第10話~秘密の特訓?~
「そうか」
もともと、お節介だとは分かっていたことだ。覚悟を決めた男に言うことは、もうない。
坊主が城の中に入ったのを確認して、息をつく。
「はぁーあ。最近の若者は大人になるのが早いなぁ」
だが、坊主が決めたことだ。なら俺にできるのは、他の三人も強くしてやることだ。そうすれば、負けられないあの頑固な坊主もより強くなることに必死になってくれるだろう。死なせずに済む。
若い奴の、それも、やりたいことやらなければならないことがある奴の将来が途切れてしまうのを見るのはもうたくさんだ。
「まったく、お前にそっくりな坊主だったぜ」
なあ、ジングウジ。あの坊主の覚悟を決めた面を見てるとお前を思い出しちまう。
「こういう時はなんていうんだったか。大丈夫だ、問題な…ってこれは違うな」
・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・
食堂に行くとこの前と同じ席に案内されて、すぐに食事が運ばれてきた。
アンジェリカさんやフィンもいるがおっさんはまだ来ていないようなんだが、もう食事を始めるみたいだ。
「なあなあ」
「はっ、はい!?」
後ろのメイドさんに話しかけたらものすごい驚かれたでござる。ちなみに昨日の娘と同じ娘だ。
「なあ。ガルスのおっさんはいないけどいいの?」
「は、はい。あの方はいつも他の騎士の方たちとご一緒に摂りますので」
「へえ。そうなんだ」
「はい。親睦を深めるためだとか。非番の方と外の飲み屋さんに行っている時もありますが…」
ははは…。おっさんらしい。
まあ今は夕食を堪能させてもらうとしよう。
今は食後の談話の時間なんだが…。
「はい。この城にある図書館は非常に大きくてですね、掃除が大変で、メイド達もみんなやりたがらないんです」
メイドちゃんと仲良くなっちゃった。緊張をほぐそうと話しかけてただけなんだが。
「どんな本があるの?」
「えっと。学者様が読むような本ばかりで、正直どんな内容なのか分からない本も多いんですが、私でも読めて面白いと思うような本でしたら、四大聖域に関するものですね」
「四大聖域?」
「あ、ええっと、四つの秘境のことですね。ここから北にある世界樹、東にある聖王国の霊山、南の蜃気楼神殿、南西へずっと行ったところにある海底神殿です」
へえ。なんかロマンにあふれてるな。
ふむ、翔たち三人が十分強くなれば別行動で見に行ってみてもいいかもしれないな。もしかしたら帰還の手がかりがあるかもしれないし。冒険気分なのは否定できないけど。
「その図書館って俺でもはいれる?」
「それは…。上の人に聞いて見ないことには何とも言えません」
「聞いてみてくれる?訓練と兼ね合いになるかもしれないけど入ってみたい」
「はい。分かりました。後日連絡させていただきます」
「ありがと」
入れるようなら他の本も見てみよう。そもそも四大聖域に行かずとも、ここの図書館に帰還の手がかりがある可能性もなくはないからな。まあ、この城の人たちでも見つけられなかったのだと思うし無理かもしれないが、可能性があるのならやるべきだろう。
「それにしても、仕事中に本読んでるの?」
「あわわわ!そ、それは忘れてください~」
・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・
「むぅー」
何この可愛い生き物。
「ほら瑠璃、そうむくれていても仕方がないだろう?」
「だってー。空ちゃんだって見たでしょ、誠悟がメイドさんとあんなに楽しそうに喋ってるの」
「まあな…。だが、あれはただの世間話だったのではないか?」
「でもでも…」
すねた瑠璃を眺めてるとこの部屋の主である翔が呆れた顔で話しかけてきた。
「あれ放っておいていいのかな?」
「まあいつものことだしな。神崎に任せておけばいいだろ」
「それもそうだけど…。君たちは相変わらずだね。まあ良いけどさ。それで、結局何か有意義なことは聞けたかい?」
「ああ。図書館があるらしい。入館できるか聞いてくれるって。そっちは?」
「こっちは僕たちの世界の話だね。船とか飛行機の話をしたら驚いてたよ」
なるほどテンプレですね。鉄の塊が空を飛ぶなんて!とか驚いてたんだろうな。俺も混ざりたかったなぁ。いいなーいいなー。
「あ、俺この後訓練あるからそろそろ戻るわ」
「え、訓練?こんな時間に?」
「ああ。斥候系の訓練だって。教えてくれる人の手が空くのがこの時間なんだと」
「そういうことなら仕方ない、のかな?」
「ま、そういうことだからお休み」
・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・
とは言ったものの、やることねえ。ていうか、どっかの訓練場に集合なのか、誰か呼びに来るのかすら知らないんだが。おっさん!連絡事項はちゃんと伝達しようぜ!?
しばらく悶々とした後、結局人に聞くために外に出ることにした。のだが、どうやら誰か来たようだ。
ノックの主に聞けばいいか。翔たちの誰かが何か用事があって来た可能性もあるが、そうでない限り城の人間だろうしな。
「これから訓練場に向かいます」
「え…。えっと、あなたが俺の教導役ですか?」
「何か不満ですか?」
「いえ、滅相もありません!」
ええー。凄腕メイドさんが俺の教導役でした。おっさんが何か含みを持たせてたのってこれか!?この人苦手なんだよな。
「私の名前はエリザベート・ビクトリアです。明日からは、この時間に、これから向かう訓練場で行います。忘れないようにしてください」
「はい!」
イエス、マムとか言っちゃいそうになります。別に威圧されてるわけでは無いんだがなあ。
「…ッ!?」
何だ、今の?
凄腕メイドさんの後をついて歩いていたんだが、今通り過ぎた場所で背中から悪寒が這い上がってくるような、何かおぞましいものに触れたような違和感が走った。
「何かありましたか?」
「いや、今そこで…」
「そこ?別に何もないと思いますが…」
何も感じていないのか?確かに、何かこれといったものはなく、ここまで歩いてきたのと同じような何の変哲もない廊下だが。先程走った悪寒は気のせいではない。
「?何もないなら行きますよ?」
「あ、はい」
嘘だろ?異世界に来てまでホラーな展開はやめてくれよ。俺そういうの普通に怖い質なんだから。
まあ、怖くてもホラー番組とか見ちゃう派でもあるんだが。後で調べてみよっと。
あ、因みに俺、霊感はなかったから地球にいるときでもホラーな体験はしたことはない。悪魔が何言ってんだって話だが。俺自身がホラーだろ、と言われれば言い返せない。
「ここで訓練を行います。行う訓練は斥候関連の小道具の扱い方、罠の発見・解除・設置方法、気配察知・隠蔽、短剣術の習熟ですね。ガルスから短剣の扱いについては十分だと聞いていますので、前三つに重きを置いて、短剣術の方は組手程度でいいでしょう」
「はあ」
「何か質問はありますか?」
「いえ。ないです」
「では、始めましょう」
で、しばらく訓練をしていたんだが…。思ってたより怖くないかも?割と普通の訓練だった。小道具の扱いなんかは意外と面白かったし。短剣術も割と丁寧に癖とか指摘してもらえたし。
今は俺が課題として出された罠を解除してるところだ。後ろから見られているのが分かるので若干緊張してます。互いに無言なのも気まずい。
「ええっと。ビクトリア、さん?なんでメイドさんがこういう技術を身に着けているのか聞いてもいいですか?」
とりあえず話を振ってみた。実際気になってたし。まあ、称号に隠密部隊とかあるし大体想像はつくけどさ。
「私のことはエリザベートで結構ですよ。それから、なぜ私がこのような技術を身に着けているのかについてですが、私、暗殺者でしたから」
え!?マジで!?俺暗殺されちゃうの!?
あ…。待てよ?
「でした、ってことは今は違うということですか?」
「ええ。今はただのメイドです」
ただのメイド、ね。嘘だ!この人絶対現役だよ!
「あなたはどうなんですか?」
少しの沈黙の後、そう後ろから聞こえた瞬間、刺すような視線を背中に感じた。周囲の温度が数度下がったかのように錯覚するほどの鋭い視線だった。
やっぱり来たか。どこかで来るとは思っていたが。おっさんは多分何も考えていないが、この人は違う。まあ、役職的に王族の護衛とかもしてそうだしな。
「あなたはどうして殺しの技術を持っているのですか?」
どストレートに来たなぁ。まあ、隠せてなかったから当たり前か。この人やおっさんレベルの人間に悟られないほどの技術はない。
「あなたの世界のあなたの国では、魔法もなく魔物もおらず、それこそ殺人など全く身近なものではないのでしょう?今晩の夕食の際、アマカワ様がおっしゃっていました」
「ええっと。殺し?何のことですか?」
とりあえずすっとぼけとこう。
「ごまかしても意味はありませんよ。あなた、召喚されてから一度も周りの人間に対して警戒を解いていないでしょう?例外は勇者様方だけです」
「見ず知らずの人に誘拐されたら警戒するのは当たり前なのでは?」
「警戒するだけでしたらそうですね。しかし、あなたは何時でも殺せるレベルの臨戦態勢ですよね?しかも、周りには悟らせず、かといって私やあの男なら気づくレベルに抑えてある。正直、私やあの男と同等かそれ以上の殺しの匂いを感じます」
それはさすがに買いかぶり過ぎなんだよな。まあ、知らないものを過剰に評価してしまうのも分かるんだけどね。抑えてはいない。普通にそこが今の限界なだけだ。
「それに、あなたには強い違和感を感じます」
「違和感?」
「ええ。あなたからは殺しの匂いがすると言いましたが、さらに言えば殺しの匂いしかしないんですよ。血の匂いが一切しない。明らかに私たちと同じ熾烈な闘争の気配はするのに、実際に人を殺した人間に感じるどろどろとした暗闘の気配は全くありません」
へえ。そういうのってわかるもんなんだな。確かに俺は悪魔を屠った数は数えきれない程だが、人を殺したことはない。それは俺が、少なくとも心は人間であることを守るための一線を越える行為だからだ。さすがにそこまで堕ちる気はなかった。
「あなたは得体が知れないんですよ。しかも、勇者様方はそんなあなたを心の底から信じています。まるで、刷り込まれたかのように」
ああ、成程。この人が警戒していたのはそこか。俺が召喚時に紛れ込んだ得体のしれない存在で、翔たちを洗脳でもしてると思ったのだろう。
俺は立ち上がり、振り返った。これは俺にとって最重要事項だ。
もしこの人が、王族を守るために俺を排除に動くのはまだ良い。だが、俺と連帯で翔達にまで手を出そうというのなら容赦はしない。だが、悪魔の力は使えない。
この人は、まだ俺を信じてくれている部分もあると思う。だが、もし俺が悪魔の力を使ってしまっては完全に心を閉ざしてしまうだろう。この人ほどの人間に拒否されてしまえば読心は効かない。
それに、こんな得体のしれない俺だ。存在を暴いてしまった時、何をされるか分からないのにそれを承知で本気でぶつかってきたのだ。ここで悪魔の力を使うのは何か違うだろう。
この人の本心を見極めるためにしっかりと目を見つめた。
「それを知ってどうするんですか?」
しばらく沈黙が続く。しかし、この人は俺の目をしっかり見つめ返して答えてくれた。
「…どうもしませんよ。あなたが、勇者様方がおっしゃる通りの親友である可能性も十分あるのですから。ただ…」
その直後、空間が軋んだ幻聴が聞こえるほどの、痛ましいほどの殺気がこの場に溢れかえった。
「お三方を傷付けるようであれば容赦はしません。それが私たちが負うべき責務です」
「あははははは!なんだ。そうですか、そうですか」
なんだ。まるっきり俺と同じじゃないか。この人は本気で翔たちの身を案じている。それが分かる。
どうやら俺たちは召喚者に恵まれたみたいだな。
「何のつもりですか…?それになぜ今、私に対して警戒を解くのですか!?」
「あなたに対して警戒する必要性を感じなくなったからですよ」
「それは、どういう…?」
「それより、課題、終わりました」
申し訳ないがこれ以上は言葉にできない。いや、言葉では示せないというべきか。ここでいくら言葉を尽くしても意味はない。俺にはこの人に信用してもらえるほどの表現力はないのだ。
しばらく気まずい沈黙が続く。
「はぁ。まあいいでしょう。今日はこれで終わりです」
それだけを言って、エリザベートさんは城に戻って行った。
「ありがとうございます」
多分、聞こえない距離だと思うが、俺はその背中に言わずにはいられなかった。




