ミルクティーが飲みたい。
目の前で馴れ親しんだ顔が黒いコーヒーを眉も動かさずに飲んだ。私はそれをなぜか慌てて冷たいアップルティーで隠した。
「そうだっ、誕生日おめでとう!」
「…ありがとう」
何回お祝いしただろう、私は彼女の無事な一年とこれからの一年の素晴らしいことを喜び、祈り、祝う。つもりだった。
「そういえば、もうこんな歳だねー、もう祝われても嬉しくない年齢だわー」あくまでも嬉しそうな顔で、しかし困った声で彼女はあえて私に言ったのだ。
私は何回もの、何回ものお祝いを過ごして初めて、彼女への想いが通じていないことに気づいた。今までの彼女の中のそれは何を祝っていたのか。最初の一、二回はたしかにただ、一つオトナになれたことを、そして祝える仲になれたことを想っていたかもしれない。
でもそれからわたしたちは___。
「…もう、そんな歳になったもんねー、良い年の重ね方したいね」私も、この場をうまくやり過ごすことにした。
彼女は年々あまりにもはやくなる時間にこわいのかもしれない。それは私も同じだ。しかし彼女は、はやすぎる時間に私と祝うことを煩わしくなったのだろうか。
少なからず祝う習慣などいらないと、彼女は心の底から思ったのだ。
彼女は私と同じでこわがりだった。 それをなんともないと取り繕い眉も動かさず努力するのだ。私はそんな彼女が誇らしかった。
私はアップルティーを喉に流した。
『あの頃流行ったミルクティーが飲みたい。』
私は彼女のミルクティー色に染まった長い髪を見て思った。
コーヒーを飲む彼女は綺麗になった。
私はこんな綺麗な眉ひとつ動くことなく黒いコーヒーを飲む女を知らない。
一緒にあのミルクティーを飲んでくれるだろうか。