第38話 ご褒美
ポッドの傍に新たな仲間、トレント達が綺麗な並木道を作るかのように一定間隔で並んでいる。青々とした木々がまるでトンネルのように道を作っているのがテンション上がるな!
数は最初に言われた通り十五本、そして俺が来るのを待っていたように木々の前に並んでいる泥だらけの仲間達。
皆やり切った顔をしていて、どこか誇らしげにも見える。
俺よりも大きな奴らが一同に並び、どうだと言わんばかりに胸を張っている様はどこか面白い。つい笑いが漏れてしまった。
「ホリ様? どうされましたか?」
ペイトンに声をかけられた。
「ごめんごめん、みんな泥だらけだからなんか面白くて。さぁ! お風呂にしようか! その後はお楽しみの宴会だ! 今日も飲むぞー!」
ドヤ顔をした面々から歓声が上がり、そして風呂へという事になった。
気に入ってもらえるといいんだけどな、ダメだったらダメで仕方ない。後日また作り直そう、どっちみち排水機構がないと次からどうしようもないし。
排水を使って何かできないかな? 少し考えておくか。
ケンタウロス達に後から入る人の為にもしっかり洗ってから湯に浸かるという事を教え、俺もペイトンとゼルシュと三名で風呂にいく。
こちらの小さい方を使うのは我々三名と、ゴブリン達、ペイトン一家とリザードマン達の中では唯一ゼルシュが入る。アラクネ達は主にお湯で体を拭きに使うらしいが……。
「ゼルシュ、いつも数秒で湯舟から出てるけど大丈夫なの? 他のリザードマン達は水の方がいいって言ってたけど、なんでゼルシュはこっちのお湯の方が気に入ってるのか不思議だよ」
ゼルシュが浴槽の横で仁王立ちして風を全身で感じている。以前にロ・リューシィとト・ルースにこの状態を見られ、魔法を股間に喰らっていたが懲りていない。
「何というか、この全身を一瞬で茹らせてくる感覚が癖になるのだ。それに、何より最高なのはこの火照る体が吹き抜ける風で冷えていく感覚がいいんだ!」
同じ種族の者は誰もわかってくれない!! と魂の叫びを上げている。
リザードマン達はどちらかというと、水温が低い方が好みのようで体を洗うのもあっさりしている。むしろそれほど発汗しているようにも思えないけどどうなんだろう。難しい事はわからないが、本人の好きなようにさせてあげたい。
ペイトンが体をごしごしと擦りながらこちらに話しかけてくる。
「もしかしたら火の魔法にも強くなるかもしれませんね。リザードマン達は本来火に弱いですし、熱さが苦手というか嫌っておりますが、ゼルシュ殿は割と火の傍でも平気そうですし」
「おお、それならばこれも訓練に取り入れようか! 火に強いリザードマンとなれば相手の意表もつけるぞ!」
「お風呂で遊ぶのは禁止な」
訓練だと言っているじゃないか……。と力なく返してくるが、資源は有限なのだ。無駄遣いする事はまだまだできない。
こうして甘受させて貰えているだけまだ幸運という感覚でいないと、すぐに資源が枯渇してしまう。それだけは避けないとな。
風呂から上がり、ゴブリン君達の番になる。
「イッテキマス!」と元気良く飛び出し、風呂桶にタオル等を入れて持ち歩いていく銭湯スタイル。
スライム君と二人になってしまったので、料理の仕込みを手伝う。
手際……触手際がいいので、仕込みでも早い。今日もまた新作料理のようだ期待しておこう。
一通り終了し、ゴブリン達も戻ってきた。何故かアラクネのラヴィーニアが同伴しているのだが……。
「どうしたの? なんか寒そうだね」
「ラヴィ、風呂デノボセマシタ。少シ、涼シイトコロニイタラ、冷エタミタイデス……」
ベルが説明をしてくれた。え、君達ラヴィーニアと風呂入ったの!? 感想を聞きたいのだが!? 何のとは言わないが!
どちらにしろ、体を冷やすのはよくないな。普段から薄手のチャイナドレスみたいなものしか着ていないから寒いだろうに。
「ラヴィーニア、こっち来てくれ。少し何か体にかけておこうよ」
「あ、ありがとゥ……。寒いわァ……」
ラヴィーニアは体の体温を上げるように体を抱きしめている。よく見れば髪とかもまだ濡れているし。ファッサァマントを腹部にかけるようにして巻き付けたが、これでもまだ寒いだろう。
「何かいいものないかなぁ。ああ、これならあったかいかな?」
手にしたのは、あまり使う事のない日本の思い出が残るパーカー。
柔らかい素材で保温性にも優れているので、寒くなったら使おうくらいに思っていたのだが、ファッサァマントを主に使っている為、こちらは一度洗ってから使っていないのだ。
「ラヴィーニア、ちょっとしゃがんでくれる?」
「? はァい、これでいいィ?」
こうしてみると、やはり美人。少し湿った髪が色気を醸し出す。
パーカーを羽織らせ、ファスナーを締め……!? 締まらない!? バカな! アラクネのOPIは化け物か! 袖とか腕を通してもあざといレベルに余らせているのに! 何がとは言えないまでも立派です! 拝んどこう!
ふう、少し拝んだおかげで落ち着いた。不思議な顔をしてラヴィーニアがこちらを見ているが気にしてはいけない。OPI一級鑑定士の道は険しいのだ。
ラヴィーニアは着せられたパーカーの感触を確かめるようにして、フードを被ったりしたりと楽しんでいる。未知の服装だからか楽しそうにファスナーを上げたり下げたり……、オウフ、何とは言わないけどしゅごい。ありがとうY〇K。
「フフフ、あったかァい……。ありがとう。……貴方の匂いに包まれてるみたいだわァ」マジか! 臭いチェックした筈なのに!
「ええ!? 洗った筈なんだけどなぁ。臭かったら脱いでいいよ?」
「フフ、ダーメェ。もう返してあげなァい」
お、俺の日本の思い出の品が……!?
まぁ使わないからいいんだけど、どうせいつかは着れなくなるだろうし。
ゴブリン達に自慢するようにパーカーを見せているラヴィーニアとそれを羨ましがっているゴブリン達。
体も暖かくなってきたのか、ラヴィーニアも元気を取り戻している。
ん? 蹄の音が近づいてきてる……。ケンタウロスかな?
拠点の前の坂道を勢いよく駆け込んでくるケンタウロスの男性、少し焦りの色が見え、表情も追い込まれている感じだ。
「ほ、ホリ様! 風呂場で少し揉めています! 助けて下さい!」
「どうしたの? 落ち着こうよ、はい水」
コップの水を呷り、飲み干した彼は一息つくようにして「ありがとうございます」とカップを返してきた。
そして拠点にいる皆に少し行ってくるね。と告げ、向かう道中で軽く説明を受ける。
「実は、お風呂の入る順番から揉めていて、ウォックが一番最初に入る事になったらしいんですが、彼女の部下達とウォックに憧れているケンタウロス達が一緒に入ると、お互いに譲らないんだとか……」
人気があるのか、アナスタシア。むしろ一人でいれちゃえばいいんじゃないかな?
問題の起きている場所へ到着する。
男性ケンタウロスに風呂に行ってきていいよと告げ、女性たちが姦しく騒いでいる中へと入っていく。
「揉めてるなぁ」というのがつい口から出てくる程に、殺気立っている両陣営。
これ間に入って大丈夫かな、もみくちゃになって踏まれたりとかしたら骨折れるとかいう次元じゃないぞ、絶対死ぬ。
「あ、ホリ様! 聞いてくださいよ! この者達が!」
「ホリ様! 彼女達が!」
ううん、どうしようかなこれ。
「おお、ホリ。湯に入るというのはいいものだな。いつもお湯をかけるくらいしかできなかったが、これはいい。疲れが吹き飛ぶとはこの事だな!」
「気に入ったようで、よかったよ」
ほっかほかになったアナスタシアが姿を現し、それをポカンと気の抜けた表情で見ている揉めていた方々。
少なくともあと二人は一緒に入れたろうに、争いは悲劇を生みだすんだな……。
「そういえば誰も来なかったから私一人で入ってしまったが悪かったな」と悔しそうな表情を見せているケンタウロス達にアナスタシアが言い放ち、俺達はその場を後にした。
アナスタシアも、普段のシニョンのようにしている髪を解き、濡れた髪を片方に纏めて流すように下ろしている。レアな状態だな。
湯上りに散歩、というかポッドの元へ歩き出しているだけなのだが、風が冷たい訳でもないので芯まで温まっている彼女が湯冷めするという事もないだろう。
ラヴィーニアものぼせたと言っていたけど、魔族は水浴び、蒸気、お湯で体を拭くというのが主だったようだから、慣れるまでは湯に長時間浸かると危ないかもしれないな。注意を促しておこう。
「ああ、風が心地良いな。毎日入りたいと言っていたアリヤ達の気持ちが今ならわかる気がする」
「そう? といっても毎日は流石にまだまだ厳しいけどね」
「そうだな、今日は特に悪戦苦闘した分、ホリから皆への慰労という事でご褒美のような物だものな。次入れるのが楽しみだ」
そうして、ポッドの近くまでやってきたところでいい匂いがしてくる。
途端にお腹がすいてくるな! もう準備が始まっているようだ。
「お、ホリ来よったか。若い子らも一本を除いて皆落ち着いているぞ。助力感謝する」
ポッドが俺に気付き声をかけてきた。ん? 一本を除いてって何かあったのかな?
「いいよ、こっちもお世話になってるしね。トレントに何かあったの?」
ん、ああ……と体を揺らしているポッド。
「お前さん、少し多めに薬草汁を根にかけた奴がおったろ? その子が少し元気が有り余っているようでな」
「げ、そういえば一本元気のない子がいたから多めにあげたけど……。何か不調を訴えてたりするの?」
「いや、それはないんじゃが。みてみい、少しでかくなっとるじゃろ」
そういえば、植えた時より一本だけ大きくなっているような?
「あの薬草汁で一時的に活力が溢れてな? 若い子なんかは体を伸ばしてしまうんじゃ。ああなると、今はよくても効果が切れると疲弊して結果的に良くない。今回は大丈夫じゃろうが、次からは注意せえよ?」
「それだと、原液を使われてるポッドはどれだけ凄い事になっているんだ?」
「ファッファ。ワシの場合じゃと、溢れる力を地中に放出したり空気中に放出したりしとるからな。影響はそこまでない。ただ刺激が強いからの。若い子にはちと早いもんじゃ」
悪い事をしたな、トレントに謝っておこう。
ポッドにトレントへの注意事項を聞き、若木のトレントに謝罪をしていると続々と風呂から上がってきて、感想を伝えてくれるケンタウロス達。
男性側の風呂はもう少し底を深く、女性側の方は風呂の横に腰掛けるスペースが欲しいという要望も貰った。
何だったら建築の石材はあるから「自分達で改良してもいいよ?」というと、彼らは真剣に改良案を提示して議論を重ねていた。
程なくして、酒宴が開かれる。
今回の代表挨拶はポッドに押し付けた。先手を打っておいたのがよかったな!
「じゃあポッド、挨拶よろしくな」
「ほいほい。……あー、トレントの事で面倒をかけてすまんな。代表してワシから礼をさせてもらう。ありがとう、それでは乾杯! ギャアアアア!」
乾杯! と叫んだ瞬間に根に薬草汁をぶっかけておいた。挨拶が長かった時の為にと用意しておいたが、まぁいいだろう!
そこからはいつものように騒がしく酒を飲み、おいしくスライム君の料理を頂く。
気を取り戻したポッドに小言を言われたが、笑って誤魔化しておいた。
「そういえばさ、ポッド」
「なんじゃ? こっちは今力を放出しとるんじゃが……」
少し体を揺らすように、今日は一段と賑やかに聞こえる葉の音が騒がしい。
「いやケンタウロス達がさ、ポッドの実が欲しいって。少しあげたら? 今日は頑張ってくれたんだし」
それまで賑やかに騒いでいた席が一気に静まり返った。どうしたんだろうと視線を向けると一斉に何処かへ視線を移してしまうケンタウロス達。
「うーむ、そうじゃな。今なら二個くらい渡してやってもいいぞ。丁度誰かさんのせいで力が有り余っとるしな。で? 誰にやればいいんじゃ?」
「うーん、頑張った人にあげるっていう約束はしたけど、皆頑張ったからなぁ。人数分用意できないだろうし、悩ましいね」
ピンと空気が張りつめる音が聞こえたような気がする。その空気を切り裂くように、俺の肩に腕が伸びてきた。
振り向くと、何人もの顔を真っ赤に染めているケンタウロス達が群れを成している。
そこから、今日どれだけ頑張ったかのアピールをされたのだが、皆頑張ったのは変わらないので、この世界のジャンケンのような物で一番になった子が一つ。
あともう一つは途中まで殆ど一人で穴を掘り続けてくれたペイトンに、という事に決まった。
一番を取った金髪の若いケンタウロスの女性は、興奮して酒を飲みすぎたようで、酔った勢いで実を食べてしまった。後日悲しまなければいいけどなぁ。
トレントの方の問題は何とかなったし、次は有翼人の少女……ルゥシアの問題か。
忘れてなければいいが……。
その日の最後に、酒が少し回った辺りで酔ったラヴィーニアにパーカーを自慢された、これまた酔っぱらったアナスタシアが俺の所にやってきて、酔った勢いで「私にもよこせ!」と服を奪われた。
お酒って怖い。




