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14話 不良のお目当てはスカジャン男

 夜。ファッション店の駐車場にて。


「あっ! 来たぞ!」


「あの水色スカジャンの野朗だ!」


「顔も報告通りだ! 間違いないよ!」


「スカジャン…………えっ!? まさかオレのことか!?」


 駐車場でフィオが待機するくるまを囲っていた不良の群れは、カイに真っ直ぐ視線を向けながら迫ってきた。


「お前かぁ……!」


 不良の中で特に背の高い番長らしき人物は、カイへと迫りながら凄みのある声量でカイに声を飛ばす。


「仲間を氷漬けにしやがった上にその辺に放置しやがった奴ってのは……!」


「えっ!?」


 心当たりのあるカイは、番長の発言に対して分かりやすく反応をする。


「まさか……この前の猫耳生やした不良の親分か!?」


 カイは真っ先に、マモルを助け出した時に対面した不良のことを口に出した。


「……俺の仲間に猫耳生やした奴はいねぇよ」


「あれ?」


 どうやら外れたようだ。


「お前……」


 マモルはなんとも言えない表情をカイに向ける。


「俺以外にも何人か人を助けてるだろうとは思ってはいたが……まさか、俺が予想してる以上に不良とやり合ってたというのか……?」


「い、いや……オレも流石にそんなに戦っては……」


 訝しげな表情で見つめられたカイは、慌てて頭の中の記憶を整理する。


「えーっと……猫耳が違うとなると……ツノが生えた奴か!? 赤髪かガタイのいい奴!」


「ツノが生えた仲間は黒髪で小柄な奴しかいない」


「違った! えーと……黄色のモヒカンのやつ!」


「そんな奴はいない」


「えーと……小柄で全身レインボーの……」


「いねぇよそんな奴! つーかお前結構倒してんな!!」


 必死に思い出そうとするカイに対し番長は大声で叫んだ。


「戦いすぎです」


「俺以上に不良に喧嘩売ってんなお前……」


 カイの側にいたヴィオとマモルはカイの戦歴に指摘を入れる。


「それと、さっきから情報が曖昧だが……まさか、ろくに覚えてないのか?」


「そういえば、先程から出てくる不良はどれも派手な方ばかりですね……」


「恐らくだがアイツは、見た目の印象が特に残ってる奴しか記憶にないんだろうな……にしてもアイツ、不良に出会いすぎだろ」


「パトロールでもしてたのでしょうか……」


 カイはマモル以上に不良に喧嘩を売って回っていたことが判明した。

 さらに、戦ったことはおろか、倒した相手すら碌に覚えていないことも判明した。


「お前……! どちらにせよ、仲間を凍らせた犯人はお前で間違いなさそうだな……」


「いや待て! オレは意味もなく不良に喧嘩を売ったりしない! 不良が悪いことしてたから凍らせたまでだ!」


「悪いこと、か。俺の仲間が悪さしたのか?」


「ああ、オレは悪い不良しか凍らせてない! カツアゲとか一般人に暴力振るったりした奴とか!」


「そうか……」


 カイの言葉を、番長は何と素直に聞き入れている。


「は? いや、ちょっと番長……まさかそっちの言うこと信じるんですか!?」


「信じる。多分だがコイツは馬鹿正直でウソはつかねえタイプだ。仲間が悪い真似したのも恐らく本当のことだろうな」


 番長は途端に大人しくなり、カイを真っ直ぐ見据える。


「仲間がシャバい真似をしたんなら、それは完全に仲間の落ち度だ。そこは素直に謝罪しよう、すまなかった」


「番長……」


 番長はカイに対し、素直に頭を下げる。



「……だが、それとこれとは話が別だ」



 しかし、頭を上げた番長は非常に恐ろしい形相に変わっており、物凄い剣幕で目の前のカイを睨みつける。


「お前は単純な理由ひとつで俺らのメンツを潰したんだ。俺達キメラ連合のメンツを潰した償いはしてもらうぞ」


「……!」


 背の高い番長は全身に魔物をみなぎらせ、右腕を深々と構えた。


 カイも全身に魔力を回して身構えるも、相手は番長を含めた複数人。仮に勝てたとしても、恐らく無傷では済まないだろう。


「これだけの不良を相手にするのは流石にまずそうだな……」


「相手はかなり強そうだぞ」


「それ以前にお店の大迷惑になります! 弟子とお店の皆様の為にも、このまま暴力を振るわせるわけにはいきません!」


 マモルはカイを心配し、ヴィオはカイと店の心配からその場で身構える。


「吹っ飛べぇ!」


 番長は怒号を轟かせ、多量の魔力を乗せた拳をカイ目掛けて全力で放った。


「うわっ!?」


 カイは鋭い反射神経で上半身を即座に後方へと逸らして拳を躱す。カイの真上を大きな拳が通過する。


 しかしここで番長は新たな動きを見せた。


「ふんっ!」


 番長は突き出した拳を即座に真下に振り下ろし、仰け反るカイに追撃をした。


「やば……!」


「危ないっ!」


 振り下ろした拳が命中する寸前。ヴィオは即座にカイを引っ張り込み、カイと場所を入れ替えた。


「うわわっ!?」


 カイはマモルのいる方向へと転がり、マモルは無言でカイを受け止めた。


「はっ!」


「!」


 そしてヴィオは番長の振り下ろした拳を片手で見事に受け止めた。「パン」と乾いた音が鳴り響き、攻撃を止められた番長は驚き目を見張る。


「くっ……」


 番長は拳を振り下ろした姿勢のまま動かない、というより動けないようだ。


「コイツ……っ!?」


 番長が驚く中、ヴィオは番長に顔をそっと近付ける。

 番長の背中により不良の仲間にはヴィオの行動は見られていない。


「選べ」


「!?」


 ヴィオは番長にのみ聞こえる声量で、なおかつ子どもにしてはやけに低い凄みのある声色で話し始めた。


「ここで見栄を張って惨たらしく自滅するか、大人しく身を引いて体裁を守るか」


 ヴィオは手短に伝えると、すぐに番長から離れた。


「あたた……」


「ヴィ……師匠!」


「大丈夫ですか」


 ヴィオは痛がるそぶりを見せつつ手のひらを庇う素振りを見せる。それを見たカイとマモルはすぐさまヴィオを助けに入る。


「…………」


 対する番長は、拳を突き出したまましばらく停止していたものの、すぐさまハッとして我に返った。


「……フッ、こんな勇敢なお子様に出られたらこれ以上は何も言えん」


 額にうっすら脂汗が滲む番長は、平静を取り繕ってうそぶきつつ、パンチの手をゆっくり引っ込めた。


「今日はこれで終いだ、帰るぞ」


「……あっ! 子ども相手だから咄嗟に手加減したんですね番長!」


「流石は番長!」


「むしろあの勢いで飛ばしたパンチをピッタリ止められるなんて、番長はすごいなぁ……」


 不良の取り巻きは番長の言葉を信じ込んだのか、はたまた妙な空気から目を逸らしたいのかは分からない。

 だが、その場にいた不良は全員、この場から立ち去る番長の後を追ってあっという間に退散していったのだった。


「あ、不良達が退散していく……」


「やけにあっさりと引き下がったな……」


「ふぅ……番長が賢い方で良かったですよ」


 カイとマモルは大人しく立ち去る不良達を見つめ、ヴィオはため息をひとつついて軽く手を叩いた。


「……どうやら、カイさんも顔が割れている様子で」


「ごめんなさい……オレ、困ってる人は放っておけなくて……ヴィオさんが助けてくれなかったら、オレは今頃……」


「人助けするのは構いませんよ。しかし、このままではまともに外を出歩けそうにないですね。と、いうわけで……」


 ヴィオはカイとマモルに顔を真っ直ぐ向ける。


「ここは今後のためにも、すぐに修行を開始して必要最低限の護身術を学びましょう!」

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