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オズの人形師  作者: 夕見人
7/12

リーナと救難艇


 シンシア号は帰属地域に向けて進路を取りながら、低速で航行しておりました。

 周囲に高質量天体も負物質も存在しない、低エネルギー区域に至ると、そこで慣性航行に移行し、救助を待つことにしました。

 現状のままエリカを運用するのに、不安を抱いたためです。またいつエリカが非常停止するかわからない。船内環境維持が止まってもいいよう、救難艇を使えるようにしておくべきだとミハイルが主張しました。


 リーナとマリアも反対することなく、またCPUの稼働が止められました。

 救難艇のAIのみ取り外された後、自動で稼働するブラックボックス、環境維持のほかに、姿勢制御や生活保持のみに限定して、残った演算部で再起動されました。

 救難艇の方は、メカニックであるジョナサンの代わりに、リーナが整備を行いました。救難艇はシンシア号のE5エリアの格納庫内にあり、大きさは月単位で50トンクラスです。


 シンシア号と所属星との通信記録です。


 …………

『つうしん、アクティブ……』

『こちらコード――、シンシア号。医師のミハイル・アドロフ。現在座標――にて、漂流中。救援求む』


『こちら――コントロール。シンシア号、了解した。到着までおよそ900時間がかかる。亜光速航行は可能か』

『不可能だ。だが、救難艇ならば最高で準光速まで出せる。移ることも視野に入れている』


『了解。通信はアクティブを保て』

 …………


 この時、乗組員のローテーションは二交代制で行われておりました。基本はリーナとミハイルが1人で任に就き、3回に1度、そこにマリアが加わって2人になりました。

 シンシア号は操舵に2人の人員を推奨しておりますが、船が停止状態であったことと、マリアの精神状態が危ぶまれたことを考慮して、このような形がとられました。ただ、メカニックであるジョナサンの代わりに、リーナは救難艇の整備も行わなければならなかったので、超過勤務の状態にあったと記録には残っています。


 船の航行停止から192時間が経過し、ブリッジにいたミハイルは異変に気づきました。交代要員であるはずのリーナがブリッジに来なかったのです。その後の対応は次の通りです。


 …………

『エリカ。リーナはどこにいる』

『船内で確認できません』

『最後に反応があったのは』

『12時間前に格納庫で確認しました。その後、対象が救難艇に乗り込んだため、遮断されています』

『救難艇に繋いでくれ』

『救難艇に繋いでいます。……不可能です。救難艇のAIは現在作動しておりません』

『ならマリアの部屋に繋いでくれ』

『了解。D2に繋いでいます』

『――は、い』

『マリア、ミハイルだ。起きているか?』

『ああ、ミハイル……。どうしたんです?』

『リーナが来ないんだ。救難艇にいるはずだから見てきてくれないか』

『ああ……わかりました』

『頼む』


『ミハイル、救難艇には着きましたけど、扉が開きません。そちらで操作できますか?』

『エリカ』

『不可能です。手動操作を行ってください』

『わかりました。……、っ、は……。おかしい、ミハイル、手動でも開かないんです。正しい手順を踏んでいるはずなのに……』

『そんなはずは。ちょっと待ってくれ……』

『は、い』

『……格納庫からまわってみろ。エリカ、格納庫の扉を開けろ』

『不可能です。現在、格納庫内は強制排気中です』

『なんだと。どこからの操作だ』

『12時間前に操作盤E5からリクエストを受けました』

『ただちに空気を入れろ。……誰が操作したかわかるか』

『排気を中止、供給を確認。操作盤E5は緊急時の独立システムです。操作記録は残っておりません』

『強制排気……? リーナがテストでもしているんですか』

『どうかな……E5は中と外、両方に操作盤がある』

『……リーナからはまだ何も?』

『ああ。……マリア、こっちに来て俺と代わってくれ。急を要するかもしれない』

『了解です……』


『温度、圧力、酸素濃度、問題ありません。格納庫の扉を開きますか?』

『いや、救難艇から入る。今度は開くはずだ……』

『まさか、中も減圧されていたと?』

『それ以外考えられない。……やはりな、開いた』

『E5より救難艇への扉が開放されました。救難艇のAIを起動させますか』

『いい。ブザーがうるさいから黙らせとけ』

『ミハイル、いるとしたらおそらくブリッジです。あそこは完全に分離されていますから』

『了解。……ハッチが開いているな……』

『ミハイル、ブリッジの扉操作は右横の、ミハイル、聞こえていますか』

『聞こえている』

『ブリッジを』

『必要ない』

『……なぜ』

『――リーナを発見した。救難艇の中にはいなかった。格納庫へ降りる』

 …………


 …………

『ミ、ハイル……マリアは』

『……』

『そ、んな、そんなっ。ミ、ミハイル、あなた――』

『マリア、俺じゃない。おまえだよ』

『何を、』

『理由はあるだろ』

『そんな、私、あなたたちと、は……』

『マリア』

『っ、そんな――私、がどうして……リーナを殺すなんて!』

『自動排気が操作された時E5の近くにいたのはおまえだけだ。エリカの行動記録に残っている』

『それは、リーナと一緒にここを出てE5の前で別れたから! 行動記録は10分ごとの更新のはず、あなただって、不可能なわけじゃない!』

『はっ、10分でここからE5まで行って、操作して戻ってきたと? そんな馬鹿な話があるか。ブリッジの映像は記録されている。見ればわかるさ』

『っ、でも、私じゃない! そんなことしない! そう、そうよ、リーナが自分で……』

『は、っはははは! あいつが自殺したって? 遺書も何も残さず? 俺にも何も言わず?』

『じ、自殺じゃなくて、じ、事故かも……』

『事故、事故ね。救難艇に乗り込んで、空気を抜いて? それから空気がないことを忘れてハッチを開けた? 随分都合のいい事故だな』

『でも、でも……リーナ、リーナだって、ほとんど寝ていなかった! そういうことがあってもおかしくない! ね、そうでしょう!』

『――マリア、部屋に行け』

『ミハイル!』

『俺まで殺されたらたまらない、部屋に行くんだ! それとも、今ここで死ぬか?』

『ひっ、う、あ、ああ、わ、わかった、わかった……』

『注意。あなたの言葉は禁止ワードと認識されました。2回目以降の使用は評価に影響し……』

『エリカ、マリアが入ったらD2を閉鎖しろ』

『乗組員の行動の制限は認められておりません』

『医師の判断ならいけるはずだ。危険なことをしないよう、マリアを見張るんだ』

 …………


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