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戦うお嬢様!  作者: 和音
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35 働かざる者、食うべからず

 一行にエディーが加わり、一路ミズールを目指している。

 そしてエディーを拾った翌日には、ようやくサンバルト家領へと入った。ここから、ミズールまではのんびり行っても五日程。

 この辺りでは一番大きな街である、クレタの街へと着いていた。今日はここで一晩宿を取るらしい。ここから、エディーの両親宛てに手紙を送る。ここに来て、ようやく連れ戻されないと確信したのか、あっさりと家の住所を教えてくれた。

 手紙を出し終えて、今晩泊まる宿へとやってくる。


「帰ったらしっかり、叱ってもらう様にお願いしといたからね」


 私を単純呼ばわりした罰だ。宿の手続きを待っている間、少しからかってやろう。


「ふん。叱られるのも冒険家の修行の一つだ」


 やっぱり、エディーの言う冒険家が分からないね。


「まあ。強がっちゃって」


「ナタリア姉ちゃんの方こそ、本当に商家の娘か? 全然、金持ちの娘には見えないぞ。どっかその辺の定食屋で働いていそうな感じだけどな」


 エディーも反撃してくる。


「見る目が無いわね。どっから見ても、いいとこの娘さんって感じでしょ」


「どうやっても見えねえよ」


 昨日から私とエディーはこんなやり取りを繰り消している。まったく、生意気な弟が出来た気分だ。


「さ、お嬢様。お部屋が取れましたので」


 宿の受付を終えたアシリカが戻って来た。


「そう、分かったわ」


 だが、時間はまだお昼を少し過ぎた所。このまま部屋でじっとしているのもつまらない。どうせなら、街を少し見てみたい気がする。


「アシリカ、ちょっとその辺ぶらぶらしてくるわ」


「でしたら、荷物を部屋に運ぶので、少しお待ちください。ご一緒しますので」


 アシリカとソージュが、馬車から降ろされた荷物を部屋へと運ぶ為、台車に積み込んでいる。


「大丈夫よ。遠くまで行かないから。その辺を見てくるだけだからさ」


 アシリカたちは忙しそうだし、デドルも馬車の手入れ中だから手間かけさすのも悪いしね。ほんの少し出歩くだけだから問題ないはずだ。


「なりません。迷子になどなったらどうしますか? 少しお待ちを」


 もう、アシリカって、意外と心配性だよね。


「大丈夫だってば。すぐに帰ってくるから」


「しょうがねえな。オレが付いて行ってやるよ」


 やれやれといった感じでエディーが首を振る。


「エディーが来たら、私が面倒見る方じゃないの。まあ、いいわ。ほら、行くわよ」


 本当は、エディーも早くどんな店があるか見たいだけじゃないの。 


「お嬢様、せめてシルビア様とご一緒に」


「シルビアは宿の中庭の木に夢中よ。本当に大丈夫だからさ。ちょっと、行ってくるね」


 心配顔のアシリカに手を振り、私は宿から表へと出る。

 私の周りは心配性が多いのよね。そんなに私って信用ないのかしら。それに、自分で方向音痴は自覚している。迷子にならない様に、この通りから曲がらなかったらいいのだ。それならば、迷いようがない。


「なあ、どこ行くんだ?」


 エディーが私を見上げて聞いてきた。


「そうね。あまり遠くに行って時間が遅くなっても心配かけるから、その辺の店を見てまわるくらいね」


 宿のある場所は街で一番の繁華街らしく、多くの店が並んでいる。多いと言っても、エルカディアに比べたらこじんまりとしてはいる。

 どんなお店があるのかしら? どうせなら、ご当地の美味しそうなモノでもないかしらね。

 私とエディーが通りを歩いていると、何やらいい香りが一軒の店から漂ってきている。この匂いは、香辛料の効いたピリ辛味と見たね。


「いい匂いね」


 思わず、ゴクリとしてしまう。


「そうだな」


「ちょっと、覗いていこうかしら」


 私は、匂いの元の店に近づく。大衆食堂といったところか。少し古ぼけた店構えが、逆にいい味を出している。


「いや、でも……」


 店に入ろうとする私に対して、エディーの方は躊躇している。


「なになに? 今食べたら夕食を食べれないなんて言わないでよ。成長盛りでしょ」


「いや、そうじゃなくてさ……」


 もう。はっきりしない子ね。


「少しくらいなら大丈夫よ。ほら、入るわよ」


 エディーの腕を掴み、店へと入る。店の中では、一段といい香りがする。


「いらっしゃい」


 恰幅のいいおばさんが笑顔で、出迎えてくれた。


「店の前まで匂ってたのってどれです? 香辛料が効いてそうな……」


 席に案内されて、メニューを眺めながら尋ねる。


「それなら、このスープね。ちょっと辛いけど、うちの店の自慢のスープよ」


 ほう。店の自慢のスープか。これは期待出来るわね。私は、そのスープを二つ注文する。

 程なくして、注文したスープをさっきのおばさんが運んできてくれた。赤いスープに、野菜や鳥肉が入っている。匂いが、堪らないわね。食欲が誘われるわ。

 スープを一口、スプーンで口に入れる。美味しい。見た目程辛さは無いが、コクがあり、鳥肉とよく合う。そこに野菜の甘味が加わり、まさに絶品である。


「うまいな……」


 エディーも満足そうに目を細めている。

 パンも欲しいとこだけど、それは我慢する。だって、食べ過ぎはね……。

 この店自慢のスープを堪能し、一息つく。満足である。屋敷でも、料理人の作った食事は美味しいが、それとは、また別の美味しさがある。

 おっと。すっかり夢中になってしまったが、そろそろ帰らないとね。あんまり遅くなるとアシリカに怒られ……。あれ? アシリカいないのよね。よく考えれば、お金、持ってない……。


「あの、エディー?」


「何だ?」


「あなた、お財布持ってる?」


 恥を忍んで聞いてみる。


「は? 持ってるわけないだろ。全部、川で流されたんだから」


 そうだった。荷物全部流されたエディーがお財布を持っているわけない。 


「おい、まさか、お金持ってきてないのか?」


 うわー。しまった。私は、お金持ち歩いていなかったんだ。なんで、忘れていたんだ。どうしよう。すぐに、宿に行って、アシリカ呼んでこなくちゃ。また、お説教だろうけど、仕方ない。


「お客さん……」


 私たちが騒いでいるのを見た、店のおばさんだ。


「お金、持ってないのかい?」


 店に入ってきた時の笑顔はどこに行っちゃったんですか? すぐに探してきて。


「えっと、その……」


 やばい。このままじゃ、無銭飲食だ。さすがに、自分の家の領地で無銭飲食は、情けなさすぎる。


「ね、姉ちゃん、どうすんだよ」


 エディー、私が聞きたいよ。おばさん、すごい怖い顔になってる。


「あんたら、姉弟かい。仕方ないね。食べた分、働いてもらうよ。働かざる者食うべからずだよ」


 仁王立ちとなったおばさんに、私とエディーは頷く以外の選択肢は無かった。




「お待たせしましたー! ご注文の定食でーす!」


 元気よく、お客さんに注文された定食をテーブルの上へと置く。私は、給仕係として、働いている。すぐに、仕事にも慣れて、少し楽しくさえ思っている。これなら、アシリカお説教よりいいかも。店のエプロンを借りて、店内を忙しく動き回っていた。

 ちなみに、エディーは皿洗いと厨房の雑用係。これも、冒険家になる為の修行と思って頑張りなさい。

 この店は、さっきのおばさんと旦那さんで切り盛りしているらしい。主におばさんが給仕を、旦那さんが厨房で調理をしている。


「アンタ、意外と使えるわ」


 おばさんも納得の私の働きぶりである。何でも、忙しくなる夕方からいつも来てくれる人が、急病で来れなくなり困っていたらしい。そこで、私たちに、無銭飲食分、働かせようと思ったらしい。運が良かったのか、悪かったのか。ま、役所に、突き出されるよりは、マシよね。


「いらっしゃいませー」


「おや? 女将さん、新しい子入れたのかい?」


 馴染みのお客さんだろうか、私に気付いてくれる。


「ああ、まあね」


「頑張りなよ」


「はい!」


 励ましの声を頂く。ますますやる気が興ってくるわ。

 うんうん、やっぱり自分で働くっていいわね。このままじゃ、この店の看板娘になってしまうかも。

 しかし、夕食の時間が迫ってきているというのに、客の入りがいまいちだな。あんなにも、美味しいのに何故かしら? 客席の三分の一ほどしか埋まっていない。


「あの、もう少ししたら、もっとお客さん来るんですか?」


 一息ついた所で、すっかり打ち解けたおばさんに尋ねてみた。


「うーん、どうかしらね。最近は、世の中も不景気みたいでねぇ」


 そうなんだ。世の中は不景気なのか。どこも世知辛いね。でも、屋敷にいたら、知る事が出来ない事だね。

 よし、突っ立ているだけでは、申し訳ない。


「私、呼び込みします!」


「え? 呼び込みするのかい? そこまでしてもらうのも……」


 おばさんは渋るが、どうせなら、たくさんお客さんに来て欲しいじゃない。


「いえ、気にしないでください」


 私はそう言うと、店の前に立つ。


「美味しい夕食はいかがですかー? 美味しさ想像以上、価格は予想以下。しかも栄養満点! いかがですか」


 私は通りを歩く人に次々と声を掛けていく。初めは、訝し気に見る人が多かったが、次第に店に入ってくれる人が増えてきた。


「どうですかー? 今なら、少し待つだけで、入れますよー! ほら、そこのお兄さん、どうです?」


 私の呼び込み効果か、瞬く間に、店は満席となる。まさに、大繁盛である。

 エディーもちゃんと働いているかしかしら? ちらりと見ると、次から次へと運び込まれる洗い物を相手に、悪戦苦闘中みたいである。

 給仕を手伝いつつ、呼び込みも怠らない。ほんと私って、優秀な店員ね。


「そこのお嬢さん方、どうです? 今なら、すぐにお席にご案内できますよ」


 私の呼び込みは絶好調である。最高の笑顔で声を掛ける。


「お、お嬢様……」


 私が声を掛けたのは、顔面蒼白となるアシリカたちだった。私の最高の笑顔も、固まっていた。 




 店の混雑が一段落した後である。


「ご迷惑をお掛けしました。申し訳ございません」


 アシリカが、おばさんに深々と頭を下げる。


「いえいえ。いいのよ。こちらも助かった上に、お客さんを大勢呼び込んでくれたし。でも、近くの宿に連れがいるなら、そうと言えば良かったのに……」


 あの時は、おばさんが怖くて言い出すタイミングがありませんでした。


「これ、お食事の代金です」


 アシリカが、お金を差し出すが、おばさんは首を横に振る。


「いいえ。この子たちは、それ以上に働いてくれたわ。頂くわけにはいかないね」


 おばさんは、頑としてお金を受け取ろうとはしなかった。


「それと、これ」


 おばさんは、私とエディーに、それぞれ銅貨三枚を渡してきた。


「食べた分以上の報酬よ。アンタ、いいとこの子みたいだから、いらないかもしれないけど、働いた分きちんと払わないと私が納得できないからね」


 おばさんは、にんまりと笑う。


「ありがとうございます」


 素直に受け取ろう。遠慮したら、逆に悪い気がする。それに、私は基本無一文です。むしろ、借金もありますから。


「いやいや。旅の人じゃなかったら、正式に雇いたいくらいだよ」


 おばさんは、大きな笑い声を立てる。

 もう少し近い所だったら、働きに来たいくらいだね。


「それにしても、お嬢様……」


 アシリカが私の顔をまじまじと見つめ、大きなため息を吐く。


「今回は、何とお諫めしていいかも分かりません」


 うう、ごめんなさい。なかなか帰ってこない私を必死で探していたらしい。反省します。だから、そんな目で見るのは、止めて。


「お嬢サマを一人にして、騒動を起こさない方があり得ないデス」


 ソージュ、静かに毒を吐くのは勘弁して。一番心に突き刺さるからさ。


「でも、お姉さま、その恰好、お似合いですわ」


 エプロン姿の私にシルビアが、慰める様に声を掛けてくれる。でも、それ慰めになってないから。


「やっぱ、ナタリア姉ちゃんは定食屋がお似合いだったんだな」


 エディー、あなたも皿洗い係してたでしょ。同類って事、忘れないようにね。


「はっはっはっは。また、クレタに来る事があったらら寄っておくれ。また、手伝ってもらうからさ」


 おばさんの笑い声に、私が頷くのを見て、アシリカがもう一度大きくため息を吐いていた。



 宿に無事戻ってからである。アシリカからは、単独行動の厳禁を言い渡された。もちろん、お説教付である。

 反省しています。もう勝手な行動は慎みますから。


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