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オズの人形師  作者: 夕見人
11/12

むきだしの


 ため息をついた。その時、リルに服の裾を引っ張られ、私はリルをねめつける。リルはおどおどしながら言葉を紡いた。


「でも、ジョナサンは部屋の中で見つかったんですよね。しかも蘇生可能なぐらい、心停止を起こしたばかりの状態で。マリアの証言ではジョナサンの死因は一見してわからないほどだったと……。脳を取りだすなんてことしたのにそんなこと可能なんですか」

「リル、おまえ、細かい」

「でも……」


 不満げなリルに、私は肩をすくめた。こんな時、小突いたりできればいいのに。


「いい、脳幹のうち、呼吸と循環器の制御を行う延髄が無事ならば、自力呼吸ができる。さっき自分の目で確かめたでしょう」

「でも、少しは出血するはずです。医務室まで移動してまた元の部屋へ戻したんですか?」

「それもできなくはないでしょうけど。あの状況下でわざわざ部屋へ戻す意味がないわね。施術はジョナサンの部屋で行われた」


 私は目を細め、誰もいない通路の先を眺めた。

 どこが船室かはわからない。なんの痕跡も残っていないが、確かにここで悪逆は為されたのだ。


「脳が取り出された時、シンシア号は惑星の周回軌道をまわっていた。慣性相殺も止まっていた。つまり船内は完全な無重力状態だった。多少出血しても血液は飛び散らず、肌の上に広がるだけ。後は吸い取ってしまえば、どこも汚すことなく脳を取り出せる」

『その通りです』


 電子音が肯定する。なるほど、とリルはすごすごと引き下がった。その様子を鼻で笑い、私はまたエリカとの会話に戻る。


「そしてリーナとミハイル、マリアの3人になった。マリアはジョナサンが心停止を起こした原因に気づいたんでしょう。薬瓶が落ちていたと言いましたが、これは静脈注射の麻酔薬だったのでは」

『はい。まるで見てきたようですね』

「他にこの場面で使う薬がありません。さて、シンシア号は無事、惑星を脱出したわけですが。この時からミハイルはマリアを監視しています。通信をさせないようにし、ローテーションもマリアがブリッジで1人になることがないよう組んであります。生活維持も残して、位置情報も得ていましたしね。航行可能なシンシア号を捨てて救難艇に移乗しようというのは、隠蔽を図ってのことでしょう。……おそらく、マリアはリーナが死ななくとも置き去りにされたでしょうね。救難艇に一緒に乗っていたとしても、どこかで口封じに殺されていた」


 喉元を押さえる。しゃべりすぎて口の中が渇いてきた。


「マリアは2人を殺す理由はありました。しかしあの状況下で実行は不可能でしょう。強制排気は行えたとしても、救難艇への細工は無理ですね。リーナが細工をした後、自殺をしたとするのがわかりやすいですが……。ここでもう1つ。エリカ、強制排気がE5から操作されたというのは、本当ですか」


 一拍おいて、ふ、と笑い声。楽しげな笑い声だ。

 エリカはAIらしくなく、くすくす笑うと、本当のわけありません、と答えた。だろうな、と思っていた私とは違い、同じAIであるリルは唖然としている。


『AIは、隠し事はできても嘘はつけない。AIは、何より人の安全性を考慮する。確かにそうでしょうとも。しかし、私の制御部は演算部にあるジョナサンの脳細胞から支配を受けています。ジョナサンの意思はAIの禁止事項を上回って働きます』

「強制排気の操作は?」

『私が行いました。リーナが格納庫へ降りた時を狙って。マリアがE5付近にいた時、操作が行われたように記録を改竄したのは、ついでにミハイルとマリアを引き離せればいいと考えたからです』

「ミハイルがマリアを殺すと考えなかった?」

『その時はその時、と言いましょうか。ジョナサンはマリアにも不信感を抱いていました。マリアは起動時に3人と一緒にいたからです。もしマリアがジョナサンの脳を活用することに反対していれば、閉じこめられていたか殺されていたか、少なくとも一緒にはいなかったでしょう。ジョナサンは、マリアは受容したのではないかと』


 私は片手を額に当て、項垂れる。

 その判定はあまりに厳しい。

 体を失い、肥大化した脳だけとなった男は、無意識が剥き出しになっているのだろうか。


『ミハイルの救難艇も同様です。リーナの件でE5の扉が開いたとき、ひそかに救難艇のAIを起動させ、慣性相殺のプログラムを書き換えました。ミハイルは遠からず、脱出すると踏んだからです』

「な、なんてことを……」

「リル」

『構いませんよ。倫理的に問題があることは理解しています』


 けれどやりました、と後ろに続く言葉を察して、リルはうつむいてしまう。少し気の毒だった。こうも開き直られたらもう何も言えまい。


「――最後の一人です。マリア。彼女は確かに自殺です。けれどその原因を作り出したのはあなたですよね」

『どうでしょう』


 含み笑いが聞こえてきそうだった。瞬間的にかちんとくる。このAIもリルと一緒だ。物理的にどうこうできない。鬱憤が溜まる。


「機密に抵触すると言われましたが、おたずねします」

『どうぞ。答えられることでしたら』


 私はシンシア号を見回す。真新しいが型落ちした素材。道具。設備。試験船だからと、安く作られたのではない。


「この船は、一体、いつ作られたものですか」


 時空を超えてやってきたのだ。


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