5話 不審なバイクと能力者
真夜中、車の気配が一切ない広い道路にて。
王子様のような見た目の少年は脚力のみでコンクリートの道を駆け抜け、バイクに乗った不良の群れを追いかけていた。
言葉にするとよく分からないだろうが、仮にこの光景を目視で確認したとしても意味不明だっただろう。
「まだわたくしのお話は終わってませんよー!」
「もう勘弁してくれぇー!」
「こっち来んなー!」
不良達は悲鳴を上げながらバイクを走らせて王子から逃走を続けている。
「な、何なんだアレ……?」
「あの王子、不良にバイクを盗まれたのか?」
「バイクと同じ速度で走れる人がバイク乗るかなぁ……それに、仮に王子のバイクだったとしても、どのバイクもだいぶゴツくないか?」
「派手に『デコレーション』されてるだろ」
「強引に王子に寄せてきてる! どのバイクも『デコレーション』じゃなくて『魔改造』って言葉しか似合わないくらいゴツいよ!」
ホウキに乗った魔法学生のカイとマモルは、真下で繰り広げられている奇妙な光景に困惑しながらもやり取りを続ける。
「不良が悲鳴を上げてるってことは、あの王子っぽい人が迷惑かけてんのかな……?」
「王子が不良に迷惑高位……? となると、不良が王子にかけるのは迷惑低位か?」
「マモル何言ってんだ?」
未だに現状をよく理解できないカイとマモルは、とりあえず空からバイク群を追尾する。
「こっちくんな化け物ー!」
「おい坊主! 何で追いかけてくんだ! お前には何も関係ねぇだろ!」
「大アリです! 先程あなた達は道行くご婦人からバッグを盗んだでしょう!」
「マジ!?」
「あの不良共、とんでもない大泥棒じゃないか……」
想像以上に悪いことをしていた不良にカイは目を丸くして驚き、マモルは表情を強張らせて戦慄する。
「さらに勢い余って歩道の一般市民を轢きかけたました! もっとゆっくり静かに走行しなさーい!」
「あの不良共、かなりの危険行為に及んでいたようだな……」
「あの王子いい人だったんだ……って、見てる場合じゃないよな……」
「よし、とりあえずまず先にあの現場を通報しよう」
「マモル頼んだ!」
カイがホウキを走らせる中、マモルはポケットから携帯電話を取り出す。
「…………」
「マモル、どうした?」
「携帯が圏外になってる……」
「えっ?」
マモルの携帯電話の画面には圏外表示されている。これでは連絡ができない。
「……駄目だ、やはり繋がらない」
「この辺は電波届くと思うんだけどなぁ…………っていうか、なんか町暗くね?」
「町が暗い?」
携帯の画面から目を逸らしたマモルは、辺りの景色を見回す。
「ほら、空がやけに黒い感じする! さらに空気も変な感じだし……」
「これは……恐らく、結界術だな」
「結界?」
マモルの言葉にカイはすぐさま反応する。
「結界術は現実とは違う異空間を作り出す魔法だ。作り出した結界に人間を閉じ込めることもできるんだ」
「そんな漫画みたいな術、本当にあるんだな……」
「もしかすると、不良を外に逃さないようにするために王子が結界を貼った可能性があるな。で、それに俺達も巻き込まれた……と」
「マジか!? もしそうだとすると、結界作って大勢を閉じ込めた王子ってかなり凄い奴ってことに……!? あっ、とりあえずあの王子を援護しにいかないと!」
結界からなる妙な気配を感じ取りながらも、カイはとりあえず王子を助けるためにホウキを飛ばす。
「助けるって言っても……これ、どうやって関わればいいんだ?」
「下手に関わったら大怪我させかねんぞ」
「だよなぁ……あんな速度で走られたら、流石に昨日みたいな助太刀は難しいかなぁ……」
不良の群れに追いついたカイとマモルは、王子をどう助けようか思案する。
そんな時、目の前の道路でデッドヒートを繰り広げていた光景に変化が。
「どうやら私が言っても話を聞かないご様子で……ならば奥の手っ!」
王子がそう一言叫ぶと、なんと王子がその場で更に加速した。
とんでもない脚力によりバイク群をすぐさま追い越してしまい、王子はあっという間にバイク群のトップに躍り出た。
「速っ!?」
「皆様方、ごきげんようっ!」
バイクの真正面に立ち満面の笑みを湛えた王子は、水平にした手のひらから輝く何かを生み出した。
「少々失礼!」
王子は指先の照準をバイクの車輪に合わせると、輝く何かを爪弾きで素早く撃ち放った。
人並外れた爪弾きにより、さながら弾丸のように射出された物体は、バイクの車輪に見事命中した。
「うおっ!?」
「何だぁ!?」
車輪は宝石のような物体に覆われ、不良を乗せたバイクはその場で停止してしまった。
「なっ、何が起こった!?」
「車輪が石で覆われてる……!? 何だこれ!?」
不良達は停止したバイクに乗ったまま慌てふためく。
「結晶が生み出された……!?」
「あれはまさか、能力者の力か!?」
上空から眺めていたカイとマモルも同様に驚き叫ぶ。
魔法石を使用せず宝石に近い物体を生み出す芸当ができる人間はこの世に存在しない。
となると、まず真っ先に考えられるのは能力者の線だろう。
「やっぱりあのガキ只者じゃねーぞ!」
「やばいよ兄貴……!」
不良達は既に怖い思いをしていたのか及び腰で、バイクを捨ててでもこの場から逃げ出しそうだ。
「おっと、逃げようとしても無駄ですよ」
相手が逃げ出す気配を察知したのか、王子は不良達に向けて言葉を告げる。
「皆様は既に、私の作り上げた異空間に入り込んでいるのです。例えこの場から逃げ出そうとしても、私の空間からは簡単には逃れられませんよ!」
「何だと!?」
「どういうことだよ!? おい!」
「マモルの言う通りだった! この異空間は王子か作ったものだったんだ!」
王子の言葉に不良が驚く中、カイはマモルの推測が的中したからか別の意味で驚いた。
「バイクを駆け足で追い越しただけでなく、異空間を生み出して大勢の人を閉じ込めるなんて……あの王子、並の魔法使いじゃないぞ……」
「だよな……なんか範囲も広そうだし……」
改めて世界を見回せば、確かに景色に違和感がある。夜を照らす街灯は全体的に薄暗く、車はおろか一般人の気配すらない。
「異空間って何だよ……!?」
「先輩! なんか携帯繋がんないっす!」
「マジかよ!」
「なんか全体的に暗い気が……」
不良達も周囲の異変に気付いたのか、不安そうにしながら辺りに視線を向けている。
その様子を見た王子は一つため息をつくと、改めて話を再開した。
「そろそろ観念しましたか? さあ、さっきご婦人から盗んだバッグをお返しなさい!」
「くっ……!」
道路を爆走できる能力者が相手では、流石の不良達に勝ち目はないだろう。
不良達はもはや意気消沈し、殆どはあきらめの境地に達しているようだ。
しかし、不良のリーダーらしき狼人はまだ諦めていない様子だ。
「……異空間がなんだ。この王子様がこの異空間を作り上げているのならば、王子様を倒せば元の世界に帰れるってことだろ?」
荒々しい印象を見受ける狼人の不良リーダーは、懐から石のような物を取り出して構えた。
「……っ! それは!」
不良リーダーが取り出した物体を見た王子は驚く。周りの不良達もどこか困惑している様子だ。
「番長! まさかそれ使うんすか!?」
「もう使った」
不良リーダーがそう一言呟いた途端、コンクリートの地面が突然大きく揺れた。
コンクリートの地面が割れて盛り上がり、姿を変えていく。やがて地面は、コンクリートと土が混じったゴーレムに姿を変えた。
「なんだあれ!?」
「どうやらゴーレムが発生しているようだな……」
カイとマモルが傍観する中、成人男性よりやや大きめの人間型のゴーレムが次々と生み出されていく。
「やばい! 巻き込まれるぞ!」
「魔力無い奴は逃げろ!」
その間に一部の不良はその場から逃走、残った不良は懐から取り出した棒状の物体を構えた。
やがて王子は人型ゴーレムの大群に囲まれた。不良リーダーは棒のような物を取り出して構え、棒の先端を王子に向ける。
「どうせ逃げられないのなら、相手が追いかけられなくなるまで叩きのめしてやる」




