プロローグ1~召喚陣~
今日は夏休み前の終業式だった。それが終わり今は俺を含めた4人で帰路についている。全員同じ高校の3年生だ。
「今日これからどうしようか。」
そう言ってきたのは、俺の隣にいる天川 翔。俺の親友だ。俺は少し事情があって危険なことをすることが多いのだが、こいつには命を助けてもらったり、命を助けたり、そんな複雑で単純な仲だ。
そんな翔のことを表現するには一言で足りる。「完璧超人」だ。眉目秀麗、成績優秀、運動神経抜群、性格もいい。それに加えて、剣術を習っており、全国大会でも優勝とかする奴だ。
「戦闘訓練でもするか?」
そう返したのは、翔を間に挟んで向こう側にいる大和撫子のような美女だ。名前は神崎 空。翔の恋人だ。こちらは弓術の達人で、身長が高く、でるところは出て、引っ込むところはなかなか引っ込んでいる美女だ。ただ、少し…いや、かなり戦闘脳なのがたまに傷だ。
翔と俺とは武術界の繋がりで知り合った。期待の新人として注目を浴びる翔の隣にいる陰湿な男(つまり俺)に警戒して突っかかってきたのが始まりだ。
俺は、まあ…言っても信じられないかもしれないが、悪魔なのだ。自分ではわからないのだが、なんか負のオーラのようなものが出ており、見る人が見ればわかるらしい。それプラス、戦場を渡り歩いたせいで身についた身のこなしを含めて警戒対象に認定されたようだ。
だが、言ってはなんだが、俺はかなりの人畜無害な人格をしているので、関わるうちに神崎も毒気を抜かれた。
ところが、そうやって俺たちに絡んでいるうちに、だいたい知り合ってから半年ぐらいで神崎は翔に恋をしていたのだ。悪魔として人の心を読むことができるが、その能力を使わなくてもわかるくらいの恋する乙女だった。気づいてないのは主人公補正を持っている鈍感系主人公の翔くらいだろう。
そのせいで引き続き突っかかってくる神崎がもどかしくなった俺は、神崎の相談に乗ったり、翔と神崎が2人きりになれるようにしたりと、色々お膳立てをして、晴れて2人は恋人同士になったというわけだ。
「ええー。それは流石にないよー。それよりご飯食べに行こうよ!ね?誠悟!」
で、最後の1人がこの女。横に並んだ俺たち3人の前に出て、こちらを振り返ってニコニコしている朱烙 瑠璃だ。年齢からすると全体的に小柄で可愛い感じの女子だ。もう一つ言えば俺の幼馴染だ。翔とは高一の春、神崎とは高一の冬に知り合ったことを考えると、家が隣の瑠璃とは一番長い付き合いだ。
ああ、ちなみに誠悟とは俺の名前だ。藤宮 誠悟。ものすごい普通の名前だ。がっしりしているわけでもなく、かと言って痩せているわけでもない、175cmという身長から考えたら普通の体格だ。成績も中の上くらい。まさに普通だ。
顔?それは自分では判断しづらいな。自分で判断するのは心情的にもなんか嫌だし、そもそも自分の顔なんてものは主観性の最たるものなのだから客観的に判断できるわけもない。ただ、何人かの女子に告白されたことはあるので、それくらいの顔はしていると思う。
ちなみに彼女はいない。中学までは勉強でそんな暇はなかったし、高校に入ってからは悪魔になってしまって、これまたそんな暇はなかった。
…言いたくはないが、実は、高二の冬、翔と神崎が付き合いだしたのに感化されたのか、瑠璃に告白された。悪魔としてすでに戦場にいた俺は、瑠璃を巻き込まないために断らなければならなかった。俺としても嬉しい限りなのだが仕方なかったのだ。独り身の人たちに殺される自信がある…。
そんなくだらないことを考えていて、返事をしない俺に3人が顔を向けてきたので思考を中断する。
「まあ、いいんじゃないか。そのあと図書館で勉強しよう。」
「え!夏休みは明日からなんだから明日からでいいじゃん。」
「バカ。お前のために言っているんだ。俺と翔と神崎は進学のための学力は十分にあるんだぞ。」
もともと勉強ガチ勢の俺と完璧超人の翔に、翔と同じ大学に行くために高三の春に弓道部を引退してまで受験勉強している神崎はそれなりの成績なのだ。それに対して瑠璃はかなり成績が悪い。文系科目は得意なのに理系はダメダメなのだ。うちの高校は進学校なので中の下くらいまでなら十分な学力があるが、瑠璃はそれよりも下なのだ。進学校の下の方なので、そこまで頭が悪いわけではないのだが、このままでは瑠璃だけランクがかなり下の大学に行く羽目になる。
そうやっていつものようにやり取りをする俺と瑠璃、そしてそれを見てそれを楽しそうに眺める翔と神崎。そんな日常が唐突に終わった。
翔の足元に突然生まれた魔法陣。反射的にその効果を読み取った俺は驚愕した。
1つ、範囲指定。勇者及び該当存在の直近に存在する人物2名のロック。
2つ、召喚。指定した範囲内の存在の召喚。
3つ、強化。召喚中に、指定した範囲内の存在に能力の付与。
召喚陣は、俺よりも翔の近くにいた神崎と瑠璃の足元まで瞬時に広がり、輝度を増す。
俺は何を考えるよりも先に、その光の中に飛び込んだ。
そしてそこには誰もいなくなった。






