8話 コンビニ散策
真夜中。街の上空で王子と思いがけない出会いをした魔法学生のカイとマモルは、コンビニに興味を抱く王子っぽい見た目のヴィオを誘導しながら空を飛んでいた。
「先生に事前に夜間訓練のことを伝えておけば、夜間でも出歩けるようになるんですよ」
「へぇ、ゼウシリーアにはそんな制度があるのですね」
貴族のような装いのヴィオに対し、カイは和気藹々と世間話を繰り広げる。
「……」
一方、カイのホウキの後部座席に座るマモルは固く口を閉じ、静かに2人の会話に耳を傾けていた。
「そうなんです。父さんの頃には既に……あっ、コンビニ見えました! あの緑色に光ってるお店です!」
しばらく飛び続けること数分後。少し離れた先に、緑の明かりが特徴的なコンビニ『ミニマート』を発見した。
「きゃー! キラキラしててとっても綺麗です!」
見るからに高価そうなホウキに乗るヴィオは、コンビニの外観に大はしゃぎしている。
「あのコンビニはオレもよく寄ってる場所です! 品揃え豊富で新商品もよく売られてるからお気に入りなんですよ!」
「……俺もよく寄ります」
ここでマモルも遠慮がちに話に入る。
「目当ての商品『発砲スチロール』がこのコンビニでしか販売されてないので……」
「それはどんな商品なんだ?」
「シロヤマさんやハルヤマさん行きつけのコンビニなのですか!? それは素晴らしい……!」
感動したヴィオはシロヤマ・カイとハルカワ・マモルに尊敬の眼差しを向ける。
「行きつけのコンビニなんて、まさに今時の若者らしい! とてもかっこいいです!」
「あはは、それほどでも……あ、ヴィオさんはコンビニで何か気になる商品とかありますか?」
「わたくしはツナマヨおにぎりが気になります!」
カイの質問にヴィオは元気よく答えた。
「時代の最先端を生きる人が食べる食事……! わたくしもぜひ堪能してみたいのです!」
「ああ、コンビニに憧憬を抱くのも分かります。俺も昔は、父が時折購入していたコンビニの食べ物に興味を持ってた時期がありました」
「ハルカワさんもそんな可愛らしい時期があったのですね、とても微笑ましいエピソードです!」
「ははは、お恥ずかしい……」
「……マモル、なんかさっきからずっと大人しいな」
「ヴィオさん相手にあんなノリはできん」
「えぇ〜? ヴィオさんもマモルのノリは気にいると思うんだけど……」
「そんなわけあるか」
なんて雑談をしている間に、カイ達はコンビニの広い駐車場へと着陸した。
「よし、コンビニに到着!」
「近くで見ると更に現代チックに見えます!」
「中はもっと凄いですよ!」
カイは安全にホウキを停止させ、マモルはホウキの後部座席から降りる。
その間にもヴィオは華麗に着陸すると、速やかにホウキをどこかにしまいこんだ。
「おぉ……! わたくし、コンビニにここまで近付いたのは初めてです!」
「そんなコンビニを野生動物みたいに……」
何気なくヴィオに指摘するマモルだが、どういうわけかいつもの元気は無い。
対するカイはハイテンションでヴィオに接する。
「ヴィオさん! この自動ドアを通ってコンビニに入店するんです!」
「自動ドアという最先端技術のお出迎え……! 出入り口から既に未来感が溢れ出ています……!」
「ヴィオさん、準備は整いましたか?」
「はい! 覚悟は決めました!」
「…………」
カイとヴィオはコンビニの前で大はしゃぎ。マモルはそんな微笑ましい光景を、固い表情のまま後方から静かに眺める。
「では入店!」
「失礼します……!」
カイを筆頭に、一同はコンビニへと入店した。
「わぁ……!」
子綺麗な内装、丁寧に陳列された未知の商品の数々、弁当やおにぎりの棚にレジ横のホットスナック……
「何もかもが輝いて見えます……!」
初めてのコンビニに入店したヴィオは、感動のあまり目を煌めかせながら店内を見回している。
「さて! 早速商品を購入してみたいのですが、2人のオススメはございますか?」
「あります! 色々ありますけど、オレの1番のオススメはあのレジ前に置かれてる揚げチキンです!」
「揚げチキン?」
「はい!」
カイはレジ横に設置されているガラスケースを指差しながら説明をする。
「簡単に言えば揚げた鶏肉なんですけれど、あのチキンが本当にうまいんですよ!」
「へぇ……!」
「オレとしましては、揚げチキとパンを購入して、パンに揚げチキンを挟んで食べる食べ方が特に好きです!」
「なんと! 後で組み合わせてから食べるとは……! これは是非とも真似しなくては! ……さて、ハルカワさんのオススメはありますか?」
ヴィオはカイのオススメに大はしゃぎすると、今度はマモルにもコンビニのオススメを尋ねてきた。
「俺は肉まんです。あのレジ前に設置されている蒸し器のような機械の中に入っています」
「肉まん……他に色違いの商品があるようですが、どのような違いがあるのでしょうか?」
「どれも味が違うんです。肉まんは肉入り、あんまんはあんこ入り、カレまんはカレー入りです」
「よりどりみどりですね!」
マモルはカイと同じようにレジ前の機械を指差して説明する。
「もし中の商品が欲しい時は、お会計の時に店員さんに注文するんです」
「なるほど……! では、お2人のオススメは後で注文するとしましょう! さて、いよいよ店内の探索を始めましょうか!」
ヴィオは満足そうに頷くと、改めてコンビニ内を歩き始めた。
「日用品からお菓子まで、色んな物が置かれてますね」
「コンビニでお菓子を買うのも楽しいですよ。コンビニでしか見ないものとか、コンビニ限定のお菓子とかあったりしますし」
「いいですね、ではお菓子の棚へと移動しましょう!」
「あ、買うならオレのオススメの買い方を教えてもいいでしょうか?」
「オススメの買い方?」
「はい! オレのオススメの買い方はズバリ……限られた金額で欲しいものを買うってやつです!」
「限られた金額で?」
「これがまた楽しいんですよ……あ、そうそう。たくさん買うなら買い物カゴが便利ですよ!」
「おぉ〜」
カイは近くで拾い上げたカゴをさりげなくヴィオに手渡しながら説明をする。
「この予算内でどれとどれを買うべきか、どれを諦めて購入すべきか……予算内で買い物をしてる間、ずっとお菓子のことを考えるんです」
「確かに……! 予算内で買うとなれば、もっと本気でお菓子の選別をすることになりますね!」
「その通りです! なので普段よりもっとお菓子の情報が頭に入ってくるんですよ!」
「それいいですね! ではわたくしもその方法で買い物をしてみます! 予算は5万マルで!」
「それだとほとんどのお菓子買えてしまいますね! もう少し減らすのをオススメします!」
カイの提言により、ヴィオはとりあえず3000マル以内での菓子の物色を開始した。
「おっ! このお菓子、オマケにぬいぐるみが付いてます!」
「あ、妹がよく集めてるやつですね! そのぬいぐるみ、結構可愛らしいんですよ!」
「お菓子とぬいぐるみがセットで購入できるなんて……! 折角ですし、思い出に残す目的で購入します!」
ヴィオは嬉々として菓子を選んではカゴに入れていく。菓子を眺め、真剣に吟味してはカゴに入れていく。
しばらくは快調に菓子選びは進んでいた。しかし、いよいよ予算が迫ってきたのか、次第に動きが鈍くなっていく。
「美味しそうなお菓子を発見したのに……! このお菓子を買ってしまえば、予算を遥かに超えてしまいます……!」
ヴィオは1つの菓子を前に難しい表情を浮かべる。
「ですが、カゴに入れたお菓子はどれも選び抜かれたものばかり……! このお菓子のために別のお菓子を諦めるなんて真似はできません……!」
「まさかお菓子ひとつでここまで悩むとは……」
「お菓子選び1つでこの世の終わりみたいな表情してる……」
どうやらヴィオは本気で悩んでいるらしい。カイとマモルが見守る中、ヴィオはカゴと棚を交互に見つめていた。
「ああ……! 非常に残念ですが、今回はこのお菓子は諦めるしかないようです……!」
「ヴィオさん!」
ヴィオが菓子を諦めようとしたその時、カイは唐突に待ったをかけた。
「ヴィオさん。もしもある程度考えて、それでも諦め切れないお菓子が出たら……!」
「出たら……?」
ヴィオは固唾を飲み、カイの次の言葉を待ち構える。
「多少予算オーバーしても良し!」
「やったー!」
ヴィオは大喜びでお菓子をカゴに入れた。
「あくまで払える金額で、ですけどね!」
「買えますとも! では先程諦めたお菓子も選んできます!」
「あ、カゴ持ちますよ!」
「ありがとうございます! ですがお気遣いは結構です、カゴに沢山の商品を入れて持ち運ぶ……これもコンビニの醍醐味ですから!」
「それもそうですね!」
この後ヴィオは、目当てのツナマヨおにぎりを買い、カイとマモルのオススメ商品を注文して購入したのだった。
「あー楽しかった!」
「ヴィオさんに満足していただけたようでこっちも嬉しいです!」
「2人とも、随分と楽しそうだったな……」
大きく膨らんだレジ袋を両手に提げたヴィオは、とても満足そうに微笑んでいる。
「ヴィオさん、近くにある大きな公園行きませんか? そこならベンチと机がありますし、さっき購入したお菓子とか食べれますよ!」
「是非行きましょう! お2人とも、お時間は大丈夫ですか?」
「オレは大丈夫です!」
「俺もまだ平気です」
「では参りましょう!」
コンビニで買い物をした3人は、大きな公園を目指して徒歩での移動を開始した。




