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明日、花が咲くように  作者: Alika
二章【魔術師の考察】(ヒース視点)
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国から依頼されていた仕事がようやく一段落つき、深く嘆息しつつ、椅子に背凭れに背を預け目を閉じる。

僕が休憩を欲しているのを察して、シズヴィッドが手際よく茶を淹れ替え、ワゴンにメイドが用意しておいた茶菓子をテーブルに置くのを気配で感じる。

黙ったまま目を閉じていると、沈黙を壊さずに、先程までやっていた自分の仕事に戻っていった。


僕は視界を閉じたまま、周囲にある魔力へと感覚を研ぎ澄ませる。

空気中の漂う魔力、僕自身から溢れる魔力のその向こうに、魔導具の手入れをしている弟子の持つ魔力の波動を感じ取れる。

普段は眼で視てみるのも有効だが、こうして落ち着いた環境で精神を集中させ魔力の波動にのみ神経を集中させる事によって、普段は他に紛れて読み取れないような細かい部分まで、その性質を感じ取れるようになる。


(やはり大半の性質は変質に傾いているな……。本人が何の意図もしていない状態でここまで一つの魔力性質に偏った状態で器が維持されている事自体が、かなり珍しいと言えるな)


魔力を多く持つ者は自然と、その力を感じ取る第六感も研ぎ澄まされる。魔力を感じ取る感覚は他の五感と感覚を合わせる事で、より感じやすくなる場合が多く、対象の魔力を調べたい場合、多くの魔術師は「眼」に魔力を篭める事で「視る」方法を選ぶ。

これは他の五感……聴覚や嗅覚などでは通常の刺激と魔力の刺激の区別が付きにくい為であり、同時に煩わしく感じてしまう事が圧倒的に多いからだ。

例えば、その場にある様々な魔力の波長がすべて音として聞こえたら、不協和音の大合唱に聴こえて頭が痛くなってしまう。


(種族的に、生まれた時から特定の魔力性質に偏った存在は確かに多いが。エルフが森に親和する本能を持つが故に樹や草花といった大地の魔力性質に偏るように。或いは翼人が空を飛ぶ為に風や大気の性質に偏り、ノームが地下で暮らす故に土や石の性質に偏っているように)



それにしても、他種族との混血ではない生粋の人間だろうに、ここまで一つの性質に偏っている者は初めてみた。


この世界に生ける人類は多かれ少なかれ、すべての属性の魔力性質をその身に備えている。生まれる場所や種族や個人差によって偏りはあれど、生きていくには呼吸をして水を飲んで大地の上に立って火を熾して料理をしたり暖を取ったりする必要がある。

そういった日々の暮らしの中で、元素を取り込み排出する内に僅かながら同時に魔素をも取り込み自らの魔力へと変換しているのだ。

だから普通は人にとって、四大元素は馴染み深く親しみやすい性質を持っているのだが…………。

(こいつは四大元素がどれも薄い。薄いというか、変質の魔力に中てられてそれらの魔力まで変質してしまっていて、そのままでは使い物にならん)

知れば知る程、厄介な体質である。


シズヴィッドが僕の元に弟子入りして十日が過ぎた。

ペレの紹介状を携えて突然やってきたのが九月の終わり。現在は十月の半ばだ。十日程しか経っていないが、、あの日に比べれば少し涼しさが増してきたような気がする。

今はまだこの女の扱いは仮弟子であり、試験期間だが、この先本当に僕の弟子に相応しいと認めたならば、シズヴィッドが魔術師になれるよう、相応の訓練方法を考えなければならなくなる。



僕は基本的に、自分以外の他人に優先順位をつけている。友愛や親愛といった好意を僕が抱けるかどうか。利用価値があるかないか。有能か無能か。邪魔になるかならないか。

その基準は相手によって様々だが、自分にとって価値のある相手ならば、その価値に相応しいだけのものを割くし、そうでなければ程々に切り捨てる。


倣岸に聞こえるだろうが、僕は多くの優れたものをこの身に持っている。

それは金であったり身分であったり、魔力であったり美貌であったりする。それらは持たざる者にとって嫉妬と羨望の対象であるとそれなり理解している(させられてきた)し、同じように優越する立場にある者にとっても、利用価値の高い代物であるとも理解している。


シズヴィッドだって、所詮は僕の持つものを利用したくて強引に近づいてきた輩の一人に過ぎない。


だが、別にそれ自体は非難するつもりはない。

女嫌いと知っていて親しくもないのに突貫するには、突っ撥ねられるだけの覚悟はあったのだろうし、事実、売り言葉に買い言葉の勢いだったとはいえ、実際に僕に弟子入りを認めさせているのだ。その度胸と強かさは大したものだ。


要は、僕が持つものを差し出しても構わないと思わせるだけの「何か」を、僕自身に指し示し認めさせればいいのだ。

それが出来れば僕はこの女を弟子として認め、力を貸してやる。

ただそれだけの話だ。

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