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続・提灯通りは眠らない



 ひんやりとした壁と箪笥の隙間は、私にとっては結界であり、また同時に秘密基地めいた遊び場でもある。部屋は若干陽の光が入るくらいがちょうどよい。狭い場所に挟まれていると、まるで抱擁されているような心持になるのだ。きっと私の前世は猫なのだろう。だから私は鳴く。にゃーん、と。


「やさしい甘さが貴女に似合うわ観測者アムネシア。小さな星屑を貴女に」

「シアちゃん!あーんして?あーんだよ?ほら、ほら」


 現実逃避を止めて目を開いてみれば、テーブルのお菓子を赤提灯が照らし出している。左からは金平糖をつまんだ手。右からは鈴カステラをつまんだ手が差し出されていた。何か言おうとして口を開けば、それらの食べ物が自動的にINしてくる。でも何を言えばいいのか分からない。にゃーんとだけ鳴けば何か変わるだろうか。双方から伸ばされた手がぐいぐいとほっぺを押してくるので、渋々口を開いてお菓子を受け入れた。


「いつかワルプルギスへ招待するわ。蒼い月夜の小さな茶会へ」

「そういえばパステルモールにクレープ屋が出来たんだよ?今度一緒にいこ?ね?シアちゃん」


 私の左の席には微笑みをたたえたパンドラさんが座っている。中二寸劇を終えた後も居ついて、中二っぽい台詞で雑談していたのだ。そして私の右の席には最近知り合いになったエステルさんが座っている。切り捨て御免の子だ。今日も元気に人を切ったらしい。白い制服に真新しい返り血が滴っていて、白い頬にも赤い水滴がついている。偶然提灯通りで再会して相席することになった。


 知り合い同士が接触するという事態。おたつきながらも私はそれぞれを紹介しようとしたが、不思議なことにこの二人はお互いの姿が見えないのだ。何を言っているか分からないけど、私だって分からない。紹介しても、誰もいないよ?というような返答がされて、それぞれが私と二人きりのように振る舞うのだ。二人同時に喋ったりするので内容が把握できなくて困る。なので、お菓子を放り込まれながら適当に頷き続けた。もしかして、A世界とB世界の2つがあって、その狭間に私はいるのではないか。本当に私は多次元存在なのでは。不安が高まる。


 提灯通りからは喧騒が消え、辺りはすっかり静寂に包まれていた。通路の真ん中らへんの野外テーブルに座る私達を、野次馬たちが息を殺して眺めている。その中には手に汗握るパニカさんや、のんびりとお酒を嗜むトムさんの姿が見えた。いつの間にか喧嘩騒ぎが終息したみたいだけど、何故かレンジさんの姿が無い。赤い人もいない。どこへ行ったのか。


「何なんだよあのテーブル。ヤバいのとヤバいのが顔合わせてるぞ」

「俺の【危機察知】が警笛鳴らしてんだけど……」

「あれ?あそこにいんの顔面凶器の弟子の子じゃね?」

「シアさんだよ。強欲の飼育員。あの場にいるの不思議だけど」


 しんとしてるせいか、野次馬の声が良く聞こえる。パンドラさんとエステルさんはにこやかな表情だけど、何故かその笑顔に冷や汗が止まらない。時折、近くのテーブルに置きっぱなしだったコップや皿が、なんでか真っ二つになったり滅びたりしているのだ。私の知る限りとびっきり個性の強い二人が謎の化学反応を起こしてる。


「あ、あの、お二人とも……」

「どうしたの?観測者アムネシア。そういえばテーブルに野良犬が来てるわね。餌をあげましょう、星の欠片はまだまだ在るもの」

「ん?シアちゃん、誰もいないよ?真っ黒な羽虫はいるけど」


 バズンッ、と轟音を立てて、周囲のテーブルや椅子が粉々に分断されて塵と消えた。まるで元から何もなかったかのように街路が広々としてしまい、ぽつんと私達のテーブルだけが存在している。重苦しい空気と視線の嵐がどんどん私の神経を削っていく。瞼を閉じれば、ほら、いつだってそこには箪笥の隙間がある。



「今度はあの副会長なの……。シアの交友ってどうなってるのよ」

「パニカちゃんいいのかい?なんとなくシアさんの取り合いみたいに見えるんだけど」

「何言ってんのトムさん。あたしが一番の友達に決まってるし、しかもあたしはシアの姉なのよ?二番三番がピーピー言ったところで痒くも無いわ。存分に囀るがいい」

「よせ強欲!!聞こえたら矛先向くぞ!!!」


 気まずさが限界を超えた私は淡々とゆず酒を傾ける。お互いが見えないのではなく、とても仲が悪いのだと察した。微笑みをたたえたパンドラさんとにこにこ笑顔のエステルさんが、お酒の合間を見計らって口にお菓子を詰め込んでくる。切っ掛けひとつで地獄絵図、そんな未来を予感させる。


「……今度、さ、3人でどこかに遊びに行きましょうか」

「あぁ、心優しきアムネシア。犬も1人と数えるなんて」

「一寸の虫にも五分の魂って言うしね!虫かご買わなきゃね?」


 突然の地揺れに肩を震わせる。街路の左のお店が音を立てて倒壊し、右のお店が黒い炎に包まれて塵になった。パンドラさんは黒い炎を纏った右腕をエステルさんに向けていて、一方のエステルさんは剣を横薙ぎに振りかぶった状態で静止していた。その剣は上半分が何かに齧られたように消え失せている。いつの間に二人が席を立ち、そしていつの間に攻撃を加えたのかまったく見えなかった。私は座ったまま茫然と固まる。


「神々の檻に封じられし悪意の塊……。観測者アムネシア、こんなモノと触れ合うのは止めなさい。穢れてしまうわ」

「ねぇシアちゃん。さっきから相席してる根暗な独り言女が邪魔だから他いこうか。どこがいい?レストラン行く?」


 二人が言い終えたと同時に暴風が巻き起こった。視界一面の黒。そしてその黒が切断されていく様。テーブルのお菓子がぶっ飛んで消えた。かなしい。


 夜空に赤提灯が舞い上がった。木片、石片、ガラスの欠片。細かに砕かれたそれらが雨の様に降り注ぐ。どこまでも伸びる斬撃と全てを滅ぼす炎が提灯通りを広場に変えた。月明かりが赤提灯の代わりを担う。パニカさんは無事だろうかと見回してみれば、みなそれぞれ固有スキルだったり魔法だったりを使用して無事なようである。パニカさんもちゃんとバリアっぽいものの中にいた。そして逃げずに私達を見守る。観衆たちよ、その野次馬根性はなんなんだ。私は逃げたい。




「……また呼び出しか。今度はどの馬鹿が暴れて……」


 地に落ちた赤提灯の影からにゅっと紅葉さんが姿を現した。そうだ、提灯通りと言えば紅葉さんの管轄だ。きっと二人の仲裁をしてくれるだろうと思い、ホッと胸を撫で下ろした。期待を込めてじっと見つめるも、紅葉さんは臨戦態勢の二人を見てあんぐりと口を開けた。私達3人を順番に見比べて、おもむろに右耳の通信機に手をかけた。


「…………こちらシノ部。提灯通りは至って平和そのものだ」

『?こちら本部。了解しました』


 紅葉さんが顔を引き攣らせながら適当言う。


「おいおい!!待てコラ『闇こけし』!!どこ見りゃ平和だ!?」

「頑張れよシノ部!!世界崩壊の序章だぞアレ!!!!」

「う、五月蠅い!!!よりにもよって、よりにもよってあの二人だぞ!?『崩滅』と『切断』だぞ!!!誰が止められると言うのだ!!!」


 観衆とぎゃあぎゃあ言い合いを始めた。私に救いは無いのか。パンドラさんとエステルさんはお互いを睨みあったまま動かない。隙あらば殺す、とでもいうような冷たい空気が漂ってる。どうしてこうなった。私は提灯通りに来るたびに何かに巻き込まれてる気がする。独り椅子に座ってしょぼくれる私は、ヤケっぱちな気持ちになってきたのでバッグからお酒を出した。



「あ、あの子あの場で酒飲んでるぞ。どんなクソ度胸だよ」

「闇こけし、せめて義妹ちゃんだけ救って来い」

「そうだな!と、とりあえずシア殿だけでも避難させねばな!!」


 気合を入れ直した紅葉さんがおそるおそる近づいて来た。その手にはお酒の一升瓶を持っている。


「し、シア殿~。お勧めの梅酒を持ってきたのだ。ここは少し埃っぽいからあちらの方で一緒に」


 パンッ、と梅酒の瓶が輪切りになり、そして黒い炎に巻かれた。慌てて瓶を捨てた紅葉さんは、瓶を持っていた右手をわちゃわちゃ振りながらスタコラ帰っていく。その後、まだ無事だった露店の方へ歩いていった。


「……店主、すまない。濃いめのを一杯頼む」

「待て待て待て!!一瞬かよ!!気合見せろって!!」

「給料出てんだろシノ部。ほら、頑張れって」

「やだ!!!!!死ぬのやだ!!!!!もう私知らないもん!!!!」

「うおっ!!闇こけしマジ泣きだぞ!?」


 阿鼻叫喚である。かわいそうに、紅葉さんがおいおい泣いてる。きっと二人を止められるのは友達たる私しかいない。奮い立つのだ。変なこと言って切られたくないし滅ぼされたくないけれど、それでも私しかいないのだ。


「喧嘩は、よくないです!」


 二人の目線が私を向いて、体の芯まで凍りつくような心持。


「喧嘩とは同じ精神階位の者としか成立しないのよ観測者アムネシア。これは路傍の石を掃う行為。刹那に済むわ。風が止む前に」

「ゴキがいたら叩くでしょ?同じことだよシアちゃん」


 何を言っても火に油。パンドラさんの背に黒き翼が生えて滅びの粒子が散っている。エステルさん深く腰を沈めて居合の体勢。その足元には細かな斬撃痕が定期的に生まれている。そういう固有スキルなのだろうか。



「貴様ら、何をやっている」


 耳に痛いほどの静寂の中、冷静沈着な声が響き渡った。声の元を探してみれば、まだ無事だった酒屋の屋根の上、白い学生服を風にはためかせた一人の男性が立っていた。月を背負ったシルエットの中、眼鏡だけが不自然に光ってる。


「「「あれは!!!生徒会書記!!!!!!」」」


「……副会長、崩滅。理由は知らんがいい加減あば」


 パッと書記の人が赤く花咲いたと思ったら、建物ごと黒い嵐に飲み込まれた。やがてその竜巻が収まると、酒屋はすっかり更地といった有様。さっき一瞬グロ画像が見えたが、一生懸命何も見なかった事にした。この二人、冗談が通じない。こわい。


「アムネシアは観測者。特異点たるわたしの対になる者。刻の最果てで見つけた唯一の理解者。貴女には多くの金魚のフンがいるでしょう?」

「ん?部下はいるよ?仲が良くてもそこに怖れがあるのなら、それは友達とは言えないよね?シアちゃんはちがうよ?」

「……そう。その点には共感を覚えるわ」


 いえ、私も怖いです。切られたくないし、滅ぼされたくないです。今、絶賛震えてます。


「シアちゃんもこんな意味不明なことばっか言う女は困るよね?1人でぶつぶつわっけ分かんないよね?一周回って頭悪いんじゃないかな。こんなのとは縁切っちゃお?切っちゃお?」

「アムネシア。こんな殺人鬼の近くにいたらその綺麗な魂が穢れてしまう、浸食されてしまう。自己中心的でいて快楽主義者なこの女は害悪でしかない。離れるべきよ、捨て置くべきよ」


 二人の凍えるような声色に身が竦む。


「「……イカレ女」」




 視界が一気に揺さぶられて現状が把握できなくなった。黒。幾重もの光の線。瓦礫と土の雨あられ。風圧と手足の感覚で無重力だと気付く。轟音、悲鳴、何故か歓声。そして視界が黒に染まった。



「シア殿!怪我は無いか!?」


 眼前には紅葉さんの顔。冷や汗を流していて余裕のない表情だ。背中と膝裏の感触で、どうやら私はお姫様抱っこ状態だと悟る。


「は、はい!」

「はぁ……とりあえずは一安心か。少しは安全な距離に跳べたと思うが」


 私を地に降ろした紅葉さんは、立ち上がって別の一点を見る。私もよたよた立ち上がり、周囲を見回して状況把握に努めてみれば、どこかの建物の屋根にいるらしいと気付く。紅葉さんの【影】の力で安全域に転移したようだ。提灯通りの方向には、黒い滝が天へと昇っている様子が見えた。次の瞬間、その黒い滝に光の線が幾重も入り分解されていく。


 一振りの斬撃で幾棟もの建築物がなます切りにされ、一発の炎弾が燃え広がり触れたもの全てを灰にする。あれほど栄えていた東地区が、瓦礫と灰に溢れた戦場と化していた。最強格だと言われている二人が縦横無尽に暴れ放題。


『攻略組帰ってるだろ!!!羅針盤呼べ羅針盤!!』

『ダメっす!!あの人風邪引いて寝込んでるっすよ!!』

『こ、こちら女騎士道部!エステル様に話が通じません!』

『こちらロイヤルガード!馬鹿どもが避難誘導無視しやがる!!』

『会計が結界を使用して特別観戦ステージ作ってます。射撃許可を』

『なんなんすかこれ!!もー!あのクソ眼鏡どこっすかー!!』

「……こちらシノ部。そのクソ眼鏡はさっき散った」


 紅葉さんの通信機から阿鼻叫喚の声。まさにひっちゃかめっちゃか、といった惨状である。どこからか飛んできたのか、破けた赤提灯が足元に落ちていた。転移者達の憩いの場が壊れてしまった。私のせいだろうか。私のコミュ力が高ければもっと違ったのでは。


「はぁ。お祭り騒ぎは毎度だが今日はぴか一だな……。ん?シア殿?」



 喧嘩を止めよう。エステルさんとは知り合ったばかりだけど、それでも友達同士。パンドラさんとは前から知り合いだったけれど、今日はとても仲良くなったしもはや友達と言える。私は呼び出した短剣をぎゅっと握り、ねむいモード(仮)を発動させた。


 水晶の翼を羽ばたかせ、一気に跳躍。紅葉さんの声が後ろから聞こえた気がしたが、私は今、熱血してるのだ。火山の噴火のように滅びが噴き出すあの場所へ。塵になるまで切断されるあの場所へ。


 私は全力で飛んだ。暴風の中を光の如く突っ切った。でも、全力で飛ぶ私は瞬く間に目的地付近に到着して、焦る。熱血し過ぎた。早い。止まらん。


 がごんっ、と鈍い衝撃が額を突き抜けて、私はへろへろと落下した。透明な何かに衝突したらしい。殺虫剤を浴びたハエの如くへろへろ落ちてぽてんと着陸した。私は頭を押さえながら縦横無尽に転がる。痛みで思考が真っ白になったまま転がる。転がったままぼろぼろ泣く。


「……シア!!!大丈夫!?シア!!!」


 私がぶつかった薄青く透明の壁の向こう側に、口をわななかせたパニカさんがいた。私が突撃したこれは、結界とかバリア的な何かだと察する。


「だ、だいじょ……いたい……大丈夫です……」

「痛いよね!?今の絶対痛かったよね!?」


 結界の先で両手を震わせている女児を見て、なんだか少し心が安らいだ。知らぬ間にずいぶん精神が摩耗していたらしい。パニカさんがいる結界は小さなビルほどの大きさで、中に大勢の人がいた。お酒を飲みながら、または料理を食べながら最強格のデスマッチを観戦している。何故みんな楽しそうなんだ。酔っ払いは箸が転がっても楽しいのか。


「喧嘩、止めてきますね」

「額押さえて転がったままキリッと言われても……」


 私は心配げなパニカさんの視線を振り切って、颯爽と力強く立ち上がる。さっきはピリピリした空気に固まったが、もうそんな情けない醜態を晒すものか。友達の喧嘩を止める、これは友情の物語の一ページ。歩む先には死の大地。滅びと斬撃が躍る場所。瓦礫には無数の血痕。


 驚異的な身体能力で黒と景色を切断していくエステルさん。転移魔法で霞の如く消えては滅びをまき散らすパンドラさん。こわい。私は臆した。だが歩みは止めない。戦う二人を見据えながら短剣と翼に力を込めて、解決に至るイメージを【夢】に叩き込む。



 私が望むのは平和的解決。二人を暴力で鎮めるのではなく、禍根を残さずに済む安全で安心な方法。二人とも満足して今後喧嘩騒ぎを起こさないようなパーフェクトな方法。そんなの私は全然思い浮かばなかった。お願いします夢さん。よきに計らってほしいです。私は他力本願全開で力を使った。




 瓦礫の海に一輪の花が咲く。水晶製の綺麗な花。虹色に光る花粉を夜空へ浮かべている。一本、また一本と水晶花が増えていき、少しづつ花畑を形成していった。一陣のやわらかな風が吹くと花々の花粉が舞い上がり、あっという間に見渡す限りの花畑。光の雨が空に降る。


「な、何だコレ!!景色変わったぞ!!」

「綺麗……。花を咲かせる力なのかな……」

「スゲーな。この風景、現実なんだよな……」


 花畑の上に立つ私の隣から、突如蝶々の群が噴き出した。見覚えのある水晶製の蝶々。突如巻き起こる奇天烈な状況に、パンドラさんは茫然と立ち尽くし、エステルさんはキャーキャーと歓声を上げた。近くにある結界の中の観客も騒いでる。また夢に引きずり込まれるのかと身構えたが、どうやらそういうことでも無いらしく、蝶の群は回遊せずにそれぞれ好き勝手に遊び回っている。光る花畑が風に揺らされるたびに視界が光で塞がれる。


 噴き出していた蝶々が収まると、今度はその場所に人が立っていた。3メートル近い巨大な人影。男か女か体型からは判断できず、全身を艶のない漆黒のローブで覆っている。唯一色の違う部位は、鳥を模した鉄製の頭部だけであった。後頭部付近に鉄パイプが付いていて、そこから時折蒸気が噴き出す。なんという存在感か。正直格好いい。


「なんだいアレ!!!ロボかい!?それとも特殊スーツかい!?格好良すぎる!!シアさん!シアさん!!それなんだい!!!!」

「ちょ、ト、トムさん落ち着いて!!え、目が怖い!!!」


 トムさんの声が聞こえた。分かる。鳥面カッコいい。迫力のある姿だけど、私の夢から出てきたもののせいか不思議と恐怖感は無い。謎生物の気持ちは言葉を交わさずともなんとなく分かるのだ。鳥面は『あほ妹の無茶振りがきた……』というような事を思ってる。え、酷くないか。



 唖然として鳥面を見上げていると、鳥面はパンドラさんとエステルさんに向けて腕を伸ばした。


「!?……身体が……動かない……?」

「な、何これ何これ!?あれ?あれ?勝手に動くよ!?」


 ギクシャクとした動きで二人が歩いてくる。鳥面が不思議な能力で操っているのだろうか。二人とも目を右往左往させながら歩き、やがて私の近くに辿り着いた。エステルさんがきょろきょろしながら騒ぐところを見るに、首から上だけに自由が許されているようである。


 シュー……、と鳥面がまるで溜め息の様に蒸気を出しながら、私の頭にポンと大きな左手を乗せた。やれやれ、といった様子。鳥面はなぜそんな兄振るのか。


 鳥面が右手を宙で静止させると、そこに光の粒子が集まっていく。私が夢を引っ張り出すときと同じ光景。やがて光が収まると、そこには一人の少女が立っていた。10歳くらいの幼い少女。胸下まで伸びる綺麗な金髪、白くて清楚なローブを纏っていて、少し眠たげな目でこちらを見ている。とても可愛い子だけど、お菓子をもらえば誰にでもついていきそうな危うい気配を感じる。幼女と少女の中間くらいなのに、不思議と背丈が一緒だった。


「あ、アムネシアが二人……?」

「しかもシアちゃんがちっこくなった!!!!!!」


 二人が唖然とした顔で私と少女を見比べる。一体何を言ってるのか。少女の方を見てみれば、眉を寄せて困惑しながら私を見た。二人って、この子は私に似てるのか。言われてみれば鏡の私を幼くしたらこんな感じになるかもしれない。少女は私を見て首を傾げていた。そんな動作がどことなくぽわぽわしている。


「シアが分裂したわ!!しかも両方ロリ!!天然て分裂するものなの!?」

「シアちゃーん!!わたしとお揃いの分身ですかー!!!」

「あの子見てたら創作意欲湧いて来た。新連載の企画出してみようかな」

「あのロボ必殺技とかあるのかな!?話したい!!話したいよ僕は!!」


 結界から聞こえる話がカオスである。じゃあこの少女は私の分身なのか。パニカさんの両方ロリという発言が気になり自分の体を確認してみると、随分と背が縮んでいる事に気付いた。もしかして私は今眼前のロリと同じ姿になったのか。何だこの状態は。


「「こ、こんばんは分身さん」」 


 ハモッた。違う。何故か私が分身と呼ばれた。


「「いえ、貴女が分身ですよ、シア2」」


 少女がムッとした顔になった。私もムッと来た。


「「私はそんなあほっぽくは無いです」」


 少女が夢から出したらしい枕を投げつけてきて、私も同時に枕を投げていた。二投目も三投目も枕を投げ、少女も枕を出しては体にぶつけてくる。


「大体なんですか!分身に相手に敬語ってコミュ症行き過ぎてません!?」

「言うに事欠いてそれですかシア2!分身なら私のいう事聞いてください!」

「私が本物ですよ!それにその姿何ですか!?もうパニカさんを女児女児言えないじゃないですか!!」

「私に聞かないでくださいよシア2!あざといんですよその姿!」


 速攻喧嘩した。自分だと思うと子憎たらしい。


「なにあれ和む……」

「JS妹二人!!!悪くないわね!!!」

「なぁ、あの巨大な人すげー困ってんだけど」

「ほ、ほんとだ。風格が消えた」


 このままでは切りがないし、自分の言葉もシア2の言葉も全部胸に刺さる。矛を収めたらシア2も同時に大人しくなった。今更だがなぜ鳥面が私を増やしたのか分からず、私とシア2は鳥面を見上げた。


 鳥面はいつの間にかスケッチブックを持っていて、そこに何かを書き記している。じっとその書き物を見届けていると、書き終えたらしい鳥面がパンドラさんとエステルさんに紙面を見せた。


『これ以上喧嘩しないと誓うなら』


 ぺらりと紙をめくる。


『シア(小)を二泊三日レンタル』


 唖然。その紙を一緒に見上げていたシア2もぽっかり口を開けて固まってる。え、でも夢から出たものはそんなに持たないのでは。シア2消えてしまうのでは。鳥面がまたぺらりと紙をめくった。


『そこらへんはなんとかした。頑張れ』


「「なんですかその理不尽な展開は!」」


 鳥面が私達の言葉を無視する。この人何なんだ。私の内に住むラスボス的な存在か?【夢】って何だ。パンドラさんとエステルさんの体がガクンと揺れて、それぞれ自分の手のひらを握ったりして挙動を確認した。自由が舞い戻ったようだ。そしてお互いゆっくりと向き合い、固い握手を交わした。え、決着なのか。こんな、これで?


『要望通りだろ?』


 スケッチブックをひらひら見せながら、鳥面は光の粒子に包まれて消えていった。同時に、蝶々の群も花畑も光となって消えていく。確かに禍根を残さずに済む安全で安心な方法を願ったけれど、二人にするって。分身させるって。というか何でロリ。


 そうこうしてる間に、シア2が満面の笑みのエステルさんに攫われていった。担ぎ上げられた状態で遠くなっていくその悲痛な面持ちが涙を誘う。私もパンドラさんにひょいと持ち上げられて、そのまま抱っこされた状態で運ばれていく。通り過ぎざまパニカさんと目が合い、そしてその目を逸らされた。見捨てられた悲しみにくれたまま、私はどこぞへ運ばれていく。紅葉さんが同情に満ちた顔で私を見送った。レンタルって何をされるんだ。こわい。助けはない。明るい月が街路を照らし、パンドラさんの厚底パンプスが跳ねるような足音を鳴らしていた。




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