第1話~テンプレ異世界召喚?~
目をゆっくりと開ける。今度こそ異世界だろう。そうなれば、俺が驚くわけがない。フリじゃないぞ。
周りを見る。ちゃんと3人ともいた。これで4人全員が揃った。
そして、さらに視界を広げると…。
「え!?なんだこれ!?」
はい、案の定驚きました。いや、だって、俺たち以外のその場にいる全員が土下座をしていたのだ。俺以外の3人も召喚の衝撃から我を取り戻し、周りの土下座集団をみて、再び我を失っている。
「歓迎いたします。勇者様方。」
俺たちの正面で土下座をしている、1番豪華な服装の老人からくぐもった声が聞こえる。
「えっと。状況を説明していただけますか?」
ここで真っ先に声をかけるのはやはり翔だった。神崎と瑠璃はまだ声を出せるほど冷静にはなっていないようだ。
「はい。魔族の王たる魔王の侵攻により、人族は存続の危機に陥っているのです。」
その言葉から始まったこのお偉いさんの話によると、この世界は、魔族が住む魔界と、それ以外の共生可能な人型知的生命体の住む人界の二つに分かれていて、戦争をしていても均衡を保っていたのだが、新しい魔王が非常に強力で、次々と占領され続け、かなり危険な状況らしい。そこで、古の書物にのっていた勇者召喚をおこなったらしい。
「古の書物によると、五百年前に召喚された勇者様は、終ぞ帰還方法を見つけることができなかったと書いてありました。それを知ってなお、勇者召喚をおこなった我らには決して償えない罪があります。本当に申し訳ございません。」
そう言ってお偉いさんは話を締めくくった。翔が俺のことをチラリと見てきた。翔は俺が悪魔で心を読めることを知っているので、頷いて嘘を言っていないことを教える。
「いくつか質問があります。」
俺に、そのまま心を読んでおいてくれ、と目で伝えた後、翔はそのまま話に戻った。
「まず、あなたは誰ですか。」
…ごもっともで。確かに誰も自己紹介していなかった。さすが翔。こちらも自己紹介しておく。
その後も、翔は次々と質問していった。よくもまあスラスラと質問が出てくるものだ。
たまに俺の方を見て、嘘かどうかの確認しながらの質問は大体こんな感じだった。
Q、あなたは誰?
A、この国の国王、トール・ランディズ。
Q、この国はどんな国?
A、名前はランディズ王国。人界の大国の1つ。人族の国家に対しては防衛戦争を行なったことはあるが、侵略戦争をしたことはない。
Q、勇者に対するスタンスは?
A、もし戦うのならば、可能な限りの最大の援助を。戦わないならば、王城に食客として招く。
Q、人族って?
A、人型の知的生命体全般。魔族や、共生不可能な人型の魔物、人から逸脱した姿形をしているものは除く。
Q、魔族って?
A、魔物の一種で、人族を餌としかみていない。
Q、一般人の僕たちは戦えないよ?
A、勇者召喚の過程で、力を得ているはず。
Q、力って?
A、魔法や武術。ステータスは自分で見れるはず。
Q、魔法って?
A、魔力を使って引き起こす超常現象。
「最後に、その格好はなんですか?」
それは俺も気になっていた。ここには多分二百人から三百人くらいいる。その人たちが全員土下座をしている。心が読める俺には、儀式などではなく、全員謝意を示しているのはわかるのだが、では何故土下座を知っているのかわからない。
「それは、古代の文献にのっていたからです。勇者様方が元いた世界では、この格好は首を差し出す、最上位の謝罪だと書いてありました。その意味通り、我の首は差し出します。その代わり、人族全員とは申しません、せめて目に入る範囲の人だけでも助けていただけないでしょうか。」
驚いた。常日頃から心には深く踏み入らないようにしているので、人数が多いこともあって表層心理くらいしか調べていなかったが、深くみてみれば一目瞭然、このお偉いさん、改め国王さんは本気でそう言っている。周りの人たちも同じ意見のようだ。少しのぞいてみたところ、この人たちは正真正銘この国の上層部だった。
しかし、この国はすごいな。ラノベ知識からの偏見だが、王様は傲慢で、国のために勇者が働くのは当たり前とか言うものと思っていたが、この国王や周りの人たちは、自分たちがしているのが拉致監禁と同じであることを自覚しているようだ。
自分のことは自分でやれよ、と思わなくもないが、それほどまでに切羽詰まっていると考えた方がいい。
俺の顔をみて翔も嘘ではないことがわかったようだ。
「…考えさせてください。」
まあ、そうなるだろう。個人的には消極的になら手を貸してもいいくらいには思えるが、今この場では、翔の返事は4人全員の命を握っているに等しい。軽々しく言えない。
「わかり申した。それぞれの個室と、4人で相談できる部屋を用意します。」
こうして、この国とのファーストコンタクトは終わった。お偉いさん全員の土下座以外は、概ねテンプレ通りだった。