12話 ふてぶてしいメイド【挿絵あり】
夜中。自然公園からファッション店へと向かうべく、シロヤマ・カイのホウキに乗り込もうとしたマモルは突如として横に吹き飛んだ。
「マモル!?」
「ハルカワさん!?」
思い切り横に飛んだマモルは公園のベンチの下へと吸い込まれていった。上半身はベンチに隠れ、下半身のみが外に残った。
「マモル……どうしたんだ?」
「ハルカワさん、まさかデパートの洗礼を一身に受けて……!?」
「ヴィオさん、デパートから距離はだいぶ離れてます。これは恐らく近所にある防具屋の洗礼……」
「全然違う」
ベンチに上半身が飲み込まれたまま、マモルはカイとヴィオと話のやり取りをする。
「……向こうに不良が見えたんだ」
「不良……?」
「あの辺」
マモルは足を突き出してとある方角を指し示す。
そこには、カイが前に遭遇した猫耳不良を含む不良の群れが歩いていた。
「……あっ! アイツら!」
「ハルカワさん、ご存知なのですか?」
「マモルから金を巻き上げてた不良です!」
カイは慌ててベンチの前に立ち、マモルを不良達の目から隠す。
「ハルカワさん、彼らとは何かあったのですか?」
「俺、あの不良の1人に空き缶をぶつけてしまって……もしあの不良達に見つかったら、俺は消されます……!」
「そんなことが……となると、このままホウキで空を飛んだら彼らに気付かれてしまいますね……」
ヴィオは困り顔で頭を傾げ、やがて何か閃いたのか握り拳を手のひらにポンと乗せた。
「……よし! それでは、不良にバレないよう車で移動しましょう!」
「車? ヴィオさん車操縦できるんですか?」
「迎えに来てもらいます! お2人とも、駐車場に移動しましょう!」
ヴィオを筆頭に、カイとマモルは自然公園の駐車場へと移動した。
「先程連絡したのでもう来てると思います」
「えっ? さっき連絡したばかりじゃ……」
「ほら、ありました! あの黒い車がそうです!」
「速っ!」
「流石に速すぎないか……?」
広い駐車場の中央にポツンと鎮座する黒の大型車を目の当たりにしたカイとマモルは動揺の色を見せる。
「で、お迎えの車は来たけれども……」
「……車の中に、やけに大物感漂う奴がいるな……」
車の運転席には、両足を投げ出して座席にもたれかかる態度の大きなメイド姿があった。
メイドはヴィオ達に気がつくと、車からゆっくり降車してヴィオの前へと現れた。メイドの手にはどういうわけか掃除用のホウキが握られていた。
「フィオさん、お迎えありがとうございます」
「うぃー、おつとめごくろーさん」
(果たしてその挨拶で合っているのか……?)
マモルが困惑する中、フィオと呼ばれた謎のメイドはカイとマモルに顔を向けると、気軽に片手を突き出した。
「よっ」
「えっ!? あっ、初めまして!」
「初めまして」
メイドとはかけ離れた気さくな挨拶に、カイとマモルは困惑しながらも挨拶を返す。
「お前達か? 新しくヴィオの舎弟になった新入りは」
「全然違う!」
「ヴィオさん、この人に何を吹き込んだんですか……?」
「誤解です! わたくしはそんなこと伝えてません! この方は何かと色々と冗談を並べる方でして……!」
「その通りだ。だが、舎弟発言だけは間違ってないぞ」
「だから違いますって!」
(あのヴィオさんを振り回している……)
ヴィオは大慌てでフィオの前へと出て誤解を解こうとするも、フィオの冗談は止まらない。
「まあヴィオの言う通り、これは冗談だ。そうカッカするな舎弟共」
「はっ、失礼しました姉御」
「うむ」
「ハルカワさんまで乗り出した!」
「マモル! ややこしくなるから少し黙っててくれ!」
閑話休題。
「えっと……フィオさんは私の使用人として働いている妖精なんです。この星ではシルキーと呼ばれており、屋敷ではありとあらゆるお仕事を担当しております」
「そうか、妖精だから移動が早かったのか……いや、妖精だとしても車ごと高速で移動できるものなのか?」
「とにかくすごい妖精なんですね!」
「もっと褒めてもいいぞ」
「フィオさんすごい!」
「はっはっは、何かあれば真っ先に頼っていいぞ」
カイに素直に褒められ、フィオはノリノリでふてぶてしい態度を取る。
「さて……フィオさん、我々はこれからファッションのお店に向かいたいのです」
「そうか、ならいい場所がある。私オススメの店に行くぞ、全員乗り込め」
「はい、失礼します姉御」
「おう」
「マモル、それはもういいって!」
「ハルカワさんもハルカワさんで遠慮がなくなってきたようですね……! 友達に一歩前進したようで非常に喜ばしい限りです……!」
「それはそれで嬉しいんですねヴィオさん!」
ワイワイとやり取りしつつ、3人は高級そうな車に乗り込んだ。
「それじゃあいくぞ」
フィオが操縦する車は駐車場から走り出し、夜の街へと繰り出した。
窓の外を覗くと、街の明かりが前から続々と流れていくのが見える。
「車大きいですね! こんな広々とした後部座席、初めて座りました!」
「俺もだ。座り心地も最高です」
「それはよかった!」
「居心地いいか、ならここで暮らしてもいいぞ」
「いやいや……姉御、それはヴィオさんが許さないでしょう」
「ヴィオさんのお許しがあったらここに住むつもりなのか?」
楽しそうに会話する中、車は赤信号で停車する。マモルは何気なく外の景色を眺める、が……
「やばいっ!」
唐突にそう叫んだマモルは即座に身を屈め、自身の体躯を座席の下に隠した。
「マモル、今度はどうした!」
「向こうに別の不良グループがいる……!」
「えーと……あ、ホントだ」
「猿を筆頭とした群れがいるな」
「まさかマモル、あの不良とも一悶着あったのか?」
「ああ……あれはとある夜間散歩での出来事……」
真夜中。
「ふふふーん」
架空のCMソングを奏でながら上機嫌で歩くマモルの足先に、道路に転がっていた小さなピンポン玉がぶつかった。
マモルの視線の先には公園があり、園内には大きなゴミ箱が置かれている。
「こうなれば、やることは1つ……!」
(かつて体育の授業で卓球をした際『お前はラケットを握るな』と言われた俺の必殺シュートを見せる時……!)
マモルは公園のゴミ箱に照準を合わせ、足を後方へと思い切り逸らし……ここでマモルは辺りを見回して人の有無を確認する。
「……よし! それっ!」
人は居ないと認識したマモルは、全力でピンポン玉を蹴り飛ばした。
見事な曲線を描きながら飛んだピンポン玉は公園に向かって飛んでいく。
しかしピンポン玉は想定していた進路から大きく逸れ、公園の中で屯していた学ラン姿の不良の1人に命中した。
「いて」
「あっ」
大男の頭から小気味いい音が鳴り、不良は玉が飛んできた方角に不機嫌そうな視線を向ける。
その視線の先には片足上げたマモル。誰がどう見ても、ピンポン玉を飛ばした犯人は明確だった。
「おい、何すんだよ眼鏡」
丸い耳を持つ不良は不機嫌そうに振り返り、仲間の不良を引っ提げてマモルにゆっくり近付いていく。
対するマモルは片足を上げた姿勢のまま口を開いた。
「どっ、どうなさいました!? 園内でスマッシュの音が鳴り響きましたけれどっ!? 卓球大会でも開かれてるのでしょうかっ!?」
「こんな時間に公園で卓球する奴なんかいねーよ!」
「その姿勢からしてお前が玉蹴り飛ばしたんだろうがっ!」
「申し訳ございません!」
他人のフリで誤魔化そうにも決定的な証拠を突きつけられたマモルは、姿勢を正してすぐさま不良達への謝罪へと移る。
「本当はあのピンポン玉を蹴ってゴミ箱に入れる予定だったんです!」
「蹴ってねーで拾えよ!」
「横着すんな! それともなんだ!? 俺達をゴミ箱に見立てて蹴ったとかいうわけじゃねーだろーな!?」
「滅相もない! ゴミ箱はゴミを一身に集めるという社会貢献をしているというのに、そんなゴミ箱を人と見間違えるような真似は決して……!」
「おい、コイツさりげなく俺達よりゴミ箱の方が上って言ってねーか……?」
「俺達のことバカにしてんなコイツ」
「ちょっとそこの公園で話しよっか」
「うわっ!」
不良はマモルの腕を掴み、強引に近くの公園へと引っ張り込んだ。
「ピンポン玉を蹴るなよ……」
「俺、あの不良の1人にピンポン玉をぶつけてしまって……もしあの不良達に見つかったら、俺は消されます……!」
「マモル、やたら命の危機に晒されてないか?」
「そんなことになるのなら蹴らなければいいでしょうに……!」
「マモルお前、そんな見た目してて結構豪快なことしてたのか。お前もなんか服見たほうがいいぞ」
「そうですね! ハルカワさんも服を見ましょう! 私と一緒に衣装を変えて表を堂々と歩くんです、題して現代変装大作戦です!」




