点的に探せばそのうち見つかるかもな」


 「ええありがとうね私も手伝いたいのだけれどここら動くことが出来ないのが口惜しいわ、動けても持ってこれるか分からないけどね」


 「持つだけならさっきも図鑑持っていたし大丈夫だろう?」


 「どちらにしても私がここら移動出来ないのは変わりないのよ」


 そう言って彼女とは別れ少し辺りを歩き回りながらライラックの生えている公園なんかを探していた。



 その後結局見つからずそのまま帰宅して借りていた図鑑を祖父に返した。


 「希空、探し物は見つかったのか?」


 「前進はしたけどまだ見つからないな、じいちゃんはこの辺でライラックがいっぱい生えていて広場がある場所って知らない?」


 「ライラックか…ライラックかどうかはわからんがそんな感じの場所はあるぞ1回行ってみるといいんじゃないか」


 「それってどこ?」


 「ちょっと行ったところに山の入口があるだろう?そこを少し進んで右にある獣道を抜けた先だ。儂が小さい頃に遊びに行ったことも何回かあるんだ」


 思わず情報を手に入れてなにも行くところも無かったので次の日はそこに向かうことにした。



 次の日、祖父から聞いておいた道順に町を歩いていると森の入り口にたどり着いた。

 ほぼ手ぶらだが水筒や幾つか必要と思われる物を持ってきたので少し重かった。


 森と言ってもそこまで深い訳ではなく1日あれば十二分に反対側まで行くことも出来るほどだ。


 そんな森の入り口は車がぎりぎり一台通れるくらいの鳴らされた地面の道がありそれが奥の方まで少しくねりながら続いている。


 そしてその道に入り少しばかり歩いていると右側に人一人分位の獣道があったのだ。


 俺は意を決してその道に入り歩いていると奥に開けている場所が見えた。

 見つけることが出来た嬉しさからそこまで走って行くと……


 周りはライラックの木々に覆われて花は美しくこの広場を彩っている。

 広場の中心は綺麗な円形に空いた木々の間から射し込む柔らかな陽の光に照らされて幻想的な雰囲気を醸し出している。


 俺はその美しさに圧倒されて暫くその場に立ち尽くしていたが意識を取り戻してその木々の中の一枝だけ丁寧に手折った。


 一応枯らさないか心配だったので持ってきていたティッシュを水筒の水で湿らせて枝の先(折れている場所)を包みアルミホイルでさらに覆っておいた。



 その森に行った足のまま俺は墓地へと足を運んだ。


 「おーい祖父から森にライラックがあるって聞いて持ってきたんだこの花で会ってるか?」


 彼女は持ってきた枝を奪い取るように俺の手から受け取って「これは…!」と言いながらジロジロと見たり鼻を近ずけて匂いを嗅いでいる…

 匂いで分かるのだろうか?


 「それでどうだ、この花で合ってるか?」


 彼女は俺の言葉にむむむ〜と唸り声を上げて首を傾げている。そして微妙な顔のままこちらを向いて言い放った。


 「この花……なんだけど…この花じゃない?」


 そんな疑問形で言われてもこちらは元の姿すら分からないのだが。


 「間違いなく姿も匂いもこの花なのよ…でも何かが決定的に違うの」


 あまりにも漠然とした否定をしてはいるが恐らく種類としてはこの花なんだろう、しかし違うというのならば彼女の幽霊であることに関わった問題なのだろうか?


 「そうね…でもこの花なのは間違いないと思うわこの花を探してもらっておいてなんだど、見ず知らずの幽霊をここまで手伝ってくれて感謝するわ」


 「いやここまで来たのも何かの縁なんだろう。折角だから最後まで付き合うよ、人手は多い方がいいだろう?」


 「でもこれは……いえ、私から頼んだことですもの最後まで手伝ってくれてくれないかしら?」


 「もちろんだ。とはいえまた捜索は振り出しに戻ったからヒントが欲しいな……そうだ、その枝を届けていた『彼』はどんな人なんだ?」


 「なるほど彼に私が何か未練を残しているのかもしれないわね、でも私は死んでから大分経つから記憶は少ないけど覚えている限り伝えるわ」


 と言って聞かせてくれた話を纏めると。


 まず彼は彼女が小さい時からの友人で所謂幼馴染と言うやつらしい。

 彼女は大人になる前に事故で死んでからこの墓場にいて彼が届けてくれる花を気に入っているらしい(しかしなぜそんなにお気に入りなのかは記憶がない)。

 今では彼もおじいちゃんと言っても過言ではないほど歳をとってしまっている。


 「探すのに有益な情報は年齢位か…」


 「他には…確か彼の名前は確か『廣川 陸奥』という名前だったはずよ」


 「名前が分かれば人に聞けば分かるかもな、取り敢えず大学の友人に聞いてみるか、数人はこの辺に住んでたやつもいたはずだし」


 こうしてまたひとつ情報が得られたが今日はもう日も落ちてきて空も赤みがかってきたので別れることにした。



 翌日俺は大学でこの辺に住んでいると聞いたことのある友人に声を掛けて聞いてみていたがそう上手く知っている人はいなかった。


 「うーむ流石に見つからないなやっぱり近所の人に声をかけていくのがいいか?少しやばい人みたいに見られそうだが背に腹はかえられないか…」


 「おうなんか疲れて見えるけどまた悩み事か希空?若いんだから人生は楽しもうぜ〜」


 「海斗は楽しそうでいいな…そういやお前苗字廣川だったな?『 廣川 陸奥』ていう爺さん知らないか?」


 「なんでうちの爺ちゃんの名前知ってんだ?」


 ガンッと頭を机に打ち付けてしまった。

 これが灯台下暗しというやつだつたのかよ。


 「いやお前確か越してきたんだろ?俺が探してるのはこの辺に住んでる人だ」


 「言ってなかったか?俺の爺ちゃんがここに住んでるからここに越してきたんだぜ」


 その後釈然とした思いを抱きながら俺は海斗にお爺さんに合わせてもらうように頼んでおいた。



 頼んでおいてこう言うのはあれだが翌日には合わせてもらえるようになった。

 そして翌日の帰り道俺は海斗に連れられて海斗の家に向かった。


 海斗の家…というか海斗のお爺さんの家は割と昔からある家のようで最近のコンクリートで出来た家とかでは無く、木造の所謂日本家屋という感じの造りだった。


 家の前に着くと海斗は鞄から鍵を取り出して扉を潜る。


 「ただいまー帰ったぞー」


 そう言って海斗は中に入っていき俺は取り敢えず玄関で待つことにする。

 玄関には幾つか民芸品のような物やあそこで見つけたのと同じように咲いているライラックが一枝花瓶に挿してある。


 直ぐに海斗は戻ってきて「入ってこい」と呼んできたので遠慮なく上がらせてもらう。


 「こんにちはお邪魔します」


 「あらあなたが海斗のお友達の希空くん?」


 いきなり声をかけられて少しびっくりしながら声の方を向くとそこそこ歳をとったお婆さんがいた。


 「あらごめんなさいね私は海斗の祖母の『廣川 恵理子』ていうの、海斗もいきなり引っ越してきてこっちの友達をつくれるか心配だったのよ」


 「婆ちゃんだから俺は大丈夫って言ったろ?」


 「そうねこんな可愛らしい子を連れてくるなんて嬉しいわぁ」


 なんだかマイペースな感じのお爺さんで意図せず苦笑が漏れてしまう。


 「希空は爺ちゃんに用があるんだろ?奥の部屋にいるから行ってきな」


 海斗に感謝をしつつ奥にある襖を開けて部屋の中へと進む。


 するとそこには布団を敷いてそこに横たわっているお爺さんがいた。恐らく彼が『廣川 陸奥』その人だろう。


 「ああ君が希空くんかよく来たね」


 その声は年の割には張りがあって若々しさを感じさせる声で驚いた。


 「ええお邪魔させていただきます。それで早速なんですが話を聞いてはくれませんか?少し非現実的な話なんですが話だけでも聞いてほしいんです」


 「ああその為に来たんだろう?ならばこんな爺でも良ければ話すといい」


 それから俺は墓地で少女を見つけたことから花が枯れてしまって悲しんでいてそれを助けようとしていること。

 彼女の生前の友人であった『廣川 陸奥』という人に合えば何か分かるんじゃないかと思い訪ねたことを伝えた。


 「そうか…」


 「人違いかも知れませんし馬鹿な話かもしれないと思うかもしれませんが何となく彼女を放っておけなくて」


 「いや、たしかに私の小さい頃によく遊んでいた女の子がいたんだよ、その子の名前もあっているし私は少し前まで定期的に墓に行っていたね」


 「じゃあやっぱりあなたが彼女が探していた廣川 陸奥さんですか?なら彼女について何か少しでも教えてくれませんか」


 「そうだね……玄関にライラックの枝が花瓶に挿してあっただろう?それを彼女に持って行ってあげてくれないかな」


 「いいですけど…ライラックは持っていっても違うと言われましたよ」


 「あれにはね、「おまじない」がかけてあるんだよ」



 そう言われるがまま持たされた枝を丁寧に運びなから、おまじないがなんなのか気になりながらも墓場に無事到着した。


 「一体とう言うことなんだろう?」


 一先ずこれを彼女に持っていけば話を聞けるんじゃないかな?と言って渡されたが…まあ何も無かったらまた訪ねて聞けばいいかもしれない。


 「少し久しぶりね何か手がかりは見つかった?」


 「ああ、廣川さんを見つけて会うことが出来たよ。それで廣川さんからこれを届けてほしいて言われたんだ」


 そう言いながら彼女に玄関に飾られていたライラックの枝を渡す。

 しかし前回とは違って彼女はそれを受け取ったら懐かしそうな顔でそれをいろんな方向から見たり、匂いを嗅いでいる。


 「そう…これ、これよ!見つけてくれてありがとう!」


 彼女は俺に何度も感謝をしながら嬉しそうに枝を抱えて空中でくるくると回っている。

 そして「???」みたいな表情をしている俺に気がついたのか彼女は俺に説明をくれた。


 「この枝を受け取って思い出したわ。私たちが小さい時に私は彼におまじないを教えたの。それから彼と一緒にあそこに行った時に彼は私におまじないをかけたライラックの花飾りを作ってくれたの」


 私からも彼におまじないをかけて手作りのお菓子を彼に上げたりしていたの。と彼女は懐かしそうな嬉しそうな顔をして教えてくれる。


 「でも私はある日突然死んじゃったの、よくある話よ河辺で遊んでいたらうっかり落ちて溺れちゃったのよ。私が死んでからはここに少しの意識だけあって、彼がここに花を変えてくれる時にはいつもおまじないをかけたからと笑いながら教えてくれるのを見ていたの」


 「でも最近は彼が急に来なくなって花も枯れちゃっていた、そんな時にあなたと出会ったのよ。だからあなたには本当に感謝しているわ」


 俺がここに来ていなかったらまたいつ彼が来るのか分からずにここで待ち続けていたのだろうか。


 「そう言えばなんで彼は急にここに来なくなったのかしら」


 「ああそれはな………」




 墓場で一人のお爺さんが歩いている。


 お爺さんは奥の方にあるお墓の前に行き、お墓の掃除をして花瓶の水を入れ替えて新しくライラックの枝を挿す。


 「琉楓、最近は来れなくて済まなかったな。花も枯れてしまっていたようで彼にも迷惑をかけてしまったな」


 お爺さんはお墓の前に座って亡き人に報告をするように話しかける。


 「まったく、人の前に化けて出たんだって?お前は昔から人騒がせな子だったな。まあ私も年老いた見だというのに無茶して腰をやったのだから人のことは言えんか」


 「本当に昔から無茶なことばっかりするのは変わらないみたいね。でも陸奥くんはまだ生きる時間があるんだから無茶はしちゃダメよ?」


 お爺さんは唐突に聴こえた声に驚いて顔を上げるが周りには彼一人しか見当たらない。


 「そうだな…死んだ人から怒られているようでは私はダメダメだな」


 お爺さんは一人で薄く笑いながら帰路についた。先程まで彼がいたお墓の上には一人の半透明な少女が座っていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 優しい話でしたね。きれいにまとまった感じです。
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