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第9話~俺の矜持~

 やるとなったからには本気でやらねばならぬと気を引き締める。ちょっと考えてることもあるし。


 短剣を片手に一本ずつ持ち、構える。二刀流だ。素振りは先程、三人を待つ間に済ませてある。


 翔も準備を終えて構えたところで、おっさんが合図を出した。


「始め!」


 おっさんの合図と同時に翔が突っ込んでくる。こちらも負けじと突っ込む。こいつは掛け値なしの天才だ。勝つためにはペースを握られてはいけない。初期位置の中間地点で接敵した。


 そこからは地味な攻防が続く。翔の剣を右に左にさばきながらこちらも隙を見て攻撃を入れる。だが、こちらの攻撃も全てさばかれる。どちらも決定打の無いまま模擬戦は続く。


 だが、攻防の合間に少しずつ少しずつ翔に気づかれないように間合いを広げていく。侵食する毒のように、気づかれないように布石を打つ。


 こいつには俺とは比べ物にならないほど剣の才能がある。しかも、本質としては感覚派の天才のくせして努力も怠らない化け物だ。今打ち合えているのは、俺がなった悪魔の種族が他の悪魔に比べて再生能力に秀でていたおかげで、再生能力の高さに任せて何度も負けながらも磨いてこれた経験のお陰だ。対して、こいつには経験が少ない。そこを突く。この戦いは負けられないのだ。


 少しづつ、それこそ十秒で一ミリとかそういうレベルで間合いを外していく。まだ翔は気づかない。このままで良い。こいつは焦れると扱いやすい。


「奥儀」


 ほら来た。誰にも聞こえないレベルのつぶやきを、こいつの唇を読み、読み取る。


 何度も言うがこいつは天才だ。あの攻防の中でもこちらにどんどん適応してきた。だが、それは俺の狙い通りだ。奴は、俺の外れた間合いに少しづつ慣らされてしまい、間合いがほんの少しだけ広がっていることに気づいていない。


 翔はそれに気づかずに、長年練習してきた奥儀を()()()()に出す。


 その結果、剣は俺の目の前を素通りする。


 実戦経験を積んだ者なら長年練習で染み付いた動きを相手に合わせて調節するのは簡単だ。実戦経験ではなく試合としてだが多くの相手と戦ってきたこいつも、もちろん普通の動きなら考えずとも調節できる。だがこいつは強すぎた。調節などしなくても決め技を凌げる者はいなかった。文字通り出したら確実に勝負が決まる技だったのだろう。


 決め技の途中で合わせてくるような相手と戦ったことのない翔は、間合いを合わせるだけでよかった。間合いさえつかめれば、奥儀自体は自分が練習していた型通りに放たれる。それを知っていた俺は初めの数合で奴の間合いを確認し間合いを気づかぬうちに外した。普通の打ち合いならこいつは感覚的に間合いが外れても合わせてくる。しかし頭では間合いが外れたことに気づかない翔は、間合いが自分にとって最適なものだと思ったまま奥儀を出した。


 その為、技は俺の少し手前、ほんの少しだけ広がった間合いの内側を通過した。


 目の前を通り過ぎる剣を見送った後、驚いた顔の翔の首筋に、悠々と短剣を突き付けた。


「それまで!」


・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・


「はっはっはー!全国一位様も形無しですなー!」


「ぐぬぬぬ。」


 俺と翔の模擬戦が終わった後、これで今日は終わりということで、片づけをしていた。その傍ら、翔を煽っていたのだ。


「はあ。今までは瞬殺されてたから誠悟がここまで剣の腕があるとは思わなかったよ。」


 今までは圧倒的な悪魔の身体能力に任せて瞬殺してたのだ。今回は少し考えがあって、身体能力という言い訳のきく要因ではなく、技量で打ち破らせてもらった。まあ、純粋な技量差はそこまで無いようだったが。


 だが、どうやら翔は剣の腕が自分より俺の方がよかったから負けたと思っているようだ。さっきも俺が奥儀を躱したと思っている。実際はこいつが勝手に外しただけなのだが。


 まあ、そのまま気づかないでいてほしい。勝てる手は多い方がいい。とは言え、今の模擬戦でおっさんには翔の弱点はバレただろうから近いうちに是正されるだろう。今のうちにまた別の手を考えねば。


「おし、これで終わり。」


 後片付けも全部終わった。この後は夕飯だ。


「おい。ちょっとそっちの坊主に話がある。」


 もうあとは夕飯だけだと思って油断してたところにおっさんから俺に声がかかる。


「なんだろなー。まあいいや。すぐ終わると思うから先行ってて。」


「分かったよ。」


「早く来ないと私と瑠璃が全部食べてしまうからな。」


「え!?私も!?私はそんなに食べられないよー。」


 そんなことを言いながら城の中に入っていく三人を見送る。


「それで、話ってなんだ。」


「そうだな、連絡事項が一つ。お節介が一つ。どっちを先にする?」


「連絡事項で。」


 さっきおっさんがお節介と言ったときに少し顔が真剣味を帯びたので、そっちを後回しにしてもらう。


「分かった。連絡事項だが、お前夜に特別特訓だ。」


「え!?おっさんと!?俺絶対ヤダかんな!」


「おい。それは俺でも傷つく。安心しろ、俺じゃない。ついでに言うと女性だ。そいつの時間が空くのが夜だけだからな。」


 え!?女性と二人で夜の特訓!?


「言っておくがお前の隠密関連の指導だからな。まあ、手を出せるなら出してみろ。くっくっくっ。」


 俺の若い衝動の暴走(あっち方面の妄想)は止まったが、このおっさんの言い分と含み笑いが不気味すぎる。


「まあいいや。それで二つ目は?」


 俺がそう問いかけると、おっさんは笑うのをやめて真剣な表情になった。やっぱり何かあるな。しかし、何のことなのか見当がつかない。


 いろいろ考える俺をよそに、俺の問いから一拍置いてから、おっさんは端的に言った。


「あの三人の為に目標になるのは良いが、自分のことも大切にしろよ。」


 …さすがだな。心の底からそう思った。伊達に何人もの騎士や兵士を見てないな。俺は別に顔に出やすいタイプではないのだが、分かる人には分かってしまうらしい。


 そう、俺が模擬戦で是が非でも翔に、もっと言えば他二人にも負けたくないのはあいつらの目標になるためだ。


 あいつらは平和な日本で暮らしてきた。…まあ、翔はほんの少しだけ逸脱してしまっているが、どっぷり浸かっていた俺よりは遥かにマシだろう。そんな三人が、突然異世界召喚されて勇者になるだなんて、どれ程の重責か分からない。今はあいつらも自覚していないが、こちらの世界と関われば関わるほどあいつらは気づいてしまう。勇者という称号が持つ意味に。


 勇者はこの世界の希望だ。本人たちがそう思っていなかったとしても、何も知らない人たちはあいつらに希望を見る。未来を託す。


 そんな勇者がだ、負けてしまったらどうなるか。人々は絶望しかねない。勇者本人がいくら関係ないと思っていても、周りが、勇者の称号がそれを許さない。勇者には、周囲に希望を抱かせた分、負うべき責任が生じてしまうのだ。本人が望もうと望むまいと、負けてはいけないという責任が。


 それにあいつらが気付いてしまったら重荷に耐えられないかもしれない。戦えなくなってしまうかもしれない。そうなればもう終わりだ。戦えない勇者など良いカモだ。そうでなくても、戦場で剣が鈍ってしまえば、その先に待つのは死だけだ。


 そうならないために、俺はあいつらの目標になることにしたのだ。ただ巻き込まれただけの奴が勇者よりも常に上に立ち続ければ、勇者と言えども絶対の存在ではないということをあいつら自身にも、周囲にも知らせることができる。


 そうすれば、あいつらは目標である俺に追いつこうと必死になっている間は重責に気づかないし、勇者が絶対の希望ではないということに周囲が気付けば、その重責自体が軽いものになっている。加えて、あいつらも目標に向かって必死に鍛錬を積むから生存率も上がる。周りも、勇者でなくても同じだけの強さを持てるのだと、勇者だけに頼らず、自分自身でもあきらめずに努力するだろう。


 一石二鳥どころか四鳥の策である。


 だが、これは全て、俺が勇者たちに勝ち続けることが前提の策だ。勇者たちの代わりに、俺が重責を担うということだ。


 しかし、それが何だというのか。あいつらの誰かが欠けるよりも遥かにマシだ。むしろ、四人の中で唯一勇者の責務から逃れてしまっている俺が負うべき責任だ。いくらでも、どんとこい。


「余計なお世話だ。」


 俺の意図を理解して、それでも俺という若者の為にお節介と分かっていて口を出してくれたおっさんに、考えを曲げるつもりはないと示すように、それだけ言って背を向け、俺は城に向かった。


「そうか。」


 そうとだけ返して俺を見送ったおっさんがどんな表情をしていたのか、もう歩き出していた俺には分からなかった。

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