第5話~自己紹介~
おっさんの「飲み過ぎた」発言と王様へのタメ口を聞いて、その場の王国側の人間が全員ため息を吐いた。
どうもよく分からなかったので仕方なく王様の心を覗いてみたところ、このおっさんはいろんな意味ですごいということが分かった。まず、このおっさんは俺の最初の見立て通りすさまじい手練れらしい。20年前に開かれた闘技大会に出場し、ぶっちぎりで優勝をかっさらっていったらしい。その華々しいデビューの後冒険者となりトップランクまで3年で上り詰め、その後王国からの打診を受けて騎士になった。闘技大会に優勝した時が17歳らしいので今は37歳だが、バリバリの現役であるだけでなく、未だ最強の騎士の称号を欲しいままにしているらしい。因みに、闘技大会に出場するまでは人里離れたところで修行していたらしい。まるでフィクションだな。今の俺たちの状況を考えれば笑えないが。
そこまで見たところで、王様の後ろに立っていた騎士さんの口からおっさんの説明があるようだったので、心を見るのはやめた。
さっきまで見た情報ではこのおっさんはすごい人にも見えるのだが、しかし、このおっさんもの凄くものぐさらしい。さぼりまくった結果、窓際部署に飛ばされた。ただ、その武力は惜しまれたため、王様の勅命を受けた時のみパートタイムで強制出撃で、成果に応じて臨時収入が入る取り決めになったらしい。
普通いくら武力を惜しまれても首になると思うがそうならないのは、偏に武力が突き抜けて高いことと強制出撃時はマジになるかららしい。ああ、それと面倒見もいいらしい。窓際部署の仕事さえさぼり、騎士団員の稽古をつけることもあるとか。マジものぐさ系主人公。今なら転生者とか言われても納得できそうだ。
「まあまあ。まずは自己紹介をしようじゃないか。」
そういって緩んだ空気を元に戻したのは爽やか系イケメンだった。
「僕の名前はアーク・ランディズ。我がランディズ王国の王太子だね。」
似てると思ったら実子でしたか。王様は白髪の混じった茶髪に鳶色の目なので、王子の碧眼は母方なのかね?
「アークは勇者様方の教師ではなく、今回は顔見せのために参らせ申した。」
「はは。僕は運動はからっきしだからね。でも、代わりに頭を働かせることにかけてはちょっとしたものだと自負しているよ。」
王様の言葉に王子が答える。言ったことだけを見れば嫌味だが、このイケメンが言いやがるとめちゃくちゃ様になる。あれだな。ただしイケメンに限る、という奴だろう。
「では次は私が。私はアンジェリカ・ミーリーです。皆様には魔力の使い方と医療知識を教えさせていただきます。」
次に挨拶したのは金髪碧眼の巨乳美人だった。雰囲気も見た目も包容力のある癒し系なのに、しっかり者の雰囲気がバリバリしてる。
「医療知識ですか?」
そんな疑問を口に出したのは翔だ。確かに分からなくもない。魔法があるなら当然回復魔法だってあるだろうし、必要性が低いように思われる。
「はい。戦場では必要不可欠です。全員が回復魔法が使えない以上、回復魔法が使えるものが死んだ場合生死を分けます。また、魔力が空になった、作戦上魔法が使えないなど、魔法が使えない場面などそれこそいくらでもありますから。」
なーる。当たり前のことだな。俺たちのだれかが死ぬようなことは絶対にあってはならないが、そのためにも必須だ。
「アンジェリカの回復魔法は国内でも随一なんだけどね、それに胡坐をかかず医者としての技量もかなりのものなんだ。その回復魔法、医療技術、人柄、全てがあいまって巷では聖女と言われているよ。」
超納得。俺もアンジェリカさんに命を助けられたらそう思わずにはいられないだろう。俺が心の中で王子の言葉にうんうんとうなずいていると、今度はツルペタエルフが前に出た。
「私の名前はフィン・ハルマ。魔導司書。魔法とその他諸々の知識を教える。」
魔導司書って何だろう。気になったので聞いてみよう。
「魔導司書って何ですか?」
「魔導司書というのは国家職業の一つです。卓越した魔力操作能力と深い魔法への理解が必要な紋章魔法の使い手であるだけでなく、様々な専門知識、高い教養、秘書としての高い能力を必要とする職業です。その非常に高い汎用性から、権力者ほど手に入れたい人材です。」
解説してくれたアンジェリカさんに黙礼しておく。しかし、魔導司書か。確かに権力者は喉から手が出るほどほしいと思うだろうな。護衛から秘書から知恵袋から何から何まで一人で事足りるのだから。
と、ここで、皆の視線が最後の一人に向けられる。そう、例のおっさんだ。
だがおっさんは座ったまま寝ていた。なんでやねん!寝坊するくらい寝てたはずだろ!皆も何とも言えない顔をしている。
「痛っ!」
一瞬でおっさんの真後ろに移動した凄腕メイドさんが、おっさんの頭をひっぱたいた。痛そう。ていうか、いつの間に移動したんだ?!
俺が一人戦慄している間に、おっさんは目を覚まし何やらぶつくさ文句を言いながら立ち上がった。
「たく。いちいち叩かなくてもいいだろうに。ううんっ。俺の名前はガルス・ホート。王国最強の騎士だ。お前らには武器の使い方を教える。」
メイドさんに冷たい目で見られて冷汗を垂らしながらの自己紹介だった。王国最強の騎士の名が泣いている。情けないっ。
翔たちがおっさんの称号を聞いて首を傾げたり、おっさんの逸話を聞いて信じられないものを見たような顔をしたり、いろいろあったがとりあえず訓練は、初日ということもあり、昼食を食べた後に軽くということになった。
まあ、時間を食った原因は多分におっさんのせいだけどな!