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喫茶店にて

作者: ねこうさぎ

カランカラン…

「いらっしゃいま…間違えた」

「いらっしゃ…っち、お前かよ」

「待って、客、客であってるけど」

喫茶店の扉が開く。従業員である美玲、マスターが入ってきた客を見て嫌そうに顔を歪めた。入ってきた客の方はなんだと突っ込みつつカウンター席に腰掛ける。

「注文は?」

「水で」

「お前もうマジで帰れば?」

「…コーヒー頂きます」

「マスター、この人コーヒー飲むって」

「ああ、さっきの出涸らしあったろ、出しとけ」

「はーい」

「待って、ちゃんと入れよう?」

言われた通りに出涸らしの色のうっすいコーヒーをカップに入れ、ソーサーに置くこともなくどん!とカウンターに置く。客の方はため息を一つ零すだけで素直にそれを飲み始めた。

「美味しいコーヒーの店って、口コミで話題だけど、俺はここのコーヒーを美味しいと思ったことがないよ…」

「そうか、味覚がないんじゃないか」

「味覚馬鹿ですらなく?!」

「大体、コーヒー出したことないです」

「ドブ水ならあるけどな」

「あるの?!」

叫ぶも、美玲もマスターも曖昧に笑うばかり。どっちだよ、と言いつつ、客はヘロヘロとカウンターに突っ伏した。

「あー、もう聞いてくださいよマスター」

「お前よくこの流れで俺が効くと思ったな」

「…聞いてよ美玲ちゃん」

「はぁ?」

「…すみません」

ドスの効いた美玲の低い声に絶対元ヤンだろとツッコミを心の中だけで入れつつ、客は徐に成人向け雑誌を取り出した。

「うわっ、こんなところで読まないでくださいよ」

「……」

「敬語!美玲に客を敬う片鱗がってちょっと待ってマスター、包丁をしまって!」

「あー、もう本当帰ってくれません?ドブ水水筒に入れてあげるから」

「それで帰るのはネズミだけじゃないの?!」

「はぁ?ネズミに謝れ変態」

黙って包丁を構えるマスターから距離を取る客を横目に美玲は汚らわしいものを見る目で客の取り出した雑誌を見た。そこには如何にもな格好をした、美玲よりも十ほど年若い少女たちの姿が…イラストで収められている。

「本当もう、本当もうなんなんですか?ヲタクなんです?ロリコンなんです?死ね」

「おまっ!世の中のその属性の人に謝れ!」

「はぁ?私はお前特定で言ってるんですけど?」

「客に!お前!マスター、あんた教育間違えたよ!」

「何故?俺は今、俺の教育が正しかったと思うと同時に美玲を誇らしく思っている」

「マスター…」

「おい待て、いつの間に私がマスターの娘になってるの」

「世も末だな…こんなのが教師やってるんだぞ…」

「マスター流さないでください。けど、そうですね…もう世の中終わりですね」

「待って、その目を辞めて!」

「世の中のために死んでくれません?」

「…百合の花?」

「部屋に敷き詰めて、寝てください」

「ちょっと変わったしかもメンヘラ的な自殺方法を推奨しないでくれるかな!?」

言いつつ百合を受け取る客にゴミを見る目を向けて、美玲はマスターの隣に戻り、洗い物を再開した。

「もー、本当になんなの…ここ、隠れ家的カフェとか言って、居心地良くて、テレビの取材とかも来たんじゃないの…」

「なんでそんなことまで知ってんですか。ストーカーですかキモッ」

「行きつけのお店に詳しくてなにが悪いってか取材の日もここにいたわ!」

「行きつけとか…あまり大きな声で言うなよ」

「万が一知人がいるなら絶対に行きつけだとか口走ってうちの店紹介しないでくださいね」

「知人がいることが万が一!?しかもなんで!?行きつけじゃない、俺ここ来てるの週七だよ!?」

「毎日って言えよ本当キモい。なんなの、頻度減らしてくれません?」

「寧ろもう来んな」

「もう本当なんなの…なんで出涸らし出された上にこんなにガリガリMP(メンタルポイント)削られてんの…」

「魔法使えるんですか?それ使って死ねばいいのに」

「イギリスにでも行って某有名魔法学校にでも教師として入ったらどうだ?丸渕眼鏡の男子生徒に女の敵として殺されてこい」

「あの男子生徒は心優しいからそんな理由で人殺さないよ!?」

改めて席に着き、出涸らしの冷めたコーヒーに口をつける。美玲は洗い物を終え、今は新しいコーヒーの準備を手伝っていた。

「あ、美玲ちゃんコーヒーいれるの?お代わりもらえる?」

「出涸らしはさっきので切れました。取り敢えずこれいれるんで、しばらく待ってもらえます?」

「え、別に俺出涸らししか飲まない人じゃないよ?」

「え?」

「え?」

「マスターも美玲ちゃんもそんなキョトンとしないでくれるかな?!」

「あ、すみません、出涸らししか飲んでるところ見たことないもので」

「出涸らししか出されたことないからね!ドブ水がなかったみたいでちょっと安心しちゃった俺が恥ずかしいよ!」

「なかったか…?」

「あー…」

「そこ!怖い事実確認しない!もうなんでこの店やっていけてんの?!来る客全員ドMなの?!」

「「お前以外にはちゃんと接客してるわ」」

「シンクロ!?さすが親子」

「親子違う。本当帰って、もう二度と来ないでくれません?そろそろ混む時間帯ですし」

「それは混んでから行ってくれない?まだ俺以外に客いないよね」

「っち、誰のせいだと思ってんだ愚図」

「マスター?!俺?俺のせいなの?!」

「わかりました、じゃあ、今すぐ死んでくれません?ゴミ処理場で火葬してあげるから」

「そこで!?俺はゴミ?!」

「違うのか」

「違うんですか」

「違うわ!大体ここに客が来ないのは俺のせい…」

「「でしかないわ、死ね」」

驚異のシンクロ率を見せた美玲とマスターに客は涙目になってため息を着く。

「今日ついてなさ過ぎる…聞いてよ、俺の授業、女子は一人も聞いてないんだ…」

「さっき聞かないって答えませんでした?勝手に語んな」

「大体、お前の学校男子校だろうが」

「マスター!!俺の職場覚えててくれたんですね!そして美玲ちゃん、授業受けに来ていいよ!」

「マスター…覚えちゃったんですか?」

「…ああ…職業病か…」

「話聞いて?!もう学校外からでも授業受けに来れる仕組みにすればいいと思うんだ!」

「もしそうなったとして誰も行かないですけどね」

「当たり前だ、美玲がそんなところに授業受けに行くなんて言い出したらもう学費払わねーからな」

「まだ親子設定引きずるんですか…」

「いや、うちがお前の学費の一部を負担してるのは事実だろう?」

「マスター、そんな慈善事業をっ!?」

「え?そんなことしてもらってな……ん?もしかして、私のバイト代のこと言ってます?それなら私が働いた正当なお金なんで使い道に関わらず払え!」

「お前マスターになんて口を!」

「そうだぞ、父は悲しい」

「だから親子じゃないって言ってんじゃないですか!」

美玲の声がこだまする。今日も客足は極薄な喫茶shinrathuは騒がしくあなたのお越しを待っています。

お読みくださりありがとうございます。

また思いついたら続けるかもなシリーズ短編です。お気に召しましたら、また覗きに来てください。

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