第51話 弾丸ツアー二日目
熱い一夜を乗り越え、英気を養えたところで今日は朝一番で商店に向かっている。
まず行こうと思っている所はこれも前回に訪れたバーニーの店。前回聞いた限りだと食料の卸売を営んでいるが取り扱っている商品も酒や調味料など多岐に渡る。
そこで前回よりも多めの麦、野菜、他にも色々と購入を検討し、金銭の余裕が今回はありそうなのでスライム君に調味料のお土産も買っていこう。喜んでくれるかな。
「お、ついたついた」
店のドアを開き、中に入るとカウンターには女性が二人並んでいる。
茶髪のロングヘアーの受付嬢さんにバーニーに取り次いでもらい、少し待つように言われたので応接のソファーに座って待っていたら、横から声をかけられた。
「おお、あんただったか。また仕入れに来たのか? 随分早いが、前回買った分はもう無くなってしまったのか?」
声の主は背の高い、金髪を後ろで纏め上げているこの店の店主バーニーだった。
「お久しぶりですバーニーさん。ええ、仰る通りまた仕入れです。前回買った分はまだ沢山あるのですが、少し人が増えたので余裕を持っておきたいなと。今回は前回より多めの麦と野菜は倍ほど、あとはお酒と調味料が欲しいですね。どうでしょうか?」
彼は頭を少し掻き、目を瞑り考え込むと一つ頷いた。
「よしわかった。こちらで用意しておこうか? それとも一度目を通して自分で判断するか? どちらでもいいぞ。少し量もあるから時間はかかるが今日の夕方くらいには渡せるように手配しておくよ」
「そうですね、他にも立ち寄りたい所があるのでバーニーさんにお任せします。お酒は樽三つ分程で、調味料も各種で量があると助かります。お幾らくらいになりますかね?」
バーニーは受付嬢の女性から紙を貰い、それに何かを書き込んでいる。そして少し悩むようにして俺にその紙に書いた内容の結果を伝えてきた。
「そうだな、これなら金貨六十枚ってところだ。どうだ?」
「ええ、大丈夫です。代金は今出してしまってもいいですか?」
彼がそれに頷いて応えたので、俺はそのまま代金をテーブルに出し確認をしてもらった。
「うん、確かに。しかしあれだな。前回と違って随分と儲けたみたいだな。買い方に余裕があるじゃないか」
彼は顎に手を置き、にやりと笑みを浮かべながら観察するように視線を向け俺に伝えてきた。
「ええ、前回もそうでしたけど、いい取引をさせてもらいましたので。いつも飛び込みできてしまってすみません」
「ハッハッハ! 大丈夫だ。いきなり注文を受け付けるのは慣れているよ。お、そうだ。酒樽を買うなら今丁度店の方に新作達があるぞ。飲み屋の店主達が持って行っちまう前に選んでみるか?」
それなら時間もかからなそうだな。やってみるか、知識とかないけど。
「ええ、挑戦させて下さい。いくつか選ばさせてもらいますね」
俺はバーニーの案内で、店の内部にある一時的な保管所のような場所に来た。
酒樽もそうだが、肉、野菜、魚の干物や木の容器に入れられているのは調味料かな。見本市のように並べられている部屋に通された。
ここで仕分けして商品毎に専用の保管所へ持って行くのだろう。
「ここの樽の中から選んでいいぞ。中身は全部白ワインだ」
彼がそういって披露してきた樽の数々。前回もそうだったけど、やっぱり良し悪しはわからないな……。
「ん?」
「? どうした?」
「ああ、いえ、何でもないです」
まただ。前もそうだったけど、特定の酒樽の前にいくと腕輪が少し熱を帯びる。
数もちょうどいいし、選んだ三つをバーニーに教える。
「お前さん、酒選びに関していい知識持ってるな。作った奴がオススメだって言ってた奴を選んでいくなんて大したもんだ」
「いえ、素人ですよ。偶々運がよかっただけです」
お酒選びには腕輪が役立つかもしれない。後は飲んでみて味を確かめたら、これからも腕輪に頼ろう。しかし、なんで熱くなるんだ? 不思議だ。
バーニーに夕方もう一度来るように言われ、店から出る。
まだまだ一日は始まったばかりだ。次は弓と弩を買いに以前と同じ店に来た。
店先には弓と矢の看板、営業は始まっているようなので店内に入る。
「お、お兄さん。久々だね。あの弩はどうだい? いい品だったろう?」
「うん、俺が使っている訳じゃないけど使っている子はとても気に入っているよ。試しに他の弩と使い比べてみたらしいんだけど、使い勝手が違いすぎてダメだったってさ」
そりゃよかった。と彼は満足そうに頷いている。
「それで? 今日はどういったもんが欲しいんだい?」
「ちょっと量が多いんだけど……、長弓を二十、短弓を十五、弩を十、あとは矢をこの前のと同じ奴がいいかな? 弓用が三百、弩用のを百くらい貰える?」
ほいほい、と彼は計算をしている。
「長弓金貨が三十枚、短弓金貨十五枚、弩は金貨二十枚 弓用の矢が金三枚 弩用矢金二の銀五十で、ええっと……金貨七十枚の銀貨五十だね。いっぱい買ってくれたね。また弩用の鋼鉄の矢をサービスしてあげるよ」
「ホントに? ありがとう。あれ何本か無くしちゃって、使ってる子が悲しんでたんだよね。助かるよ」
おじさんは微笑むと、俺から代金を受け取り数えている。
これでもまだ金貨の残りが二百五十枚近くある。少し減っているのは昨夜羽目を外しすぎた結果か。当分は自重するぞ、目的を忘れてはいけないのだ!
それよりも……。
「おじさん、前に弩が置かれたところにあるその白い弓は何?」
「ほっほ、やっぱり目を付けたね。これはね、最近譲られたんだけど、飛竜の骨を使ったコンポジットボウなのさ。少し訳アリ商品なんだけどね」
訳アリ? どういう事なのだろう。
「話を聞かせてもらってもいい?」
ほいほい、とおじさんがその弓を俺に手渡してきた。弓の事なんてわからないけど、何だろう……、とても堅い? しなやかで細い見た目からは想像がつかなかった程の強さを感じる。
「これね、弓力が強すぎて満足に引ける人がいないんだよ。あと、弓力の影響で弦がすぐダメになっちゃうんだ。矢を数射すると切れちゃうくらいでね。いい素材の、それこそ竜の腱を使った弦でもないとまともに使えないんだよ。金に困ったドワーフがどうしてもっていうから買ったんだけどね」
困っちゃうよね。とおじさんが言っている。
「おじさん、これいくら?」
「金貨で三十五枚だけど……。え、買うの?」
おじさんがぽかんと口を開けている。聞いておいてなんだけど高い、高すぎるだろ竜素材。シーにあげた弩の倍以上の値段って……!
おじさんの正面で弓を睨み、考え込んでいるとおじさんがまた決定的な一言を叩きつけてきた。
「今買ってくれるなら弓用の、ミスリルの鏃の矢をプレゼントするよ。五本」
「買ったァァァァア!」
くそ、このおじさんほわほわしてるのに何でこんなにツボをついてくるんだ! 微笑んでうんうんと頷いているけど、負けた気がする!
代金を支払い、確認をしてもらう。
これで残金は二百と十枚ってところか……。そういえば魔石はまだ売ってなかったな。あのハ……頭頂部の輝き眩しいセバートの所へ向かう前に換金しておこう。前回サービスしてもらったし信用のおける人物だったしな、あの魔石取り扱っている店のおじいさん。
確認も終わったので、商品を鞄に入れていく。
それが終わったので、おじさんに頭を下げて礼を言うと「またきてくれよ」と笑顔で手を振ってくれる。いいカモにされてないかな俺……。
飲食エリアで甘い物を買って以前にも立ち寄った魔石取り扱いの店へと入ると、片眼鏡をかけた男性が先に声をかけてきた。
「いらっしゃい、久しぶりという程でもないかな? また行商かい?」
「ええ、以前もお世話になったので今回もお世話になります。ちょっと量が以前より多いのですが大丈夫ですか?」
俺は鞄から大きな袋を出し、彼の前に置くとずしゃりと重さを証明するような音が響く。かなりの量だからな、幾らになるか。
「あいよ。それにしても多いな。少し待っててもらっていいかい?」
「はい、丁度そこでお菓子も買ってきたので、待たせてもらいますね」
店主の初老の男性がお茶を出してくれたので椅子に腰かけそこで甘い物を一つ摘まんでみる。
カステラみたいな味だな。今一番人気のお菓子と聞いて購入したが出してくれたお茶と相性もよくとてもおいしい。店主が魔石を丹念に調べていくのを眺めているがやはり量があるからな。もう少しかかりそうだ。
「ん?」
お茶をおいしく啜っている時に服を引っ張られ、そちらに視線を移すと前にも顔を合わせたリリと呼ばれる少女が傍にいた。
「たびびとのおっさん、ひさびさだね」
「久しぶり、リリちゃん……だっけ? 覚えててくれたんだね」
彼女はどうやら甘い匂いにつられてきたようだ。チラチラとみているのでどうぞというとパクパクと口にしていく。
「おいしー!」
「フフ、そうだね」
「おや、すまんね兄さん。これリリ、ちゃんとお礼を言いなさい」
ありがとー! と言いながら店から走って出ていってしまった。
「すまんねぇ、元気が有り余っているんでね」
「いえ、いいんですよ。その分サービスしてくださいね」
そう言うと彼は笑い、他愛ない話をしながら俺の持ってきたお菓子を一つ摘まんでカウンターの裏へ行くと代金を持ってきてくれた。
「今回は金貨十一枚と銀貨三十枚だ。同じ種類の魔石が多かったからね、少し量の割に安くなっちまったよ」
「いえ十分ですよ。ありがとうございました。今度また街に寄ったらよろしくお願いします」
男性に挨拶を済ませると、彼の後ろにいつの間にか戻ってきていたリリと呼ばれる少女がいたので手を振って挨拶をしておく。笑顔で手を振り返されて元気を貰えたので、勢いそのままにセバートの店へと足を運ぶ。
もうとっくに昼を過ぎたので急いでおこう、これだけの強行日程だと流石に疲れも溜まってきているから、今日はゆっくり休みたい。
扉に剣がかけられているセバートの店の前までやってきた。
相手も見知った顔だし、遠慮する事もないか。
「すいませーん」
俺は一つ声をかけながら店内に入ると、カウンターには頭頂部の輝きが……ない!? というか凄いパツキン美人がいるぞ!
「あら、いらっしゃい。少々お待ちくださいね」
「あ、え、あ、はい……」
ハゲがいるもんだと思っていたのに、いつの間にか店が変わっていたようだ。咄嗟の事で気持ち悪い反応をしてしまったぞ。でもまぁいいか、セバートの事は忘れてこの店で必要な物を買わせてもらおう! そんな事を考えて頷いていたら、がしりと肩を掴まれた。
「おうこの前の! また買いに来てくれたんだな!」
「アナタ、おかえりなさい」
「おうただいま! 店番ありがとよ!」
俺の肩を掴んできたのは、この店の主のセバートだった。
彼の放った言葉に笑顔で「いいのよ」と言いながら手をひらひらと振り、美人が店の裏に行ってしまった。え、というかアナタって、もしかして……?
「お、奥さんですか?」
「おう? 俺のツレだが? 何かあったか?」
リアルで美女と野獣を見ている気分にさせられるとは。この圧倒的敗北感はどうすればいいのだろう。
「いえ、何でもないです……。取引やりましょ……」
「お、おう? まぁ元気出せよ! 今日は何が欲しいんだ?」
気を取り直して買い物を続けないとな。
セバートに剣や槍、斧などオススメを教えてもらいそれを金貨二百枚分購入した。これだけあれば剣と槍で困る事はそうそうないだろう。斧はちゃんとした道具があれば、森林での木材収集が捗るだろうし、武器として使う人もいるみたいだしな。
「そういえば、少し聞きたいんですが。刀剣といえばいいんですかね? 凄く長い曲刀みたいな物とかありますか?」
「長い曲刀……? オーガが持っているような奴か? 変わったことを聞くな、うちにはねえが街を見回ってみればあるかもしれねえ……。ただあれは、あんまりオススメはしねえぞ?」
オーガという単語が出て少し驚いてしまったが、それよりもその理由を知りたい。
「オススメじゃない理由とは?」
「あれはよ、武器としちゃ耐久力があんまりねえ。戦闘が連続すると弱いんだ。サシで勝負して終わるなら切れ味は抜群であれほどの武器はねえが痛みも早い。同じ強度の武器と数度撃ち合うだけで刃もボロボロになるしな。乱戦の場合なら同じ大きさの棍棒の方が役立つかもしれねえぞ? しかもブツがあったとしても高い。珍しい品だからな」
オラトリの持っていた剣の代わりがあればよかったんだけどな……。まぁ刀というか、あそこまでの大きさだともう太刀か。早々に見つかるとも思ってなかったし、重量もあったから使える人間も限られるだろうし。
「棍棒、棍棒ね……」
「? 変わった事聞く奴だな。それならこっちのバスタードソードをオススメするぞ? 最低限切れる、突ける。それ以上にぶっ叩けるという優れもの! どうだ? 今なら金貨七枚!!」
無骨な鈍器のような大剣を渡してくるセバート。重たいなこれ、でもこれくらいの物ならオラトリも振り回せるかもしれないけど、この前の槍の時みたいなピーンとくる物がないんだよなあ。
「ううん、これはまた今度にしますよ。あ、そうそう砥石もある程度入れておいてくれると助かります」
「あいよ、ちょっと多めにしておいてやるから安心しな。剣は残念だが、今しか見れねえ面白い物を見せてやろうか?」
お、面白い物だと? 少し気になるな。
「セバートさんが面白いと言うなんて随分な物なんですね、期待してもいいんでしょうか?」
「おう、短剣なんだけどよ。これがとんでもねえのよ。いくら使っても刃がこぼれねえ。その上見た目が美しいって代物でな。名付人は『ホーリーナイフ』って言ってたぞ?」
見た目が美しい、刃がこぼれない……? うーん、まさかね。
「それ見せて頂いてもよろしいですか?」
「おう、こいつだ。どうだすげえ品だろ?」
セバートが置いた短剣はやはりというかなんというか。見覚えのある嘆きの山の鉱石を使った短剣だった。ゾフィーアの所で見た物よりこちらの方が装飾も凝っていて、鞘も合わせて見せて貰ったところこちらも鉱石産。どちらも細かい仕事のされている丁寧な出来だ。もう出回り始めているんだな。
「これ、いくらくらいですか?」
「おう、見惚れちまったか? こいつはこれで四十枚よ」
「銀貨?」
「何言ってんだ、金の方に決まってんだろ! こんな代物を銀貨で譲っちまったら武器屋は皆泣いちまうぞ!」
おいおい、どれだけ価値高騰してるんだよ。……? 待てよ? さっき『ホーリーナイフ』って……。
「セバートさん、もしかしてですけど、これの名前つけた人ってゴダール商会の……?」
「おう、そうそうよく知ってたな? あそこの主がつけた名前だな!」
まさか『ホリ』から『ホーリーナイフ』じゃないよな。そんな親父ギャグ的なノリであの貴婦人が名付ける訳もない、きっと高尚な意味合いがあるか俺の自意識過剰に決まっている。
俺があまり取り乱さないからかな? セバート的には少しつまらなかったようだ。確かにこれを始めて見たら見惚れてしまうのもわかる。
「なんかつまんねぇなー。もっと田舎者みたいなノリが見れると思ったんだけどなぁ」
「いえいえ、驚いてますよ。でもこれで金貨四十枚は凄いですね」
「おう、それでも安い方でよ? ドワーフ共が作ったショートソードなんてもっとやべえ。それだけで金貨二百とか言っててな? しかも売れてたんだよ」
凄すぎるぞ鉱石武器! アナスタシアの持ってる槍とかもしかしたら凄い価値のある槍なのかもしれないな。話のタネに今度皆に教えてあげよう。話から察するに、あの貴婦人の手腕は途轍もないな。鉱石自体のポテンシャルは確かにあるが、ここまで価値を引き上げる事はそうそう出来ない。多分これからも鉱石の需要は増えるだろう、それならあの布も凄い事になりそう。楽しみだ。
そうだ! 忘れない内に砥石は多めに買っておこう。鉱石で何か作る時に消費するしな。
ちょっと変わり種の剣、と言ってもサーベルやレイピアだが、それも数本ずつ加えて貰って合わせて値段が金貨二百と五枚。大分購入したけどこれだけあれば当分武器には困らない。
後は少し武器を見せてもらうとしよう。
「そういえば、剣で上質な物ってどういうのがありますかね?」
「上質な剣ね。ちょっとまってな」
彼はそう言うと店の裏側に行ってしまった。
その間に購入した品を鞄に詰めておくとしよう。……すごい量になってしまった。少し鞄が重くなったような? この鞄がなかったら絶対に持てない量だしな。魔王に感謝だ。
「これだ、うちの店の最高級品だぜ? 剣としちゃ細い部類だが、ドラゴンパールって珍しい素材とミスリルを使った合金製でな。白金貨三枚、金貨三百枚だな。どこぞの国の勇者が、魔王と戦う際に持ってた武器と同じ物だぜ? すげえ剣だろ」
セバートが持っている剣を鞘から抜いてみると、白い刀身から淡い光を放っているこの剣、装飾があまりないのに存在感が凄いな、あれ? んー? どこかで見覚えがあるような……? 勘違いか?
「すごい剣ですね、見ているだけでドキドキします。でも高いなぁ」
「しかもな? この世にこれと勇者が持っている奴とあと三本しかないらしいぜ? しかも全部揃えると竜を召喚できるとかいう逸話があるんだが、これはまぁデマだろうけどな」
ハッハッハ!! と豪快に笑い頭を撫でているセバート。揃えると竜が出るとか願い事でも叶えてくれるのかな? アナスタシア用に細剣が一本欲しかったけど、ちょっと手が出ないな。先程買った武器の中から選んでもらおう。あれ? 鉱石を潤沢に使った武器ってどんだけの値段になっちゃうんだ……? 気にしたら負けかな。
他にも武器を幾つか見せて貰い、話を終えるとセバートも今日はもう店じまいだ! と甘い物を買いに行ってしまった。本当に甘い物が好きだったんだな。
目的の買い物を大概購入したので、後は何かお土産を……。甘い物でいいか? 女性陣多いしな、後はト・ルース用に魚茶という謎物質に合いそうなお茶菓子や、度胸試しに使われる激辛食材など購入しながら、飲食街で時間を潰しながらバーニーの店を目指していた。
「お、これは……?」
「お、兄さん。それが気になるかい? 少し匂いの強烈な珍味だが酒のアテにこいつがあるとたまんねえぞ! 今なら大増量してやるから銀一枚でどうだ!」
これイカの塩辛か? 見た目は似てるし、匂いに惹かれて覗き込んだけどこの街にはこんな物も輸入されてるのか? 流石商業国家だ。探せば海鮮系の物がまだまだありそうだな。
「おまけしてくれるならこちらもそれに応えて銀貨三枚分。たっぷりと頼むよ」
うちのリザードマン達が気に入りそうだな。
「お、気前がいいねえ。これは日持ちはそこまでしねえから、四、五日後までには食い切っちまいなよ! 腹壊すぜ!」
「わかったよ。大丈夫、多分明日の夜に宴会やるからそれで食べ切るようにするよ」
毎度あり! と掛け声をもらい、店を後にしたら今度はすぐ近くのおばちゃんが声をかけてきた。
「兄さん! あんな臭い物買うならうちのもんも見てってよ! 安くしとくよ!」
「これは……、チーズかな?」
見れば、オーソドックスな黄色いチーズから白いカマンベールのような物、あと何やら赤い色や紫色のチーズが……。
「そう! 酒のアテならこっちさ! ワインやエールにチーズ! うちの商品はどんな酒にも合うから最高だよ!」
ご飯にも使えそうな物もあるな、これも購入しておこう。
「わかった、パンとかに使えるを多めに入れてくれる?」
「あいよ、毎度あり! じゃあ全部一種類ずつと癖のない奴を多めにいれて銀貨二枚だ! 後はないかい?」
ちょっと怖い物見たさで色々買ってみるか……。
「その赤い奴や紫の奴も包んでもらっていい? こっちも銀貨三枚分おばちゃんのオススメもいれておいてよ」
「お、いいお客さんだね。まかせな! 赤い奴は少し火で炙ってとろりとしたところを食べるのがうまいからね。覚えておきな!」
やってみよう、赤い奴は見た目めちゃくちゃ辛そうだから、最初はゼルシュ辺りに試食させてみてから俺が頂くとしようかな。
あまりにも寄り道が楽しすぎてバーニーの店に寄るのが遅くなってしまった。
だが、彼は嫌な顔一つせずに遅れた理由を話したら笑いながら「紫のチーズはとにかく苦いぞ!」と忠告してくれた。これはラヴィーニア辺りで試食させてからにしよう。
話し込んで時間が遅くなると彼に申し訳ないし、早々に退散して宿へ急ぐ。
この街はいつも賑やかだし行き交う人達も楽し気だ。流石に今日はもう疲れたから宿で飯を頂いて休みたいが、まだ街の半分も見て回ってないからな……。出来る事なら魔道具通りも覗きたかったな。アナスタシアに頼んでまた運んでもらおう。
とりあえず、まずやらないといけない事は昨日の夜の事で多少白い目を向けてくる宿屋の看板娘の視線に耐えつつ食事だな!




