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オズの人形師  作者: 夕見人
3/12

宇宙船シンシア号


 ノック一族は代々、人形作りを生業としている。

 地球時代はオートマタ作家から始まり、ロボティクスエンジニアに。月への入植後はアンドロイドの製作者、今は加えてサイバネティクスオーガニズムのための人体製作にも携わっている。

 月において人形工房オズを営む。店の名の由来はコペルニクス歴史地区特有の光景と職種をふまえ、地球時代の古典文学から。ルミ・ノックで25代目の店主となる。


 代々の店主が頑なに生身の肉体を固持するのは、触覚をはじめとする五感を変化させないため。

 人形工房オズで作られた作品は、滑らかでいて柔らかい質感の肌が特徴。機能性、芸術性ともに優れ、宇宙における技術者の中で五指に入る。


『決めてとなったのは、あなたの隣に並ぶアンドロイドです。外観はもちろんのこと、人に見紛う感情、思考を兼ね備えている。人同然にふるまえること。これが欠かせない条件でした』


 隣でリルが照れたように頬を赤らめていた。

 宇宙船のAIエリカに、月くんだりまで来て私に依頼した理由をきいた返事がこれだった。今回はとことん、リルとの相性が悪い。


 私とリルは、シンシア号のAIエリカの誘導に従い、用意された作業室へと向かっていた。

 シンシア号の内部は、試験船ということで内装は最低限しか整えられておらず、歩く度に靴音がする。通路の幅、長さから船の大きさはおそらく月単位で500トンはあるだろう。通路は配管やコードが剥き出しのまま、資材も一昔前のものが使いまわされていた。

 ただ、汚れや傷は少なく、コーティング等も劣化していないことから、まだ作られて間もない船だとわかる。


 だいたい、船の中央付近まで来ただろうか。右手奥にある扉が自動で開く。


『こちらの部屋へお入りください』

「用意は」

『すべて指示通りに終えております』

「ありがとうございます」


 私はお礼を言って、部屋の中へと足を進めた。中央には患者が横たわるカプセル。その上には可動式の照明が据えつけられている。

 横には専用液で満たされた断熱タンクが並べられ、カプセルと太いホースで繋がれていた。

 カプセルの頭側には幅広のテーブルがあり、リルはその上に商品ケースを置く。私の道具鞄も受け取って、次々と中身をテーブルの上に出していった。


 確認したところ、機種は古いが冷凍保存クライオニクス専用のカプセルだった。

 施術には解凍直前の状態がベスト。できれば到着前に解凍処置を行ってもらいたかったのだが、残念なことにこの船にはAIしか載っていないとのことだった。

 AIは医療用のもの以外、人体への安全性が確立されていない処置は行えないので、今から解凍を行うことになっている。


 スイッチでバルブをオープンにし、カプセル内を専用液で満たしていく。

 リルにカウントを指示し、用意されていた椅子に座った。目の前には非接触型のモニター。必要な書類を読みこませる。


「施術開始まで二時間はかかります。その間に最終確認を行わせてください」

『わかりました』


 ああ、二時間後がこなければいいのに。泣き言をのみこみ、表示された書類を読みあげる。


「サイバネティクスオーガニズムは医療行為に該当します。患者の同意は得られますか」

『いいえ』


 Noを押し、術者確認済みと記載する。


「患者の親族、または代理人の同意は得られますか」

『はい』


 Yesを押す。

 代理人はマリア・エリアだ。すでに亡くなっているが、確認した自筆書類の他に、映像も残っているらしい。添付データを参照のこと。


「今回の術部は第4類に分類されます。第4類は患者の生命活動が妨げられている場合のみ行えます」

『はい』


 宣告済みを押す。事前に診断書は渡されているが、こればかりは解凍後、私が見て判断しなければならない。


 さて、ここからだ。


 この書類は申請後、術者が所属している地域の中央政府へ送られる。そこの医療用AIが即座に判定を出すが、第4類に限ってはその状況に陥った事の仔細と正確な記録が残っていなければ認可はおりない。

 事前に簡単な聞き取りは行っているが、わかっているのはこの試験船に起きた事故と、患者の死亡原因ぐらいだ。


 私は続きを読もうとし、鳥肌が立って一度口を閉ざした。これは藪蛇案件に違いないと直感が囁く。だがここまで来て何もせずに帰るわけにもいかない。

 意を決して、声を絞りだす。


「だい、4類の施術には、特別法が、適応されます。患者が、施術を受けるに至った経緯を、詳細に報告してください。また……術者は、経緯の把握に努め、申請前に審査に値するかを確認すること」


 一呼吸挟む。リルが気遣わしげにこちらを見ている。何も言うな、するなと視線で押しとどめ、スクロールする映像へ集中を戻す。


「代理人マリア・エリアは故人のため、回答は試験船シンシア号搭載のAI通称エリカに求めます」

『はい』


 実のところ、AIの証言は人の証言より信頼性が高い。というのも、AIは隠し事はできても嘘はつけないように設計されているからだった。これは申請が通りそうだと、話がはじまる前から予感がする。


 エリカは、私の手元のモニターを正面の壁へと移動させ、壁面いっぱいに広げた。

 私は椅子ごと後ろにずり下がり、空調のせいだけではない寒気に、両手で腕をさする。

 モニターには四人の男女が映し出されていた。右側の2人の男女には高い背丈、白い肌、金髪や筋肉量など共通点が伺える。残りの2人。片方は細身の女性だ。褐色の肌に黒髪のグリーンアイズ。もう一人は赤い巻き毛に灰青色の瞳、筋骨隆々とした男性。後ろにはシンシア号と思わしき船体の一部が映っている。


 ――ノイズの欠片もない機械音声で、エリカが滑らかに語りだした。


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