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TRPG二次創作倉庫  作者: 蓬 Kuramochi
プルガトリウムの夜 二次創作
1/2

藤丸慶という男(暗転)

本作は、「 株式会社アークライト 」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。


また、本作品はクトゥルフTRPGシナリオ『プルガトリウムの夜』のネタバレを含みます。読む場合は自己責任でお願いします。


本SSは、自探索者のエンドC後の独白となります。

 深夜、廃墟のビルの屋上。刑事だった男、藤丸慶は懐からライターを取り出した。

 火をつけるのはタバコであるMarboro。

 800万人が一斉に死に、物流も食料供給も停止したこの国では、貴重な嗜好品であった。

 

 火のついたタバコを口に咥え、煙で口内を満たす。

 香ばしい香りは、藤丸の肺を懐かしい思い出と共に喜ばせる。

 例えそれが人生最大の汚点の記憶であっても、彼にとっては縋り付きたい貴重な思い出だ。


 煙を味わいながら、もう何度目かも分からない自問自答を繰り返してしまう。


 もしあの時、銃を撃つ勇気が自分にあったなら、今自分はどうなったのだろう。

 元相棒、戌亥愛翔に「撃つんですか?」と聞かれた瞬間、藤丸が感じた感情は恐怖であった。

 人を救うための銃弾で、罪のない人を撃ち抜いた瞬間の、あの背筋が凍りつく感覚。

 ずっとそれを無視して仕事をしていた、たった一人の女性を除いて人に打ち明けたこともなかった。

 しかし、あの事件は確実に藤丸の心に影を落とし、それが世界の命運を分ける最悪の場面で発露したのだった。

 自分が社会のために犠牲になるのは構わない、だが他者を社会のための犠牲にするのは正解なのだろうか。

 自分の思想のために他者を犠牲にする勇気は、あの時の藤丸にはなかった。

 その結果、自分の心の安寧のために、自分が何よりも重んじる「社会」が滅んでしまった。


 長い時間をかけて煙を口に蓄え、そっとタバコを離す。

 口から放たれた白い煙は、満天の星空に溶けていった。

 

 ぼんやりと煙を眺めながらタバコを咥え直し、同時に懐からもう一本のタバコを取り出す。

 何度も吸おうと思い、何度も吸うことを諦めた一本のMarboro。

 桃下冬香から記念にもらった一本は、「なんとなく吸わない」を繰り返す内に湿気てしまった。

 Marboroを吸う度に、吸えなかった一本を見る度に、彼女のことを思い出す。

 彼女の最後の忠告を聞かなかった後悔と共に、彼女とバディを組んだ思い出が蘇る。

 彼女が今いれば、ワタシを慰めてくれるのだろうか、などというくだらないタラレバを想像してしまった。


 

 なんとなく嫌な気分になった藤丸は、咥えていたタバコを地面に落とし、煙を吐きながら足で消火する。

 

「こんなことをしている場合ではありませんね。」


 やらなければならないことは山のようにある。

 炎の銃の復元、戌亥愛翔の居場所の特定、戌亥討伐のための戦闘員の勧誘、生き残った人命の保護と治安の維持。

 くだらない過去に想いを馳せる余裕は、藤丸にはない。



 

 藤丸慶の人生は、あの日に暗転した。

 今後、彼の人生に再び暖かな光の当たる機会があるのかは、誰にもわからない。

 今の彼にできることは、あるかもわからない戌亥愛駆との再会に向けて、牙を研ぎ続けることだけだった。

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