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11話 ゲーセンのアレコレ

 夜。ヴィオとの待ち合わせする約1時間前に、カイとマモルの2人は近所の公園で落ち合った。


「マモル! 何でヴィオリシアさんの正体を早く教えてくれなかったんだ!?」


「こらカイ、せめて外ではヴィオさんと呼べ」


「ヴィオさんの正体が超すごい大英雄『ヴィオリシア・グランドル』様だってこと! 何で教えてくれなかったんだ!」


「こら、詳しく言うな」


 カイはマモルに顔を合わせるなり文句をぶつける。


「ヴィオさんは著名な方だ。例え見た目が異なろうが顔に面影はあるし、大抵の人は名前で察すると思うが……」


「オレ芸能人や有名人の顔を覚えるのが苦手で……いや、確かにヴィオさんをよく知らなかったオレが悪いのはそうなんだけども! それでもこっそり教えてくれても……!」


「無理だ、カイ」


 対するマモルは何かを悟ったかのような顔で言葉を返す。


「もしあの時、俺がヴィオさんの正体をバラそうものなら……俺は消されていた」


「いや、流石に消されるってのは大袈裟だって……」


「社会的に」


「もっとあり得ないって! マモル、星を救ってきた大英雄ヴィオさんはそんなことするのか!?」


「しない」


「だよな!?」


 時間が時間だからか、カイとマモルは気持ち小さめの声でやり取りを続ける。


「どっかでこっそり教えてくれても良かっただろ!? どーしよ! オレ、ヴィオさんに結構失礼なことしちゃったかも!」


「……とりあえず、ヴィオさんとの待ち合わせ場所行くぞ。待ち合わせの時間に遅れる方が失礼だ」


「分かった……」


 その場でホウキを取り出したカイは、マモルを乗せて空を飛ぶ。目的地は自然公園だ。


「あっ、いた!」


「ヴィオさん早いな……」


 自然公園のテーブル付きベンチ目をやるとそこには、コンビニで購入したであろう菓子類を食すヴィオの姿があった。


「ヴィオさーん!」


 カイはヴィオに向けて片手を全力で振りながらホウキを操る。


「あっ、カイさーん! マモルさーん!」


 一方ヴィオは、カイの声に気付いたのかすぐさま空を見上げ両手を振った。


「ヴィオさーん!」


 ヴィオは立ち上がり2人に向けて両手を振る。カイはヴィオの名を叫びながら颯爽と自然公園の地面に着地した。


「ヴィオさん! 本当にすいませんでした!!」


 ヴィオに顔を合わせるなり、カイは即座に頭を深々と下げて詫びを入れる。


「まさか歴史的にも大有名な人とは知らず……! 思い返せばかなり失礼な真似をしたと思います! 申し訳ございません!」


「ついにシロヤマさんにもバレてしまいましたか……」


 頭を下げるカイを見つめ、ヴィオはポツリと寂しそうに呟いた。


「わたくしとしましては、気さくに話しかけてくれた方が嬉しいのですが……」


「そんなわけにはいきませんよ! 大英雄に向かって雑な口の聞き方したら、ヴィオさんを敬う方々に失礼だし、俺も気が引けるし……」


「そんな……シロヤマさんのあの気さくに接してくれるお兄さんのような対応、わたくしはとても気に入っていたというのに……」


「えっ」


 整った眉を下げ、悲しげに呟くヴィオを見たカイは呆気に取られる。


「あの時のシロヤマさんとは遠慮もなにもなく楽しく話ができて、本当に友達になれたような気がして……」


「そ、そうなんですか……!?」


「はい! あの、もし差し支えなければ、前のように接していただけるととても嬉しいのですが……」


「分かりました! 今まで通りに接します!」


「変わり身早いな」


 柔らかな表情を浮かべながら頼まれ、カイはすぐさま元の口調に戻った。


「そういえばヴィオさん、その机の上にあるのは……」


「コンビニの菓子ですね」


「あっ、そうです! シロヤマさん、ハルカワさん、聞いてください!」


 公園のテーブルに置かれた菓子に目を向けた2人に対し、ヴィオは目を輝かせながら話を切り出す。


「なんとわたくし……本日、1人でコンビニに行けました!」


「1人でコンビニ立ち寄ったんですか!? すごい! おめでとうございます!」


「おめでとうございます」


「えへへ……これでわたくしもついに、現代人の仲間入りです!」


 カイとマモルに拍手と共に祝われ、ヴィオは得意げに胸を張る。


「この調子なら、すぐに現代に馴染めそうです!」


「いい調子ですよヴィオさん! ではそんなヴィオさんの為に、今日は大きめの場所に行きましょうか!」


「コンビニより大きいとなると……スーパーですか?」


「スーパーも大きいのは間違いないです! ……が、違います!」


「違うのですか?」


「……ヴィオさん、今日は思い切って大人の階段を登ってみませんか?」


「大人の階段……!?」


 意味ありげに声を潜めるカイにつられてヴィオも小声で反応し、期待の眼差しをカイに向けて次の言葉を待つ。


「オレ達が今日向かうのは、なんと……」


「なんと……?」


「百貨店! つまりデパートです!!」


「えええっ!? それは流石に段階を飛び越えすぎでは!?」


(この世界に馴染みのないヴィオさんからしたら、デパートはそんなに敷居の高い存在なのか……?)


 ヴィオのデパートに対する驚き様に、マモルは心の中で静かに疑問を浮かべる。


「デパートに行けるようになったら便利ですよ! デパートには豊富な食べ物が揃ってて、地下にはお高い菓子が沢山並んでるんです!」


「さっきから食べ物のことばかりだな。あと、デパ地下は菓子ばかりじゃないぞ。色んな食べ物が集まる素敵な場所だ」


「おぉデパ地下! 響きからしてなんとも素晴らしそうな気配……!」


「上の階には服や家具、雑貨なんかも揃ってます! 現代の必需品は何でもありって感じです!」


「素晴らしい! 噂には聞いてましたが、まさかデパートひとつで全てが事足りるなんて……!」


「全てとは言えないとは思いますが、歩くだけでも楽しい場所です」


「マモルの言う通りです! デパート内を歩き回って新しい商品を眺めるのはとても楽しいんですよ!」


「ウインドウショッピングというやつですね! まさに現代人の嗜みですね!」


「デパートの魅力はまだまだ終わりませんよ! オレ達が向かうデパートにはなんと、音ゲーが豊富に置かれたゲーセンがあるんですよ!」


「やはりそれか」


「ゲーセン?」


 カイから発せられた馴染みのある単語に、マモルはすかさず反応する。しかし、ヴィオはゲーセンをよく理解していない様子だ。


「ゲーセン、ゲームセンターにはありとあらゆるゲームが揃ってるんです!」


「ゲーム……ですか?」


「はい! ぬいぐるみや大きなお菓子を取れるゲームとか、音楽を奏でるゲームとか、レースするゲームとか……とにかく色んな遊びが集まってる施設なんです!」


「なんと! 演奏からレースまで堪能できる施設があるのですか!? そんな大規模な施設があのデパートに収まっているなんて……!」


「大規模……?」


「カイ」


 ヴィオのどこか噛み合わない話に戸惑いを見せるカイに対し、マモルは静かに言葉を挟む。


「恐らくヴィオさんはゲーセンを、コンサートホールやレース場が併合した大規模な施設だと思い込んでいる可能性があるぞ」


「えっ!?」


「カイ、とりあえず訂正しておけ」


「あっ、えっと、その……! ヴィオさん、ゲーセンはそんな大きい施設じゃないです!」


「あ、そうでしたか……」


 カイは大慌てで訂正するも、ヴィオは僅かに落胆の色を見せる。


「しまった……! オレの説明が下手なせいでヴィオさんをガッカリさせてしまった……!」


「カイ、ここは俺に任せろ」


 落ち込むカイに代わり、マモルがヴィオの前に出た。


「ヴィオさん、逆に考えてみてください」


「?」


「演奏、射撃、レースなどの大規模な娯楽が、デパート内の一角にあるゲームセンター1つに集まる……そんな夢のような施設が、現実に存在しているんです」


「……!」


 マモルの説明に、ヴィオが静かに興味を示す。


「現代の技術によりありとあらゆる娯楽を機械で再現。気軽に遊べる上に安心安全で、なんと大抵のゲームは1回100マルで遊べるんです」


「1回たったの100マルで!? まさか現代の技術で様々な娯楽を再現し、しかも硬貨1枚で遊べるだなんて……!」


 マモルの説明にヴィオは目を輝かせる。


「他にもいいところはあります!」


 そんなマモルのやり取りを見て気を取り直したのか、カイが再び話に加わる。


「オレの好きな音楽ゲームは、反射神経を鍛えるにはもってこいなんです!」


「反射神経を?」


「はい! そもそもゲームは頭を使う遊びなので、遊びながら頭を鍛えることができるんですよ! それに、一緒に楽しく遊ぶことで友達同士の仲も深まるんです!」


「それは素晴らしい!」


 カイの話により、ヴィオは更にゲーセンへの興味が深まったようだ。


「お2人の話を総合しますと……つまりゲーセンは、現代における社交の場であり、心身を鍛える鍛錬の場でもあるということですね!」


「それは流石に買い被りすぎです」


「ヴィオさん、ゲーセンは気楽な場ですよ! そんな難しいこと考えなくても大丈夫です!」


「ふむ……となると、気楽に立ち寄れる遊び場と解釈する方が自然なのでしょうか?」


「そんな感じです」


「なるほど……! それはそれでますます興味が沸きました! 早速出発しましょう!」


 ヴィオは指を立て、テーブルの上の物を魔法であっという間に片付けて準備を整える。


(……まさか、ヴィオさんはあの目立つ格好のままデパートに向かうつもりなのか?)


 現在、ヴィオは貴族のような身なりをしている。

 特別な場を歩くなら平気だろうが、現代を歩き回るにはいささか目立つ格好である。


 前にコンビニを訪れた際、コンビニ店員は不思議そうにヴィオを見つめていた。

 下手に目立てば、ヴィオの正体がバレる確率は格段に上がることだろう。


「……ヴィオさん、待ってください」


「はい?」


 すぐさま考えをまとめたマモルは、ホウキを取り出したヴィオに待ったをかけた。


「デパートより先に、まず向かうべき場所があります。ファッション店です」


「ファッション店?」


「はい。現代の服を身にまとい、街に繰り出す……ヴィオさんの考える理想のシティボーイに近付くにはやはり、形から入るのも必要かと思います」


「おぉ、なるほど!」


 マモルの言葉にヴィオは再び関心する。


「確かにハルカワさんの言う通りです! 『郷に入っては郷に従え』という諺に倣い、形から現代に馴染みにいくのも大切なのでしょう!」


「ヴィオさん、この世界においてファッションは現代を生きるための防具のようなものです! しっかり準備を整え、最善の装備でデパートに乗り込みましょう!」


「はいっ! 初めてのデパート遠征のためにも頑張ります!」


「成果を挙げ、堂々と胸を張って帰還しましょう!」


「はいっ!」


(大げさだな……)


 カイとヴィオの仰々しいやり取りにマモルは苦笑いをする。


「……よし、準備完了です! ファッション店に出発しましょう!」


「ここからならホウキですぐですよ。ヴィオさん、ここは俺が道案内します」


「はい! ハルカワさん、案内お願いします!」


「マモル、いい防具屋を頼む!」


「よし、とりあえず基本的なひのき棒と鍋のフタが売られている防具屋に向かうとするか」


「それホームセンターだな! マモル、布の服専門の店で頼んだ!」


「分かった分かった」


 カイと他愛のないやり取りをしつつ、マモルはカイのホウキに乗り込むために移動をする。


「それでは……あっ!?」


 しかし、そんなマモルは突如として横に大きく吹き飛んだ。


「マモル!?」


「ハルカワさん!?」


 思い切り横に飛んだマモルは公園のベンチの下へと吸い込まれていった。

 上半身はベンチに隠れ、下半身のみが外に残る。


「マモル……どうしたんだ?」

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