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魔王様、顔怖いです。  作者: ふかづめ
異世界の街にデビューとまだまだ集まる仲間達
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第22話 わたる世間はオーガばかり

 宿屋の受付嬢の子に色々聞いてみた情報によれば、モンスターの皮等の素材は店ごとにより、値段がかなり変わるようだ。自分の足で稼げという事なのか。


 その代わり、魔石のレートはほぼ変わりないので、店を選ぶ基準は場所が近いとか信用できるとかそういった直接的な理由が殆どらしい。


 ならば、先に行くべきは魔石の買取店だな。

「それなら、各エリアにあるよ。あと魔道具通りにならいっぱいあるかな。超レアな魔石とかがあれば高く売れるからそっちじゃないと買い取ってくれないみたい。まぁそんな魔石見た事ないけどね!」


 彼女はハキハキと喋り、とてもわかりやすく説明をしてくれる。

 魔道具通り……、ちょっと楽しそうだな。余裕があれば行ってみたいが、難しいだろうか? 素材買取とかがとんとん拍子に行けば或いはというところか。


「ありがとう、じゃあ行ってみるよ。うまくいったら何かご馳走するね」と頭を軽く下げておいた。

「いいよ気にしないで! ご馳走してくれるなら飲食通りの甘食でいいから!」


 わかりやすいお土産のリクエストありがとう。

 うまくいったらねと答え、宿を出た。


 まず教えてもらったオススメの魔石買取店にやってきた。

 両開きのドアを開けると、店内は少し薄暗い。奥にはカウンターがあり、そこには片眼鏡をかけた初老の男性がいる。その男性はこちらを一目見ると、「いらっしゃい」としゃがれ声で接客をしてきた。


「買取お願いします」

「あいよ、魔石出してもらえるかな」


 サイドバッグから魔石の詰めてある袋を出し、彼の前に置く。

 彼は袋の口を開け、中身を一つ一つ丁寧に取り出し眺めるようにして、次々にカウンターに置いていく。

「どれもそんなに貴重な物でもないけど、量がいいね。少し色をつけておこうか」

 と呟いている。

 魔石自体そんなに使い道があるのだろうか。少し聞いてみたいけど、ここで聞くと足元見られかねないから少し黙っていようかな。


 袋から淀みなく魔石を出しては鑑定している男性の手がピタリと止まった。

「おお、こりゃ闇属性の魔石か。随分珍しい物を持ってるな。あんまり出回らんぞこいつは」お、これは幸先良さそうな発言……!

 しかもあれはブリアンリザードの魔石!! どんだけ幸運のトカゲなんだよ!


「じゃあ高く買い取ってもらえたりしますか?」

「いや、そりゃない。こんなもんに金を出すのは奇特な奴くらいしかおらんぞ」


 ありゃ、ダメなのか。何故だろう?


「貴重なのに、買取してもらえないんですか?」

「闇属性の魔石は確かに珍しいんじゃが、使い道がまるでない。火や水の魔石は生活に使えるし、土や樹属性の魔石は農家に渡されたりと使い道があるんじゃが、闇属性は殆どそれがないからな。買い取る店の方が少ないぞ」


 あらら……。まぁ、使った時に魔石の周りが少しだけ暗くなっただけだったしな。

 仕方ないか。宴会芸的なノリでゴブリン君達にちょっと最低な使い方を見せた時は本気で怒られたし。


「じゃあ売れないんですね」

「いや、これなら魔道具扱ってるところに持っていけば買ってくれる奴はいるかもしれん。少し安くしていいんならワシが買い取ってもいいが、お前さん、金が入用のようじゃしな」

 男性のモノクルがキラリと光った気がした。そのレンズの向こうの紫の瞳にじっと見据えられる。あらら、見抜かれてるか。


「バレましたか? 足元見られそうだったんで、あまりバレたくなかったんですが」

「ふふ、これでもこの商売で長い事食ってきたんでな。そこそこ人は見てきたつもりよ、それでどうする?」


 うーん、悩ましいところだけどなぁ。 

「んー、まあ、ここで売りますよ」

「おや、いいのかい? 足元見るかもしれんぞ。先程お前さんが言ったようにな」

 男性は少し意外そうな顔をしている。まぁそうだろう。


「ええ、損をしたことがわかれば二度とこの店を使わないだけですし。それが一番店にとって痛手になるでしょう? あと長い事この商売やってきたという言葉から、信用を大事にする店の可能性も高いですから」

「うむ、まあ魔石の取り扱いは国である程度定められているしな。そういう騙すような事をする店は早い段階で客が遠のくからすぐ潰れちまうよ。お偉方の手入れが入って没収もよくあったことじゃ」


 魔石なんて便利素材を国としても放っておく事もできないだろう。

 それに魔石等に対して全くの素人が掘り出し物を見つけたり、掘り出し物で儲けようなんていうのはほぼ不可能だ。うまくいったとしても時間もかかるし、労力に見合ってない事も多い。


「まあ、こういった店の方がその石の売り先も心当たりがあるでしょう。俺が持って魔道具店を練り歩くよりも効率的ですし」

「うむ、正直言うと欲しがる奴に心当たりはあるが少し人間嫌いな奴でな。あんたじゃ門前払いだと思うよ」

 カカカと笑い、楽し気な男性。

 彼は一通り魔石を見終わると、袋に戻しながらこちらに視線を戻した。


「これ全部で金貨三枚。大分色はつけてやったぞ。勿論次に魔石を売りにくるならここと思わせれる金額じゃ。どうする?」

「じゃあそれでお願いしますよ。こちらもいい情報聞けましたから、損をしてても構わないですし」

 闇の魔石はあまり価値がないと確認できた。

 まぁ損をしてたとしても次に生かせばいいだろう。次あるのか知らないけど。


「じゃあちとまっとれ。金もってくるからの」

 男性はそのまま、カウンターの裏の出入口に入っていった。

 看板娘のオススメの店だったが、何故だろう。


「ん?」――何か視線を感じる。


 見れば、男性が進んでいった出入口から、こちらを覗き込んでいる子供がいる。

 五歳か六歳くらい? の細い金の髪を横で束ねた女の子が顔をこちらに覗かせている。何か用かな。


「おっさん、たびびとか?」

 開口一番のおっさん呼ばわりに少し傷ついた。まぁおっさんか、この子からしたら。

「うん、田舎から出てきたんだよ。今日街についたばかりでね」


 近くに寄ってきて、ほぉーと声を出している少女は、先程の男性と同じ紫色をした眼差しで上へ下へと忙しくこちらを見ている。

「それ、キレイだな」と俺の左手のお守りを指差している。

「これ? 友人がお守りですってくれたんだよ。宝物なんだ」

「宝物かー!すごくキレイ!」


「そっか、それなら友人にお礼を言わなきゃな。教えてくれてありがとうね」

 気軽に頭を撫でるような事はしない。小さい女の子に接触は禁物だ。そうしていると先程の男性が戻ってきて、その手にトレイのような物を持っている。トレイには布が敷かれ、その上に金貨を並べてある。


「おや、リリ。ここにきちゃいかんだろう。ほれ、戻りなさい」

 リリと呼ばれた子を優しく諭すように頭を撫で、戻るように男性は促した。

「はーい、おっさんまたねー」

 元気に手を振ってくれる彼女に軽く手を振り返す。


 男性は頭を掻き、少し照れた様子で口を開いた。

「悪いな兄さん、好奇心旺盛な子なんだ」

「いえ、子供は元気なのが一番です。それに、このお守りの事を褒めてくれましたからむしろ嬉しかったですよ」


 腕を出し、それを見せるようにすると男性が少し目を見開いている。

「これは中々いい品じゃな。石もそうじゃが、この細工がとても丁寧にされておる」

「友人から頂いたお守りなんです。宝物ですよ」


 男性は少し優しい手つきで撫でるように腕のお守りに触れると「そうかい」と微笑んでくれた。そうだ! 長い事ここで商売やってるなら少し聞いてみよう。

「あの、この辺で色々な素材を買い取ってくれるお店とか商会ってありますか? できればここのように優しい店だと助かります」


 男性は片方の眉を吊り上げ、目を瞑り考え込んでいる。

「ううむ、そうじゃな。やはり商業エリアの元締めのゴダール商会かね。あそこなら色々な物品を扱うし、目利きも知識も一流じゃ。価格も足元見る事なく、公平に扱ってくれるじゃろう」

 おお、いいな。

 その商会の場所と特徴を聞き、男性にお礼と別れを言って店を出た。

 少し時間をかけてしまったな。急がねば。


 街の中央に再度訪れ、袋にお金が描かれている看板のある通りにある一番高い建物……。あれか、中央に程近い場所にある店はどれも立派な建造物だな。


 いよし、やってやる。

 店の前で少し気合を入れて息巻いていると後ろから声を掛けられた。


「あの、何か御用でしょうか?」

「え!? あ、すみません。邪魔でしたね」


 慌てて振り返るとそこには女性が立っていた。

 容姿端麗な顔立ち、美しい佇まいに艶のある黒髪を垂らし、優しく鼻を擽る香水の香り、白い街に負けないくらいの純白のドレスとつけている装飾品にも気品を感じさせ、纏う空気が高貴な身分だと思わせる程の貴婦人はこちらを見て微笑んでいる。


 彼女は口元に手を当て、少し楽しげに話をかけてくる。

「フフ、店の前で頑張っても硬貨にはなりませんよ。中で頑張ってくださいな」

「す、すみません。何分田舎者なもので、緊張してしまいまして」

「あら、そうなのですね。なら私がご案内して差し上げますね。どんな物をお持ちなのかしら?」


 ん? この人もこの店の関係者なのかな? 商人には全く見えないが。

 貴族だと言われれば納得してしまう程だ。


「あ、はい。モンスターの素材を各種と、少し特殊な物がありまして……」

「あら、そうなの? あちらに応接のテーブルがございますから、そこで落ち着いて話を聞かせてもらえますかしら?」


 中に入り気づいたが、入り口付近のカウンターに座っている青年二人が直立不動になっている。婦人が手で座れというような仕草をすると彼らはこちらに深々と一礼し、そのまま座り直した。

 おっと、これはやばいぞ。この女性どう考えてもお偉い人だ。


 俺は促されるまま椅子に腰を下ろし、俺の正面に彼女も座る。

 この椅子も飾り気はないが主張しすぎる事のない存在感と、座るとわかる上質な素材。細部に至るまで素晴らしい物だ。

 俺と婦人の間に置いてあるテーブルも高そうだし凄い場違いな感じがして萎縮してしまう。俺はゆっくりと鞄を開き、一つ一つテーブルの上に出していく。


 彼女は持っていた青い革製のポーチのような物からケースを出し、そのケースの中から眼鏡を取り出した。

 細い金の縁の眼鏡が彼女の目元に収まると、一つ空気が変わった気がした。


「魔物の素材が多いようですね。中には珍しい物もあるようね。これは楽しみだわ。それに……」彼女はそこで言葉を止め、俺の鞄を見ている。

 流石にバレるだろうな。この鞄の性能も。


 いくつか素材を見ながら、こちらの挙動を見逃さないかのようなその視線はかなりの重圧で、小市民の俺の手がプルプルと悲鳴を上げ、じんわりと涙を出すように汗が出てきている。


「あら、これもまたいい物ね。欲しがっている人もかなりいるし」

 ブリアンリザードの牙と皮にやはり好感触を示してくれた。


 もう、ここで出すか。アレ。

 俺は多大な重圧の中で、少しだけ湧いてきてしまった好奇心に抗うことをせず、一つの拳大の鉱石を彼女の前に置いた。


「一番の目玉はこれです」

「これは……? 私も商品になるような鉱石にはそれなりに知識を持っていますが、あまり見た事ないわね。一体どこで手に入れたの?」


 俺は無言で首を振った。教えるつもりはないし、教えたところでどうすることもできないだろう。だって嘆きの山の鉱石だし。


「私の知り合いの方も、この鉱石を見ても正確な事はわからないと言ってました。ただこの鉱石、価値はそれなりの物だと俺は思います」


 女性が「手に取っても?」と言っているので、どうぞと手で促す。

「不思議な色をしていますね。でも少しくすんでいるようにも見える。研磨することでどんな輝きになるのでしょう。少し胸が躍るわ。でもそんなに価値があるのかしら?」


 彼女は試すようにこちらを伺っている。踏ん張らねば。


「ええ、その鉱石はとてつもない強度を誇る岩塊の一部で、恐らくですが貴方の知り得る鉱物の中でも有数の物だと思いますよ。その大きさの鉱石でも使い道はあると思います」


 彼女は石を検分し続けている。

 好感触なのだろうか? 崩れる事のない美しい表情からは読み取ることはできそうにない。


「実証の仕様がありませんが、それを加工し、作られた武器や防具、装飾品に至るまで間違いなく一級品と呼ばれる物になると言えます」

「随分と自信があるのね?」

 彼女はレンズの奥から強い視線を覗かせる。顔立ちのいい人はこういう時得だよなあ、様になるし。


「ええ、ご納得いただけるなら貴方の知り合いの鍛冶師のところへ赴き、一緒に話をさせてもらいたいくらいです」


 正直言うと自信なんて全くないし、根拠も有る訳じゃない。

 ただ、人間はおろかあの魔王ですらどうしようもないという嘆きの山の強度を信じているだけなのだ。


「そう……。さてどうしようかしらね」

 彼女は頬に手を添え、少し首を傾げて鉱石を見ている。立ち居振る舞いから結構な年齢だと思うが、そうは感じさせない風貌。

 ずるい。


「私は今日を入れて三日は街に、四日目には街を出ます。それまでに判断を下されるというのはどうでしょうか? こちらも他に仕入れておきたい物が多々ありますので」

「そうね、では二日後の夕方にこちらに来てもらえるかしら? それまでに少しこれを貸して頂けるかしら?」

「いえ、それは貴方に差し上げます。どうやら気にしてくれているようなので、どうぞ心行くまで調べてください」


 ふふふ、と少し楽し気に笑っている婦人。

 幼いようにも見える。可愛げのある笑顔だが、先程までの重圧を思えば少し恐怖すら感じてしまう。


「あら失礼、長い事商売をしていても、こうして知らない物を見ると少しはしゃいでしまいます。ではこちらの素材の代金は少し待っていてください。この鉱石の分少しおまけしておきますよ」とにこやかに答えてくれる。

 彼女はカウンターの男性を呼び、紙に何かを書いてそれを渡した。


 暫くすると、執事の服をきた年配の男性が一人近寄ってきた。

 こちらも歩き方や、所作全てに気品を感じさせまさに執事と言わんばかりの立ち居振る舞いである。

 セバスチャン! この人はセバスチャンと呼ばれなきゃおかしい!! そんな印象を抱かせる男性。


「ゾフィーア様、代金の方をお持ち致しました。グスタール金貨三十枚です、お確かめください」

 うーん……? 金貨……!? 三十枚!?

 銀貨二枚で宿一泊飯付きだから、もし銀貨百枚で金貨一枚というレートなら一月以上ここに滞在できちゃうぞ! それが三十枚!

 小金持ちやないかい!


「ええ、確かに。ではこちらの方が素材の料金……どうされました?」


 少し呆気に取られていただろうか。彼女はこちらを心配そうに見ている。

「あ、ああすいません。少し大金だったもので、思考が働いてませんでした」


 それを聞いた彼女は少し楽しそうに続けて答えてくれた。

「ふふふ、言ったじゃありませんか。おまけをすると。セバス、内訳を軽く説明して差し上げて」

「ハッ」


 セバス!! セバスだよねやっぱり!! その風体でセバスじゃなきゃ嘘だよ!!

 一人で興奮してセバスを見ていると、彼は表情一つ崩す事なく説明を始める。


「各種モンスターの皮が全部で金貨八枚と銀貨五十枚、ブリアンリザードの皮が金貨九枚と銀貨五十枚、牙が金貨五枚に銀貨六十五枚となっております」


「あれ? それだと三十枚にはいかないのでは……」

 くすくすと手を口に当て、笑いを隠している婦人。

「それはオマケです。私のポケットマネーですからご安心を。それに……」

 彼女はチラリ、こちらの鞄に視線を移した。

「まだ何か隠し持っているようですしね、そちらを見せてくれる時の為にサービスをしたまでですよ」


 彼女はそういうと再度微笑んできた。美しい笑顔だ、恐ろしい。

 ありがとうございます、と目の前に置かれた金色のコインを財布にしまう。


「あら、確認しなくても大丈夫かしら?」

「ええ、そんな野暮な真似はしませんよ。とてもいい取引をさせてもらいましたし」


 あらあらと眼鏡を外した彼女の印象がまた柔らかいものに戻る。

「ではまた二日後に来ます。どうされるかはその時にお聞かせください」


 俺は彼女達に深々と頭を下げ、店を後にした。



 ――「ゾフィーア様、如何されますか」

 セバスと呼ばれた執事が問う。

 彼女、ゴダール商会会長ゾフィーアは久々に面白い物を見せられて楽し気になっている。それもこれも、この鉱石の為だ。

 ミスリルでも、白金でも、銀や鉄とも勿論違う。だが削られた部位から見せる輝きはどの金属よりも白く見え、美しい。


 ――これをもし、加工したらどうなるのか――

 彼女はその興味が心から溢れるのを止めるのに必死だった。

「セバスニャン! すぐに鍛冶街の会長の所に行くわよ。用意なさい!」

「フフ、ゾフィーア様、素が出ておられますよ。はしたのうございます」


 そう言われ、彼女は取り繕うように「あら、いけない」と我に返る。

「淑女たるもの、逸《はや》るのはよくないわね。でも時間がないの。急ぎましょう」

「ええ、そういうと思い、既に手配は終わっております」


 彼女はにこやかに「流石ね」と彼を称えた。

 早く! 早く! この鉱石の本当の姿が見たい!

 一人の少女に戻ったゾフィーアが鍛冶街の会長の部屋の扉を蹴破るのは、それから僅かな時間の後の事だった――

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