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10話 王子の正体【挿絵あり】

 真夜中、自然公園にあるテーブル付きベンチの前にて。


「わたくしに現代のアレコレを教えてください!」


「現代の……」


「アレコレ?」


 王子っぽい少年ヴィオの提案に、能力者であるシロヤマ・カイとハルカワ・マモルは首をかしげた。


「あの……その条件って、ヴィオさんに弟子入りする条件で本当に合ってますか?」


「はい! 嘘偽りはございません!」


 疑問を口にするマモルに対し、ヴィオはピース片手に元気よく答えた。


「わたくしは自慢ではありませんが、ゼウシリーアの……いえ、現代の世情に非常にうといもので……」


「ヴィオさんコンビニ初めてって言ってましたね! もしかしてデパートやバーガーも経験無しですか?」


「バーガーも聞いたことはございません。それ以前に、デパートとアパートがどっちがどっちか分からずあやふやで……」


「そうですか……」


 ヴィオの現状に、マモルはヴィオに憂いを帯びた視線を向ける。


「そもそも! わたくしは遊びを極めるためにこの娯楽の溢れる星『ゼウシリーア』に来たのです!」


「もしかしてヴィオさん、この星には遊び人になりに来たんですか!?」


「カイ、そんなわけないだろ」


「その通り!」


「その通りなのか……」


 ヴィオの話はまだまだ続く。


「わたくしはかつて『遊びのあの字も知らない堅物』とまで言われるほどに遊びを知らなくて……」


「そんなに硬派な方だったんですね」


「今のヴィオさんは全く堅物には見えませんよ」


「ありがとうございます。ですが、この歳になっても未だに遊びのひとつも知らないのは、人として流石にまずいと思いまして……」


「いや、遊びを知らないだけでそんな大袈裟な……」


「ここで思い立ったわたくしは! 一人前のシティーボーイになるために! このゼウシリーアにやってきたのです!」


 ここでヴィオは特に力を込め、力強く言い放った。


「……ですが、イーストシティは都会すぎて混乱してしまうので……都会過ぎず、かつ田舎過ぎない、わたくしにとってちょうどいい環境と思われる『サイレントノル』に移り住んだのです」


「サイレントノルも十分都会ですよ!」


「お茶で育ったサイレントノル民を舐めないでいただきたい」


「そうです! イーストシティよりは馴染めるかなと思い、意気揚々と引っ越したのに……! サイレントノルも十分都会でした……! あまりの都会ぶりにわたくしは手も足も出なくて……!」


「つまりヴィオさんは、遊びを知るためにサイレントノルに移り住んだはいいものの、何もできず右往左往していた……と」


「ハルカワさんのおっしゃる通りです……なので! 現代にお詳しそうなお2人には、是非ともゼウシリーアについて色々と教えてほしいのです!」


 マモルのまとめの言葉にヴィオは力なく頷きつつも、再び調子を戻して話を続ける。


「現代のアレコレを教えてくれたお礼として、わたくしが師匠となりお2人に稽古をつけます! これでいかがですか?」


「オレはその条件で大丈夫です!」


「その方向でお願いします。ヴィオさんの心遣い、感謝します」


「どういたしまして! こちらこそ、よろしくお願いします!」


「はいっ!」


 こうしてカイとマモルは、ヴィオの元で修行をする約束を交わしたのだった。


「そうだ、ヴィオさんメアド交換しましょう! 今後も連絡取り合うでしょうし!」


「メアド?」


「詳しく説明します!」


 この後、カイとマモルはヴィオとメールアドレスの交換を済ませ、今日はこの辺でお開きとなった。


 お洒落なホウキに乗ったヴィオはその場から颯爽と飛び去り、カイとマモルの前から姿を消したのだった。



 数日後……



 万代魔法学園にて。帰りのホームルームが終わり、学生は部活動に励むために教室から退散して各部室へと移動を始める。


「さて、帰るか」


 1年1組の教室で帰りの身支度を整えていたマモルの元に、1年2組のカイが突撃してきた。


「マモル〜! 一緒に帰ろ!」


「声がでかい」


 どの部活動に所属していないカイとマモルはそのまま学園を後にする。



「いやぁ〜! まさかオレ達がヴィオさんの元で修行できるなんてなぁ〜!」


「声がでかい」


 学園から出た2人は、そこそこの人で賑わう町中を歩いて家路をたどる。


「……なあマモル」


「どうした」


「ヴィオさんと会った次の日、家族にヴィオさんの元で修行するって話をしたんだ」


 マモルは黙ってカイに視線を向ける。


「なんか……ヴィオさんの名前と一緒にヴィオさんを写した写メを見せたら、家族みんな突然ギクシャクしだして……」


「ヴィオさんと別れる前に3人で撮影したあの写真を見せたのか」


「うん。で、写真見せた後さ、家族みんな妙な態度になって……修行は許可貰えたけど、どこかモヤモヤするんだ」


「そうか……多分だが、カイのご家族はヴィオさんのことは知っていたようだな」


「家族は……? ってか、マモルもヴィオさんの名前を知った途端に、態度が少し変になってたよな?」


「気のせいだろ」


「そんなことないって、なんか変だったよ」


 そこまで言ったカイはその場で立ち止まり、真剣な表情でマモルを見つめた。


「もしかして……ヴィオさんって、ものすごい人だったりするのか?」


「今更気付いたのか……」


「あっ! マモルはやっぱり何か知ってるんだな!? 頼む! オレに教えてくれ!」


「……ここでカイにヴィオさんの正体を教えたら、カイとヴィオさんとの関係が変に拗れそうだからやめておく」


「そんなことないって! むしろ知らないままにしてたら逆に……あっ!?」


 カイはヴィオの正体についてしつこく尋ねようとするも、マモルはカイから逃げるかのように綺麗なフォームでその場から駆け出した。


「……って遅っ! 速そうなフォームで走行してるのに進みはかなり遅い! これならだいぶ猶予があるぞ!」


 カイは徒歩ですぐさまマモルを追いかける。


「おーい! マモルー!」


「くっ、追いつかれた……!」


 カイの徒歩に追いつかれたマモルはやけに悔しそうな表情を浮かべる。


「マモル、改めてヴィオさんの正体について教えてくれよ!」


「……分かった。追いつかれたのなら、正直に白状するしかないな……」


 マモルは観念したのかその場に留まり、流れるように眼鏡を外した。


挿絵(By みてみん)


「カイ、何を聞きたい」


 眼鏡を外し、下から現れた眼鏡越しにカイを覗く。


「……えっと、ヴィオの正体についてなんだけど……」


「待った」


 カイは質問しようと語りかけるが、マモルはカイの言葉を遮るように待ったをかける。


「ご両親には、今日からヴィオさんと会うことは伝えているか?」


「あっ、うん。今日が初修行だって伝えてるよ」


「そうか……残念だが、俺の出る幕ではないな」


「えっ?」


「今夜あたりに、両親からヴィオの正体が聞けるはずだ。ヴィオのことは両親から聞くといい」


「マモルは答えてくれないのか!?」


「答えない」


 マモルは眼鏡の端を持ち上げてカイを見つめる。


「両親との些細なやり取りという、かけがえのない時間を俺の一言で奪うわけにはいかん」


「優しさが滲み出てる……!」


 結局この場でヴィオの正体を掴めなかったカイは、じれったい思いを抱えながら帰宅した。



「ただいま〜!」


 そこそこ大きな自宅に到着したカイは、玄関の扉を元気よく開けた。


「あ、兄ちゃんおかえり〜」


「ヒョウ、ただいま!」


 たまたま玄関付近にいたカイの妹『シロヤマ・ヒョウ』は、帰宅した兄を笑顔で出迎えた。


「兄ちゃん、今夜はご馳走だよ! 兄ちゃんの好きな料理が沢山出るって!」


「えっ?」


 水色に近い髪をショートボブにした元気な妹のヒョウは、家に到着した兄に嬉しそうに駆け寄る。


「ヒョウ、今日ってなんかあった? まるで、これからパーティーでも開催されるかのような……」


「そりゃ開くでしょ! 兄ちゃん今日からヴィオ様の元に修行しに行くんだよ? これくらいパーッとやらないとね!」


「ヴィオ様……」


「私は畏れ多くてヴィオさんなんて気楽に呼べないからね」


 ヒョウの口ぶりに、カイの脳裏には更に不安が募っていく。


「お兄ちゃん、ヴィオ様のことあまり言いふらさないようにね。お兄ちゃんお喋りだから、どっかでポロッと溢しそうだしさ」


「えーと……ヒョウ、ヴィオさんってどんな人なの?」


「はぁ!? お兄ちゃんまさか……!? ヴィオリシア・グランドル様を知らないの!?」


 カイの言葉に対し、ヒョウは信じられないと言わんばかりに声を荒げる。


「もしかして、ヴィオさんって……かなりすごい人?」


「凄いってものじゃないよ!? 超有名人! ……なんて一言で言っても、よく分かってない兄ちゃんには伝わらないよね。待って、今説明するから」


「超有名人……」


「簡単に説明すると……かつて、脅威に晒されていた星々を巡っては、その類稀たぐいまれなる力により星に安泰をもたらした……!」


「星……安泰……」


「そう! 兄ちゃんが出会ったヴィオさんは、とんでもない怪物をほぼ無傷で退治して回った伝説の大英雄、ヴィオリシア・グランドル様なんだよ!」


「大英雄……」


「今は諸々から引退してゼウシリーアに隠居してるとは聞いてたけど……そのお方が、まさか兄ちゃんの師匠になってくれるなんて……なんか夢みたいだよね!」


「師匠……」


「……兄ちゃん、さっきから単語しか発してないけど……大丈夫?」


 ヒョウの心配をよそに、カイは呆けた顔のまま2階に上がっていく。


「兄ちゃんどこ行くの!?」


「大英雄……師匠……」


 カイはブツブと単語を発しながら移動し、そのまま流れるように部屋に閉じこもった。


 そして1人天井を見上げたところでようやく理解が追いついたのか、カイは途端に険しい表情に変わり、口を大きく開いた。


「ええええええええっ!?!? マジかよ!?」


「兄ちゃん! 近所迷惑っ!」

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