第140話 赤い宝石
うようよ、うごうご。そういった効果音がまさにピタリとハマる程に大量の、それはもう大量のカニ、カニ、カニ。
ゼルシュ達リザードマンが大量に運んできたカニは今、水を入れた水槽へどんどん放り込まれている。しかし、そんな彼らが持ってきたカニは俺の知っているサワガニと姿形が酷似しているが大きく違う点が二つ。
「見テ見テ! ウガー」
「ホァー、デッカイ!」
「アハハッ! おもしろー!」
まず大きさ。アリヤが持ち上げ、ベルやシー、ルゥシアなど子供軍団に遊ばれているカニは俺の知っている物と違いとにかくデカい。
川で獲れたのだからサワガニの筈なのに日本で見たカニよりもデカいサイズが百、下手すれば二百を超していて、リザードマン達の手によって水槽の中へポンポンと放り込まれている。
そして大きさよりも目を引くのがもう一つの違う点。
このカニは今日の快晴の空と見紛う程に青い。生存戦略の中でそう進化したのか、どうしてこうなったと言ってしまいそうな程に真っ青。
それ以外の特徴、姿形は知っているカニそのものなのだが……。
キラキラとしている、やり切ったぞと自慢気なリザードマン達には悪いがあの真っ青なカニは食べられるのだろうか……? とその青味に不安を掻き立てられてしまう。
そして当のカニ達は水辺から離れ、馬車で運ばれてきたのにも関わらず力強さと生命力に溢れ、元気に動き回ってリザードマン達の手を焼かせている。そんな問題のカニ、あくせくと働いてくれているリザードマン達以外の場所にもまた別の波紋を起こしている。
「ほ、ホリ……? あ、『アレ』、ホントに食えるのか……?」
「ホリさん、わ、私は遠慮しておくわね……?」
「ヒィッ、水槽から出てきたぁ!」
普段はあまり動じる事のないアナスタシアを始め、レイやオラトリに至る大多数が、そのカニ独特の見た目に恐怖を感じてか安全な距離を保ち、その動きに敏感に反応して一喜一憂している。
リザードマン達を手伝っているのはオスのオーク達のみ、それでもペイトンやプルネス始め、ほぼ全員のオークがおっかなびっくりとやっているので見ている分には面白い。
とりあえず、元気に動き回っているあのカニの様子なら食事の時までに死ぬような事も無さそうだ。その間に少しでも食えるようにしておくとするか……。
「ト・ルース、ちょっといいかな?」
「はいはい、どうしました?」
鞄から水槽のついた荷車をもう一台出して楽し気にゼルシュやリューシィを眺めていた彼女に話しかけ、定期的にカニを移し替え綺麗な水に入れておきたいと伝えると、彼女は顎を爪で掻きながら少し考えこんでいる。
「それは構わないんですがねぇ……。ホリ様、アレどうやって運びますかい? 相当な重量があると思いますがあの通り皆怯えちまってますよ」
「あー……、そういう時はアレだ、無理矢理命じちゃうか」
ちらりと怯えた種族に視線を向けながらそう呟くと、どうやら彼らには俺とト・ルースの声が聞こえてしまっていたみたいで揃って顔を背けられてしまった。
リザードマン達だけでたっぷりと水が入った水槽付き荷車を長い距離曳かせるのは酷だから、どうにか手を貸して欲しいが……。
「アナスタシア?」
「……」
「レイ?」
「……」
「ねえ?」
「……」
一人一人面と向かうように声をかけてみたが、全員がそっぽをむいた状態で沈黙を貫いて固まっている。そんなに嫌か……。
「仕方がない……、イヤな事をさせるのもアレだし運べる人員だけで何とか頑張ろうか。ゼルシュ達に踏ん張ってもらって……」
「ホリ、ホリ」
後ろから声をかけてくると共にうりうりと鼻を押し付けてきたフロウ、そして隣には彼女の姉妹達が二匹並んでいる。
「私達も手伝えるわよ、リューシィ達と代わる代わるなら多分行けるはずよ」
「そっか。ありがとうねフロウ、他の子も無理はしないでね? ……ん? あれ? フロウ、カーリンは?」
綺麗な緑の毛並みをわしゃわしゃと撫でさせてもらいつつ、ここにはいないカーリンの事について聞いてみるとフロウが笑いを堪えつつ自身の母犬がいる方へプイと顔を向けた。
彼女が指し示した先には、リーンメイラの青い毛並みの中に顔を突っ込んで長い尻尾を足の間に挟みこんでいる何かの姿が見えた。
「フフフッ、カーリンはアレがダメみたいよ」
「そっか……、それならやれる人員だけで運ぶとしようか。食えるかどうかもわからないアレを……」
そう、一番大事なところはまだ分からないままこれを運ぼうとしている俺達。正直、かなり分の悪い賭けのような気もする。毒の有無、食べられるかそうでないか、食べられたとして美味いのかそれともマズイのか。
頑張ってカニを水槽に詰めているリザードマン達には悪いが、カニの事は無かった事にしたいというのが本音。
しかもあの量をこれから悪路の中、持って帰るというのは何とも気持ちが乗らない。
「ホリ? どうしたの?」
「うん? ああ、ごめん。よし、考えていても仕方ないな。当たって砕けるとしようか。フロウ達、今日は拠点に戻ったらお風呂淹れるから頑張ろうね」
せめてこれから頑張ってくれる彼女達を労う為にと言った一言で、ぶわりとフロウや他の姉妹達の尻尾が揺られている。それを聞いて気合も一入の彼女達はカニを見ても特に嫌悪感のような物を見せていないし、安心して任せられるな。
うりうりと彼女達の頭を一度撫で、運送が出来る人員を纏めてからゼルシュ達の下へとやってきてはみたが、やはりカニがデカい。
しかしデカい以上に青すぎる、嫌味なくらい青い。毒絶対あるってコレ!! と叫びたくなるくらい青い。
「ホリ、大体は積み上げたぞ。すまんな、持って行った荷車ではこの量が限界だった。目一杯積んでは来たが……」
「お疲れゼルシュ、皆も。量はまぁ足りるとは思うよ? 一匹一匹がこの巨大サイズだし……。取り敢えずここにいつまでも居る訳にもいかないし、カニの鮮度が落ちてもいけない。道中で数回、水槽を入れ替えながら出来る限り早く拠点に戻るとしようか」
ピン、と力強く尻尾を空に向けているリザードマン達を労いながら、カニが逃げ出さないように水槽に蓋をして帰路についた俺達、運搬をしないと無言でアピールしてきた種族達が、流石にそれでは申し訳ないと帰り道を先に行き、少しでも通りやすいようにと突貫工事のように道を舗装してくれているおかげで多少は運び易かった。
それでもやはりこの大荷物、重量も相当な物なので苦戦を強いられたが普段はこういった事はしないハーピー達ですら手伝ってくれた事もあり、何とか遠目にポッドが見える場所までやってくる事が出来た。
「ふぅ……。おー、もう少しだ! みんながんばれー!」
「オォー!」
「今日はこれで宴じゃー!」
「今日も食うぞー、飲むぞー!」
「イクゾオー!!」
赤らむ空、振動によって水槽から零れる水でびしゃびしゃになっている俺達ではあったが士気が下がるような事も無く、むしろ運んでいる内に何故かどんどんテンションが上がり一丸となってやっていたカニの運搬ももう終盤。
整備された道までやってきたところでアナスタシア達とは別れて行動をして、彼女達はもう一度整備をし直すと道を固めに戻っている。
ゴール前で最後にもうひと踏ん張りと大声を出し、俺達は威勢の良さと共に勢いそのまま力強いゴールを遂げた。やはり結構きつかった、それは運んでいたほぼ全員がトレントの並木道のすぐ傍でへたり込んでしまい、地べたに寝転がって体を休めてしまっている事からも察せられる。
「オー、お前らオカエリー。遅かったな!」
「アッ、王女サマダ!」
「王女サマ、タダイマデス!!」
疲労困憊の俺達を出迎えたのはまさかのムスメ、周りには魔王やツマの姿はない。彼女はどうやら一人でやってきたようだが……。
「ムスメさんお久しぶりです、こんな状態ですみません。今日はどうされたんですか?」
「ンー? パパとママが魔界最強オシド・リ夫婦決定戦の決勝で当分城にいないからヒマでな! 来てやったぞ!」
相変わらずよくわからないイベントを頻繁にやっているな魔界……。
俺がいないタイミングでもツマやムスメがよくやってきているのは知っているが、彼女がこうして一人で来るというのも珍しい。
「オー? オマエラ、進化したんだなぁ。んー……」
「ドウデスカ! アリヤ達ノビボー!」
「ツイ最近、進化シタンデス!」
彼女は駆け寄ってきたアリヤ達を見て、口元に指を立てて何やら少し考え事をするように首を傾げた。アリヤ達も彼女に少し大人になった姿を見てもらおうと胸を張っている。
「結構デカくなったけど、一人前のれでぃーとしてはマダマダだな! せめてこれくらい……」
彼女がそう言葉を口にしたその時、不思議な事が起こった。
目の前にいた小柄な少女の手足、体つきがみるみると成長を始め、にょきにょきといった感じで少女の姿から一人の超美人な女性へと進化していく……!?
その光景に呆気に取られ、頭が真っ白になっていたほんの僅かな時間で彼女の顔立ち、体付きは大人の物へと様変わりしてふわりと髪も伸び、背丈も俺よりちょっと高いくらいまでになった。
そして何より注目すべきはどことは言えないが母親譲りの立派な物……。何て破壊力してるんだ……ありがとうございます!
「まぁ、私くらいになったら一人前だな。精進しろよ、お前ら」
「ハイ!」
「ヤッパリ王女サマニワマダマダ敵ワナイカー!」
はしゃいでいる彼女達、体は大きくなっても仲の良さが変わる筈もなく何やらモデルのようなポーズをして遊んでいる。
しかし、あの姿だと何というか両親と似た迫力でとんでもないな……。
「それにしても、あれは何だ? 随分と大荷物じゃないか」
「カニデス! ホリ様ガ食ベタイッテ!」
「イッパイイルンデスヨ!」
「カニィ……? 聞いた事ないな」
そうだ、彼女に意識を取られて忘れていた。まずはカニを何とかせねば。
水槽付き荷車のすぐ傍でその中身に興味津々なムスメにアリヤ達がカニの模倣をしてどういった生物かを説明している。
「他にも呼び方はあると思いますけど、私が知っている呼び方はそれくらいな物で……。これからこれが食べられるかどうか調べないといけないんですよね」
「ふーん……」
彼女の、魔王譲りの黒い瞳がじっと水槽を見つめている。こうして大人になった彼女を見てみるととんでもない美貌だ。魔王に似なくて良かったですねと言うべきか、ツマに似て良かったですねと言うべきか……。
ゆっくりと水槽の積んである荷車の周りをぐるりと回っている彼女とは別に、俺の告げた言葉に反応したのは並んでいたリザードマン達だった。
「エッ!? ホリ、コレ食べれないかもしれないの!?」
俺の告げた言葉にそう反応してきたリューシィ、そして驚きの表情で俺を見つめる輸送を手伝ってくれた人達には悪いけど、そろそろ正直に言わないといけないか。
「うん……。実はそうなんだ、ごめんね? これからまず俺がト・ルースとポッドとペトラに見守ってもらいながらコレを食べて毒がないかまず調べないと……」
「そう……、か……」
レギィがぽつりと呟いて肩を落とし、責められても仕方のない俺の告白に声を荒げるような事はしない彼らではあったがもしかしたらこれだけ頑張ったのに食えないのでは? と不安そうな面持ちをしている。
「おぉ、毒味ならスライムに頼め。あの子なら毒があるか一発で判断してくれる。美味いかどうかの判定も出来るからな! その癖スライム自身は毒なんて効かない。全く、仕事の出来るスライムだ!」
「ゴ都合シュギ!」
「ソレジャア、僕スライム連レテキマスネー!」
駆け出したベルやシー、それを追いかけたアリヤを見送りながら、しゅるしゅるとムスメが小さくなっていく。
「ヨーシ! それなら私も一応見ていてやるから、ホリにイヘンがあったら助けてやるよ!」
いつもの見慣れた姿になり、がしりと握り拳を作って気合を入れている彼女。
彼女の協力とすぐそこにいるポッド、そしてスライム君の毒味と俺自身の毒味があれば何とかなるだろうと思うが、これだけの量のカニ、もし食えないとなったらそれこそどうしたらいいんだろう……。
流石にムスメ以外のほぼ全員がかなり汚れているので、カニを運んでくれたリザードマン達を始めとする輸送メンバーには風呂に行くように指示をしておいた。
程無くしてやってきたスライム君、彼はベルに抱き締められた状態で突然連れて来られ、何だ何だと不思議そうな様子でプルっている。
「スライム君、突然ごめんね? ちょっと俺の知っている素材に近い物があって、毒があるか調べたいんだ。俺と一緒に毒味、してくれる?」
アリヤに抱き締められているスライム君の体を撫でつつそう問いかけてみると、彼は触手を伸ばしてサムズアップをするように了承してくれた。
スライム君を下ろしたアリヤ達にも風呂の準備をしてくるように伝え、残ったのはトレント達、俺やムスメ、スライム君と大量のカニだけとなった。
「さて、と……。じっくり料理を、と言いたいところだけど食えるかどうかを調べるとしよう。スライム君、あの魔道具出せる?」
ポン、と高く跳ね、触手の先を発光させると料理器具とコンロのような魔道具の姿が。スライム君が出した魔道具を興味深そうにムスメが見ている内に俺は出来る限り水の魔石で出した水を使い体を綺麗にしておいた。
「よし、とりあえずゼルシュに出してもらっておいたコイツを茹でるとするか……。見れば見る程青いコイツを……」
長い距離を荷車に載せられ揺られてきた筈なのに、元気いっぱいに動く真っ青なカニ。
この青さ、見ている分には正直あまり食欲が沸かない。
魔道具コンロの火に鍋をかけ、水が沸騰したタイミングでうごうごとしているカニを放り込んでみるとあっという間にカニはその動きを止めた。
どうやら熱に相当弱いようで、ぽっくりとお亡くなりになったカニに手を合わせておくとしよう。
「オォォ……? おい、ホリこれ」
「はい? 何で……、何じゃこりゃ……!?」
小さく戻った体を伸ばすようにして鍋を覗き込んでいたムスメの声に目を開いてみると、鍋の中では不思議な事が起きていた。
鍋の中で茹でられた真っ青なカニ、鍋に入れる前に見せていた青空の色はまるで日が沈む直前に差し込む夕陽のように赤くなり、そこからもう少し茹でるとその姿は真っ赤に染まってしまった。
「こりゃ……、もしかしたら……」
頭の中を逸る気持ちに支配されてしまいそうになるが、必死にその気持ちを抑えつつ煮えたぎる鍋の中からカニを取り出してみた。
水から上げると尚の事真っ赤な、立派にカニ!
「ズイブン色かわったなー」
「そうですね、私にはこの色合いの方が親しみがありますが……。ちょっと切ってみます」
スライム君が出してくれた道具の中から短刀を取り、足の一本を切り落とそうと試みてみたが……尋常じゃない程に硬いこのカニの甲殻、以前に購入したこの料理用の短刀ではまるで歯が立たず、何とか出来ないかと強めに短刀を振り下ろしたりしても傷が入っているように見えない。
「こりゃ、このナイフじゃ厳しいか……。とは言え、鋏はないしなぁ。……ん? スライム君、コレ使っていいの?」
下から服を引っ張られ、そちらを見てみるとスライム君がいつの間にか包丁ケースを出し、その中から一番大きな一振りの包丁を取り出している。
彼の手からそれを受け取ると経過を眺めようとしている様子、恐らくだが彼もカニに興味が尽きないのだろう。
スライム君とムスメが見守る中で受け取った包丁を軽く振り下ろしてみたが、やはり高級品は違うという事だろうか? それ程苦戦する事も無く切り分ける事が出来て、その素晴らしい切れ味を誇るようにきらりと輝く包丁につい息を漏らしてしまう。
「コノナイフが今ならナント……」
「この切れ味なら買っちゃうなぁこれは……!」
ムスメの発言につい頷いてしまったが、今はそれよりも目の前のカニ。どぎつい色の身をしているかもしれないという一抹の不安もこうして切り分けた事で霧散した。
切り口から見えるカニの殻の中、詰まっているその身はまさに純白。
その赤と白のコントラストに期待が高まり、胸を震わせつつ関節の節の部分に包丁を入れ、子供の腕くらいの太さがありそうなカニの足の殻を割り、剥いてみると中からその白い身が全容を現した。
「オォー」
「こりゃ立派だこと……」
巨大な身がぶるん、と殻から飛び出るように姿を現して、印象としてはとても食べ応えがありそうな綺麗な代物ではあるが毒があればそれも期待外れ。
少し緊張してしまうがスライム君の目前にカニの足を持っていくと、彼はいつものように丸ごと食べるような事はせず、身の先の方を少しだけ吸収するように食べている。
いつもと違う慎重なスライム君の一挙一動を祈りを込めて見守っていると、彼は一度動きを止め、どうしたのかな? と思った次の瞬間にカニの殻の部分を摘まむように持ち上げていた俺の手から、殻ごとカニの身をその魅惑の体に取り込んだ。
彼はカニを取り込むと暫くの間その場でじっと動かず、そのぷるぷるの体の中ではカニの身が徐々に、じわりじわりと消化していく。
「スライム君……? 大丈夫? どう、かな……?」
彼の体内からカニの足が消えたタイミングで声をかけてみると、スライム君は置かれていた包丁を握り、俺がやって見せた時よりも軽快にカニの殻を剥き始めた。
そしてまたもぶるん、とカニの足から剥き出しの身が生み出されると、次にスライム君はカニの身を俺の眼前に持ってきた。
「えっ、と……?」
「『毒はないから大丈夫』って言ってるゾ! 食ってみろって!」
知っている物と似て非なる、ある意味では未知の食材。『毒はない』と言ったスライム君、そして例え何があってもムスメやポッドがいるというある意味盤石の態勢ではあるが、それでも怖い物は怖い。
精神安定の為に一度カニを持っているスライム君を撫でさせてもらい、今日も素晴らしいぷるみを堪能してリラックス効果を得たところで彼が持ち上げているカニの身を思い切り頬張ってみた。
「ん、んー、ん……? んー!」
獲れたて、茹でたて、まさに新鮮なカニのぷりぷりとした強い弾力の食感と口に広がる甘味、一度噛むだけで身の中から旨味が飛び出て、その大きな足から生み出される食べ応えもさることながら、絶妙な旨味を醸し出している。
「うまぁぁぁぁー!!」
つい感動が抑えきれずこのカニの感想を夕方の空へ叫んでしまったが、カニを持っていたスライム君は元気にポンポンと俺の反応を楽しんでいた。
この味を知ってしまったらむしろあの量で足りるのだろうか? 拠点に居るハラペコ達があの水槽に収まっている量で……。むしろゼルシュ達があれだけ獲ってきたのは良くやった! と言える程の味わいだぞこれは……。
「スライム、スライム! ワタシもワタシも!」
俺の反応を見て興味と好奇心が振り切れたムスメ、スライム君の体をポンポンと叩き催促をすると、俺と同じようにスライム君から差し出された大きなカニの足に齧り付いた。
「……? ん? ンンン~ッ!?」
醤油などの調味料を一切使用していないのにこれだけの味わいを生み出している美味しいカニにどうやら彼女は魅了されてしまったようで、手足をばたつかせている。
カニという物を知っている俺ですらこの弾力と旨味にこれだけやられているのだ、カニを知らない彼女にこの味と食感は新感覚だろう。
一通り味わい、多少興奮したご様子の彼女は笑顔で感想を伝えてきた。
「おいホリ! これ、これンッ……マイなぁあッ!!」
「ええ、堪りませんねこれは。私の知っているカニと比べるのも失礼な程に美味しいカニですよ。これは大変な事になりそうだ……、ねえスライム君?」
今日は予感が良く当たる。
この味、この食い応え、まず間違いなく俺とスライム君は大変な目に遭うと予感させるこの目の前の美食。そして俺が感じている第六感めいた物はスライム君も感じているようで、彼は既に頭にねじりはちまきをして気合を入れている。
「ようし、こうなったら皆にはたっぷりとカニを味わってもらうとしようかスライム君。カニなら焼きに天ぷらに、とにかく生はダメだけど料理方法はいっぱいあるから頑張らないと!」
俺の声に反応してポンと高く跳んだスライム君、そして何故かその隣でこれまたいつの間にかスライム君と同じようにねじりはちまきを巻いたムスメ、何やら気合を入れているが……。
「オー! ヨーシ、ワタシも手伝ってやるよ!」
スライム君を抱きしめてそのまま荷車に向けて駆けだしたムスメ。
まぁ、彼女の事はスライム君に任せておけばいいか……。前にアリヤ達が『ムスメを制御できるのはスライム君だけ』って言ってたし……。
「おいホリ、ナニしてんだ! とっととヤルゾー!」
「はーい! 今行きますよー!」
威勢の良い彼女の声をスタートの合図として、俺とスライム君とムスメの三名は山のように居るカニへと立ち向かう事となった訳だが……。この二人が色々と常識外れというか、ズルいと思わせるほどに有能な手腕をまざまざと見せつけられながら俺達は宴会の準備を進めていった。




