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手違い、消失、だが絶景  作者: だーやま
第一章:落ちこぼれの魔法使い
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1 現状を変える

俺には、才能という物がない。


そんなことは、幼少期から、ひしひしと感じていた。

決して、父と母が落ちこぼれだったわけではない。

むしろ、優秀な成績で、一流の魔法学校を卒業した、秀才の類である。

その遺伝子は、俺の姉・ディアナにしっかりと受け継がれた。

彼女も、両親と同じく、主席で魔法学校に入学した、“才ある子”なのだ。

魔法も戦術も、勿論、一般教養も、教わったことは全て暗記し、実践できる力を持っていた。

それでも、ディアナも両親も、才能があることを鼻にかけたりはせず、日々精進に励む、正に人間の鏡というべき存在であった。


対して、俺・キートンはどうか。

覚えるのも、それを実践するのも、人より遅く、そこそこの成績で入学した、そこそこの魔法学校でも、真面目に学業に励んだところで、才能の花は咲かず、唯一学校に入ったことで芽吹いた、俺の得意分野と言ったら、回復魔法だった。

戦闘時における、回復魔法使いの立場はこうだ。

敵と戦う戦士たちを傍らで見守り 、傷ついた者をひたすら回復させていき、戦闘に参加する者をアシストする。

そんな回復魔法を生かした職として、国家管轄の軍の専属回復魔法使いがある

しかし、それになるには、相当な訓練が必要だ。

憧れた職業だったが、俺は自身の現実を、学校に入ることで直視してしまった。

得意分野と言っても、せいぜいできるのは、少し深めに入ってしまった傷口の大まかな修復、くらいである。

大掛かりな魔法は、未だに使えない。

これでは、専属回復魔法使いなど、夢のまた夢である。

終いには、勉学に対する情熱(元々あったのかどうかは怪しいところだが)も底を尽き、ノートの右端にパラパラ漫画を書くことに青春を傾ける、いわゆる阿呆に成り下がってしまった。

成績は中の中を常にキープし、魔法も結局、回復魔法以外はあまり上達せず、かなりなあなあな状態で、18歳の春、俺は魔法学校を卒業した。

寄宿制の学校を卒業し、実家に帰ったところで、特に資格も持っていない俺は、当然の如くフリーターになってしまった。


これが俺、キートン・オルコットの現状である。


才ある姉は、地元の役所に就職し、日々後輩を可愛がり、先輩に可愛がられながらも、きちんと仕事をこなすという、全人類の夢をがっつりホールド。

俺はそんな姉の隣で、親指を咥える毎日を過ごしていた。


引きこもっているわけにもいかない。

親に迷惑は、かけれない。

もっと、勉強すべきだった。

公開と自責の念が、俺の頭を埋め尽くす日々が続く。


ある日、俺は諦めた。

今更、何を悔やんでも、戻れはしないのだから、過去のことについて悩むのはやめよう、と思ったのだ。

その代わり、今日から俺は生まれ変わろう。

グッバイ、過去の俺。

ハロー、おニューな俺!

幼い頃憧れた、軍の専属回復魔法使いに俺はなる!

こうして俺は、一念発起して、勉強に励んだ

寝る間も惜しみ、魔術から一般教養まで全てに渡って延々勉強を続けた。

両親は、俺の変わりように驚き、俺の身体を気遣ってくれた。

母が淹れてくれた、温かなコーヒーが、俺の涙腺を刺激した。

父は、自分の持っている専門書の類を全て貸してくれた。

俺はそれらを読みふけり、わからないことが出てきたら、また新たな書物で疑問を埋める知識を蓄えた。


こうして月日は流れ、猛勉強の2年間が経過した。

俺は、学生時代から少々の自信があった回復魔法を極めることに成功していた。

回復魔法の原理は簡単で、要は、負傷部位の細胞を新たに作り変えるのである。

言葉で説明するのは簡単だが、実践となると難しい。

なにしろ、攻撃や防御と言った、完全に可視化されたことをするわけではない。

頭をフル回転させて、どの部位のどの細胞をどういう風に刺激するべきか。

これらを考えるための知識も必要なため、医学的な分野もとことん詰め込んだ。

最終的に俺が辿り着いたのは、【瀕死状態の生物における、生命活動の完全な安定化】の魔法である。

要するに、死にかけの生き物を完全に健康な状態に戻すのだ。

流石に、死んだものはどうにもならない。

これは、軍の専属回復魔法使いになる際に問われる、最高ランクの魔法と言っても過言ではない。

実際、動物を使って実験したところ、大成功。見事、小さな命を救ってやることができたのだ。


これで、専属回復魔法使いになる条件は揃った。

軍に入るために、首都へと向かうその日、両親と姉は、涙ぐみながら、俺のひとり立ちを祝ってくれた。

大切な門出の日だから、と言って、役所の仕事に追われる姉は、無理を言って仕事を休み、俺の旅立ちを喜んでくれた。

俺の涙腺のダムは、呆気なく決壊した。

ダメ人間もやれば出来るのだと、ようやく気づくことができたのだ。

軍に入れば、かなりの収入が手に入ると聞く。

これで、家計は安泰するだろう。

少しでも、俺を見離さずに応援してくれた家族へ、孝行したい。

そう思うと、俄然仕事に対するやる気も湧いてくる。

こんな爽やかな気持ちは、初めてだ。

さあ、進もう!輝いた未来が、俺を待っている!


名残惜しそうに手を振る家族に背を向け、俺は第一歩を踏み出した。




だが、現実は甘く無かったのである。

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