技能
今、自分がいる場所が異世界だとわかってまず最初に俺はいろいろな疑問が思い浮かんだ。
なぜ?
どうして?
何が起こった?
そんなことを自問自答していると空を旋回していたグリフォンが一直線に猛烈なスピードで翔んできた。そして地面スレスレで急激に減速し、軽やかに着地した。グリフォンは静かに言った。
「貴様、何者だ。ここはグリフォンの王 サルビア様の領域だ。即刻立ち去れ。」
「ちょ、ちょっと待ってください。グリフォンの王ってなんです?それになんであなたは熊の言葉が喋れるんです?」
俺は矢継ぎ早に質問が飛び出た。
「グリフォンの王を知らんだと?しかも熊の言葉?何を言っている、俺は《通訳》を使っているだけだぞ。」
「《通訳》?」
「《通訳》も知らんだと?ぬぅ…もしかしてお前、異世界から来たのか?」
「はい。河で流されてしまって気付いたらここに流れ着いていたんです。」
グリフォンは少し驚いたような顔をしながら態度を軟化させて言った。
「そうか。人が迷い込んだりすることはごく稀に起こるらしいが、まさか、熊が迷い込むとはな。」
俺は今一番気になっていることを聞いてみる。
「元の世界への帰り方を知りませんか?あるいは帰り方を知っている方を知りませんか?」
彼は申し訳なさそうな口調で言った。
「すまないが帰り方は見つかっていない。何百年と前から研究されているが今のところ帰れた者はいないそうだ。」
俺はその言葉を聞いて沈んだ声で言った。
「そうですか…。」
彼は慌ててフォローをいれた。
「ま、まあこの世界もいい所だからな!そんな気を落とさずになっ。」
「そうですか。それじゃこの世界で生きていくためにいろいろ聞きたいんですけど。」
「立ち直るのはやっ!」
なにやら驚かれているがもともと俺はめんどくさがりなうえ、過ぎたことはあんまり気にしない性格である。それに聞いておきたいことが山ほど有るのだ。
「ま、まあいいや。そういえば自己紹介を忘れていたな。俺の名前はグリッド。見ての通り種族はグリフォンだ。あんたは?」
「名前はありません。種族は熊です。」
「名前がないのか。それじゃ不便だから名前を考えたらどうだ?」
確かに名前が有った方がいいかもしれないな。そう思ったベルアは自分の名前をいろいろと考えてみた。
「うーん。そうだなあ、熊。ベア-…うーん。」
なかなか決まらない俺にグリッドが案を出してきた。
「ベルアとかどうだ?いい響きじゃないか?」
「いいですね。じゃあそれで。それじゃあ質問したいんですけど、いいですか?」
「おう!なんでも聞いてくれ。」
「はい。それじゃ此処は一体何処なんですか?」
「それを説明するにはまず、この世界がどういう形をしているかを話しておく。この世界には3つの大陸があり、人や亜人、魔獣など様々な国が作られている。そして此処は獣大陸の南東部、グリフォンの国 グリミアの王都の近くだ。あそこに島が見えるだろう。あれが王都だ。」
彼は振り替えって、嘴で空に浮いている島を指した。あれが王都だったのか。
「場所はよくわかりました。ありがとう。それじゃ次に《通訳》ってのはなんなんですか?それがあるおかげで会話ができるみたいですが。」
「それを説明するためにはまず《閲覧》と念じてみてくれないか。」
「はあ。」
ベルアは全身に力を込めながら念じてみた。
(閲覧)
すると頭の中に少しの頭痛と共に情報が映された。
ベルア
種族 熊
HP225/250
MP20/20
技能
魚取り 操牙 操爪 通訳 怠惰魔法
称号
異世界から来た熊 めんどくさがり
「どうだ?いろいろと書いてあるだろ?」
「はい。種族とか称号とかいろいろ書いてあります。《通訳》も書いてありますね。」
「《通訳》はこの世界にいる知性がある生物が持っている技能だ。これがあることで違う種族とも意志疎通ができる。そして《通訳》を持たず、気性が荒い生物を魔物と呼ぶ。それと技能には様々な種類がある。《通訳》の他にも書いてあるか?」
「はい。《操牙》《操爪》とかありますね。」
「それは攻撃系技能だな。爪や牙は技能を使わなくても使えるが、技能を使うと威力が数倍から数十倍に上がる。まあ、魔力を消費してしまうがな。試してみるか?」
「はい。」
俺は近くにあった太さが1メートルほどの巨木に狙いを定めた。
「技能を使うには、さっき《通訳》を使ったみたいに力を込めればいい」
そう言われてベルアは右手に力を込めると、紫色のモヤモヤしたものが爪の周りを1センチほど覆った。これが魔力だろうか。
「セィッ!」
渾身の力を込めてふるった右手は狙い定めた木に5本の5センチほどの深さの傷を残した。
「おお、筋がいいな。」
グリッドは感心したような顔をした。グリフォンは顔が鷲なので表情がわかりづらい。
「《閲覧》してみろ。魔力が減ってるはずだ」
言われるがまま《閲覧》してみると
ベルア
種族 熊
HP230/250
MP10/20
技能 魚取り 操牙 操爪 通訳 怠惰魔法 魔力操作
称号 異世界から来た熊 めんどくさがり 王の資質 魔力熊
HPが回復しているのは時間が経ったからだろう。それに《操爪》を一瞬使っただけでMPがかなり減っている。燃費がすごく悪いな。称号や技能も増えている。
「ところでこの後、どうするつもりなんだ?」
「帰る方法が見つかってないんですよね?それなら、この世界をいろいろ巡って帰り方を探したいと思います。一番近い町を教えてもらえますか。」
いろいろな所にいって帰り方が見つかれば帰る。見つからなかったらそれでもよし。そんな感じでいこう。帰りたいっちゃ帰りたいけど、別に帰ってもまた森でグータラするだけだしね。熊はナワバリを作るっていっても、冒険心が無いわけではない。むしろ俺は好奇心旺盛な方だ。。
「ここから南に行けばソリティアという結構大きな町がある。」
グリッドは抜けてきた林とは逆方向に前足を向けた。グリッドにはお世話になったのでまたいつか会ったときにお礼をしたいものだ。
「いろいろとありがとうございました。それじゃまたいつかここに来た時に。」
「ああ。」
俺はのそのそと町を目指して歩き始めた。
説明が長くなってしまいました。