9/9
現れた日常
目の前の少女のふとした言葉に俺は慄いた
あぁ、もちろん今まで異性とお付き合いしたことのない俺にとって、女の子と2人きり。しかも可愛い子と話すこと自体卒倒必死なのだが。
今回はそういったものとは違う、もっと別の喪失感を俺が襲った
自分の内側の世界という殻が音を立ててヒビ割れていくのが聞こえた
「ど、どういう事だよ?」
「どういうことも何も、本当に知らないんです。あなたの事なんて」
頭が回らない、真っ白になっていくのが分かる…
「ほ、本気で覚えてないんだな?俺の事。」
「はい。」
その屋上は少し、夏の匂いの陰りが見え隠れしていたが、俺の心は冬の乾ききった情景を写していた。