第112話 兆し
姉さん、事件です。
ついそう叫びたくなるほど今、俺は混乱している。
異世界にやってきてから頭が真っ白になる事は多々あったが、今日この時ほどの衝撃はこれまで味わったことはない。何なら俺の生涯の中でも有数のショック。
強烈な光を浴びて視界を奪われ、恐らくホラーゲームでしか見ないような邪悪な顔をアップで見る事、それ自体でも心の中の何かがごりごりと削られていくのに、その邪悪な顔の主に熱いベーゼを交わされたと思いきや、激しい光によって目が眩んで潰れていた視界が戻ると、目の前から邪悪な顔がなくなった代わりに美少女に微笑まれていた。
グリーンの肌と落ち着いた色合いの青い髪というミステリアスな組み合わせ、ふんわりとした肩までありそうな髪。恐ろしく間抜けな顔をしているであろう俺の目と、彼女のぱっちりとした青い目が合うと、美少女はにこにことこちらを見て笑顔を絶やす事はない、正直可愛い。
独特な肌や髪の色はアレだけども、ちらりと顔を見せている八重歯チックな牙がいい味出している。朝にこの子に笑顔で挨拶とかされよう物ならその日は幸せになる事が確定するくらい可愛いし、何ならその場で惚れている。
いや、それはどうでもいいか。
目の前の問題、現実を見つめなければならない時が来ている。取り敢えず心を強くもつために深呼吸しておこう。
「スゥー……、フゥゥー。あー……、ベル?」
「ハイッ!」
ああぁ……、何でこうも現実とは無情なのか。
最後の可能性、ベルではないという小さな望みも絶たれた。残酷な神の仕打ちについ、目を瞑って夜空を見上げてしまう。
見た目がキツイゴブリンから美少女に変身したベルと素直に喜びを分かち合う事をしてあげたいのだが、脳裏に過ったのは過去のやらかし。
一発目は何だったかな? あぁそうそう、闇の魔石使って行ったファンタジーモザイクだったなぁ、次は酒宴の時にやらかした大層怒られた宴会芸。
目を瞑って思い返せば、出るわ出るわやらかしの数々。今すぐ青い狸さんと共に過去に戻って自分を鈍器で殴り致命傷を与えておきたい。もしくは語尾に「ナリィ!」とかつけるから天才小学生の生み出したタイムマシンでもいい、過去の俺を何とかしてくれ!
「ホリ様、大丈夫? 強ク掴ンジャッテゴメンナサイ」
「大丈夫ナリよ。随分様変わりしたナリね、ベル」
くぅ、ゴブリンとは認めたくないほど可愛い見た目。そしてこの子の性格が良いのは俺もよく知っている。完璧超人か!? 取り敢えず色々と落ち着こう、取り乱している場合ではない。
「ベル、ちょっとどいてくれるナリか? アリヤ達の様子も気になるナリ」
「アッ、ダメデス!」
起き上がろうとしたところで、ぐぐっと体に力を籠めたベルにより再度抑え込まれてしまった。
「今ダメデス……」
「どうしてナリ? アリヤ達が気になるナリが……」
顔を胸に埋めて小さく呟いたベルが顔を赤らめてこちらを見て、再度何かをもごもごと呟いている。
「今僕……、服着テナイデス。見ラレルノ恥ズカシイ」
「あー、そうだった……ナリ。ごめんね、気が動転してたナリ」
そうだった、気が動転していて頭も正常に働いていないがまずは落ち着かないといけない、ベルだって突然の事で気が気ではないだろう。彼の……、いや彼女の体を気遣っておかないといけない。もう一度しっかりと深呼吸をして、気をしっかり持たないと。
「ベル、そういえば寒くはない? 体は大丈夫なのかな?」
「ハイッ、タブン……、大丈夫カナ?」
「おっふ」
ベルと視線を合わせていた為、彼女が自分の体を確認するために見回した際に俺の体と彼女の体の間に何か柔らかそうな双丘が押し潰されて形を変えているのを見てしまった。
くぅ、いい仕事してますね……!
「大丈夫デス! ……? ドウシタンデスカ?」
「いや、何でもないナリよ。それじゃあ鞄から俺の服を出すからちょっと取ってくれるナリか?」
よくよく考えたら俺までパンツ一枚でいる必要はなかったんだよな、鞄の中に濡れていない服があったんだし。アリヤ達の事で頭が一杯になってて考えが至らなかった。
「はい、ベル。俺の服だから嫌かもしれないけど、少しの間コレ着ててね」
「ハイ、ワカリマシタ。アリガトウゴザイマス」
くわー、体臭が気になっちゃうお年頃としては拷問のような事になってしまう。
ちゃんと洗濯はしているけど「臭い!」とか言われて地面に叩き落とされたらスライム君に慰めてもらうとしよう。
恥ずかしいという事なので、両手を使い目を覆っている間にベルに俺の服を着用してもらった。これでようやく自由に動ける。
「チョット、大キイデスネ!」
「ああ流石にサイズが合わないだ、かぼぱんっ!!」
体に圧し掛かっていた重量が無くなり、手を動かして目に入ってきたのはかぼちゃパンツ。ズロースやドロワーズと言われる物を至近距離で見る事になるとは……。
「カボ……パン……?」
「何でもないナリよ。さぁ、アリヤ達の様子を見ようナリ」
手をベルに向けて何でもないという意思を表示しながらも、美少女のかぼパンショックに多大なダメージを受けてしまったようだ。気が休まらない、ただでさえ疲れているのにどうしてこんな事に……。
「あの蛇女ども、絶対許さんぞ……!」
「……? アッ!? アリヤ!!」
俺が痛む頭を手で押さえている時にベルの慌てるような声が耳に入ってきた。
ああ、これ以上の情報はこのポンコツ脳みそでは処理しきれない。だがまだ可能性はある、アリヤがイケメンになっている可能性もある筈だ! フツメンでも、何なら多少味のある顔になっていても、アリヤとなら生涯の友として歩んで行ける!
一抹の不安と、一握りの期待を胸に一度大きく深呼吸してベルの方へ視線を……、移す!
「ああぁぁぁぁぁっ……」
そうだよね、わかってた。
ベルが手を貸している推定アリヤなのであろう、これまた美少女が頭を押さえて起き上がっている。緑色の肌という共通点はある物の、ベルの落ち着いた色合いの青い髪とは違う燃えるような濃い赤のショートヘアーと、同じように燃え上がる赤い目がベルを見つめている。
これで罪がまた一つ重くなった、と心を苛まれている俺とは関係のないところで忙しなく事態が急変し続けている。
「アッ! シーモ起キタ! ホリ様、シーモ起キタヨ!!」
「ホリ様ハドコニ……? ホリ様、何シテルンデスカ?」
きょろきょろとしていた美少女、くりっとした綺麗な目と俺の目が合うと心を射貫かれるような感覚に陥ってしまいそうになる。彼女の瞳には恐らく神と仏と魔王にジャパニーズ謝罪スタイルを捧げている俺の姿が映っている事だろう。いけないいけない、ここで立ち止まってはいけない。
その間にベルが新たに駆け寄った場所には落ち着いた栗色の髪と黒い瞳が特徴的な美少女が起き上がっていた。その彼女とも目が合うとこちらに向かってにこりと笑い、小さく手を振ってきた。
「はぁぁぁぁっ……!」
もう流石に分かる、だってあの手の振り方シーだもん。
流石にやばい、シーとは一緒にいる時間が多くて色々なやらかしを見られている。まず一番に思い浮かんだのは嘆きの山の上から用を足した時の事。
まだ全然人がいなかった時は「まぁ、ええやろ!」くらいの感覚でやらかしまくっているのをシーはずっと横にいたから見ている! 流石に大きい方をするような開放的な人間ではなかった事に感謝しておくべきか!?
「だからあの時目を手で覆って恥ずかしそうにしてたのかぁ……。ツレションしようぜ! とか言っちゃって。ハハッ、俺マジピエロ」
今日もお空のお月様は綺麗だなぁー。
でも、あれ? おかしいな、何だか今日のお月様は滲んでいてよく見えないや。
ああ、地面冷たいなー。
「ホリ様、ホリ様ッ!」
「おぐふっ!?」
赤髪の美少女、推定アリヤが仰向けに寝ていた俺のところへいつものように飛びついてきたのだが成長した重量により思いがけない破壊力の体当たりが腹に落とされた。
どうやら先程までの影響は残っていないようだ、それだけは本当によかった。
「アリガトウ、ホリ様ノ声……、聞コエマシタ。助ケテクレテアリガトウ」
「うん、とにかく無事でよかったよ。体におかしいところはない?」
おかしいところしかないだろう。
セルフ突っ込みを心の中でし続けているが、目の前の赤髪の美少女はベルが巻き付けた布しか着用していないので、少しセクシーな状態のまま俺に抱き着いて少しつり目なお目目に涙を溜めてこちらを見ている。
うーん、何だろうこの状況? しかしこれ以上取り乱すのもアレだな、疲れた。
ここはもういつものように撫でて宥めておこう。
「大丈夫デス! グスッ、オ腹ヘリマシタ!」
「それなら良かった。飯か……、あーそういえば俺達昼に軽く食べてそれっきりだったね。ベルとはさっきお菓子を摘まんでたけど、出来ればちゃんと食べたいなぁ……。なんかあったかな?」
「オ菓子!?」と、最初は喜んでいたが既に無くなったという事が分かると、俺の胸の上からベルへ唸り声のような物を上げて少し視線を強めているアリヤ。
アリヤとは別の方向から同じ様な視線に晒され、少したじろいでいるベルはぽりぽりと頭を掻いて苦笑している。その様も美少女がやると絵になるな。
食べ物か……。鞄の中には朝スライム君が作った豆乳と、ワインが少々、後は果物と芋、干し肉くらいならあるからそれで何か用意するか。
アリヤに体の上からどいてもらい目的の物を探すとしよう、鞄、鞄と……。
「ブェックショイ!」
いかん、やはり寒いな。とは言え鞄の中にある布は全部使っているし、鞄の中にあった服もベルが来ているシャツのみ。
着ていた物は川に落ちた時に脱ぎ捨てたけど、そういえばラヴィーニアの作ってくれた布があったから槍で突かれても平気だったんだよなぁ。
水を吸って重くなると思って捨てちゃったけど後で謝っておくとしよう。
あっ!? ファッサァマントも捨てちゃったじゃないか! やばい、アレ貴重品なのに……、本当に今日はついていないな。取り敢えず体をさするくらいの事はしておこう。
「ホリ様、寒インデスカ?」
「うん、まぁね。川の傍だからかな? ちょっと風が冷たいし、ここ」
よくよく考えたら美少女達の前でパンツ一丁、おまわりさんこいつです状態なんだよな。異世界で良かった、流石のジャパン警察もここまでやってこれまい!
取り敢えず鞄から調理器具を出しておこう、火の傍で料理をしていれば寒さを感じる事も減るだろうし。
「んーと、調理鍋が二つあれば何とかなるかな……。後はシーのナイフがあるしひゃあっ!?」
突然の感覚に右肩を襲われ変な声を上げてしまったが、何だ!? 少し冷たい感触に振り返ると、栗色の髪と黒い瞳の美少女が抱き着いているのだが……大丈夫だろうか? ミノムシばりに小さな俺の心臓はそろそろ爆発しちゃうぞ?
「『コウスレバ寒クナイ』ッテ言ッテマスヨ! 僕モヤリマス!」
「アッ! アリヤモアリヤモ!!」
うーん、大変な事になってしまったぞ。
鞄から道具を出そうと腰を下ろして調理器具を出したまでは良い、どういう訳か背中、右肩、左腕に寄り添われて抱き締められている。
「うーん、この後コワイ人に身ぐるみ剥がれても仕方ない状況だな……。あっ、既にパンツ一枚しか着てないから大丈夫だわ」
「エッ? ナンデスカ?」
何でもないよ、と伝えてぷにぷにとした感触に負ける事なく、無心で鍋に火をかけ始める。今なら突然目の前に魔王が沸いてきたとしても「こんにちは、今日も恐ろしい顔ですね」と笑顔で告げられるほどに冷静だ。
「うーん、大した物は作れないけど三人の体調を考えたら少しでも体の温まる物の方がいいよなぁ。シー、鍋に水貰える? 芋を蒸かしたいだけだから少しでいいよ」
手にした鍋をシーの前に差し出すと、彼女ははにかむような笑みで頷きいつものように指を一本立てて鍋を指差した。
俺も一応修練の成果として火に続き水も出せるようになったが、あまりにも情けない水量とその勢いに、つい「小便小僧」という技名をつけてしまったソレは鍋に水を入れるのにも時間が掛かる。
リザードマン達の前、特にゼルシュとリューシィの前で使うとその情けなさから大爆笑されるので基本人前で使う事はないし、シーにやってもらった方が早いだろう。
シーが鍋に向けた指先からいつものように水が出て……と思った矢先、弾丸のような勢いで水の球が撃ち出され、その思いがけない威力と勢いに鍋を支えていられず地面に落としてしまった。
「シー……、やっぱり服破ったの怒ってる? 急いでいたのもあるからあれだけど、後でちゃんと謝るから怒りを鎮めて欲しいな……?」
右側にいる美少女は困惑するように表情を変えてぶるぶると顔を横に振っている。彼女が自分の手を一度眺めて首を傾げると、気を取り直したようにもう一度地面に落ちた鍋に指を差した。
その結果鉄製の鍋が一つ、カァン! という悲鳴を上げてそのまま勢いよく地面を転がっていってしまった。
「お前の料理なんて汚らわしくて食えないという事か……!? まさかそんなに怒っているなんて……!」
戦慄いてそう告げた俺の腕を想像以上に強い力でがしりと掴むと、高速で首を横に振っているシーは何が起きてるんだと首を傾げているアリヤとベルに視線を移し、言葉を伝えてきてくれた。
「ナンカ、『魔法ガオカシイ』ッテ言ッテマスヨ?」
「イツモ通リヤッテイルノニ、イツモ通リニデキナイミタイデス」
伝えてきた言葉を肯定するように力強く頷くシーからは混乱や困惑の感情が伝わってくるが、うーん? どういう事だろうか。
「もしかしたら、アリヤ達は成長した事で小さかった時よりも見た目だけじゃなくて能力も飛躍的に向上していて、今までと同じように出来なくなってるんじゃない? 判りやすいのが魔法とか、あとは力とか?」
「ウーン、ドウナンデショウ?」
「試シテミマスネ!!」
転がっていった鍋を拾いに行ったアリヤ、小走りするとどことは言えないが揺れているッ!? あれはいい仕事してますね……。
そのアリヤは鍋を拾い上げて両手でその両端を掴み気合を入れる。
ちょっと待って、と止めようとしたが時、既に遅し。
「フンッ! ……ワッ、ホントダ! ホリ様、凄イ力ガ出セマスヨ! ホラーッ!」
ぺちゃんこになった鍋をぶんぶんと振り回してこちらへ駆け寄ってくるアリヤ。美少女が駆け寄ってくるというありがたい事象ではあるが今大事なのはそこではない。
「それは良かったねアリヤ。それにしても凄いじゃない、こんなにぺちゃんこにしちゃうなんて!」
「エッヘン!」
俺の仮説を立証してくれたアリヤの頭を撫でて労をねぎらうと、自慢げに胸を張るアリヤ。うーん、これはC……。ベルも同じくらいか少し大きい、一番大きいのはシーというのは感触で判る。心のメモ帳に書き記しておこう。
ただそれとこれとは別なので大事な事を告げておこう。
「でもそれ、これから使うんだけど? あと、物を大事にしない子は後で薬草汁ね」
「エッ」
撫でられて嬉しそうに微笑んでいたのに、途端にあわあわと口を開き胸を張りながらガタガタと震え始めるアリヤ。見た目は変わっても中身はあまり変わっていない事に少しほっとする。
「まぁもう一つ鍋はあるからいいけど、それなら水の魔石使うか。シー達、少し体の調子でも見ておきなよ。もしかしたらもっと何か違いが出ているかもよ」
俺の言葉に頷いて少し離れたところで体を柔軟させたり、ぴょんぴょんとその場で跳ねたり、魔法を出したりと始めた三名は放っておくとして、アリヤが潰してベルに形だけでもと戻してもらった鍋で芋を蒸かそう。
芋は予め切ってあるし、時間もそれほどかからないだろう。その間に鉱石で作った串に干し肉を刺して火で炙っておいて……、と。
アリヤがバク転をしたり、ベルが飛び跳ねてあっという間に木に登ったり、シーが巨大な火の玉を生み出したりとしているのを眺めて拍手をしている内に下準備が終えられたので、豆乳の中へ蒸かし芋を投入して後はじっくりと煮立たせれば大丈夫だろう。
何度も味見をしているが、流石スライム君が生み出した豆乳の味付けは美味い。芋を入れただけなのに充分食べられるな。
肉の方は香辛料や塩が大量に使われていてとても辛い、水が欲しくなるほどに強烈な辛さを誇っているようなシロモノなので炙ったところで火にかけた鍋の中へ入れてしまおう。
アリヤはこのままでも食べたがるかもしれないな、ワインをぶっかけて一切れ焼いておくか……。
「よし、とりあえずこれでいいか。三人共、飯にしようか」
「ハーイッ!」
「オ腹ヘリマシタ!」
鉱石で作った容器にスープを入れて手渡すと、アリヤ達はそのまま火の傍に固まって座り込み早速とスプーンを使って口の中へ放り込んでいく。
「どうかな? 味はこれ以上どうしようもないけど、食べられそう?」
「ハイ、オイシイデス!」
「ウマーッ!!」
シーの様子からも食べにくいという感じではないのが伺えたので、取り敢えずこれでお腹を満たしてしまおう。
体の大きさに比例して食べる量も増えたのか? ワインをぶっかけただけの肉ですら平らげておかわりを要求されたので体の方は本当に大丈夫なようだ。
進化、と言っていいんだよな……? 進化をした影響はまだ片鱗しか感じ取れていないようだがやはり以前の小さい時とは全然違うという事らしい。
「それじゃあアリヤ達、前よりももっと強くなったんだね」
「ドウナンデショウ? マダ、ヨク分カラナイデス」
「『力コソぱわー!』ッテ前ニ王女様ガ言ッテタヨ! 強クナッタンダヨオレ達!」
まだ自身の変化に慣れないベルと肉を齧りながら王女の言葉を思い出して妄信しているアリヤ、静かにスープを飲んでいるシーと。
見た目が変わっても中身は変わらないのだな……。いきなり性格がガラッと変わられても困るけど。
夜も更けて、アリヤ達もおねむの時間がやってきたようで欠伸をしている。
疲労困憊のところに色々あり、なんやかんやでお腹も満たされたから俺も眠いし、夜の見知らぬ森の中をうろつくのは悪手だろう。今日はここに野営するか……。
「うーん、寝るとしても見張りか……。全員疲れているし、ここはもう少しだけ頑張って安心して眠れる場所を作った方が結果的に良さそうだ。皆、手伝ってくれるかな?」
グッ、と握り拳を見せてきたアリヤと続いたベル、頷いたシーと共に鞄の中の鉱石をフルに使った寝床を作り出しておいた。とはいっても、言ってしまえば天井に穴をいくつも開けたデカい棺桶なのだが、それでも直接地面に寝るよりは全然良いし、風も遮れる。
寒さで震えて眠るよりはこちらの方が良いだろう。彼らの新たな力により僅かな時間で大まかな物は出来上がった。
出入り口も中から閂をすれば侵入される事はない、強度は折り紙つきだしもし仮に何かに襲撃されても中でティータイムを楽しめる余裕がある。
「さて、と寝るとしよう。アリヤ達は……、あらら」
最後に出入口の閂を設置している時にはもう既に船を漕いでいた三名はすぐ傍にあった木に背中を預けて三人仲良く夢の中へ旅立ってしまった。
「可愛い子が三人並んで眠っている映像、しかも露出度高め。うーん……、金が取れるな!」
下らない事を言っていないで一人ずつ棺桶部屋に運び、最後に火の後始末が出来ているかを確認し終えたところで俺も……、あっ!
「俺もこの中で寝るって事だよな……?! 明日起きたら素っ裸でマのつくコワイ一族に囲まれてたりしないよな……!?」
一抹の不安を抱えながらも、いざとなればこの鉱石の棺桶から一生出ないぞという無駄な決心をして閂をかけた。
「ふぅ、明日どうなっちゃうんだよホントに……。というか、現在位置もわからないから遭難しないように気をつけないとな……。うぉっ」
いつもの事だから無意識に、アリヤ達からすればそうなのかもしれないがこちらからすれば少し挙動不審になってしまうような事が起きた。
両腕にシーとベルが抱き着いてきて、そして俺の胸の上にはアリヤが乗り込んで、心地よさそうな寝息を立てていたり寝言を言っていたりしている。
「世界ノ……、ハラワタヲ……」
「いや世界のはらわたってなんだよ、怖いよそれどうしたいんだよ」
無茶苦茶な寝言につい言葉を返してしまった、それが聞こえたのかはわからないがアリヤは「ファハハ」と仰々しく笑い気持ちよさそうに涎を垂らして眠っている。
俺パンツ一丁なんだけどなぁ……、まぁ仕方ない。
今日はこのまま耐えるとしてもう寝てしまおう。疲れているからか、眠気で頭がクラクラしてきてしまったし。
そう思って睡眠を取ろうとしてどれだけの時間が流れて行っただろうか、何でこの子達は俺の腕を離そうとしないのか。
それどころか、足で挟まれたり胸で挟まれたり事態は深刻な方へと流れ続けている。更に定期的に耳元で少し艶っぽい声や息遣いをしてくるし、こいつら起きてんだろ! と何回思ったかわからない。
よく眠っている三名、その中でも一番酷いのはアリヤだ。
こちらは身動きがあまり取れない、両腕もがっちりと拘束されているので動かす事は出来ない状況で顔に胸を押し付けられたりはまだいい。
それについてはこちらも幸せをありがとうとお礼を言いたいくらいだが、何故人の腹の上で寝転がりながら頭とパンツを交互に見せるように回転する寝相を見せたり、定期的に何かのポーズを取ったりしているのか。
お前は一体夢の中で何と戦っているんだと明日問い質してやろう。
「ああ、もう……眠れるかー!」
小さな叫びが簡易寝床の中に響くがすぐにアリヤの寝言で消されてしまった。
夢にまで見た美少女の添い寝、人生初の体験で分かった事は本当に疲れている時は静かな環境でゆっくり眠った方が良いという、至極当然の答えだった。




