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3話 炎の能力者

 中身入りの缶が脳天に直撃し、マモルはその場で意識を手放した。


 気絶したマモルの脳裏に幼い頃の記憶が蘇る。


 物心ついた時から能力が使えたマモルは、何となくだがその能力を両親に見せないようにして過ごしてきた。


 マモルが小学生低学年だった頃。平和なハルカワ家には時折、厄介な訪問者が訪れていた。


「なぁ、金貸してくれよ」


 家に勝手に上がり込んでは金の無心をする、情けなくて意地汚い叔父。


 家族から勘当されていた叔父は、唯一見捨てなかった父の優しさにつけ込んで、酒を片手に家に上がり込んでいた。


 そのうえ叔父は酒癖が悪く、酒を飲んだら大暴れして家中の物を破壊して回っていた。


 叔父は普通の人よりも魔力が多く、暴れ出したら手が付けられなかった。


 家族の中で特に魔力を持っている母が暴れる叔父を対応していたが、毎回大騒ぎだった。


 父が毎回怒っても叔父には全く響かない。父は今になって叔父と絶縁しようとするも、父を舐め腐る叔父には全く効果がない。


 マモルは、家族を悲しませるそんな叔父が大嫌いだった。



 とある休日、酔っ払った叔父がハルカワ家に上がり込んだ。その日は不幸にも、叔父を何とかできる母は不在だった。


 魔力の無いマモルは父の言いつけにより寝室に隠れるも、泥酔した叔父の悪ふざけにより表に引っ張り出された。


「兄さんやめてくれ! マモルだけは……!」


「コイツは俺が遊んどいてやるからお前は酒持って来い! グズグズすんな!」


 いつにも増して酔っ払った叔父の剛腕により父は殴られ、父は気を失い床に倒れる。


「グズグズすんなって言ってんだろうがっ!」


 倒れた父に対して叔父は激しく怒り狂い、床に倒れる父親に向かって空の酒瓶を振り翳した。


 このままでは父が危ない。


「やめろ!」


 すぐさま叔父から離れたマモルは、無我夢中で自分の能力を使用した。右手から炎が吹き出して広がり、目の前の叔父を包み込んだ。


「ぎゃあああああ!!」


 叔父はあっという間に全身を炎に包まれた。


「ああっ!? 燃えっ!? 燃えてっ!? ああああああ!!」


 想像以上の威力にマモルは驚き、尻餅をついたまま動けなくなる。


「たっ!! 助けてっ!! 助けてくれえっ!!」


「ううっ……えっ!? 兄さん!?」


 叔父の悲鳴に起こされた父は慌ててその場から走り去り、家に置かれていた消火器を構えながら戻ると叔父の炎を消し去った。


 この一件以来、叔父は二度とハルカワ家には現れなくなった。



 しかし幼いマモルの脳裏には、最後に見た叔父の姿が焼きついてしまっていた。



「うわああっ!! こっ! こっち来るな化け物っ!!」


 叔父は怪物を見るような視線をマモルに向け、けたましい悲鳴を上げてマモルを遠ざけようと最後まで暴れ狂っていたのだった。




「……モ……! マモル!」


「……はっ!?」


「あっ! 気がついた!」


 カイの呼びかけによりマモルは目を覚ます。


 真っ先にマモルの視線に飛び込んできたのは満点の星空、そしてマモルを心配そうに見つめるカイの顔。

 どうやら地面を下にして寝かされていたようだ。


「マモル、大丈夫か……?」


「……懐かしい顔だな」


「オレ達ほぼ初対面だよ」


 マモルの想定外な一言目に、カイは思わず静かに指摘する。


「随分と小さくなったな、ゼウシリーア」


「規模からして大間違いだよ! なんでオレ星と勘違いされてるんだ!? マモル、違うって! オレだよオレ!」


「……夜空」


「えっ?」


「夜空に輝く星々よりも……カイの方がデカいな……」


「そりゃそうだよ。遠くの星より俺が1番近いんだから、そりゃ俺の方がデカく見えるって」


「それもそうか……」


 ここでマモルはゆっくり上半身を起こして起き上がる。地面には長いタオル、頭には鞄が置かれていた。


「……カイ、俺を介抱してくれてたんだな。ありがとう」


「いいって! そもそもオレが原因でこうなったわけだし……」


「いや、多分あの缶は俺が炎で巻き上げたやつだと思う」


「それも元はと言えば俺が空中で……あっ! それよりマモル! どこか痛むところはあるか? 違和感を感じるところは?」


「平気だ」


「本当か?」


 カイは慌ててマモルの健康状態を確認する。マモルは平気そうだが、カイは不安を拭い切れない様子だ。


「頭も特に問題無さそうだ」


「だといいけど……マモルが寝てる時、ずっとうなされてたぞ?」


「それは……」


 カイの心配する言葉にマモルは思わず言い淀む。


「……頼む、遠慮せず言ってくれ。何かあってからじゃ遅いからさ」


 困惑するマモルに対し、カイは真剣な眼差しをマモルに向ける。


「…………具合が悪いわけじゃないんだ」


 やがてマモルは観念したのか、マモルは一呼吸置くと改めて話を切り出した。


「気絶してる時……嫌なことを思い出してたんだ」


「嫌なこと……?」


「幼い頃の記憶だ……怪我とは一切関係ないから安心してくれ」


「そっか……」


 マモルの返事を聞いたカイはそう一言だけ返す。


「マモル、救急車呼んであるからな」


「ありがとう、何から何まですまないな……」


「これくらい当然だって!」


 ここで会話が途切れ、しばらくの間、2人の間に沈黙が訪れる。



「……マモルはすごいよ」


 間を置いて、カイは沈黙を破る。


「急にどうした」


「いや、マモルが気絶してる間に思ってたんだ。マモルは多分だけど炎の能力者で、本来ならあんなに凄い炎を出せるのに……」


「あの時は無我夢中だったからな。普段はあんな風に使いこなせない」


「それでもすごいよ。それなのにさっきマモルは、不良にあんなに暴力受けても、能力は一切使わずに静かにやり過ごしてただろ?」


「……ただ臆病なだけだ。無闇矢鱈に使用したら世間から孤立するからと、御託を並べて力から逃げて……それで、自分自身を碌に守れず……」


「炎って扱い難しそうだもんな。変に使用したら大怪我しそうだし……」


 カイはそこまで言い、「でも」と言葉を続ける。


「さっきその能力使ってホウキを浮かせて、オレを助けてくれたじゃん。すげー助かったよ」


「いや、カイはもっと凄かった」


 マモルは言葉を返し、カイに視線を向ける。


「カイは能力を上手く使いこなして、相手を傷つけることなく争いを収めていた」


「いや、オレはそんな……」


「……カイは立派だ。自分の能力と向き合って前に進んでいる……臆病な俺とは大違いだ」


「…………いや、オレも臆病だよ」


 カイは何か言いづらそうにしながらも言葉を返した。


「……オレも臆病だから、目の前で困ってた人を助けた感じ……かな」


 カイは声の調子を落として言葉を続ける。


「オレは……いざという時に能力を使えなかったことがあってさ」


「……」


「オレはそれをずっと悔やんで、必死に自分の能力を鍛えて……今は、手に届く範囲内で頑張って人を助けてるんだ」


「そうか……」


「うん。だからマモルを助けたのも、オレが助けたかったから……というより、目の前で人が傷つくところを見てられなかった感じ……かな」


「……形は違えど、俺達は似たもの同士だったわけだな」


「そうだね、あはは……」


 カイの返事を最後に、再び沈黙が訪れる。


「……とある事情で、人前で力は使えなくなったが」


 しばらくして、今度はマモルが話を切り出した。


「何かあった時に、力を制御できないのはまずいと思ってな……前々から力を制御する練習はしてたんだ」


「そうなのか?」


「ああ……冷えた飯を温めたり、冬場は身体を温めたり、マシュマロを炙ってビスケットに挟んだり……」


「割と日常的に使用してたんだな……」


「そのお陰かな。人の前で力が使えた上に、炎を上手く調整できた気がしたんだ」


「出来てたよ! すごく上手だった!」


「ありがとう」


 カイの真っ直ぐな褒め言葉を、マモルは素直に受け入れる。


「咄嗟の出来事だったからか、人前でも能力を使えたのかもな。それでもまだまだ荒いと感じた。気を抜いたところで奇襲受けて気絶してるようではまだまだのようだな」


「いや、オレも気を抜いたところでやられたっていうか……魔力とか吹き飛んだし……」


「お互いに納得いってないところはあるようだな。そこで、だ」


 マモルは拳を握り締め、カイに真っ直ぐ視線を向けた。


「カイはどのようにして力の使い方を学んだのかを知りたい」


「えっ……?」


「……守られて必要以上に世話を焼かれるより、せめて自分を守れるくらいには力を使いこなしたいんだ」


 マモルは握り拳を開き、手のひらから炎を生み出す。


「カイのように、人を傷つけずに安全に力を使えるようになりたい。世話になるより、せめて自分の世話くらいできるようになりたいんだ」


「マモル……」


「時々でいいから、こうして会って、能力について情報のやり取りをしてくれないか?」


「……!」


 マモルの提案に、カイの表情は途端に明るくなっていく。


「もっ、勿論だよ! マモルが望むなら能力の特訓にも付き合うよ!」


「ありがとう。やはりカイは優しいな……」


「いや、オレも強くなりたいからさ! 能力持ってる人が増えればできる特訓とかあるだろうし! これはオレの為でもあるから!」


「なら遠慮はいらないな。カイ、よろしく頼む」


「マモル、こちらこそよろしく!」


 遠くから救急車のサイレン音が響く中、マモルとカイはお互いに手を差し出し、固い握手を交わした。


「カイ、ありがとう…………あっ」


「……マモル、どうした?」


「不良に巻き上げられた金を回収するのを忘れていた……」


「…………まじか」


 マモルの一言により、辺りに気まずい空気が流れた。

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