青い子
孤高を気取ることに意味なんてないけど。
例えば一人でカフェで本を読んでいるとき、本当は本じゃなくて、周りの会話に耳を傾けていることが多い。
そうすると、たくさんの声が聞こえてくる。人といるときでは得られない快感がある。
孤高を気取ることに意味なんてないけど、一人でいることは、私にとっては意味のあることだ。
今日も一人、夕方からカフェで過ごして、静かな喧騒の中にいた。立ち上るエスプレッソの香りが、私を癒し慰めてくれる。
すっかり夜になってから店を出る。辺りは駅へ向かう人や繁華街に向かう人たちが、足早に歩道を歩いていた。
このカフェから徒歩十分に私のマンションがある。
涼しい夜風を浴びながらゆったりと家路につく。
カメラで綺麗に撮れそうな夜空が、一枚の布のように空を覆っていた。
ギーコ、と音が聞こえる。
少し先にある公園の方からだ。
木々の隙間から、女の子が一人、ブランコに乗っているのが見えた。
まだ夕方の名残はあるが、もう辺りは暗い。心配だなと見ていると、女の子が突然こちらを向いた。
その姿に驚きのあまり、持っていた鞄を落とした。
生きているとは思えないほど、その顔は青白く。
女の子の瞳孔が真っ暗で、それで。
気がつくと、公園には誰もいなかった。一体どうしたというのだ。多分疲れていたんだろう。カフェに長居しすぎたかもしれない。
気を取り直して夜道を歩いた。
涼しい風が頬を撫でる。いつもなら気持ちいいと思うのに、何故か冷たい手で首を撫でられているみたいに感じた。
すると、頬から雫が一滴伝った。それはすぐに、一筋の雨となり、私の肩や腕を濡らす。
まいったな。今日は傘を持ってない。
駆け足で、雨道になりかけの道路を走る。
少々髪が、風呂上がりして時間が経ったくらい湿けた頃、自宅のマンションに着いた。
これは早めに風呂に入らないとな。なんて考えながらエレベーターのボタンを押す。
ボタンを押す。
ボタンを押す。
一向にボタンが光らない。
エレベーターが動く気配もない。
ヒューと風が吹き抜ける。
冷たい、冷たい風が。
カサリ、枯葉が擦れるような音がする。
カサリ。
息が浅くなる。
肩に手を置かれたような気がした。
ゆっくり振り返る。
そこには誰もいなかった。
閑散としたマンションの玄関口が見える。
ポーン。
エレベーターも動き出し、ドアが開く。
そのままエレベーターに乗り込む。
ドアが閉まって気づいた。
私の階のボタンがない。
それどころか、見覚えのあるボタンが一個もない。
ここはどこだ。
背筋に恐怖が這い上がる。
開閉ボタンを押してもドアが開かない。
ドン。
ドン。
ドンドン。
ドアを叩いた。何度も、何度も。
エレベーターが振動を始める。
一体どこへ向かうとしているのか。
下に動いた一瞬、ドアの向こうであの蒼白い女の子が私を見ていた。




