第3話~凄腕メイド~
全員が自分のステータスを伝え終わると、真剣な表情で翔が話を進める。
「じゃあ、これからのことについてだけど、何か案はある?」
「大まかに分けると、“この世界の人を助ける”、“この世界の人を助けない”の2つだが、これはどちらとは言えないな。俺たちを誘拐した犯人と考えると助ける気にはならないが、実際に虐げられているところを見て傍観できるとは思えないし、かといって自分たちの身を危険にさらしてまで助けようとは思えない。」
俺の言葉に翔と神崎が頷く。
「ただ、どっちみち、強くなるために戦わなければならないと僕は思うよ。」
「確かにな。しかしそうなると、私や翔、藤宮はともかく、武術の武の字も知らない瑠璃が心配だな。」
神崎がそういうと、全員の目が、ステータスの話が終わってから何か考え込むような顔をして、何も話していなかった瑠璃に向く。
「戦わないっていうのはなしなの?確かに私は空ちゃんや翔くんと違って武術なんて体育でかじったくらいだし、喧嘩だって全然したことないけど、それは誠悟だって同じだし。それに誠悟は私たちに巻き込まれたんだよ?私にはよくわからないけど、ステータスだって私たちより低いよね?それなのに戦うなんて……。」
なるほど。そんなことを考えていたのか。
泣きそうな顔で瑠璃はそういったが、残念なことにその考えは俺たちにとって青天の霹靂だった。
俺は、自分から魔法陣に飛び込んだから特に巻き込まれたとか思ってないし、俺の強さは俺が1番知っている。
ほかの二人も、
「だって誠悟だし。大丈夫だよ。」
「そうだぞ瑠璃。こいつの訳のわからなさは武術界では有名だ。」
と、こんな感じだ。若干神崎が失礼なことを言っているが、翔は俺が悪魔なのを知っているし、翔つながりで武術界に関わったときに俺がいろいろやらかしているので、神崎も俺の心配なんてするだけ無駄だと知っている。
それにこの二人は俺に対して変な遠慮とかないので、今回は俺が首を突っ込んだだけだが、たとえ俺が巻き込まれただけだとしてもそんなことを気にするような奴だとは思っていない。
「やっぱりお前は馬鹿だな。そんなこと気にしないし、ステータスが低いからってどうとでもなるんだよ。」
そういって特に気負っていない俺たちを見て、瑠璃は、え?え?、とか言っているが、実際俺を心配するなんて無駄なのだ。好きに割り切ってほしい。
「それにさっきも言ったけど、戦わないという選択肢はないよ。この世界では人類はかなり追い詰められているようだし、何もしないで過ごしていたらいつか弱いままで魔族に襲われることになる確率は非常に高い。だったら、どのみち強くなるほかない。」
翔のその言葉に、瑠璃は一応納得したようだ。
そのあともいろいろ話し合ったが、結局“強くなること”を最優先にし、おいおい“元の世界に帰る方法を探す”ということでまとまった。はっきり言って何も決まってないに等しいが、判断材料がない現状ではこれが精いっぱいだ。
話し合いが終わって一休みしていると、外が暗くなり始めたところで扉がノックされた。
「夕食の準備ができました。」
入ってきたのはさっきのメイドさんだった。そう言えば、この人のことは鑑定してなかったな。してみるか。
~ステータス~
名前:エリザベート・ビクトリア
レベル:57
称号:黒紅の死神
冥土
ランディズ王国隠密部隊副隊長
スキル:身体強化・小
魔力増強・小
気配察知・中
気配遮断・中
剣術
格闘術
暗器術
護身術
罠発見
罠解除
罠設置
開錠
家事
礼儀作法
影属性適性
ほわっつ!?突っ込みどころ満載だ!いくつか気になるので鑑定してみよう。
だが、次の瞬間メイドさんと目が合い、メイドさんからこちらに殺気が飛んできた。身の危険を感じた俺は、不自然にならないように細心の注意を払って目をはなした。
メイドはゆっくりと殺気を収め、何事もなかったかのように案内を始めた。
俺は何でもないように振舞い、行きと同じように最後尾を歩いていたが、内心冷汗が止まらなかった。さっきのはかなりやばかった。
最初に案内された時から凄腕なのはわかっていたが、あの殺気の鋭さや、俺にだけ殺気を届ける熟練の技、鑑定に気付くあの察知能力、間違いなくただものではない。
まだ地球にいた時に戦場で会ったことのある凄腕陰陽術師と同じ匂いがする。能力値ではこちらが勝っているのに、油断すれば喉もとを食いちぎられる、そんな奴は往々にしているのだ。
あの時の陰陽術師には苦汁をなめさせられたが、このメイドも要注意だ。
実際、先のステータスもそれを裏付けている。称号だけ見ても突っ込みを入れたくなる。なんだよ死神とか冥土とか隠密部隊副隊長って。それに、さっきからすれ違う人すべてに鑑定をかけているが、このメイドのスキル保有数が異常に多いこともわかった。
救いは、このメイドが暗殺者ではなく、メイド兼護衛だということだ。これは先程すれ違った高官の心を読んでわかった。なんでも、このメイドはメイドとしてもトップクラスの能力を持っているらしい。ハイスペックな凄腕メイドだったということだな。
やれやれ、先が思いやられる。
前方に見えてきた、大きく開かれた巨大な部屋の向こうからいい匂いが流れてきているが、俺はもうおなか一杯になってしまったよ。