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鬼畜眼鏡、現る




 日が傾くにつれて空は赤みを増し、夜虫の鳴き声が雑踏に紛れて徐々に大きくなっていく。夕暮れ時の広場は迷宮帰りの探索者が多く、持ち帰った報酬を分割していたり、迷宮での反省点を議論していたりと普段よりも賑々しい。ほとんどの探索者たちは体を伸ばしながら東地区の方へと流れていく。きっと提灯通りで一杯やりにいくのだろう。冷たいお酒のおいしい季節だ。


 私は3人掛けのチープなベンチに座って、ちまちまとたい焼きを齧って過ごしてる。広場の時計塔を仰ぎ見てみれば、時刻は午後5時を少し過ぎた頃。約束の時間まで約1時間前後。島でよく見かける丸くて緑色の小鳥(私は丸鳥と呼ぶ)が足元をうろついていたので、たい焼きのやわらかい部分を小さく千切っておすそ分け。丸鳥はぴぴぴぴと鳴きながらたい焼きを貪った。


 ぐるっと周囲を見回してみれば、広場には笑顔が溢れていて楽しげな雰囲気に包まれてる。けれど私はといえば奈落の底までテンションが落ちていて、周囲の陽気な雰囲気が今はとても恨めしい。運命の神のイタズラか、もしくは意地の悪い仕掛け人がいるのか、日々真面目に過ごしている私は何者かの罠にかかって心底悲しい気持ちでいっぱいだった。


 立てない。ベンチにお尻がくっ付いていて動けない。


 少し離れた芝生の上には『ペンキ塗りたて。しかもくっ付きます』と書かれている紙が落ちていた。きっとあの紙は元々このベンチに貼ってあったのだろう。私は見事にくっ付きました。おめでとう私。


 幸い背もたれには寄りかかってないので、ベンチにくっ付いてるのはお尻と太ももだけだ。何が幸いなのか分からないけど、とにかくお尻と太ももだけ。今着ている白ワンピースと黒タイツを無理やり破れば脱出できるかもしれないけど、それは完全に悪手。こんな人通りの多い場所でパンツ丸出しは避けねばなるまい。やっとこさこの半端なロリ姿に慣れてきたというのに、痴女属性までついてはもはやお外を歩けない。


 後1時間ほど待てば、ここにパニカさんとその子分二名がやってくる。林田くんは利発そうだし、私の今の状態を好転させるアイディアを出してくれるかもしれない。助けてくれるかもしれない。迷える子羊たる私は久しぶりに神に祈った。神よ、頼む。へっぽこ転生させた恨みを少しだけ忘れるから、私を助けてほしい。魔法属性無しな挙句に【身体強化】を覚えないひ弱な身体の半端ロリにした事は少しだけ水に流すから、頼む。


 未だ根に持ってる私は横柄に祈った。だが当然の事ながら神は救いを齎さず、私は広場のベンチでお尻をくっ付けている。




 トサッ、とベンチが揺れた。左隣をちらりと窺ってみれば、生真面目を絵に描いたような眼鏡の男性がベンチに深く腰掛けている。座っちゃったらしい。そうか、貼り紙もないし私が座っているのだから、まさかこのベンチがペンキ塗りたて(接着の付加効果付き)だとは思わなかったのだろう。私のせいだ。申し訳ない。気まずくてたい焼きをガツガツ頬張った。


「……夏の足音が聞こえる」


 なんか喋った。


 このベンチには私と男性しか座ってないのだから、これは私に話しかけたとみて間違いないだろう。チラリと男性を横目で見てみると、男性は夕暮れに変わりゆく空をぼんやり眺めていた。白い学生服を身に纏い、黒髪を七三分けにした人。て、この人、生徒会四天王の書記の人だ。


「……何処へでも行ける。そう錯覚していた、幼い頃に見たあの空だ」


 無駄にセンチメンタルな事言い始めた。人見知りな私にはどう対処したらいいのか分からない。これは空気を読んだ方がいいのか。お互いお尻がベンチに固定されたままセンチメンタルしなくてはいけないのだろうか。


「……今だって、何処へでも行けますよ。何処かへ行こうとする気持ちさえあれば」


 私は格言っぽいふわっとした台詞を紡いだ。どうだ。空気読んでやったぞ。書記の人は私の答えに満足したのか、フッとニヒルに笑って背もたれに深く寄りかかった。書記の人の接着範囲が広がり、私は沈痛な面持ちでそれに気づかないフリをした。


「……君は自由だ。街の何処かで現れては消えて、気まぐれに透明な翼を広げては世界の端まで飛んで行ける。そんな君の姿は多くの変……人を惹きつけるだろう」


 今この人『変人』て言いかけなかったか。言葉を詰まらせて言い間違えたみたいに装ってるけど、変人って言いかけたような気がする。


「……我々生徒会は、そんな君の止まり木になりたいと考える」


 言い終わると、書記の人は空を見上げたままゆっくりと目を閉じた。なんかこう、シリアスっぽい雰囲気を醸し出したいのだろうけど、このベンチの罠にかかってる時点で台無しだと言わざるを得ない。というか、何故か私は生徒会に誘われてるみたいだ。初対面のはずなのに私の事を知ってるのは、月刊チュートとかその辺の情報だろうか。


「……私は、人に馴染みません。移ろいゆく人の心は目まぐるしくて、私自身を見失ってしまうのです」


 人見知りをセンチメンタル変換して呟く。通じただろうか。書記の人はゆっくりと目を開けて、七三分けの頭髪を手櫛でオールバックにした。


「……人は誰しも、人との触れ合いによってその色を変えていく。多彩な心の色彩は、そのままその者の深みとなるのだ」


「そう、ですね。けれど、私はゆるりとした変化を望みます。四季が移ろうように。あの月が昇るように」


 生徒会なんて忙しそうなものは断固として断る。たまに愚痴を言いに訪ねてくる紅葉さんに沢山話を聞いてるのだ。ブラック企業は嫌だ。


「……夜の海辺の様に静かな居場所を用意しよう。君がいる、それだけで救われる者がいる」

「生徒会はいやです!」

「頼むアムネシア!副会長を大人しくさせるにはお前が必要なんだ!もう切られたくない!給料弾むから!!」


 毅然とした態度で断ったら悲痛な台詞が返ってきた。少し可哀相になってきたけれど、でも断る。私はパニカさんやレンジさん達とおっかなびっくり迷宮を進んで行きたいのだ。お金は最近儲けたし、足りなければキノコ狩りしてなんとかする。拘束時間が長い生徒会に入るメリットが無いのだ。ここは断固として断らねばと決意する。


「じゃあこうしよう!呼んだ時だけ来てくれればいい!副会長の機嫌が治ったら帰っていいから!勤務時間が1分でも固定額出すから!もう本当、本当に頼む!!」

「……それならいいです!」

「時給だって色つけるし調理部の試食も……いいのか!?」


 ノリで引き受けてしまった。私の決意は豆腐よりも脆い。書記の人が涙目で訴えるので、これ以上断り続ける事に気後れしてしまったのだ。人見知りで緊張するけれど、でもエステルさんと会うだけなら簡単な事だ。もし私が忙しければダブルモード(ロリ)で分裂すればいいし、拘束時間も短いだろうと思う。よし、大丈夫だ。問題ない。


 私の答えを聞いた書記の人は深く深く息をついた後、キリッとした顔を取り繕って空を仰ぐ。


「……必ず、アムネシアの好む静かな止まり木を用意すると誓おう。報せについては忍びを送る」


 今さらカッコつけられても。書記の人は取り乱した先ほどの自分を無かった事にしたようで、誤魔化すかのようにフッ、とニヒルに笑う。


「……話は以上だ。また会える時を楽しみにしているぞ」


 書記の人はニヒルな笑みを浮かべたまま立ち去ろうとして、しかし立ち去れなかった。そりゃそうだ。ベンチにくっ付いているのだから。書記の人はニヒルな顔のまま暫し悪戦苦闘して、徐々にその表情を困惑へと変えていく。気まずい。


 ガタガタと体を揺らして脱出を試みる書記の人に、私は芝生に落ちている紙を指さすことで現状を伝えた。ペンキ塗りたてで、しかもくっ付くのである。紙を見て察したらしい書記の人は、フッ、と笑みを浮かべた後、おもむろに顔を覆った。たぶんこの人はカッコつけたがりなのだろう、だからよけいに辛さ倍増しである。圧倒的羞恥。ベンチにくっ付いたままセンチメンタルした男。その辛さ、分かる。




「先輩~」


 気まずい空気の中、私達が座るベンチの元へヨモギさんがトコトコ歩いてきた。今日もいつもの白学生服で、頭に黒いお団子を乗っけている。ヨモギさんは私と書記の人を見比べて、キョトンとした表情を浮かべた。


「あれ?先輩とシアちゃんって知り合いっすか?なんかこう、意外性のあるペアっすね」

「……いや、アムネシアとは今日初めて言葉を交わした。以前紅葉が出した案を提案したらのんでくれたよ。今後は我々の救世主となる」

「あぁ!エステルさんの鎮静剤っすね!それ助かるっすよ~。特に女騎士道部の面子は泣いて歓迎するっすよ」


 私はお薬になってしまったらしい。ヨモギさんがにこにこと笑みを寄こすので、私もニッと笑って返事した。


「庶務、それよりも大事な話がある」


 書記さんが真摯な表情をヨモギさんに向ける。


「うちは定期報告しにきたんすけど、それよりも大事っすか?」

「ああ、緊急案件だ。まぁとりあえず座るといい」


 ヨモギさんが首を傾げながら私の右隣に座った。座ってしまった。


「……このベンチに座るとな、くっ付くんだよ。服が」


 ようこそ被害者3号。


 しれっと罠にかけた書記さんは空を仰いで遠い目をしてる。意味が分からないといった様子のヨモギさんがベンチを調べると、ものの見事に接着されたようで目を見開いて身悶えし始めた。ベンチを調べた際、憐れにも両手をベンチに乗せてしまったようで中々の拘束性を発揮している。口をわななかせたヨモギさんが隣に座る私を見るので、芝生に落ちている紙を指さすことで現状を伝えた。


「……こんのクソ眼鏡がァァァッ!!!!!!!」

「何て事を言うんだ。訂正しろ。俺の眼鏡は良い眼鏡だ」

「わざとっすよねぇ!?わざとうちを巻き込んだっすよねぇ鬼畜眼鏡!!」

「訂正しろ。俺の眼鏡は心優しき良い眼鏡だ」


 青筋立てたヨモギさんががなり立てるせいで、人通りの多い広場で注目を浴び始めた。生徒会四天王の二人はそもそも有名人だし、不本意ながら悪しき女児のおかげで私の顔と名前も広まった。普段から多用している【気配遮断】も一度注目されれば無意味なものとなる。つらい。


 無数の視線に晒されてるのに気付いたヨモギさんは、深く息を吐いて一旦は落ち着きを取り戻した。ただ、頬が引き攣ってるあたり内心の怒りはまだ収まっていない事は明らか。同情を禁じ得ない。


「それで……、これ、どうしたらいいと思うっすか?」

「破壊は悪手だな。衣服が持つとは思えん。ストリップは趣味じゃない」

「じゃあとりあえず人目の付かない所まで移動……は無理っすね。普段のうちなら問題ないっすけど、ちょっと力の入れづらい姿勢になっちゃってるんで」

「悪辣な罠だな……。これは美化委員か安全管理の仕事だろう。後でこの仕事振りの褒美をやらなければな」

「付き合うっすよ。うちも」


 二人が同じタイミングでため息をついた後、ぼんやりと空を仰ぐので私も空気を読んで空を見た。日が傾くにつれて赤い空がライラック色へと変わり、しだいに街の街灯が灯り始めた。



「……先輩。先輩の力でうち等を運ぶのはどうっすか?とりあえず事務所に行けば活路が開けると思うっすよ」

「ふむ。試してみるか」


 書記の人が指を打ち鳴らすと、突如地面に四つの魔法陣が現れた。ビクつきながら注視していると、光を放つ魔法陣から四人の人影が姿を現す。一様に黒い学ランを身に纏い、あまり特徴のない容姿を持つ四人の青年。みな同じ顔をしている。


「全部人形っすよシアちゃん。先輩の能力、【等身大の動くフィギア召喚】っす」

「庶務、俺の能力は【ドールマスター】だ」


 人形達は横一列に並び、書記の人に向かって敬礼を始めた。書記の人がもう一度指を打ち鳴らすと、人形達は二手に分かれてベンチの両端に手を添えた。もしかしてこのまま運んでくれるのだろうかと内心で応援していると、ハッと何かに気付いたらしい書記の人が慌てて人形達を消した。


「なんで消しちゃうんすか先輩。割といい手段だと思うんすけど」

「……庶務、よく周囲を確認してみろ」


 顔を顰めた書記の人が言い、不服な表情のヨモギさんが辺りを窺う。やはり生徒会の二人は目立つのか、少なくない数の転移者達が足を止めてこちらを見ていた。


「四天王の二人が深刻な顔してるぞ。一体この街に何が起こるんだ……」

「真ん中の子って幽霊ちゃんだよね。なんかあわあわしてて面白い」

「生徒会に入ったとかか?白い服着てるし」

「まだ生徒会長枠空いてるし、書記が繰り上がって幽霊ちゃんは四天王入りとかなら面白そうだけどな」


 野次馬が適当言う。あと幽霊ちゃんって呼ぶな。幽霊って呼ばれると仄暗い学生時代を思い出すから切実にやめてほしい。そんな私の横で、書記の人がフン、と鼻息を鳴らした。


「……理解したか?我々は今多くの群衆に注目されている。こんな場所で人形に我らを運ばせてみろ。……神輿みこしみたいで恥ずかしい」

「乙女っすか!?いいじゃないっすか!一時の恥!」

「駄目だ。そんな痴態を晒すのは俺のプライドが許さん」

「私も、それはいやです……」

「た、確かにうちも正直なところ恥ずかしいっすけど……、でも他に手が無いっすよ!」


 周囲の人に聞こえないように小声である。情けなくもベンチにくっ付いてる現状を悟られれば、笑い話として即座に広まってしまう事必須。無理矢理剥がせばストリップ。端的に言ってこれ以上ないほどのピンチである。沢山の人を纏めている生徒会の二人はよけいに醜聞を避けたいところだろう。


「……副会長を呼ぶか……」

「死に戻りとか勘弁してくださいよ!?先輩は慣れてるでしょうけどうちとシアちゃんには鬼の所業っすよ!?」

「俺だって辛いよ!?慣れるか!あんなもん!!」


 両サイドの二人が小声で言い合いを始めた。挟まれてるせいか、なんとなく二人を諌めなければいけない立場のような気がしてきた。器用にも小声でぎゃあぎゃあ言う二人の真ん中で、私は小さく手を上げた。


「私が羽を出して、このまま飛ぶと言うのはどうですか……?シノ部のクランハウスには中庭があったと思うので、人目につかないし助けて貰えるのでは」

「……ふむ。雑誌にも載っていたあれか」

「シアちゃん、本当にベンチごと飛べるのか、ちょっと試してもらっていいっすか?」 


 私はこくりと頷き、ねむいモード(仮)を使い背中に水晶製の翼を召喚した。その大きな翼は淡い光を纏い、その光の端から虹色の粒子がふわりと辺りに広がっていく。すっかり陽が落ちて薄暗くなってしまった広場に虹のイルミネーションが現れた。端的に言えば、めっちゃ目立つ。


「……綺麗っすけど、この状態で飛んだら気合入れ過ぎた結婚式のゴンドラみたいになっちゃうっす……」

「……あぁ。飛ぶのは無しだな。衆目が拍手し始めたしな……」


 私の翼はお気に召さなかったらしく、二人は遠い目でイルミネーションを眺めている。なんか悔しい。



「じゃあ、その、馬車とかどうです……?私達を上手く馬車の内部に組み込むような形で、私が馬車を召喚するというのは」

「……?アムネシアはそんな事が出来るのか?もし出来るのならばいい案だ。なにより格好よく撤退できる」

「まぁシアちゃんの能力ってマジックショーみたいに見えるとこあるっすからね。上手くいけばくっ付いてるのバレないし、うちもいい手だと思うっす」


 二人が真摯な目を向けてくるので、私も神妙な顔で頷いた。ベンチからの脱出手段が脱ぐ以外に浮かばない現状、格好よく人目につかない場所に行くための最善手。二人の信頼に答えたい。


 瞼を閉じて深呼吸。夢よ、夢よ、おいでませ。




 眩い閃光が辺りを包み、次いで馬の嘶きが響き渡る。


 やがて光が集束していき、私の望みが姿を見せた。天まで突くような一本の角を持つ白馬が二頭。そしてその二頭は立派な馬車を引いていた。水晶製のその馬車はぼんやりと発光しており、時と共にその色彩を変えていく。昼から夕へ、夕から夜へと移り変わるように、空の色を表現したかのような優しい光を発していた。


 その幻想的な馬車は、端的に言えば超目立つ。


 確かに馬車は出たけれど、これは失敗と言わざるを得ない。目立ち過ぎるうえに、私達が座っているベンチは馬車の中ではなく天井の上に設置されているのだ。見晴らしが良く、人目がつらい。


「「えー……」」


 両サイドの二人から呆けたような声が漏れ聞こえ、野次馬たちは拍手し始めた。居心地の悪さが限界突破し、私は二頭のユニコーン(仮)に出発の念を送る。


 楽しげな気配を察したのか、お調子者のネコ達が光る旗を振りながら現れて、馬車の前に列を成して歩いていく。やがてゆっくりと歩き出した馬車と並走するように、空飛ぶ魚群やヒツジたち、宙を揺蕩うクラゲや七色小鳥などの夢生物たちが、各々の光を放ちながら列に加わる。


 道行く人は端に寄り、街路の真ん中を私達は進んでいく。タキシードを着たカエルたちが陽気な音楽を奏で始め、ナイトパレードと言う他無い状況を作り出した。


「「……えー……」」


 二人のか細い声が胸に刺さる。一番目立つ馬車の上という、まるでパレードの主みたいな位置に座っているので、見物客がキラキラした目で私達に手を振ってくる。羞恥心が行きつく所まで行った私は、火照った顔を手で覆って隠した。つらい。でも今このパレードを止めたら馬車が消えて、ベンチにくっ付いた私達は道に落下した挙句動けなくなる。もうどうしようもない。


「だ、駄目っすシアちゃん!みんなに笑顔で手を振り返すんすよ!うちは無理っすけど!そう!これはエレクトリカルパレードっす!」

「……うむ!これは生徒会主催の電撃イベントだ!下手を見せると感づかれるぞ!」


 それでいいのだろうか。チラチラと二人を窺ってみれば、ヨモギさんの顔は羞恥で赤く染まっていて、書記の人は不自然に引き攣った笑みを浮かべている。そうなるのも仕方ない。急にメルヘンなイベントの主役に抜擢されたようなものだ。


 色彩豊かなイルミネーションの中で、私と書記の人はぎこちない笑顔で手を振った。ヨモギさんは両手がくっ付いてるので笑顔だけ。歓声や惚けた声が聞こえ、夢生物たちは増々気合を入れる。


「おぉー夏っぽいな。生徒会も粋な事すんなぁ」

「あれどんな能力!?アタシ初めて見たんだけど!」

「アムネシアさんの使い魔たちだよ!モールで見た!」

「しあーーーー!」

「てか曲!これ深夜アニメの奴じゃん!」


 観衆に紛れて女児の声。やがて人垣の中を潜り抜けてきた女児がポコンと道に出てきて、その後ろからもポコンポコンと子分二人が転げ出てきた。児童たちはキラッキラした目で馬車を見て、駆け寄ってきたと思えば一目散に馬車に乗り込んだ。おい女児。まずは助けて欲しい。


 児童たちは私の気持ちを露知らず、馬車の中でお菓子を頬張りながら外に手を振っている。馬車は水晶製なのだから薄らと内部が見えるのだ。


「……ど、どうしましょう。一体何処へ行けば……」

「……何だこれは。何でこうなった。何で副会長が白馬に乗ってるんだ……」

「……観客がついてきてるんでどこ行っても無駄かもしれないっすねぇ……。うちはもう何も考えたくないっす」


 羞恥による精神的摩耗が私達三人を追い詰めて、ぼんやりと屍の様な目で愛想を振りまく。妙な方向性で気合を入れた夢生物たちのパレードは、街全体を一周するまで続き、最終的に元の広場に辿り着いて解散と相成った。パレードの意味。



 ベンチにくっ付いた私達は紅葉さんに救われた。お湯をかければ簡単に服が剥がれたという事実に、逆に私達は打ちのめされて膝を折った。どんな材料で作られているペンキかは知らないが、塗りたての期間なら下手すれば水でも剥がれるらしい。私達の痴態は紅葉さんだけが知る所となり、書記の人はホッと胸を撫で下ろしていたが、私とヨモギさんは心のダメージが深く、しばらくの間生徒会事務所の隅っこで放心していた。沈痛な面持ちの紅葉さんに慰められたがそれが余計に辛くて、夜の事務所に鼻を啜る音が悲しげに響いた。



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