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明日、花が咲くように  作者: Alika
二章【魔術師の考察】(ヒース視点)
3/8

女嫌いの魔術師として有名なこの僕、ヒース・アライアスが、つい先日女の弟子をとった。

自分でも驚きだ。

その弟子、スノウ・シズヴィッドは、紹介状を持っていたとはいえ強気で図々しい言動で僕に弟子入りを志願してきた。

僕はその執念深さに根負けしてしまったのだ。



「遠見鏡を磨き終えました。次はどれを掃除しますか?」


魔導具を磨いていた布を手にしたまま、シズヴィッドが振り返る。

その布でそれまで磨いていた遠見鏡は翳なく、新品同様に輝いている。手入れの仕方は丁寧で文句のつけようがなかった。

ここに来るまでに数人の魔術師に師事してきただけあって、シズヴィッドは魔道具の扱いの基本をきちんと心得ていた。

扱いは慎重だし、わからない事はその度に聞いてくる。

注意すべき点を一度聞けばきちんと覚える辺り、頭の回転も良いのだろう。



「この魔力計測機器を。濡らさず、配線を切らず、傷つけないように注意しろ」

「わかりました」


魔導具は扱いに専門の知識がいる代物であり、金額的に希少な価値を持つ物も多い。

正しい取り扱いを知らぬまま、安易に扱われ壊されるのが一番最悪なのだ。

以前、知人に頼み込まれて渋々弟子にした見習いに、短期間で貴重な魔導具を幾つも駄目にされた苦い記憶がある。

その見習いは早々に追い出したが、その後も魔導具の扱いに自信があると言うので雇った専門の整備士ですら、僕が作成したオリジナルを故障させた。

そういった事態を防ぐべく、最近は手元にある物はすべて自分で手入れしてきたのだが、シズヴィッドが正しい手入れをこなせるならば、作業の効率が随分と上がる。


……僕は女は嫌いだが、有能な人材は嫌いじゃない。



そもそも僕が女嫌いになった原因は、僕の顔や財産や魔術師としての名声を目当てに群がってくる女どもが非常に鬱陶しかったからだ。

そいつらは化粧と香水と笑顔で男を媚びる、外身ばかり着飾った頭の軽い連中で、表では可憐なふりをしようとするくせに、裏では醜い足の引っ張り合いばかりしていた。

僕がまるで靡かないとなると、今度は「男色」だのと不名誉な噂を流す始末だ。タチが悪い。失礼にも程がある。

女が嫌いだからといって、男好きの変態にされるとは屈辱だ。


そんなこんなでいい加減嫌気が差して、女嫌いだと自分で公言するくらいだったから、そんな自分が女を弟子に取るなど夢にも思ってなかった。

……事実、一度はきっぱりと断ったのだ。

だが、この女は諦めなかった。魔術師になりたいという執念で僕に「女と思わなくて結構」と喰らいついてきた。



自分の研究に没頭するふりをして、僕はちらりと掃除する弟子の背を見る。


シズヴィッドは、これまで僕が嫌ってきた女どもとは正反対の、女らしくない女だ。

化粧も香水もつけないし、魔道具以外のアクセサリーもつけない。服は素朴なローブだし、下にズボンを穿いている。

スカートではなくズボンだ。

しかも、馬に乗って出勤してくるのだ。あれには僕も驚いた。


貴族の女が外出するとなれば、ドレスに日傘に馬車というのが常識なのに、この女はズボンを穿いて、供の一人も付けずに、単騎に跨るのだ。

下級とはいえ一応は貴族出身だというのが疑わしく思える程、常識外れな女だ。


とにかく何もかも型破りな女だが、部屋の掃除や魔道具の手入れには、決して手を抜かない。

この屋敷に通うようになってからずっとそういった事ばかりやらせているが、自分の勉強を見てくれと、こちらにせがむ事もない。

僕がこの女を弟子として相応しいかどうか見定めている最中なのを、良くわかっているのだろう。



その忍耐強さは、まあ、悪くない。

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