第73話 帰る者達と帰ってきた者
俺の悪評は今に始まった事ではない。
自分で言っていて悲しい物はある、ただそれは自らの行いが生み出した結果なので別に構わないのだけれど、これはどうした事だろうか。
先程のウタノハの叫びを聞きつけた事で幾人かの女性には糾弾され、幾人かの女性にはどういう事だと事情を聴取され。
そしてツマを筆頭に何故か話を蒸し返されて風呂場を覗いた下手人に美しさナンバーワンを決めろと言われている。難しい話だな、好みが別れる。
というか、ツマが悪ノリして周りの女性達を先導するように煽り、このままだと収集がつかなくなりそうだ。参ったな、お酒の力も有ってか皆の勢いが凄まじい。
彼ら全体を窘めつつ、魔王と二人で落ち着いて酒を飲んでいるのだが彼もたまに不敵に笑い爆弾を投下すると、それにより場がまた荒れる。
そうして時間が過ぎていくと、流石に飲みすぎた者達が現れ始め回復する事なくトレントの根元で寝に入ってしまう。
彼ら一人一人に毛布をかけ、休んでもらってはいるが……。明日は皆の体調に気を配っておこう。無理して大怪我をされても困る。
「よし、こんなところかな」
「ホリ様、お疲れ様です。私達はそろそろ寝床へ戻ります。これ以上お酒を飲んだら動けなくなっちゃいそうなので……」
ケンタウロスの女性数名、アナスタシアの部下達だ。
彼女達はまだそれ程酔ってもいないので、アナスタシアや他にも数名の仲間を連れていこうとして肩を貸している。
「うん、ごめんね。帰り道、君達なら大丈夫だと思うけど一応暗いから気を付けてね」
「はい、それでは失礼しますね。ウォック様行きますよ、ホリ様におやすみの挨拶をしてください?」
「おぉぉ……、ホリィ、おやしゅみ……」
復活する度にラヴィーニアや他の者達とお酒を楽しんでいたアナスタシアはもう殆ど意識がない。それでもこうして頑張って言葉をくれた彼女に俺も返すとしよう。
「うん、おやすみ。明日の朝はゆっくりでいいからね」
「わぁかった……。また明日な……」
「では失礼します。おやすみなさい」
「うん、おやすみー」
彼女達の背中が闇に包まれて見えなくなるまで見届け、次に来たのはト・ルースや数人のリザードマンとペイトンを支えるようにしているパメラとペトラ。
彼らも拠点へと戻るようなので、挨拶をして別れた。
「今日の野宿組はこの子達か。それでも拠点に住んでる者の半数以上が寝ているこの状況はどうなんだろうなぁ」
「ファッファ、ホリ。お前さんはいつもと違ってあんまり酔ってないの? どうしたんじゃい今日は」
ポッドにそう声をかけられた。
「ん? うーんそういえば何でだろうね? 割と飲んだけど、あまりキてないな……。魔王様達がいたから意外と緊張してたとかそういうのかな?」
「そうかいそうかい、まぁここいらに寝ているモンと若い子達の根で休んどるモンは任せておけ。何かありゃ呼ぶわい」
ポッドの言葉に応えるように周囲の木々も葉を揺らしている。
彼らも流石にここで宴会をされ続けて慣れてきたのか、大人の対応である。
「魔王様達は……、ナンデスカソレ……?」
魔王一行へと視線を向けると、ポッド達トレントの並木道より少しズレた場所に小さな可愛らしいコテージが……。
「魔界一泊セットですな。中にはベッドや、簡易ですが台所などがあります。中々のスグレモノですぞ。とは言ってもやはり手狭なのであまり使う事もないのですが」
「ムスメちゃんはそろそろ休む時間よ?」
「オッ、ハーイ!」
ツマにそう言われ彼女は寝支度を始めるように中へと入っていった。
今この場に残っているのは俺と魔王夫妻、ウタノハ、オラトリ、トレニィアといった酔っ払っていない者とそこまで酔っていない者が中心だ。新たに酔い潰れた者達に毛布をかけて元いた場所へと戻り腰掛けた。
この中でウタノハだけが異彩を放つように楽し気に笑っている。普段は楚々《そそ》としている彼女も酔うと多少明るさが強くなり、感情の色や目元を隠していても表情がコロコロ変わるのが判別しやすい。
普段真面目な人程、こういった時にハメを外しがちだが彼女やアナスタシアはその典型のようだ。更に両者共、絡みが酷い。パワー差が如実に出る為、俺の体への接触がかなり強い。これは種族差なので致し方ないだろう。
「ホリ様ー、フフフ、ホリ様ー?」
「はいはい、ここにいますよー?」
座った先、隣にいたウタノハが膝へとなだれ込むように人の足を枕代わりにしてしまった。オラトリが後ろでワタワタと手をせわしなく動かしているが、酔っ払ったこの子は自由奔放なので、気にしない事にしよう。
大丈夫だと手で意思表示をすると彼女は申し訳ないという表情を浮かべて頭を下げてくる。その様子を眺めていたツマと魔王が微笑みながら今は白ワインを飲んでいるようだ。
「フフフ、仲のよろしい事で。ハァ、料理も大分無くなってしまいましたが、もう少し何か摘まみたくなりますわ。チラリ」
「うむ、今日はかなり飲み食いしましたからな。だがまだ何か欲しくなってしまうなぁ。チラリ」
魔王夫妻のこれ見よがしな催促、といってもそこまで食材が残っている訳でもないのだが……。
「じゃあこういう時に作りやすい俺の好きな物でもいいですかね? それだとこの残っている料理ももしかしたら美味しく頂けるかもしれないので」
「おお、ツマよ言ってみる物だな!」
「アナタ、チャレンジって大事ね!」
「ダイジー!?」
膝元から訳の分からない叫びを上げられる。顔を埋めるのは構わないのだけど、何かの汁で湿っぽい。
「といっても、本当に簡単な物ですよ? この状況ですしね」
鞄から一つ、小さい鍋を取り出す。あと鉱石で四つ足の土台を作り上げてそこへ鍋を乗せて前準備は完了。スライム君に必要な食材を出してもらおう。
「それにしても、見事に鉱石の扱いが上達しておりますなぁ。今しがた造り上げる流れも淀みをそれ程見せず、関心してしまいますな」
魔王が顎を軽く撫でるようにして俺の手元を見ている。
「そうですか? まあ毎日触っていますしね。トレニィア、悪いんだけど残った料理とか纏めて持ってきて貰える? ちょっと動けそうにないから……」
「わかった……。ちょっと待ってて……」
その間にスライム君から貰った食材を使い、準備が完了した。あとはじっくりコトコトやれば完了だ。
「王妃様、その白ワイン貰ってもいいですか? ちょっと使いたいので」
「ええ、はいどうぞ。楽しみだわ」
彼女から受け取った白ワインを少しずつ鍋の中の物と混ぜ合わせ、ゆっくりとお酒を頂きながら少し長い棒を準備して待つ。
「ホリ……、持ってきたよ……。あんまり量はないけどいいの……?」
「うん、軽く摘まめる物の延長みたいな物だからね。トレニィアも楽しみにしてて」
彼女とスライム君に切り分けられそうな料理を分けてもらったり、新たに出したパンを一口サイズにしておく。
「よし、出来ましたよ。チーズフォンデュです。この棒で食材をチーズにつけて摘まんでみて下さい」
彼らの前に置かれた鍋の中のチーズが食べ頃のように柔らかくなったので、早速頂こう。スライム君のおかげでいい香辛料も使わせて貰えたので、香ばしい香りが小腹に突き刺さるように立ちこめている。
「おお、これもまた美味そうですな。では私はパンから……」
「なら私はこちらの野菜を……」
彼らは気の向くままに摘まみ、余った料理を実験的に楽しんでいる。
「私は……、私はどうしよう……」
「トレニィア、最初はパンがいいよ。シンプルにおいしく感じられるからね。それにこのパンを、敢えてこうして……」
鍋の下にある魔石から出ている炎にパンを当て、多少焼きつけてからチーズに投入、とろりと柔らかなチーズとパンの香ばしさが食欲をかき立てるそれをトレニィアの口へと運んだ。
「おいしいでしょ?」
「うん……、最高……」
「アクマ的発想ですな……!?」
「アナタ、負けられないわ。私達もやりましょう!!」
様々な楽しみ方でこの料理を味わいながらお酒を頂いていると、珍しくトレニィアとオラトリがワインを飲んでいる。
彼女達は比較的お酒はあまり口にしないが空気にでも当てられたのだろうか。チーズがなくなる頃には二人共少し頭をふらつかせていたので、眠気が襲ってきているのかな。
「最後の最後まで楽しんでしまいましたが、流石にそのアラクネ君達が示すように解散ですかな? ムスメも戻ってこないところを見ると寝てしまったようですしな」
「そうね、私ももうお腹いっぱい。今日は最高の気分で眠れそうです。ホリ様、後片付けで手がいるのなら申してください? それくらいはお手伝いさせて頂きます」
「ああ、いえ大丈夫ですよ。お二人はお好きなタイミングで休まれて下さい。この子達はこちらで何とかしておきますから」
彼らに面倒を見てもらったと後でわかったら数名はショックが大きいと思うし……。俺の言葉を聞いて改めて彼らがこちらに礼を言ってそのままコテージへと入っていった。いいなぁあれ、うちにも欲しい……。
少なくなってしまったまだ酔っていない者達と一緒になって酔った人達を寝かせるが、夜風が直接当たるのも良くないよな。ぐるっと周りを鉱石の板で囲んでおこう。それ程時間も掛からないだろう。
「ホリ、うちの妹はこのまま連れて帰る。お前も早く休めよ」
「レリーアおつかれ。うん、これが終わったら寝るよ」
姉妹愛が溢れ出る次女はそのまま巣へと戻っていった。
あまり時間も掛からずに風除けが出来たので、俺もそのままポッドの根元へとマントに包まり一言挨拶をしておく。
「ポッド、また場所借りるね。時間がある時に皆の様子を見ておいてもらえると助かるよ」
「ホイホイ、お前さんも早く休んでおけ。新しく始めた魚の育成、お前さんも参加したいじゃろう。体調も少し面倒見てやるから、今度あの首飾りから出た水をこの辺りに撒いてくれ」
「了解、たっぷりと撒くから楽しみにしててよ」
明日は何をするか……。
魚や水槽の事もあるけど、近くで眠っているあのオーガも心配だな。あの様子なら寝首を掻くような事もないのかな? 近くにオラトリが警戒の為にと見張っているようだが。というか姫巫女野宿させているけど侍女達はいいのだろうか? 里から逃げている時にも野営しているだろうからあまり気にしていないのかもしれないな。
壁というか、板を設置したからかトレント達が何かをしてくれているのか。
夜風で凍える事もなく朝までゆっくりと休めた。
そして、目が覚めた時にあまりにも理解が追い付かない為に何時ぶりかの狸寝入りを敢行している。理由は目覚めた時に目の前にあった白い物。それがとある人物の髪……、頭頂部だというのは過去の経験で即座に理解した。
何してるんですかウタノハさん。
動いたら、使用する予定の全くない乳首がまたやられると思うので、刺激をしないようにしつつも薄目を開けて周囲を確認する。
時間の程もまだ早く、空が白んでいる早朝で他の者達の寝息も聞こえる。さてこの状況どうした物か。
どさくさ紛れに寝たふりしてOPIの一つでも堪能させてもらおうと考えたのだが、相手が鉄壁の頭部ディフェンスで防いでいるし、ならばと尻の一つにでもセクハラをしてみる事も考えたがやはりこの鉄壁を崩せない、手が届かないためだ。
彼女は何故か俺が包まっていたマントの中の、更に服の中へと侵入し楽し気にしている。あちこちを触られたり撫でられたりと……おふぅ。
「あんた一体何しているんだ?」
ウタノハの絶妙タッチに必死で耐えていると、声をかけられた。
俺のすぐ横へとしゃがみ込み、そう声を掛けてきたのは黒い肌のオーガ、フォニアだった。
彼女はあれ程酒を飲み酔い潰れたのにも関わらず、酒が残っている気配がない。やはり強いんだろうな、お酒。うちでもパメラやト・ルース、ラヴィーニアに続く酒豪かもしれない。
「おい、聞こえてるんだろ。返事してよ」
「……あ「何か御用ですか? フォニア」ぐぅぐぅ……」
危ない、返事をしそうになってしまった。薄目を開けてフォニアの表情を見たがどうやらバレてはいない、多分。
一応ウタノハを殺されないように寝たふりを続行し、呻くようにしながら腕でガードをしておいた。流石に戦闘行為はできないという彼女の言葉を信用も出来ない。
「楽しそうにしているね、里から逃げ出した時とは大違い。ここが相当気に入った場所みたいだね、それとも気に入ったのはその人族? 変わった趣味してるね姫巫女様は」
「フォニア、何か用件があるのなら聞きましょう。但し、今何か敵対的な行動をするというのなら即座に殺します。そしてこれだけは覚えておきなさい、この場所へと再度凶刃を向けるというのならその時は貴方の眉間を私の弓で貫きます」
その言葉の何かが心に来たようで、彼女は小さくかみ殺すような笑いを発している。
「いや、失礼。随分と人が変わったね、貴方はもっとびくびくとしている小動物みたいなモンだと思ってたんだけど。大丈夫だよ、今生きているオーガの大概は前と変わらず姫巫女支持派だからね。私も元々シュテンさんに誘われて楽しそうだから反乱しただけだしね。今はもう戦う気はないよ、これからもね」
「そういえば、貴方とこうして話す事は今まであまりありませんでしたね、貴方も族長の娘という立場があったでしょう? ならば一度親元へと戻り、謀反をした者達の最後を伝えてきなさい。族からは離反をしているのでしょうし、せめて自分は生きていると告げてからここへまた戻ってくるのです」
意外な言葉が出てきた。フォニアの表情も少し不思議に思っているというのが見て取れる。
「それはどういう事? ここへ戻ってきて処刑されろっていう事かな?」
「いいえ、私達オーガ全員がここへかけた迷惑を償うのです。体で」
いやらしい意味に聞こえちゃうのは、心が穢れている証拠。
「それはその人間に体で奉仕しろっていう事? 今の貴方みたいに?」
困惑の表情を浮かべている心の穢れた仲間を見つけた。そりゃそう聞こえますよね。いや、個人的にはそれでもいいんですよ! とは言えないので寝たふりを続行しておこう。
「違いますッ! これは……、まぁこれはいいです。ここへかけた多大な迷惑を少しでも返す為に手を貸し働く、ここにいる人達の力になる事で償うのです。私達に出来る償いはそれが一番でしょう。軽々しく生き死にを問う責の取り方は、ホリ様が嫌がるでしょうしね」
マントと会話しているフォニアは小さく笑いを零して音もなく立ち上がった。
こちらを見下ろすその表情から、何か意を決したと言わんばかりの彼女。
「それなら、私もケジメをつけてくるよ。その人族には言いたい事や恨みもいっぱいあるしね。……オラトリさん、話をさせてくれてありがとう。もういいよ」
「フォニア、どうするのかは自由だが一応コレを持って行け」
どうやらオラトリが警戒をしていてくれたらしい。何かを渡したようだが、体勢を変える事が出来ないのでソレが何かは判断できない。
「うぐっ……、これ効果はとんでもないけど味が嫌なんだよなぁ。飲み込んだら意識が無くなるのは致命的でしょ」
「お前なんか自分で飲む決断が出来るからまだいい。私なんて起きしなに無理矢理コレを飲まされてホリ様を殺そうと思った程だ」
何かは判断できないので、この話は聞かなかった事にしよう。というかオラトリはまだあの時の事を根に持っているのかもしれない、これは何かの折に飲まされる事を警戒せねば……。
オラトリの言葉の後に小さな笑い声が聞こえる、フォニアの物だ。
「ぷぷぷ、あのオラトリさんが飲まされるところ見てみたかったな。じゃあこれは有難く貰っていくよ。それじゃあ姫様、オラトリさん、それと人族、またね」
「え?」
「えっ」
奴はとんでもない物を暴いていきました、私の寝たふりです。
俺の寝たふりに気付いていた彼女に向けて軽く手を振って挨拶をしておくと、二名のオーガが慌てふためく。
「ホリ様、起きてらしたのですか! こ、これはですね!?」
「あー、うん。いいからいいから。そこで慌てないでね、刺さってるから角が、乳首に。落ち着いてね」
あとで乳首に薬草汁塗らなきゃ……。酷い話だ。
服の中のいい香りのする頭頂部と問答をしている内に黒い肌のオーガは消えていた。どうしてここへ頭を突っ込んでいるのかと聞いたところ、目が覚めてから瞳の力を使い、周囲一帯を見渡していたら俺のマントの隙間から裾が見え、何故かはわからないけど入り込みたくなったそうだ。ハムスターなの?
ハムスター巫女はそれでも出ていく気配を見せず、むしろバレてしまってはしょうがないなと言わんばかりに暫くの間そこへ居続けた。
更に起きていたのはオラトリだけではなく、早朝に行動を開始するリザードマン達、ウタノハの侍女達、朝方に動き出すハーピーなど野外で寝ていた者達は割と目が覚めている者も多く、バレていないと思っているのがウタノハだけなのではという状況になっても、彼女は俺の服を伸ばし続けた。
流石に魔王が来るまでには抜けてくれたので事なきを得たが、ツヤッツヤに笑う表情とぼさぼさの髪が彼女の満足度を教えてくれたので、まぁよしとしよう。
自由になったので、乳首に一塗り薬草汁をつけて朝御飯の準備を始める。
魚の一夜干しと、アラ汁、用意していた物は考えてみると米が欲しくなるラインアップだったのだが、流石にここに米はない。
「朝から結構重たくなっちゃうけど、ちょっとアレを作るか……」
油の入った鍋を用意して朝からの揚げ物は、作る側としても滅入る熱さ。だが米のない世界で一夜干しを食べた日には世界を周り米のある地域を見つけてしまいたくなる。
スライム君と共に魚を一度、軽く焼き上げ、身をほぐす。余った骨などはリザードマン達がパクパクと食べていくので処理も楽でいい。
これならムスメも骨を気にせず食べる事が出来るだろう、朝から揚げ物が無理だと言われたら泣くしかない。
スライム君に魚の揚げ物をパンで挟むからそれに合うソース作りを頼むと、既に完成品があるようにドン、とテーブルに置かれる。
この速さ、時をかけるスライム。
魚のアラ汁も塩味がベースだからな、せめて主食を洋風にしておかないと米への渇望が酷い事になりそうだ。そこまで米派でない俺でもこれなのだから、米至上主義だったら拷問だったかもしれない。
フィレオフィッシュバーガーの出来上がりを二日酔いになっていない者達が食している、問題は味だったがやはりそこはスライム君のソースがこれを絶品にしてくれているようだ。
二日酔いが酷い者達は魚のアラ汁を啜り、その旨味に酔いしれていた。
そこへ魔王達も加わり、朝から賑やかに食事が進む。彼らは食事を済ませて食後のお茶を頂くと帰り支度を始める。
「ではホリ殿、我らはこのまま帰宅しますよ。この度は最高の時間を提供頂き、感謝します。出来ればもう少しゆっくりとしたいところではありますが、あまりそうも言っていられませんしね」
「次来るときは是非私達もこの拠点に役立てるように何かをしたいと思っています、お世話になりました。残ったお酒は置いていきます。皆さんで召し上がって下さいね」
「ありがとうございます、美味しく頂きますよ。あまりおもてなしも出来ませんで……。次はお三方にも農業を手伝ってもらえるようにこちらも頑張りますよ」
俺達が挨拶を交わしているところの横では、ゴブリン達と別れを惜しむムスメが……。手頃な石に片足を乗せて草のような物を咥えて、そしてベルがムスメに縋るようにしている。
あちらの小劇場は放っておくとして、最後に魔王から何やら箱のような物を渡された。
「中は見てからのお楽しみですぞ」
不敵に笑う彼、それをうっとりといった様子で眺めるツマ。
彼らはそれを俺に渡すと三人が集まり、足元には魔法陣が浮かび上がる。
「それでは、また」
そう言って手を上げる魔王、そして横で頭を軽く下げているツマ。
「また来る時まで、シヌなよオマエラー!」
そう言って笑顔で腕をいっぱいに振っているムスメ。
彼らが消えたと共に周囲は一息ついたように緊張の糸が緩むのがわかる。俺自身も緊張し続けていたので、お茶を頂いて休憩をさせてもらっている。
「ホリ様、コレナンデスカ?」
「うん? そういえば魔王様が最後に渡してきたな、開けてみようか」
箱に詰められていた物は見覚えのある試験管が二本。
そして手紙が同封されていたのだが、まるで読めない文字だった為読める者を探し、その文字の読めるオラトリに読んでもらった。
「ええ、『使用上の注意。前回の物より精錬され純度を更に高めた為、本製品を使用の前には前回の物の時よりも沢山食事を摂りましょう。更にグレードアップした為、使用後の後遺症が少し強力になっています。連続使用は控えましょう』と書いてますね」
「オーケーわかった、もういい。しまってくれ!」
青空にモヒカンマッチョのナイスガイがサムズアップしてこちらに笑顔を向けているような気がした。




