162 母の願い
その場に力なくへたり込んだアルマさんの肩をそっと抱く。
辛かったのだろうな。旦那さんを失った悲しみが大き過ぎたのだろう。それだけ幸せな生活を送っていたに違いない。
その幸せを壊したルティエントは気を失っている。体にアルマさんの攻撃は当たっていないから、恐怖から意識を失ったのだろう。
「リ、リア。これは……」
呆然としていたレオの声は掠れている。
ああ、フォローしておかないとまた拗ねるな。
「さすがレオ様ですわ」
「え?」
「このアルマさんを見てすぐに、彼女の本心を見抜かれたのでしょう? そして、見事に本懐を遂げさせる。お見事としか言えませんわ」
ちらりとアシリカとソージュにも視線を送る。
「え、ええ、さすが殿下にございます」
「男の中の男デス」
取って付けたような賞賛をアシリカとソージュも口にする。
「いや、その……。そうか、うん、そうだな。これしきのこと当然であろう」
戸惑いつつも、最後は自慢げに胸を張る。
哀れみの視線を向けているご自分の従者には気づかないでね。
それよりも今はアルマさんだ。
気を失ったルティエントをじっと見つめている。その手はきつく握りしめられていた。彼女の中で納得いかない部分もあるのだろう。
「アルマさん……」
私の声にも何も答えず、微動だにしない。
「まだ終わってませんわよ」
そう続けた私にゆっくりと振り向く。
「息子を失っても、親戚筋から養子を取れば家は存続します。本当に仇を取るならば、父親であるディーガス伯爵を懲らしめるべきですから」
そう、これで終わりじゃない。この気を失っている馬鹿を連れてディーガス伯爵の屋敷に突撃だ。ディーガス伯爵家をぶっ潰す勢いでね。
「ですが、屋敷に乗り込むのは……」
伯爵家の屋敷、しかも軍の高官。その警備は厳重だろう。だからこそ、アルマさんも跡取りをという理由以外に、学院にいるルティエントの方を狙ったのだろう。
「そんなこと、やってみなけりゃ分かりませんわ」
不敵な笑みをアルマさんに向ける。
「お嬢様!」
おっ。ちょうどいい所にデドルが馬車を持ってきてくれている。
馬車をすぐ側に止めたデドルが御者台から飛び降りてくる。
「デドル、これを荷台にでも放り込んでおいてちょうだい」
汚い物を見る目でルティエントを指し示す。いや、実際に一部が汚いけど。何か敷物でも敷いてから放りこんで欲しいな。
「へい」
デドルもちょっと嫌そうな顔になっている。申し訳ないな。
「では、レオ様。従者の方の始末、お願いしますね」
「おう、任せておけ」
上機嫌でレオが答える。
「さっ、アルマさん。仕上げに参りますわよ」
座り込んだままのアルマさんを抱き起こして馬車へと導く。アシリカとソージュに支えられながらも自分の足で馬車へと乗り込む。
「おい、待て、リア。仕上げとは何だ? いや、俺も連れていけ」
ちっ。余計なことに気付くのね。
「レオ様はこの二人を……」
「フォルク、マルラス。この二人を縛って見張っておれ」
何故、という目になるレオの従者二人だ。
意地でも付いてくる気だな。ま、仕方ない。あまりここでのんびりしている時間もないしね。
私とレオも馬車に乗り込む。
「アルマさん、ごめんなさい。私はあなたに罪を犯させたくないし、ジェナも一人にさせたくなかったですから……」
馬車が動き出してから、一言も発しないアルマさんの顔を覗き込む。
「私は実家を出てからとても幸せでした。それは、自由になったからではありません。心から愛した人と一緒にいれたからです。例え貧しくとも、心は満ち足りていました」
ポツポツとアルマさんが話し始める。
「そして、やっと出来た子がジェナでした。夫も大喜びでとても可愛がっていました。毎日が楽しくて……。ジェナの成長を私も夫も楽しみにしていました。そんなあの子を一人にしてしまっては、あの人に怒られてしまいますね」
弱々しい笑みを見せる。
「そ、そうだぞ。そちは、母親であろう。子を一人残してはならん。俺からも頼む。子の為にも命を粗末にするような真似はしてはならん」
レオが真剣な表情でアルマさんに詰め寄る。
そうか。レオも母親に先立たれたものね。その寂しさを誰よりも知っているのだ。
「レオ様……」
そっとレオの背を撫でる。少し彼の心の内を見てしまったような気がする。
「あの……、殿下と呼ばれておられましたが、まさか……」
アルマさんが私を見る。
「ええ。王太子殿下にございます」
「数々のご無礼、お許しくださいませ」
冷静になって、レオの立場に気付いたのかな。
「よい。そんなことより、約束してくれ。子の為に命を粗末にせぬと」
「は、はい」
改めて決意を固めた顔でアルマさんが頷く。
「おや?」
そんな時、御者台のデドルがそう呟くと同時に馬車のスピードが緩まる。
「お嬢様、何やらエネル殿が……」
見ると、確かにエネル先生の姿が見える。私の馬車に向かって両手を振りながらぴょんぴょんと飛び跳ねている。
止まった馬車にエネル先生が近づいてくる。
「どうしたの?」
「それがですね、今日学院に来たらマリシス様からこの手紙をナタリアお嬢様に渡すように頼まれまして」
そう言いながらエネル先生が一通の手紙を窓越しに私に差し出す。
「マリシス様からの手紙?」
嫌な予感がする。
受け取った手紙に目を通す。
私への感謝の言葉、立派な妃になることを願っているということ、そして、アルマさんのことをくれぐれも頼むと記されている。
まるで、もう二度と会えないとでも言わんばかりの内容である。まさか、ご自身で何とかしようと……。だったら、行先はディーガス伯爵家。
「急がないと……。マリシス様、多分お一人でディーガス伯爵家の乗り込むつもりだわ」
「母上さまが!?」
アルマさんが驚きの声を上げる。
「え? この者はあの女侯爵の娘だったのか?」
今更のレオの発言は放っておく。
「デドル、急ぎます。すぐに馬車を出して!」
いきなりマリシス様を襲うとは思えないが、いざ本題を出されたらディーガス伯爵がどんな手に出るか分からない。なにしろ、息子の不始末を握り潰すくらいの人物だ。
「ありがとう、エネル先生。ちょっと急いでるからまた今度ね」
そう言い残して、馬車を走らせる。
今回は時間に追われてばかりだ、と眉を顰めさせていた。
学院から貴族街にあるディーガス伯爵家への屋敷へとまだ人もまばらのエルカディアの街を走り抜けていく。
貴族街の一角、軍の高官にして伯爵家の屋敷だけあって、なかなかに立派なものである。一般的な貴族の屋敷と違い鍛錬用に雑木林や沼まで作られている。
デドルの先導であっさりと屋敷に忍び込む。屋敷の中の雑木林を抜けていく。もし、マリシス様がすでにここに訪れていたら、派手に突っ込むのもよくないしね。
「あの……、ナタリア様と殿下にこのようなことをさせてしまうのは……」
周囲を警戒しつつ腰を屈めて進む私と未だ気を失ったままのルティエントを重そうにヘクターさんと引きずっているレオの様子に申し訳なさそうにアルマさんが口を開く。
「困ったことに特に珍しい行動ではありませんから、気にする必要はありません」
「いつも通りデス」
「え?」
ため息混じりのアシリカとソージュの言葉に絶句しちゃったね。
別意味でアルマさんの貴族の印象を大きく変えれたかもしれないね。
「おしゃべりはお終いよ」
雑木林を抜けた先、少し芝生が広がった場所があり、そこに東屋が設けられていた。そこにマリシス様の姿を見つけたのだ。
「なるほど。その者の命を奪ったのが私と倅であると?」
丸いテーブルを挟んで向かいあっているのは、ちょび髭を生やし、剣を腰からぶら下げたいかにも軍人面の初老の男性。あれが、ディーガス伯爵だろう。
茂みに隠れ二人の様子を伺う。
「ええ。それは真の話でしょうか?」
凛としたマリシス様の声が響く。
「話の真偽は別にして、そもそも平民が一人死んだだけでしょう? かつてその名を社交界に馳せたマリシス殿が何故気になさる?」
ちょび髭を指で撫でつけながら首を傾げている。
「ディーガス卿。私は話が真実かどうかを尋ねております」
「……なら、お答えしよう。まったくのでたらめですな」
眉間に皺を寄せ、答えるディーガス卿。
「嘘偽りなく?」
畳みかける様なマリシス様。
「嘘偽りなく、です。レイボーン家の当主であったあなたに嘘は付けませんよ」
笑みを浮かべながらながらディーガス伯爵が答える。しかし、鋭いマリシス様の視線から逃れる様に肩に手をやり首をぐりぐりと回している。
「……あなたがおっしゃるように私は社交界で知られた者でした。社交会では、嘘と真実を見極める術を知っておらねば生き抜けぬ場所にございます」
「マリシス様は私が嘘を付いていると?」
腕を組み椅子の背もたれに体を預けるディーガス伯爵から苛立ちが立ち込め始めた。
「ええ」
「どこの誰に聞いた話か存じませんが、伯爵の身分にあり軍で要職を預かるこの私の言葉より信じられると?」
眉間に皺を寄せ、マリシス様の目を見返している。
「……娘からです。そして、亡くなったのは娘の夫」
「な、なんと!」
苛立ちより驚きが勝ったのだろう。思わずディーガス伯爵は立ち上がる。
「私のたった一人の娘です。恨まれていても、会いたくないと言われようと私の娘です。私は娘を信じます」
女当主の威厳か。私の所までその迫力が伝わってくる。
立ち上がったままのディーガス伯爵も目を見開いて何も言えないようだ。
「母上さま……」
横でアルマさんが小さく呟く。
「ディーガス卿。そろそろ答えてくださいますか?」
マリシス様の声に弾かれたようにディーガス伯爵が体をビクリと跳ね上げさせ、周囲を見回す。
「くっ。……訴え出るおつもりか? そんな事されたら息子の未来が滅茶苦茶になる」
そう言いながら、ディーガス伯爵はすっと抜刀する。
「せめて、一度くらいはあの子の為に何かをしてやりたい。あの子が母親として孫と一緒にいられるように。普通に暮らしていけるように」
そう言いながらマシリス様は懐から短剣を取り出す。
「訴え出たりなどしませんわ。あなたと差し違えるだけです」
マリシス様、死ぬ気だ。女侯爵といえども、剣術など門外漢のはずだ。
「ハチ、あなたはここでその馬鹿を見張ってなさい。アルマさんとヘクターさんもここで待っててください。アシリカ、ソージュ、デドル。行くわよ!」
そう言い残して、飛び出す。
「お待ちなさいっ!」
大きく叫ぶ。
「ど、どうしてここに?」
こんなに驚いたマリシス様も珍しいよね。
「何だ、お前たちは? そうか。レイボーンに仕えていた者だちだな。かつての主に付き添ってきておったのか」
何やら勝手な解釈しているみたいだけど、ま、いいか。
「ディーガス伯爵。軍の高官ということは兵の命を預かる立場。そのあなたが人の命を軽く扱うとは情けないと思いませんか?」
ゆっくりとディーガス伯爵へ歩みを進めながら鉄扇を取り出す。
「分かったような口を聞くでない! 平民の命と貴族の命を同じと思うな! 下位の者の命などどうでもよいっ! ええい、曲者だ! こいつら、曲者だ!」
ディーガス伯爵の叫び声に反応して、ざっと十人ばかりの者が庭に出てくる。
「当家を愚弄するこの者たちを始末しろっ!」
主の言葉に一斉に抜刀し、得物を狙う目でこちらを見る。
「命に軽重など無いのもご存じないとは呆れてものが言えませんわね。あなたに指揮された兵が気の毒ですわね」
鉄扇をディーガス伯爵に向ける。
「悪役より悪いなんて許せませんわ。お覚悟、よろしくて?」
凍てつく視線をディーガス伯爵に向ける。
「お仕置きです!」
私の声と同時にアシリカが氷の礫を降らせる。三人ほどが頭に直撃を受け、仰向けに倒れ込む。
その隙を突いて、ソージュとデドルが走り込んでいき、それぞれ二人づつを掌底と短刀で動きを奪う。
苦戦が予想外だったのだろう。その様子をディーガス伯爵が唖然となり見つめている。
「マリシス様! こちらに!」
その隙に、私はマリシス様の安全を確保する。
「何をしておられるのですか!」
「お叱りは後で受けます。今はこちらへ」
そう言ってマリシス様と東屋から出ようとした私の前にディーガス伯爵が立ちはだかる。
「貴様、許さん、許さんぞ。ここまで当家を愚弄したこと後悔させてやる」
怒りで目が血走っている。
「愚弄されて当然では? だって、ここまで弱いなんて思ってもみませんでしたわ」
ちらりと横目で見た先には、すっかりアシリカたちに倒されたディーガス家の者たちが白目を剥いて倒れ込んでいる。失禁しなかった分だけ褒めてあげるけど。
「この小娘がっ!」
大きく振りかぶってきた剣を鉄扇で受け止める。
「得意の弓じゃなかったなんて、セコイ言い訳は無しでお願いね」
股間を蹴り上げ、屈んだディーガス伯爵の脳天目がけて鉄扇を打ち付ける。
「うぐっ」
剣を落として、頭を両手で抑えつける。
「まだよ」
さらにその横っ面を薙ぎ払う。歯が血しぶきを上げながら飛んでいく。
「ぐぼっ」
そのまま這いつくばりながら私から逃げようとするディーガス伯爵である。
「ハチッ! 感動の親子の再会よ!」
「はいっ、お嬢様っ!」
よしよし、すっかり下僕が似合ってるわね。
這いつくばりやっと東屋から出たディーガス伯爵の前にレオがルティエントを放り投げる。
「ル、ルティ……エ……?」
口をもごもごさせながらディーガス伯爵が息子の姿に絶句している。
「上位の者にこのような真似をして許されると思っているのか? 我らは伯爵家の者だぞ。いくらレイボーンといえども、今は平民ではないか!」
口から血を吹き飛ばしながらディーガス伯爵が振り返って叫ぶ。
「あなたの言葉を借りるなら、下位の者の命はどうでもいいのですわよね? なら私はあなたに責められる言われはありませんわ」
手にしていた鉄扇をすっと開く。現れたのは、扇面に描かれた白ユリの紋章。
「な、なっ」
血まみれの口をパクパクとさせている。
「いつもで呆けておられる? 貴殿も貴族であればこの紋章を持つのがどなたかご存じでありましょう? サンバルト公爵家ご令嬢、ナタリア・サンバルト様にございます! 貴殿らの振る舞い、許されるとお思いか!」
隣に来たアシリカが鋭く言い放つ。
「ディーガス伯爵。親は子を守るもの。ですが、あなたの守り方は間違っております。あなたは守ったのではなく、子を間違いに導いただけにございます」
犯した罪を共に受け入れ、どう償っていくかを考えるべきだと思う。そこに身分など関係ない。
私の言葉にがっくりと項垂れ、生気を失った顔になるディーガス伯爵。私の言葉が耳に入っているか疑問であるな。
「母上さまっ!」
アルマさんが飛び出してきて、マリシス様に抱き着く。
「ご無事ですか? どこもお怪我は?」
マリシス様は、戸惑いながらもそんなアルマさんをそっと抱きしめる。
「心配ありません。どこも怪我などしておりませんよ」
「私、母上さまを裏切ったばかりか、このような目にまで……。お許しください」
アルマさんの目からぽろぽろと涙が溢れ出てきている。
「そのようなこと思ってません。むしろ、あなたにはレイボーンの娘として辛い思いをさせていました。私のほうこそ、謝らなければなりません」
マリシス様がアルマさんの栗色の髪に頬を当てる。
「母上さま……」
「これからは、あなた自身とあなたの子供の為に生きなさい。そして、幸せになりなさい。それが今の私の望みです。その望みは叶えてください」
アルマさんの泣き声が響く。
それを見て肩を震わせ俯くレオにそっとハンカチを渡したのは、秘密である。
「ナタリア様」
ようやくアルマさんが落ち着いた後、マシリス様が次に振り向いたのは私の方である。体がビクリとなるのは条件反射だろうか。
「これで二度目ですね、あなたに救われたのは……」
マリシス様の横でアルマさんとヘクターさんも深く頭を下げている。
「言いたい事は山のようにありますが、ここはお礼申し上げます」
いや、言いたい事はそのまま心の内にしまっておいて欲しい。
「さっ、ナタリア様。ここから早く出られませ。後の処理はこの私とヘクターで。ほら、イリス、いや、アルマだったわね、あなたもナタリア様と一緒に」
後処理をマリシス様が? すでに、デドルが口止め工作の為にディーガス伯爵に何やらあれこれ告げているみたいだけど。
「いえ、しかし……」
「分かっております。ここにナタリア様はおられなかった、でよろしいですね」
そこまで理解してくれてるのはありがたいけど、どうやって処理すると?
「私はマリシス・レイボーンですよ。女侯爵の名は伊達ではありませんよ。貴女様が心配することなどありません」
渋る私にくすりと笑うマリシス様。
「分かりました。では、デドルだけ残して引き上げます」
ここはマリシス様にお任せしとこう。こんな所にマリシス様とヘクターさんだけ残すわけにはいかないからデドルだけは残しておこう。
「あの、母上さま」
歩き出したアルマさんが振り返る。
「今度、ジェナに、母上さまの孫に会っていただけますか?」
「楽しみにしています」
一瞬目を見開いたあと、それに嬉しそうに頷くマリシス様。
良かった。これで、マリシス様とアルマさんも仲直りだ。本当に良かった。
ああ、急に私もお母様に会いたくなってきた。帰ったらお母様に手紙を書こう。
だが、その手紙が後に明暗を分けるとはこの時、知る由もなかった。
一週間が経った。
女侯爵の名は伊達じゃない。そのマリシス様の言葉は嘘ではなかった。
学院でのルティエントの振る舞いを諫言しに向かったディーガス伯爵家で逆上されて、命を奪われかけた。しかし、何とかレイボーンの旧臣に助けられたマリシス様。そんな噂がその日のうちに王都のご婦人仲間の間に広がる。
そして、ディーガス伯爵家の乱闘騒ぎを確認した騎士団。一気に噂は王宮まで届いて、マリシス様と昵懇の王太后様が激怒。引退して余生を過ごしているとはいえ元侯爵家の当主に無礼だと、ディーガス伯爵家は取り潰しの上、当主親子は僻地に幽閉。これがわずか二日間での出来事である。
女性の地位が高いとはいえないエルフロント王国ではあるが、家の中では、決して弱い立場ではない。過去に築いたネットワークをフルに活用したマリシス様の見事なまでの手腕を見せつけられた気がする。もちろん、デドルの口止めも効果てきめんだったみたいだけど。
「おばあ……ちゃん?」
ジェナがマリシス様をじっと見つめている。
ここは寮の私の部屋。お妃教育に訪れたマリシス様へのサプライズだ。
「ジェナ、おばあちゃんじゃなくて、おばあさまって――」
「おばあちゃんよ、ジェナ。初めまして」
慌てたアルマさんを遮り、マリシス様がジェナをじっと見つめる。
「おばあちゃん……」
見つめ合う祖母と孫娘。
「ほんとだ。ママと一緒の目をしている!」
そう言ってマリシス様に飛びつくように抱き着くジェナ。
そうね、よく見たら、マリシス様とアルマさん、そっくりな目だね。
感動の対面に目頭を熱くしながら、レオを思いやる。
彼は今、懲罰の課題を必死でこなしている最中だろうな。
そう、あのディーガス伯爵家に向かった日は、平日。つまり私とレオは授業をすっぽかしていたのだ。
ここで明暗を分けたのが、私がお母様に送った手紙。
愛情と会いたいという想いの溢れた熱の籠った手紙を勢いだけで送った。
それを見たお母様は私がホームシックにかかったと翌日には学院に飛んできたのだ。ちょうど、その時の私は無断欠席のお叱りを受けている時だった。そのままホームシックで授業に出られなかったという流れで厳重注意の処分で済んだ。
一方、言い訳のしようもなく、ただのサボりと見做されたレオは懲罰的課題を山のように貰う事になった。
後日、レオの言葉。
俺も父上に手紙を書けばよかった――と。
いや、十七になった息子に寂しい、会いたいって手紙を貰っても、国王陛下も困惑するだけだと思うよ……。
ありがたいことに、レビューを頂きました。
この場を借りて、お礼申し上げます。
作者として、とても幸せな経験をさせて頂き心より感謝しております。
今後も楽しんでもらえるように頑張っていこうと思いますのでよろしくお願いします。