2話 能力者との出会い【挿絵あり】
真夜中。カツアゲの現場に遭遇した魔法生徒は、氷の力により不良の群れを殆ど行動不能にしてしまった。
ツノの生えた大男の不良に盾にされて凍りついてしまった猫耳不良は、目の前で仁王立ちする白髪の魔法生徒に対して戦慄し目を見開いた。
「ま、まさかアイツ……! 氷の能力者!?」
「能力者……?」
猫耳不良の発した言葉にツノ不良が反応する。
「能力者って、マンガに出てくる魔力無しで魔法じみた力を使うあの……?」
「実在するんだよ能力者は! 本来ならば、大掛かりな炎魔法や水魔法は専用の魔法石が無ければ発動できない……! 魔力も多く消費する……!」
いまいち理解が追いついていないガタイのいいツノ不良に対し、猫耳不良は必死に叫びながら解説をする。
「だけど『能力者』と呼ばれる人間は、特定の属性魔法を石無し術式無し、更に魔力消費は僅かで自由自在に扱えるんだよ!」
「はぁ!?」
「マジかよ!?」
猫耳不良の解説に、周りの仲間不良が一斉に驚く。
「それってつまり……わざわざ魔法の式を構築しなくても、ほんの少しの魔力ですぐに氷の壁を作ったりできるとか……」
「そういうことだよ! こっちがバカみたいに難しい魔法を発動させようとしてる間に、向こうはそれ以上に難しい魔法を一瞬で組み上げて放てるんだよ!」
「じゃあ勝てねぇじゃねーか!」
「そうだよくそっ! アイツがあの時に魔法生徒に喧嘩を売らず逃げていれば……! お前も全力で止めろよ!」
「俺のせいかよ!?」
凍りついた不良達は、魔法生徒の前で後悔の混じった罵り合いを繰り広げる。
「えーと……まだ俺がいるんだけど……」
対する氷の能力者である魔法生徒は攻撃を中断し、呑気に不良達に言葉を投げかける。
だがそんな中、ガタイのいいツノ不良は唐突に何か閃いたのか、まるで好機を見出したかのように口角を吊り上げた。
「……待てよ」
「おい、急にどうし……」
「そんな強い能力者様を倒せれば……俺はもっと有名になれるってことだよな?」
「は? お前何言って……って、お前何してんだよ!?」
明らかに良からぬことを思いついたガタイのいいツノ不良は、目の前で凍る猫耳不良を両腕で抱き込んだ。
「お前一体何を……!?」
「おらあっ!!」
全身に魔力を込めて力を底上げしたツノ不良は、氷漬けの猫耳不良を地面から強引に引き剥がした。
「!?」
バキリと凄まじい音がして地面から引き剥がされた猫耳不良の氷塊は、ツノの不良によって武器の如く構えられた。
「お、おいお前……!」
「氷の能力者……! 覚悟しやがれぇ!!」
ツノ不良は猫耳不良を構え、全力で魔法生徒目掛けて駆け出した。
「うぉおおおおおおお!!」
「ぎゃあああああ!?!?」
「うわっ!? マジかよ!?」
猫耳不良が悲鳴を上げる中、ツノ不良は気にせず氷漬けの仲間を手に魔法生徒へと突撃していく。
「やめとけって! 仲間が可哀想だろ!?」
「関係ねぇ!」
流石の魔法生徒もこれには焦り、両手を突き出してツノ不良を全力で止める。
「オメェとの勝負に勝てば何も問題ねぇんだよ!」
「大アリに決まってんだろバカ!! どこの世界に仲間を振り回すバカがいるんだ!!」
「るせえっ! 武器は黙って振り回されてろっ!」
ツノ不良は全力で叫ぶ猫耳不良と言い争いながらも、やがて魔法生徒の真正面へと到着した。
ツノ不良は不気味な笑みを魔法生徒に向ける。
「フフフ……流石の能力者もこれには敵うまい……! くたばれぇ!」
「テメェ後で覚えてろよおぉ!!」
ツノ不良は氷漬けの猫耳不良を高く掲げると、魔法生徒目掛けて全力で振り下ろした。
魔法生徒に巨大な氷塊が迫る。
「ほっ!」
「!?」
魔法生徒は軽い掛け声と共に、右足で思い切り地面を踏み込んだ。
足元は一瞬で白に染まり、魔法生徒の目の前に大きな氷の壁が出現。
「!?」
突然現れた氷の壁は、猫耳不良を構えたツノ不良もろともまとめて壁に埋め込んでしまった。
「た、助かった……の?」
「何も助かってねぇよ! どうすんだよこれ!」
「俺に言うなよ! そもそもお前が始めたんだろうが!」
1つの氷壁で仲良くまとめられてしまった不良2名は大声で言い争いを繰り広げる。
「とりあえず全員止まったな。しばらくそこで反省してろ! さてと……」
不良をあっという間に行動不能にした魔法生徒は、背後で倒れていたマモルに視線を向ける。
「大丈夫? 立てる?」
「ああ、これくらい平気だ……」
魔法生徒に声を掛けられたマモルは、服を叩いて土埃を落としながら静かに立ち上がった。
「いやぁ、助かった……助けてくれてありがとう」
「どういたしまして!」
マモルは魔法生徒にお礼の言葉を述べ、魔法生徒は満面の笑みで素直に言葉を返した。
「いやぁ、本当に助かった……カツアゲ用のサイフを鞄に仕組んでいたとはいえ、安くないお金をあのチンピラ共に持ってかれるのは痛かったからな……」
「そんな準備までしてたのか……」
「君にはなんてお礼を言ったらいいか……あたたたっ!」
「あっ、あまり無茶しない方が……!」
痛みで顔を歪ませるマモルに、魔法生徒は慌てて肩を差し出す。
「俺は大丈夫だ……あと、君があの不良の群れを片付けている間に警察に通報したから、すぐに警察が駆けつけてくれるだろう……」
「なら大丈夫だな! そうだ、折角だし家まで送ってくよ!」
「あ、これくらいなら大丈夫……」
「本当に大丈夫か?」
マモルは断ろうとするも、目の前の魔法生徒は悲しそうな表情で確認をしてくる。
「……いや、ここは素直にお願いしよう。よろしく頼む」
「分かった!」
マモルの言葉に魔法生徒は大喜びで頷くと、鞄からランプ付きのホウキを取り出して跨り、ランプを点灯させた。
「はい! 後ろどうぞ!」
「失礼する」
「逆逆! 危ないから俺と同じ方向向いて座って!」
周りで不良達が固まる中、マモルは魔法生徒のホウキの後部座席に乗り込んだ。座席に両手を乗せて飛行に備える。
「さて、出発進行!」
「ま、待ってくれ……!」
魔法生徒が飛び立つ寸前、不良の1人が魔法生徒を呼び止めた。
「た、助けて……」
「せ、せめて氷は溶かして……!」
「魔力ある奴なら耐えられるし、すぐに溶けるから大丈夫! じゃあな!」
「そんなぁ……」
不良の要求をきっぱり断った魔法生徒は、ホウキに力を込めて地面を思い切り蹴った。
2人が乗ったホウキはすぐさま空に飛び立ち、あっという間にこの場から立ち去ってしまった。
「そうだ、自己紹介がまだだったな! オレの名前は『シロヤマ・カイ』!」
夜。眼下に広がる町を一望しながらホウキを飛ばす魔法生徒は、後部座席に大人しく座るマモルに対して元気な自己紹介を始めた。
「万代魔法学園の1年生、クラスは2組だ! よろしく!」
「シロヤマ……お前、同級生だったのか……」
「うん! あと、同い年だし俺のことは名前で呼んでいいよ!」
助けてくれた相手はマモルと同じ学園に通う同学年だった。
「……俺はハルカワ・マモル、1年1組だ。よろしく」
「ハルカワ、よろしく!」
「カイ、俺の方も名前で呼んでいいぞ」
「分かった! マモル、よろしく!」
ホウキの上でお互いに自己紹介を済ませると、カイは笑顔で話を切り出した。
「オレは前からマモルのことは知ってたんだ! なんか1組に賢そうな奴がいるなって思って!」
「そうか……俺が賢そうな見た目なのには、色々と訳があるんだ」
「へぇ〜! 昔からその見た目だったとか、勉強しやすいからとかじゃなくて、他に理由があったり?」
「昔からこの見た目で、勉強しやすいのも勿論だが、1番の理由は……」
「理由は……?」
「理由は単純だ」
カイは耳を澄ませてマモルの次の言葉を待ち構える。
「マジメな眼鏡が面白い発言をしたら面白いかなって」
「それ面白さ重視だったのか!?」
「そんなところだ」
「どんなところなんだ!?」
マジメな見た目の意外な理由に、カイは驚きの声を上げた。
「正直な話、俺は普段からもっとバラエティ番組の話をしたいのだが、学園では真面目な友人しかいなくてな……」
「そうなんだ……」
「真面目な格好して真面目に授業受けて、真面目に生活してるからかな」
「どう考えてもそれが原因だって!」
「なんか学園に入ってから、心なしかずっと真面目な話しかしてない」
「多分気のせいじゃないと思う! ……ぷふっ」
マモルの発言に対してカイは正直に受け答えていく。ある程度受け答えしたところで、カイは唐突に声を上げて笑い出した。
「あははは!」
「どうした?」
「マモルさっきから面白いじゃん! みんなマモルのこと知ったらもっと話しかけてくれるって!」
「ありがとう。俺とは初対面だというのに……カイは優しいな」
「こういうのは初対面とか関係ないって! オレは思ったことを正直に言っただけだから!」
「カイ……本当にいい奴だな」
「いや、そんな……へへ……」
マモルから真っ直ぐな褒め言葉を貰ったカイは照れくさそう笑う。
「へっへっ、へっ…………」
「妙な笑い方だな」
「へっへっ……へっぶし!」
「うおっ」
能力により身体をほんの少し冷やしていたのか、カイは夜空の中心で一際大きなくしゃみをした。
その瞬間。
「ぎゃっ!?」
「うおおっ!?」
なんとくしゃみをしたカイはその場で凍りついてしまった。
「カイ!?」
「や、やば……」
「カイ! 大丈っ……!?」
カイは分厚い氷に覆われ、ホウキは操縦者を失い落下を始めた。
「ホウキが!?」
「こ、こお……まりょ、く……!」
「まさか能力が発動した拍子に魔力が吹き飛んだのか!? だとしたらまずい……!」
くしゃみにより能力が偶発し、更には魔力もどこかへと吹き飛んだらしい。
カイの魔力が切れたということはつまり、ホウキの高度を維持する力を失ったということだ。
「うおおおおおおおおお!?!?」
氷漬けのカイと共に急降下するマモル。
マモルは雄叫びを上げながらも脚で何とかホウキにしがみつき、ホウキに魔力を送り速度調整をする。
しかし、マモルの人工魔力ではホウキの高度維持はおろか、降下の速度を落とすことすら困難らしい。
(俺の魔力では速度を殺しきれない……! このままでは……!)
ゴウゴウと風音が鳴り、真下にある人のいない空き地が迫る。最悪の事態を想像したマモルは顔を青ざめる。
「こうなったら……一か八かだ……!」
しかしマモルは突如として意を決すると、手を座席から放して真下へと向けた。
「頼む、上手くいってくれ……!」
真下へと向けた両手から熱が込み上げ、マモルの髪は真紅に染まっていく。
「はあっ!!」
やがてマモルの両手から凄まじい火力の炎が吹き出した。
噴射された炎はカイ達が乗るホウキを僅かに押し上げ、やがてゆっくりと降下しだした。
地面にじわじわと迫り、マモルの炎は空き地に落ちていたありとあらゆる物を吹き飛ばしていく。
そんな中、炎の熱はカイを覆う氷を溶かしていき、ついにカイは氷塊から解放された。
「危なっ!?」
自由になったカイは慌てて地面に向かって氷を放つ。
地面から氷塊が発生し、氷塊は降下していたホウキを丸ごと包み込んで停止させた。
「た、助かった……」
何とかホウキが停止し、無事を確認したマモルは両手の炎を収める。
「危なかった……」
危機を脱して一安心したカイは、振り返りマモルを真っ直ぐ見つめる。
「マモル……!」
「……あまり見ないでくれ」
炎の圧によりマモルの髪は全て後方へと流れ、さながらオールバックのような髪型に変わっていた。
「その髪型もカッコいいと思……いや、それよりもマモル! さっきの力!」
カイがマモルに勢いよく詰め寄る中、上空から妙な風切り音が迫ってきた。
マモルの放った炎によって空中へと舞い上がった中身入りの缶だった。
「もしかしてマモルも能力……!」
カイが最後まで言い切る寸前、勢いを増して急降下していた中身の入った缶は、マモルの頭頂部に見事直撃した。
「があっ!?」
「マモルーー!?」
マモルの断末魔とカイの叫びが周囲に轟く。脳天にクリティカルヒットを受けて意識が遠のいていくマモルは、後方へと仰け反りながらふいに一言漏らした。
「ば、バチが当たった……!」
「マモルーーーー!!!!」
カイの物凄い声量による叫び声に包まれながら、マモルはゆっくり意識を手放したのだった。




