第120話 蛇の女王
「うわァ……、アレとか見なさいよォアナスタシア。顔中から何か垂れてるゥ」
「いや、流石に酷いなこれは……。もしあんな顔をして気を失っているところをホリに見られたらどうする?」
少し痛む頭と自身の心を落ち着かせるように、めり込んでしまった鉱石の板に頭を預け、深呼吸をしていると「鉱石の板を外し、中へ突入する前に相手の状態を確認する」と言い出したアナスタシアと、俺の反応を見て興味が沸いてしまい中を覗き込んだラヴィーニアの二人は中の惨状に眉を顰めていた。
俺も先程まで見ていた中の映像、うすぼんやりとした光源から垣間見えた地獄絵図。
恐らく、俺より暗い場所で視界の取れる二人にはもっと酷い物が見えるのだろう。
「ラヴィ、僕モ、僕モ!」
「アナスタシア、アリヤモ見タイー!」
二人には刺激が強いと判断したのか、アリヤとベルにせがまれた両名は中を見せようとはしなかった。どうせ後で中に入る時に見る事になるのだから、早いか遅いかの違いだと思うのだが……。
「よし、それじゃあ四人共どいてくれる? 板退かしちゃうから、いらない心配だとは思うけど充分に警戒しようね」
鞄の口を鉱石板に押し付け、そのまま収納をすると洞窟の奥から流れ込んできているのであろう甘い匂いに襲われる。
「うわっ……、これはペイトン達に離れるように言っておかないと流石の薬草汁でも厳しい物があるかもしれないな。甘い匂いが濃すぎて咽そう……」
「クサッ!」
「何ジャコリャ!」
隣へやってきたアリヤ達もその匂いに顔を背けていたり、中の光景に驚いていたり。
板を取り払い、出入口から差し込む光で見える範囲にまるで敷き詰めたようにゴロゴロと半人半蛇の女性達がそれはもう酷い有様で倒れている……。
「それにしても数が多いな……。二十……、三十くらいいるのかな? この人数に待ち伏せされていたら流石に厳しい物があったかもしれないな」
「どちらにせよ連中は気を失っている。殺すにしろ生け捕るにしろ、絶好の機会だぞ。あっ、姉様! 糸なら私が出します!」
オーガ達やリザードマン達やミノタウロス達に、俺に声をかけてきたレリーア達などがロープや糸を使って次々と捕縛をして担ぎ出しそれを受け取ったケンタウロス達が蓑虫状態や先日見た面白オブジェ状態になったラミアを荷台に次々と放り込んでいる。
やっている事、完全に人攫いだよなぁこれ……。
自分達の行為をあまり深く考えず、ずしりと重い面白オブジェを運んでいると蹄の音を響かせ、数名のケンタウロスと共にアナスタシアがこちらへとやってきた。
「ホリ、私と他数名でこいつらを拠点に運んでおく。これ程の数が早々に捕まえられたのだ、この拠点にどれだけの数がいるかはまだ不明だが荷台に乗せたまま放置しておくわけにもいくまい。後の事は任せたぞ」
「ああ、うん了解。道中気をつけてね、丁度このラミアで目についた倒れていた人は最後だから。拠点の方にもまだ増えるかもって伝えておいて」
わかった、と頷いて荷車を引き始めたケンタウロスの歩く速度に合わせて追従するように歩き出したアナスタシアに手を振って別れた後、ラミアの巣の内部に捉われているであろう亜人の救出に乗り出す為に一度集まってもらった。
「これから洞窟の奥へ行くわけだけども、全員で行くわけにもいかない。ペイトン達は間違いなく無理だろうし、リザードマン達にも数名匂いで感覚がおかしいと体調不良を訴えた者もいる。場所が場所だけに少しでも不安な要素は排除していこう。他にも、少しでも自分の調子がおかしいと思った人は待機、無理だけはしないでね?」
気分が悪くなる程に濃い甘い匂い、更には自分達の天敵のような存在が生み出す匂いを嗅ぎ続ける事になっているリザードマンの女性達の中には吐き気を催している者もいる。
そうでない者も、少々興奮状態というかピリピリとした空気を一層強くしているし、もしかしたらこの匂いは女性相手だと操るという効果はない物の、挑発して行動を手に取り易くしている副次的な効果もあるのかもしれない。
リザードマン達の中で参加出来そうなのは唯一リューシィのみ。
彼女はト・ルースの教えがあるのか他の者よりも症状は軽い。苛立ちも時折見せてはいるが少し時間を置けば落ち着きを取り戻すので大丈夫だろう。
俺の言葉に続いて、待機組の指揮を執る事になったペイトンが全員に聞こえるような声量で指示を出し始めた。
「それでは突入組はオラトリ殿の方へ、待機組は私の方へと来てください。まずは先程見つけた骸を葬り、その後準備を始めます。最悪、大量の亜人を運び出す事になるので、色々と道具を用意しておきましょう。ついでなので出来ればこの辺りの木を伐り出して拠点へ持ち帰りたいのでそちらも並行して行います。シュレン殿、辛いでしょうが一緒に来て亜人の身元を確認してください」
「わかりました。よろしくお願いしますペイトンさん、皆さんも。種族を代表して、こうして労力を割いてくれる事お礼を言わせてもらいます。本当にありがとうございます」
ペイトン達はまず最初に亜人の弔いをやるようだが、その事に対してここに来るまであまり喋らなかったシュレンが少し悲痛な面持ちで頭を下げてきた。
そしてその元気のなくなった彼女を奮い立たせるように、ティエリが軽く胸を叩いて笑顔を見せる。
「よーし! シュレンさん、トレニィアお姉ちゃんからしっかりと手伝うよう言われてきたから、私頑張るよ!」
その元気を分けてもらえたのか、少し笑顔を見せたシュレン。彼女達は大丈夫だろう、こちらも気合を入れ直さねば。これからの行動の人数比としては突入側に四割、ペイトン側に六割といったところか。
「オラトリ、俺も突入側に参加するけどよろしくね。足手纏いにならないように頑張るから」
「ええ、ホリ様の事は私が全身全霊でお守りします。ですが決して油断なさらないでください。敵の拠点の中心部へ行くのです、出来うる限りで細心の注意を払いましょう」
俺や、他の突入班全員に言い聞かせるように言うオラトリの言葉に全員が頷き陣形などの話を一通り話し終わったタイミングで、一度ペイトンにも声をかけておいた。
「それじゃあペイトン、行ってくるね。収納鞄を渡しておきたいけど、何があるかわからないから持っておきたいんだ。戻ってきたら荷物を纏めるからそのつもりで」
数人がかりで近くに生えていた木を早速と一本切り出し、それを使い筏のような物を作り始めているペイトンが一つ頷いた。
「ええ、必要な物は出してもらいましたしこちらは大丈夫だと思います。ホリ様、一緒に行けなくて心苦しいですが、十二分に注意してください」
彼の忠告を心に刻み、作戦会議が終了した突入班と合流し俺達はそのまま甘ったるい匂いを放ち続ける洞窟へと足を踏み入れた。
数名のケンタウロスやフロウが洞窟の内部に魔法で風を送り込み、空気を循環させていたがそれでも匂いの発生源が相当強力なのか、焼け石に水。効果はあまりなかったようだ。
侵入した内部の構造、ラミア達が倒れていた場所を中心として何本もの横穴のような通路が奥へと続いている。
どれが亜人達のいる正解の道かは勿論わからないので、虱潰しに探そうという事になり端から一つ一つ奥まで進む事になった。
先頭を行くシーやレリーアを筆頭とした索敵班がゆっくりとしたペースで進み、その後をついていく事になった訳だが、一歩、また一歩と奥へ行くとその匂いも闇も深くなり、流石に腕輪への信頼も揺らいできた。
「これ、普通だったらかなりやばいんだろうね。ただの洞穴だと思ったら意外と広いし深い、この暗闇の中で誰か一人でも操られたりとかしたら対処も難しいだろうね」
「ええ、本来ならばそれに加えて先程捕らえたラミア達が居る訳ですし、これ程容易にはいかないでしょうね」
「それにですね、ホリ様……」
先程、鉱石の板に穴を開けている時に話しかけてきたオーガの女性が壁の確かめるようにしながら壁のあちこちを軽く叩いている。
「この壁、というより恐らくこの洞窟自体が作られた物です。魔法で固められて強度を確保していたり、こうなってしまって相手には不憫ですが音を反射させやすくしたり、自分達に住みやすいようにされているようです」
「魔法ってそんな事も出来るの? 凄いねぇ、洞窟まで生み出せるんだ」
「いえ、その認識は少しだけ間違っています」
オーガの女性の観察眼と魔法の利便性に感心していると、隣にいたオラトリが首を振った。何か違ったのだろうか?
「この洞窟恐らくですが……、人工で作られているかと」
「えっ、どういうこと?」
彼女に視線を移すとオラトリは手にしていたランタンを頭上に掲げ、まだ先のある通路の先を睨みつけている。
「大柄なアラクネ達も易々と通れる通路、先程大量のラミアが倒れていた場所、どれも不自然なまでに広く作られています。洞窟を大地深くまで作るのは魔法でも相当高位な物を要します。更には壁にも魔法を施している、この規模の洞窟を作るには何度かに分けて魔法をかけたか或いは……」
「フフフ、捕まえた奴らを使ってェ、穴を拡げたかよォ?」
「つまり、全部を魔法で作り上げたんじゃなくて、誰かに掘らせて出来た穴を魔法で頑丈にして棲み処にしてるって事? そりゃまた……」
似た様な事をやっている身としては、他人に掘ってもらうというのは羨ましい。うちのは家屋以外全部一度俺が手を加えないといけないからな……。
ラヴィーニアが洞窟の深さと匂いに辟易、という様子で人の頭の上に圧し掛かるように顎を乗せて、前にいて警戒をしているメンバーの一人であるレリーアに声をかけた。
「それにしてもォ、他所の穴倉を一個一個探すのは面倒ねェ。通路はあと幾つあるのォ?」
「あと二つほど、です姉様。敵の影は見えませんが、亜人の姿も見えないというのは何故でしょうね? ホリはあとで殴る」
「いや、何でやねん。ラヴィーニアがやってる事でしょ、そっちを怒りなさいっ、って何今の音……」
よくわからない嫉妬と怨嗟の目を向けられて言葉を返している最中に、今進んでいる通路の更に奥、深い闇の中から身の毛もよだつようなよくわからない音が俺達全員の耳に入ってきた。
「どうやら、『ココ』の通路がアタリのようですね……」
ぽつりと呟いたオラトリの言葉に、警戒班が一度こちらを見て頷いてきたのでより一層慎重に行く事を決心して頷き返すと、彼女達はそのまま振り返り先へと歩み出した。
洞窟自体深いというよりは広い、という印象。
空気も籠っていて暑く、先にある未知と恐怖により汗が滴るが今は構っている場合でもない。少しでも気を抜いたら、恐怖に負けて挫けてしまいそうだ。
先程まで飄々としていたラヴィーニアも珍しく真剣な顔つきで先を見ているし、他の面々も時折大きく息を吐いて自身を落ち着けようとしている。
それから距離としてはそれほど長くは歩いていないが、全員が時折やってくる音に気を揉まれ、それに警戒していたため奥に行きつくまでにそれなりの時間を要してしまった。
奥には一体何が……? 無意識に息を殺してしまう程の恐怖に負けまいと先行しているシー達の背中を追うと、奥にぼんやりとした光が見えてきた。
そして光が見えたと思いきやまた何かの音、叫び声……? のようにも聞こえるが、洞窟に反響している為か正確な事はわからない。
まるで何か別の匂いを隠すかのように奥へ、その光の場所へと近付いていく度に強くなるこの甘い匂い。あまり気にしていなかった様子のオーガ達ですら、鼻を押さえたり布を当てたりと、対策を始めている。
光の漏れていた場所、そこは入ってきた時にあった広場と同じくらいの広さを有しており、俺達が通ってきた場所からは少し深さがある。
一度横の壁から天井までを見回してみたが、ここだけは内装の作りもしっかりとしていて何かのホール会場のようだ。
「うっ……」
闇の中、近くから誰かの呻き声が聞こえ、数名の仲間達が何かを見下ろしながら口元を手で押さえてそれ以上息が漏れないように押さえている。
「どうした……? おぅふ、これはひどい」
一段と強く、まさに発生源はここだと示すように下から巻き上がってくる甘い匂い、そしてそれと同時に匂いの中心にいる巨大な物体が、俺が見下ろしたと同時に先程から聞こえてきた音を出していた。
「何だあれ……? 生き物……? にしてはデカいな、クイーンサイズじゃないにしろ、そこらのトロルより二回りくらいはデカい……」
「寝ているのでしょうか? あれ程レイさん達が騒音をまき散らしたというのに……?」
「ホリさん、あそこみてみて」
レイとフォニアが指し示した先には薄汚れた、かなりやつれた様子の亜人達が十数名いる。ただ、暗くて正確な事はわからないが、それでも何も言わずにその場に立ち尽くしている亜人達はゆっくりと頭を左へ右へと揺らし、様子が可笑しい事が分かる。
「あのコーヌって子の仲間か……? にしてはおかしいな、聞いていた話じゃ男の方を大事にするような口振りだったけど、あそこには女性の方が多いぞ?」
「どうやら、あの場所にいる者以外は死んでいるようです。この空間の、あの巨大な生物の周りの端々に亡骸が落ちています」
死臭や、腐敗臭を誤魔化す為にこの臭いを強く放っている、という訳でもなさそうだ。もし仮に目の前の巨大な何かが生き物だったとして、死体を放置している場所で寝ているのだから匂いを気にするようなタイプではなさそう。
「下へ降りる道も無さそうだ、また面倒だなこれは……」
「如何しますか? ホリ様」
灯りを頼りに壁を伝って降りるにしても、円を描いているようなこの空間の丁度真ん中にいる存在が動き出さないとも限らない。その時に無防備な状態になっている事は避けた方が良いだろう、何か良い方法はないかな……?
「おぉ、そうだ。ラヴィーニア、レリーア、二人に手伝って貰いたいんだけどちょっといいかな?」
「何かしらァ? とっとと終わらせてもう帰りましょォ」
「何だ、聞くだけは聞いてやるぞ」
彼女達なら壁面を歩いていける、音も気配も殺す事にも長けている。
あの中心にいる相手にも気づかれる事なく、あの亜人達を連れ出せるのではないだろうか? と聞いてみたところ、彼女達の反応は暗い。
「ホリ、最初に説明しておく。お前が見ているあの巨大な物の正体は恐らくラミア、そして間違いなく女王だろう。恐らくだが、これ以上近付けば即座に反応して目を覚ます。我らは気配は消せるが振動は無理だ、壁を歩いた時の足音一つの振動で奴は動き出すに違いない」
レリーアがいつになく真剣な面持ちでそう告げてきたが、そうなると取れる手段も限られてくるし最悪戦闘は回避できないかな。
「そうなると、いっそ寝ていると思われる今の内に奇襲でもかけちゃうか? でもそれも最善って訳じゃないよな……」
「ヨッシャ! ヤッタルデー!」
「いったろーじゃん!」
あっ、と恐らく全員が不意の出来事に声を上げてしまった。
それもその筈、俺がつい思っていた事を口から出してしまった言葉を聞いたアリヤとフォニアは意気揚々と地面を蹴り出し、空高く飛び上がっていた。
「うぉぉうい! 気が早いよ!」
「ヒャッハー!」
「覚悟しろおらぁー!」
何時の間にか、フォニアの手には大きな槌ではなく先程、鉱石の板を叩く為に出した俺が鞄から出したハンマーが……!? ホント手癖が悪いなフォニア、用が済んだから鞄にしまっておいた筈なのにいつ取ったんだ?!
「そぉいっ!」
彼女達は勢いそのまま空を駆けるように、そして大声で気合を込めたフォニアはそのまま手にしていたハンマーを巨大な何かに向かって投げつけた! その威力により目標の何かからはぐしゃり、と肉が潰れるような音がこの空間の中に響き渡った。
「あれって……、決まったんじゃないの……? 流石脳ミソまで筋肉一族、手っ取り早く済んだんじゃ……」
「いや、そうでもないようよ」
俺の出したワードが引っ掛かったのか、自分達を『あの』脳筋と一緒にするなと言いたげな視線を送ってくるオラトリとその仲間達。いや、君達も大体あんな感じだよという言葉はグッと堪えて、リューシィが注視している物に視線を移す。
先程までと違い、明確に動きを見せたのは中心にあった物。
苛立ちを見せるように長く、大きく、そしてしなる鞭のような物を振り回した、と錯覚してしまいそうなほどの一撃をフォニアとアリヤに向けて放ち、その攻撃に見ているこちらは息を飲んだがその鞭を難なくと避けた二名。
二人に襲い掛かった鞭は勢いそのまま壁に激突をして、こちらにやってきた音と衝撃でつい驚いて尻もちをついてしまった、恥ずかしい。
「あんなのとてもじゃないが避けれないわ……、喰らったら死ぬな俺」
「ホリ様、貴方はここに居て下さい。下に降りられてもあのような攻撃をされたら守り切れません。よろしいですね?」
背中の十手に手をやって今にも飛び降りようとしている体勢のオラトリが振り向き様に言ってきた忠告に何度も首肯して返す、情けなくて申し訳ないがここから下に降りても邪魔になるだけだろう。
下に降りてしまったアリヤとフォニアの両名は蠢く相手に向けて既に武器を抜いて戦闘態勢へと入っている。ハンマーによる一撃も、衝撃や音は凄かったけど相手には大したダメージを負わせていないようだ。
「とりあえず、この暗さじゃ戦闘になっても不利だな。ありったけの魔石投げ込んでおくけど、下に降りて戦闘に参加する人は気を付けてね」
「わかりました。ラヴィーニア殿、他の者達も。ここは任せました」
「はァい、頑張ってねェ」
「ホリ様の事は任せて! 負けないでね!」
激励の言葉に笑顔で返したオラトリがそのまま空へ飛び出すと、続々とそれに続いていき俺とラヴィーニアと数名以外ほぼ全員が下に降りて行った。この数メートルはありそうな高さから飛び立ち、平然と下で着地をする彼女達は特撮ヒーローのようでかっこいい。
普通の人間がやったらまず怪我をするな、と息を漏らしながら蠢く何かを中心に光の魔石をばら撒いておいた。
鞄の中にあるありったけの魔石、光源になりそうな物、更に気を遣ってくれたラヴィーニアが下に降り立った者達が置いていった数個のランタンを糸で吊るし、かなり明るくなったこの目の前に広がっている空間。
その中心にいた『何か』とこの部屋の、円を基本とした空間の中央で広がっていた恐怖の映像についラヴィーニアに抱き着いてしまった。
部屋の中には、先程誰かが言っていたように死骸の数々、それも今しがた殺されたばかりというような血を流し続けている物もあれば、人の形を保っていない物まで多岐にわたる。
突然やってきたグロテスクな映像に、ついつい気分が悪くなってしまう。
「汚いわねェ。人の巣の事なんてどうでもいいけどォ、もうちょっと綺麗にしてほしいわァ。ホリィ、大丈夫?」
「う、うんごめん、少し気が遠くなったよ。薄暗いのとこの甘ったるい匂いのせいで大分やられてたのかな」
「ホリ様、お水です。少し心を落ち着けて下さい」
ミノタウロスの女性が出してくれた水をお礼を言って受け取り、込み上げてきた物を再度押し込むように水を流し込む。
ん? 美女が使っていたこの水筒……、そして何も考えずに直接口をつけて水を飲み込んだがこれは……!? そう考えたら一気に活力が湧いてくるな、そうかこれが魔法の聖水か!
彼女のおかげで心機一転する事が出来たので、今度は映像の残虐性に負けないようにと一度気合を入れて広場の中央を覗き込むと既に下に降りた者達は円を描くようにして中央に座していた生物を囲いこむように包囲していた。
真正面にいるオラトリやアリヤ達を睨み、そして自身が囲まれている事に忌々し気に顔を歪ませているココの主。ここまで来てようやくその相手の全貌が見る事が出来た。
「うわ、何あれ……トロル? マツ〇・デラックスかな?」
「なァにそれェ? やっぱりィ、あれがここのボスみたいよォ?」
ラミアという種族、ここ数日でしか見る事はなかったし大体そういう物だろう、というイメージとそれほど違ったりはしていなかったのだが目の前のアレは違う。
逞しい体つきとは対極に位置するような贅肉がぶよぶよとしている体、そして他のラミア達と違い尾の鱗もまるで長い年月をほったらかしにされてきたようにボロボロで薄汚れていたり、黒ずんでいたり、剥げていたり……。
それに女性とは思えないほどに肉でたるんだ顔、独特な眼鼻立ちや分厚い唇、荒れた肌……、髪もまるでコメディなほどに爆発していてごわごわとしている様子が見て取れ、近づいたらさぞ臭そう……。
「顔つきもどことなくトロルだよねあれ? 嘘でしょあれラミアなの?」
「特徴的にはラミアですが、あの体格はトロルと言われても納得ですね……。体の長さはトロルクイーンより上でしょうか? あのような巨大なラミア、見た事はありません」
俺から水筒を受け取った彼女と、相手に気付かれないように小声で話をしていると力強く地面を殴りつけたラミアの女王がとうとう口を開いた。
「主ら、何者じゃ……? ここを誰の棲み処だと思っとる、それにワシが寝ている時にいきなり小石のような物をぶつけてきおって……。死ぬ覚悟は出来ているのだろうなッ!?」
目の前のオラトリ達に咆哮を浴びせ、野太い声で恫喝するラミアの女王。
その迫力、威圧感、そしてその見た目、一切合切全てが想像の中や先日見た美しいラミア像を破壊していく。
「あれ、絶対オスでしょ? ねえ、オスでしょ!? ワシっていったよワシって!」
隣にいるアラクネやミノタウロスは俺の疑問にすぐに返せず、自分達の考えに自信を無くすように頭を抱えて唸っていた。
ようやく忘れる事が出来ていたトロルクイーンのグ〇コポーズが頭の中にちらついてきたのだが、この世界の女王と呼ばれる連中の見た目、想像以上にデカすぎだろ。
この世界の責任者出てこいよ! と腕輪に向かって念じて現実を逃避しておいた。




