我儘で横暴で粗野で繊細で
ぷつりぷつりと書いた物語です。
こういった方法もありかな。とおもい書いてみました。
彼は我儘で横暴で粗野であった。なのに繊細であったから安定して仕事に就くことのないいわゆるフリーターと言う生活を送っていた。
初めて彼に会ったのは高校の頃だった。
彼は優秀で運動も出来た。ファッションというものに全く頓着しなかったし、イベントに率先して参加し、みんなを引っ張っていくというわけでもなかったから、目立ってモテると言うわけでもなかったが、彼のファンというのが少なからずいたし友達も沢山いた。
その中の一人に僕がいた。
大学に失敗した僕と彼は同じ予備校に通い、僕が入りたかった大学に彼はすんなり入り、そして一年ほど通いすんなりと大学を辞め、フリーターとなった。
三年間それから全く連絡がなく、彼のことは少しずつ忘れていった。僕は就職も決まり最後の学生生活をエンジョイしようと、ОBとなったサークルに顔を出したり卒業旅行の計画を立てたりしていた。まさにそんな時期に三年ぶりの電話が彼からかかってきた。
「ひさしぶり」
彼の声は昔と変わらず静かで優しい。だから忘れかけていた久し振りの声も直ぐに思い出した。
「おう。ひさしぶり」
僕はほんと浮かれていたんだ。だから陽気で弾んだ声で電話に出た。
「明日、あえるかな」
そんな彼の提案を僕は懐かしさ混じりの感情で頷いた。
「待ち合わせはどこにしようか」
なんてのんきに応えながら。
待ち合わせの場所は小さく駅から少し離れたところにひっそりと建つ喫茶店だった。いまどき喫茶店で待ち合わせなんていうのが彼らしいなと思いながら中を覗くとやはりと言うべきか、待ち合わせの十分前にも関わらす彼はすでにいて珈琲を飲んでいた。
昔と変わらない姿で。
「おう」
と僕が声をかけると、そっと本を開いたまま伏せ顔だけこちらに向いて、おう。と応えた。
「ちょっと会わせたい人がいるんだ。まあ座れよ」
言われるままに座ると、彼は腕時計に一度だけ目を向け先程伏せた本を拾って再び読み出した。
僕は三年間を埋めるためのおしゃべりを諦めて携帯電話を眺めた。ネットを繋げブログを眺めていると、インフルエンザの内容のものが多く、僕はなったことがありません。とコメントを入れた瞬間、その待ち人は現れた。
肌が白く髪は黒くてセミロングほどの長さで清楚という言葉がそのまま当てはまるように見えた。
「美代子っていうんだ」
呆然としている僕に彼はいつもの口調でただ名前だけを教えた。名前だけ言うと彼はまた本を読み出した。
僕は宗教か何かのセールスかと思い身を構えながら挨拶をしたからきっとぎこちなかっただろう。
―どうも―
そう言うと、美代子と呼ばれた女性も
―どうも―
そう言って丁寧にお辞儀をしたから僕も応じた。
暫くして僕と彼女の飲み物が来ても彼は本から目を離さず、ただページを捲る音だけが耳を掠めた。
「彼とはどういった関係なのですか?」
たまりかねた僕は本を読み続ける彼に聞くわけにいかず美代子さんに聞いてみると美代子さんは、ああ。と言って一瞬彼の様子を見た後にこちらに顔を向け、友達よ。とって答えたから、僕もそうですか。なんて後に何の話も広げられないような答えをぽろりと零してしまった。
「出ようか」
「え?」
「出ようかって言ったの」
「でも」
僕はうろたえた。
「いいのよ。彼はもう少し本を読んでいたいみたいだし」
僕はもう少し彼と話がしたかったけれど、今度また機会なんて出来ると思って僕は彼女と外に出た。会えると思う人ほど結局会わずにいる。だから三年も彼と会わなかったことを忘れていたから。
外は晴れていて気持ちがよかった。
「彼さ、ぶらぶらしているのよ」
「あいつはそれば似合うよ。何かさ、世間とか社会とかに束縛されない感じ、俺はうらやましいと思うよ」
彼女の髪が歩くたびに風にたなびく。
「ん?」
「彼が最近死にたがるんだ」
その言葉をきいた瞬間何だか空が嘘っぱちに見えてきた。
「またあ」
そう言って笑う僕の笑い顔と同じように。
「死んじまえばいいんだよ」
彼女が吐き捨てるように言った言葉に僕はやっぱり馬鹿みたいにへらへら笑っていた。
結局彼と会うことも話すこともなく、三日後彼は死んだ。
自殺ではなく交通事故で。
彼女からメールが来た。
―彼が死にました。何だか悲しいです。死んでしまうと明日の天気なんて知ることが出来ないのですね。ねえ、明日は晴れるかしら…―
ああ、彼女は自殺するかもしれない。そう思いながら僕は返信をしなかった。
かすかに出した彼のSOSにすら僕は何も出来なかったというのに、彼女のために僕は何が出来るというのだろうか。
そう考えながら僕の目からは涙が溢れた。
僕は無力な人間なんだということに気がついてしまったから。