第8話~おっさんの矜持~
ものすごい音で扉が開いたと思ったら、おっさんが出てきた。すかさず時間を確認すると、まさかの時間通りだった。
馬鹿な!?
「うん?なんだお前ら。ゴブリンが首をはねられたような顔をして。」
「それ死んでんじゃん!」
は!?思わず突っ込んでしまった。
「しっかし、俺が時間通りに行動するのを初めて目にしたやつはみんな同じ反応するよな。」
「いやだって。」
ストレートに言うのも年上相手にはばかられて、曖昧な感じになってしまったが、勇者組三人も曖昧にうなずいたり苦笑いしてるし、多分みんな思うことは同じなんだろう。すなわち、日ごろの行いが悪い!
「まあ、お前らが何考えているのかは大体分かるし、俺自身も自覚はしてるがな。ただ、俺は一つだけ譲らないようにしてる信条があるんだぜ。」
「信条、ですか?」
「おうよ。絶対に未来ある若人の将来だけは摘み取らせないということだ。」
だから、戦争には最前線に立って可能な限り若い奴らには被害が出ないようにしてるし、日ごろから訓練をつけて死ぬ確率を下げさせてるんだ。続けてそう言ったおっさんの顔は、なんていうか、兄貴と言いたくなるような、俺たちが今まで見たことのない大人な顔をしていた。
「だからな、俺からも言わせてくれ。お前たちをこちらの事情に巻き込んでしまってすまなかった。」
そう言って、おっさんは頭を下げた。そして、俺たちが何も言えないでいるうちにおっさんは頭を上げてしまった。
「お前たちに許してもらおうとは思っていない。そんなことに時間を使うなら、お前たちを死なせないための訓練に使った方が何倍も良いからな。だからこれは、俺のけじめのようなものだ。気にしないでくれていい。そしてこれは、この国の人間の総意でもある。」
俺たちがこの世界に負うべき責任はないとはいえ、普通の感性なら少なからず責任を感じてしまう。そして、実際に俺たちが多少の心苦しさを抱いていることを、今朝一度顔を合わせただけで感じとって、その後ろめたさを和らげるためにこんなことをしてくれたのだろう。
「お前たちに世界を救ってくれなんて口が裂けても言えない。お前たちは自分たちが生き残ることを最優先に考えろ。」
そう言って、おっさんは俺たちを安心させるように、ニカッと笑ったのだった。
・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・
「まあ、気を取り直して訓練を始めるぞ。」
そう言われて、俺たちも気を引き締める。いろいろ思うところがあったが、おっさんも言ったように、今俺たちが優先すべきは自分が死なないこと、そして自分たちのだれも死なせないことなのだから。
「今日はとりあえず基礎的な訓練から始める。」
そう言って始まったのは本当に基礎訓練だった。体づくりに柔軟などなど。
初めは全員同じメニューだったが、早々に俺たちの現在の状態を把握し、俺や翔、神崎はハードメニューに代わり、瑠璃はソフトなメニューになった。
一通り終わったところで休憩になった。
「いつもよりきついくらいかな。」
「ああ。あの人も良く見ている。」
そんな風に余裕風を吹かせている二人はほっといて、瑠璃の様子を見に行く。
「大丈夫か?」
「うん~。何とか~。」
いつもよりも間延びした声を聴いてると余計心配になるのだが、おっさんの目利きは信用してるので、多分大丈夫だろう。
瑠璃も動けるようになったころに、次の訓練になった。
「じゃあ、早速武器を選ぶぞ。」
「素振りとかするのか?」
おっさんにタメ口をきいた俺に他三人はぎょっとしているが、このおっさんに敬語を使う方が不自然な感じがしたのでこれで通そうと思う。おっさんも気にしてないようだし。
「いや、それは明日からだ。今日は武器選びと軽く模擬戦して終わりだ。」
「模擬戦って僕たちとホートさんがですか?」
「ガルスと呼んでくれ。むず痒い。」
「分かりました。ガルスさん。」
「その敬語もやめてくれると嬉しいんだが、まあいいか。それで、模擬戦だったな。俺とお前らでは実力差がありすぎるからな。そうだな、坊主二人でしてもらうか。」
”実力差”の所で俺をチラリと見たので、こりゃ実力はバレてるなと辟易したところで、おっさんが爆弾を落としてきた。
「おい。どういうことだ?」
「なあに、その方が面白いだろ。」
と、供述しており…。翔の方も、久しぶりに誠悟と戦うのもいいね、とか言ってるし。これは、逃げられなさそうです…。
鬱々とした気持ちのまま、おっさんが用意してくれた武器の中から、手に合うものを選ぶ。今選んでいるのは刃のない模擬戦用のものだが、ここで選んだものを元に、微調整した武器を後で作ってくれるらしい。
俺は早々に、適当に短剣類の中から二本選んだ。正直特に意味はない。俺は基本どんな武器も一度は使ったことはあるし、使ってればそのうち慣れるので、重心とかバランスとかあまり気にかけないのだ。短剣を選んだのも、単純にスキル構成から、斥候なら短剣だろうと思っただけである。
しかし、他の三人は違った。翔と神崎は武道に身を置いていた為、今後作ってくれる武器の参考にもなるのだからと真剣に選んでいたし、瑠璃は逆に素人なので、おっさんに助言をもらいながらじっくり選んでいた。結局三人はたっぷり30分かけて武器を選んだ。はい、一人で寂しかったです。
気持ちを切り替えて、三人が選んだ武器を確認する。
まず、翔が選んだのは長剣だ。翔が向こうで使っていた剣と似たような刃渡りのもので、両刃の直剣で、ザ・西洋剣って感じだ。こちらの世界はヨーロッパ風味なので、武器も剣は西洋剣がメインで、重心とか細かく違うものが何種類もあったので、自分に合うのを選ぶのに時間がかかったらしい。
神崎が選んだのは和弓だ。しかも長弓。なんでこんなものが西洋文化に交じってるのか甚だ疑問だが、まあ、俺たちの前にも日本人が来てたようだし、その関係だろうと納得しておく。俺は弓のことはよく分からないのだが、神崎は何種類かの弓をとっかえひっかえして、試射したりして決めていた。
瑠璃が選んだのは棒だ。一メートルくらい?もうちょっと長いかもしれない。それ使うなら棒術じゃないのかと突っ込んだら、おっさん曰く、魔法の発動媒体だから分類上杖で、杖術なんだと。異世界のスキルは結構アバウトだった事実。
ちなみに、魔法の発動媒体は魔力操作の補助とか、魔法効果の拡大とかいろいろあるらしい。魔法適性高すぎて今まで使ったことがなかった罠。今思い出すと向こうの世界の魔術師とかもそう言ったもの使ってたわ。さっきの訓練でも俺が魔力で遊んでる間に魔法の発動媒体として指輪が渡されていたらしい。俺の魔力操作を見て、必要はないということで俺には渡されなかったっぽい。気づかなかった!
「それじゃあ早速、俺の合図で始めるぞ。」
いろいろ考えて現実逃避してたが、やっぱりやらなきゃダメみたいです。




