表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オズの人形師  作者: 夕見人
9/12

最後の一人


 また死んだのかと、私は苦笑いを浮かべる。

 乗組員がジョナサン以外全員死亡していることは聞いていたが、その死にシンシア号が関係しているとは思ってもみなかった。てっきり、船内での死者はジョナサンのみ……いや、正確には心臓が止まっているだけで死んではいないのだが、彼一人だと思っていたのに。


 ますます恐怖が煽られる。私は本当に、無事この船から降りられるのだろうか。


『そして、マリアが最後に残した映像が、施術同意の映像となります』


 再び、モニターにマリアの姿が現れる。

 ぐったりと椅子に座り、頭は己の左肩に預けている。傷だらけの左手首を右人差し指で小刻みに叩いていた。もうほとんど目は見えていないのだろう。彷徨う視線がこちらを見る度、私の心臓はどきりと跳ねる。自然と体が強張った。

 マリアの姿を視界に捉え続けるには、強い意志が必要だった。


 マリアがゆるりと首をもたげる。


『……わたしが、この映像を残すのは、この船に乗っている、ジョナサン・キーンのためです。彼はしせんきクレイオ、ニクスを受けて、蘇生の、可能性があります……』


 マリアが咳をし、唾液で肩を濡らす。腕は上げるのも億劫なのだろう、拭おうとした右手は少し持ち上がり、ぱたりと落ちた。握られた左手の上に積み重なるようにして、右手の拳が震える。


『ケホ、はっ、はぁ……。ただ……同船し、処置を施した、医師ミハイル・アドルフの診断によると、臓器に問題が、あると。のこと、です。なので、蘇生の際は、特殊な、臓器移植を必要とします……どうか、ジョナサンを、助けてあげて、ください』


 拳の山は崩れ、左右に手の平を見せて倒れる。そこで突然映像が乱れて、少し巻き戻った。

 ケホ、とマリアが咳をする。

 そこで映像は終わるが、私は息をのんで、モニターを見続けていた。最後の最後で、なぜかマリアのグリーンアイズと、目が合った気がしたからだった。


 エリカが壁面のモニターを私の手元に戻す。そこには手術申請書類が映し出されていて、話がもう終わりに近いと伝えていた。


『シンシア号は予定通り、約8760時間かけて所属星系へ戻ってきました』


 よかった、とリルの喜ぶ声がする。マリアは助かったんだね。そんな声が。エリカの声に冷淡さが増す。


『しかしマリアは、救助を待つことなく、船内で亡くなりました。死因は異物を飲みこんだことでの窒息です』


 ――窒息。


『マリアは自らタオルを飲みこんで、自殺しました』

「……それは」


 一体、どういうことだろう、と私は束の間考えこむ。その方法なら弱った体でも死ぬことはできるが、もっと楽な方法はいくらでもあったはずだ。

 医務室に行けば、ジョナサンが行ったように薬の過剰摂取で。もしくはブリッジから一歩出るだけで、リーナのように窒息死もできた。なぜ、わざわざタオルを選び、そうまでして死ななければならなかった?


 ……首を振る。脳裏に過ったものを振り払う。まさか。そんなはず。


 考えを打ち消すように、エリカの声が部屋に響く。


『死ぬ直前、マリアは私に、ジョナサンを医師の元へ運ぶよう命じました。その時には所属星の管制室へ無線通信が行えましたが、命令系統の第一位は乗組員であるマリアだったので、命令通りにいたしました』

「そうして私の元へ?」

『はい』


 モニターの申請書が拡大される。早くここへサインしろ、そう急かされているかのように。その動きに既視感。マリアの手の動きだ。左右に広げる。――そして縮む。


『報告は以上となります。よろしいでしょうか』

「……ええ」


 上の空で返事をした。

 思えば、最初に嫌な予感がしたのは、エリカに対してではなかったか。特殊な臓器移植。ああ、なんてこと。

 感覚のない手で、モニターに触れる。術者は患者が施術を受けるまでの経緯を把握し、施術を受けるに値すると考え、上記の内容で申請する。日付、空欄。みみずがのたくったような、サインをする。


 早く、早く、早く……。


 申請が受理された。二時間をカウントしおえたリルが、患者をスキャンして顔を歪める。

 青ざめた顔を互いに見合わせ、貝のように口を閉ざすと、メスを手に取った。エリカはもう、何も話さなかった。


 患者の頭を見る。


「これより第4類、脳のサイバネティクスオーガニズムを始めます」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ