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戦うお嬢様!  作者: 和音
31/184

31 馬車の車窓から

 馬車の窓から見える風景が流れていく。

 田園が広がり、たまに家が五軒ほど纏まって建っている。小川や木々に包まれた小高い丘も見える。

 エルカディアから半日程馬車で走ってきて、すっかり目に映る景色も変わってきていた。

 お父様から許しをもらい、半月後。私はサンバルト家の領地へと向かっている道中である。初めてエルカディアから遠く離れた場所への旅行でもある。サンバルト家領までは十五日程、そこから最終目的地であるミズールまでは五日程かかるらしい。こうやって実際に旅に出てみると、エルフロント王国が大きな国だと実感する事が出来る。

 お供はいつもの通り、アシリカとソージュ。これは変わらない。この二人、お父様からも信頼されているみたいだしね。そして、馬車の御者台には、何故かデドルが座り、手綱を取っている。庭師の仕事はいいのかしら。最近のお母様たちの園芸ブームのお陰でずいぶんと仕事が減ったらしいけど。

 ま、この三人は理解出来る。いつも一緒にいるメンバーだしさ。だけど、いまだに、もう一人が何故ここにいるのか、よく分からない。


「お姉さま、ご覧になりました? さっきの木、素敵でしたわねぇ」


 シルビアだ。たまたまうちの屋敷に遊びに来た時に、ミズール行きを聞きつけてどういう訳か一緒に来ている。別にいいけどさ。それにしても、フッガー家は自由だな。ちょっと羨ましい。

 私たち一行は以上である。他に警護も付いていない。治安がいいという事もあるが、目立たせたくないというお父様の意向だろう。もっとも、何かあったとしてもアシリカとソージュなら、下手な護衛より強いから問題ないしね。


「シルビア。少しは落ち着いたら?」


 出発してからというもの、はしゃぎっ放しである。主に、木についての感嘆ばかりだけど。


「だって、お姉さまと旅行ですのよ。はしゃぎたくもなりますわ」


「じゃあ、せめて、椅子には座ってなさい」


 立ったままだと、転ぶわよ。


「分かりましたわよ」


 うん、大人しく外を眺めてなさい。

 アシリカとソージュもエルカディアからこんな所まで来たのは初めてらしく、興味深げに外を眺めている。


「お姉さま、その本は一体何ですの?」


 私の膝の上に置いている一冊の本にシルビアが興味を示した。


「これはね、天空石の事を記している本よ」


 ミズールに向かうまでに、天空石の事は自分なりに調べていた。やはり、かなり貴重なもので、手に入れるのは至難の業である事を確認しただけだっけど。これはミズールに行っても可能性は低いというか、ゼロだろうな。


「いい加減、諦められては?」


 アシリカが、呆れ混じりの声を出す。


「そうもいかないわよ」


 私は腰に差した開くことのない鉄扇を叩く。


「お嬢サマ、諦めが悪いデス。それがいい所デス」

 

 ソージュ、それ、褒めてくれているのかしら。


「そうですね。まあ、お手伝いはしますが、北の大陸にまで足を伸ばすなどは、決して、認めませんからね」


 アシリカに念を押された。大丈夫。流石にそこまでは考えてないよ。今回は、だけどもね。


「やあね。そこまで無茶はしないわよ」


 繰り返すが、あくまでも、今回は、だ。天空石の事は別にしても、いつか、世界を巡ってみたいなぁ。


「そう言って、いつも無茶をするのが、お嬢様ではありませんか」


 それを言われると返す言葉が無いけどさ。


「ふふっ」


 シルビアが笑い声を立てた。


「いつ見ても、仲がよろしいですわね」


 私たち三人を微笑ましそうに見ている。

 改めて、そんな事言われると、照れるな。


「ま、いつも一緒だからね」


 私は再び視線を窓の外に向ける。 

 天空石は無理そうだけど、いっか。何だかんだ言っても、この気心の知れたメンバーで旅行出来たってだけで、良しとしようかな。




 一晩の宿を途中の街で取り、翌日も馬車は走り続ける。

 しかし、飽きてきたよ。見える景色も昨日からほとんど変わらないしさ。アシリカとソージュも同じみたいだ。アシリカは、編み物を手にしながら、うたた寝し、ソージュは御者台のデドルの隣に座り、馬の操り方に興味津々である。シルビアは飽きもせず、気に入った木を見つける度に、嬌声を上げている。

 暇だ。もうちょっと、風景にメリハリがあればいいのになぁ。見えるのは同じような田園ばかり。さすがに、いい加減見飽きたよ。


「ん?」


 暇を持て余していた私の目に、遠目にだが人だかりが見えた。のぼりやバルーンも見える。何か、お祭りみたい。楽しそう。


「デドル!」


 私は立ち上がると、御者台へと続く、扉を開けた。


「ほら、見て。あそこ。お祭りかな」


 私は見つけた人だかりを指差す。


「ほう。そのようですな」


 手綱を握るデドルは頷く。


「ね、ね。ちょっとだけ寄ろうよ」


 どんなお祭りだろう。見てみたい。丁度、退屈だったしさ。


「早速、寄り道ですかい」


「ちょっとだけだから。ね。ソージュも見たいでしょ。美味しい屋台があるかもしれないわよ」


「屋台……。食べたいかもデス」


 うん、ソージュは素直ね。


「仕方ないですなぁ。日にも余裕がありますし、覗いていきますか」


 デドルは手綱を操り、街道から逸れると、祭りをしていると思しき場所へ馬車を向かわせた。

 近づくにつれ、人が増えてくる。屋台が立ち並び、周囲の木に飾りつけされているのが見えるてくる。


「ここまでですな。これ以上は馬車では進めませんので」


 道の脇に馬車を止め、デドルが告げた。


「申し訳ございません。つい……」


 馬車が止まったのに、気づいたアシリカが目を覚ます。


「ほら、行くわよ」


「え? ここは?」


 状況が良く分かっていないアシリカを無理やり立たせると、馬車から降りた。


「屋台……」


 ソージュも御者台から降りてきて、目を輝かせている。そうね。屋台も楽しみね。


「あら、あの木も素敵だわ」


 うん、シルビアはぶれないね。


「お祭りですか……」


 ようやく状況を把握して、アシリカが周囲をきょろきょろと見回していた。


「お嬢様、あっしは馬車の番をしておりますので」


 デドルが御者台で、袋から取り出した菓子を口に頬張っている。


「分かったわ。何か美味しそうなものがあったら買ってきてあげるね」


 デドルを残し、私たちは、人だかりの方へ向かう。

 賑やかな音楽が聞こえる中、屋台が立ち並び、人々が思い思いに祭りを楽しんでいる様だ。村のお祭りといったところかな。


「エルカディアにいては、味わえない雰囲気ですね」


「そうね。どことなく朴訥とした感じよね」


 アシリカの感想に相槌を打つ。

 屋台を物色しつつ、進んだ先に立つのぼりに気付く。


「あれって、お芝居?」


 少し先に演目らしきものが書かれたのぼりが数本あった。


「そうみたいですね。でも、芝居小屋らしきものはありませんね」


 アシリカが首を捻る。

 確かに、のぼりは立っているが、芝居小屋や舞台のような物は見当たらない。どうせなら、お芝居を見てみたいなぁ。

 のぼりの側に行き、辺りを改めて見回してみるが、やはりそれらしきものは無い。


「あの、すみません。それ、取らしてもらっていいですか?」


 きょろきょろする私に声が掛かる。

 一人の少女だ。私とあまり年は変わら無さそうだ。目鼻立ちが整った美人さんである。演目が掛かれたのぼりを指差している。


「え? 邪魔でした? ごめんなさい」


 私はのぼりから一歩下がる。この人、芝居小屋の関係者かしら?


「あの、お芝居って、見れます?」


 のぼりを回収する女の子に聞いてみる。


「すみません。昨日まででして。次の公演の都合で、今日には出発しなくてはならなかったので……」


 私の問いかけに、申し訳なさそうな顔で答えた。


「そう……。残念だけど仕方ないわね」


「私たちの一座は、各地を転々としながら、芝居を披露させてもらっています。ご縁があれば、また出会えます。その時は是非、ご覧になってください」


 私の落胆ぶりに、さらに顔を申し訳なさそうにする。


「おーい! フィルル。そろそろ出るぞー」


「はーい」


 目の前の少女が返事する。


「そろそろ行かないと。また、ご縁がありましたら、是非」


 フィルルと呼ばれたその子は頭を下げると駆けていった。


「残念でしたわね」


 シルビアも落胆している様である。木以外に興味を示すのも珍しいな。


「お嬢サマ、屋台……」


 屋台の方をじっと見ているソージュである。こっちは、芝居より食べる方がいいみたいね。


「そうね。屋台の方を楽しみましょうか」


 私は屋台から臭ってくる香りに、お腹が減ったような気がした。

 屋台を堪能し、路上で曲芸師の芸を楽しみ、祭りを満喫した頃には、すっかりと時間が経っていた。

 ずっと待たしたままのデドルに申し訳ないと、彼が好みそうな甘そうな菓子を買い、馬車へと戻る。


「ごめん。待たせちゃったわね」


 手土産を渡しながら、謝る。


「いやいや。はなからすぐに帰ってくるとは、思っちゃいませんよ」


 土産の菓子を受け取り、デドルは答えた。

 馬車に乗り込み、再び、移動が始まった。

 いや、なかなか楽しかったね。素朴な祭りだが、癒された気がするな。のんびりとした空気が気に入ったよ。

 ぼうっとながら、祭りの余韻に浸っていた私だが、馬車が停車したのに気づく。


「どうしたのかしら?」


「どうやら、前に荷崩れを起こした荷車がいるようでして……」


 御者台から、デドルが顔を覗かせた。


「荷崩れ? それは大変そうね」


 窓を開け、身を乗り出して前方を見る。道路一面に荷物をばら撒いた荷車がいた。その前後にも同じく山の様に荷物が積み込まれた荷車がいる。崩れ落ちた荷物を荷車に慌てた様子で積み込んでいる人たちがいた。

 

「あら?」


 荷物を積み込んでいた一人の少女に目が留まる。さっきの芝居一座の子だ。


「ちょっと、見てくるね」


 私はそう言うと馬車を降り、少女の元に駆け寄った。


「ご縁があったのかしら。また会ったわね」


「あ。さっきのお祭りで会った……」


 少女も私の事を覚えていてくれていたみたいね。


「荷物、崩れちゃったの?」


「はい。すみません。通れませんね。出来る限り早く片付けますので」


 申し訳無さそうに頭を下げる。


「気にしないでかまわないわよ。そうだ。私たちも手伝うわ」


 どうせ、片付くまで馬車は通れ無さそうだし、ぼうっと待っているより、手伝った方が早く終わる。見ているだけってのも、何だしね。


「いえ、でも……」


「大丈夫よ。気にしないで」


 私は、アシリカたちを呼ぶと、荷物を戻す手伝いを始める。

 お芝居で使うのか、お面や小道具類、背景が書かれた木の板などがある。なかなか見ていて面白い。

 私たちも手伝い、ようやくすべてを荷車に再び積み込む事が出来た。


「本当にありがとうございました。通行を妨げたばかりか、手伝ってまで頂いて」


 少女が頭を下げる。


「いえ。ご縁があって再会できたからよ。気にしないで」


 ちょっと、筋肉痛になりそうだけどさ。けっこう重い物も多かったからな。


「僕からもお礼を言わせてください。ありがとうございました」


 眼鏡を掛けたひょっろとした男が、少女の隣に立つ。


「手伝って頂いたお陰で何とか今日中にアトルスに着けそうです。いや、昔お世話になった芝居小屋での公演がありまして。本当に助かりました」


 男も深々と頭を下げる。


「あなたも旅の方だったのですね。もし、アトルスに立ち寄られるなら、是非、芝居を見ていってください」


 アトルス? 寄るのかな? デドルの顔を見る。


「アトルスはここから少し行った街道沿いの街です。通りますから、芝居をご覧になっていきますか?」


 にやっと白い歯を見せ、デドルは笑みを浮かべる。


「うん。見てみたい」


「大歓迎ですよ。僕はこの一座の座長兼演出兼脚本兼道具係兼呼び込み係のスバイツと言います。助けて頂いたお礼です。特等席をご用意しますよ」


 へー。この人が、座長兼演出兼脚本兼……、って、雑用係ってことかしら。

 でも、楽しみだわ。何度か、演劇というか、オペラっぽい眠くなる要素満載の劇はお母様に連れられて見に行ったけど、大衆演劇っぽいのは、初めてだわ。

 せっかくなので、アトルスまで一緒に向かう事になる。

 芝居一座は全部で十二人。荷車を交代で引っ張っているらしい。けっこう大変なのね。でも、みんな楽しそう。

 ちなみに少女、フィルルさんは、主演を張る女優さんらしい。やっぱり綺麗なだけあるね。

 私も芝居一座の人たちに合わせ、馬車を降り、一緒に歩く。


「明日一日かけて舞台の準備や小道具や衣装のチェックをするんです」


 フィルルさんが説明してくれる。


「へー。それも見せてもらっても……」


 滅多にない機会なので明日の準備も見てみたい。


「ええ。もちろん構いませんよ」


 やった。もし良かったら、チョイ役にでも出してもらえないかな。

 でも、その前に問題が一つ。さっきの力仕事と、歩きでの移動で、全身が筋肉痛だ。明日、ちゃんと動けるかな。


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